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【観劇レポ】ミュージカル『コーラスライン』(A Chorus Line) @ London Palladium Theatre, London《2013.4.30ソワレ》

A Chorus Line at London Palladium Theatre

A Chorus Line at London Palladium Theatre

 2013年4月30日はマチネにTop Hatを観た後は、London Palladium Theatre でミュージカル『コーラスライン』(A Chorus Line) を観に行きました。A Chorus Lineは2013年のオリヴィエ賞のBest Musical Revivalにノミネートされ、 Best Performance in a Supporting Role in a Musicalをシーラ (Sheila) を演じたLeigh Zimmerman さんが受賞しました。

  Zach(ザック) : John Partridge
 Cassie(キャシー : Scarlet Strallen
 Sheila(シーラ) : Leigh Zimmerman
 Diana(ダイアナ) : Victoria Hamilton-Barritt
 Richie(リッチー) : James T. Lane
 Val(ヴァル) : Rebecca Herszenhorn

 今更私が説明するまでもない超有名作品ですが、あらすじを公式ホームページより拝借。

“Auditions are underway for a new Broadway musical. For everyone present, it’s the chance of a lifetime. It’s the one opportunity to do what they’ve always dreamed of – to have the chance to dance.

Told through captivating song, riveting drama and stunning choreography, the auditionees describe the events that have shaped their lives and their decisions to become dancers.”

- from the 2013 London revival homepage

ブロードウェイの新しいミュージカルのためにオーディションが行われている。ここにいるみんなにとっては人生最大のチャンス。『舞台で踊る』ーずっと夢見ていたことを実現する絶好の機会なのだ。

人の心をとらえる音楽と、胸を騒がせるドラマと素晴らしい振り付けで伝えられる、オーディション参加者たちを形作った人生の出来事とダンサーを志す決意。

- 2013年ロンドンリバイバルのホームページより意訳

 日本でも劇団四季により度々公演が行われているA Chorus Lineですが、私自身はブロードウェイオリジナルキャストのCDを聞いたことがあるだけで、舞台を観るのは初めてでした。

 舞台を観て何より感嘆したのは、シンプルな演出の美しさ。そして出演者のみなさまの力強いダンスと芸達者ぶりでした。その一端は公式トレーラーからも伝わってきます。未見の方はかっこいいので是非見てみて下さい。

 大道具らしい大道具は鏡と、大円団で使われるライトぐらいでそれ以外はほとんど素の舞台そのままに展開されるドラマ。ツイッターでも書きましたが、だからこそ一人一人の出演者の演技、ダンス、歌に集中できるし、逆に出演者の力が問われるような構成になっているんですね。

 ロンドンリバイバルのキャストのみなさんですが、これだけ才能ある人たちをどうやって集めたんだろうと思うくらい芸達者ぞろい。オーディションにはなんと2000人もの人が雨の中London Palladiumに駆けつけたとか。その中でも特に気になった役者さんを記事の冒頭のキャストリストでは挙げてみました。感想はネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。

 ザック役のJohn Partridgeさんは、艶があるセクシーな美声に惚れました。ザックは舞台の中盤はほとんど声のみの演技なので、声質は重要ですね。この声だけの演技も良かったです!かなり体格のいい役者さんですが、タイトなポロシャツとチノパンがこんなに似合う人はなかなかお目にかかれないような気がします。

 少し低めの声と立派な体躯のイメージから、動画で観た他のプロダクションザックと比べて、「みんなの頼れる兄貴分」のようなイメージが私の中で強いです。みんなの運命を握っている、ある意味神様みたいな立場なんだけど、みんなの人生の物語に耳を傾ける姿勢にあたたかい見守るような気配を感じるのです。そんな兄貴分も元恋人のキャシーのことになるとちょっとウェット(笑)そんなキャラクターがJohnザックの魅力になっていたと思います。

 衣装の話が少し出たので少し脱線して触れると、A Chorus Lineの時代設定はブロードウェイ初演の時期と同じ1975年なので、みなさんその時代を彷彿させるような衣装を着ています(さすがに初演時からは変更が微妙に入っているみたいですが)。これがみなさん違和感なくかっこよく似合っているのですよね。日本人が着たらもっさりしそうなのに。

 Scarlet Strallenさんのキャシーは、夢に一途で一生懸命なことが伝わってくるとても好感の持てる女子でした。彼女の見せ場はやっぱり「The Music and the Mirror」ですよね!この曲は盛り上がり方が最高にかっこいいのですが、音楽の盛り上がりに鏡を使った演出が加わって、そんな中で踊る彼女の姿は情熱的でとてもかっこよかったです。キャラではアクの強いシーラやダイアナに圧されがちだったのがここで面目躍如(笑)ザックと違って、キャシーは過去のことは過去のこととしてきちんと清算できているからこその清々しさが感じられましたね。

 シーラは個性派ぞろいのオーディション参加者の中でもかなり目立つ個性の強いキャラクターですが、Leigh Zimmermanさんのシーラは、そんなシーラを漫画チックに誇張しすぎることなく、実際に知り合いにいたら「シーラってこういう人だからしょうがないね」と思うんだろうなーと思わさせる演技の力加減が絶妙でした。オリヴィエ賞の助演賞獲得も納得です。特に印象に残ったのは、オーディションの結果が出て、シーラが荷物をまとめてステージを出るシーン。無言の演技の中に、いつも斜に構えているシーラの30歳の現実の葛藤が感じられてよかったです。

 ダイアナ役のVictoria Hamilton-Barrittさんはとにかく歌が素晴らしかったです。ちょっと低めのハスキーな声がかっこ良くて、ただ歌が上手いのではなく、感情がのった「歌う演技」がすごく上手な役者さんだという印象です。彼女自身、とあるインタビューで、「What I Did For Love」に関しては、感情移入しすぎたあまりに最後まで泣かずに通して歌えるまで3週間かかったと語っていたりも。歌を伴わない演技でも、ユーモアたっぷりのダイアナのキャラクターも魅力的に演じていました。

 リッチー役のJames T. Laneさんは凄ダンサー枠。この方、実は2006年のブロードウェイリバイバルでもリッチー役を2年間やっていたそうです!A Chorus Lineはダンス、歌、演技が三拍子そろい踏みしている人がたくさんいるんですが、そんな中でもJamesさんのダンスのキレは抜きん出ていたと思います。なんというか、全身がバネでできている感じ。

 現金であけすけな物言いだけど、どこか憎めなくてキュートなヴァル役はRebecca Herszenhornさん。「Dance Ten Looks Three」で決してお上品とは言えない歌詞を極上の笑顔で歌ってくれる彼女は、辛口だけどとても愛嬌があってチャーミング。しっかりとオーディションの最終選考にも残っているあたり、可愛いだけではない彼女の強かさを感じます。

 ここで挙げられなかったみなさんも本当に素晴らしくて、おそらく舞台に上がっていないスイングの方たちを含めて超ハイレベルなのでは、と想像しています。

 私が観た回ではBobby(少し自己陶酔気味のセーターを着ている参加者)はアンダースタディの方 (Jon Tsourasさん)だったのですが、「この人がアンダー?!」と思うくらい全く違和感なし。どうやらこの方もWest End FrameのUnderstudy of the Yearの候補者の一人みたいですね。

 ラストシーンの感動はツイッターで書いたとおり、「舞台に立っている一人一人が主役なんだ!」という思いが最高に盛り上がったところで、本番の舞台を思わせる 「One」 のパフォーマンス。そこには、オーディションの最終選考を落選してしまった人も含めて一人ずつ登場して、一人一人がお辞儀をする。ここは、手が痛くなるまで拍手を送るしかありません。

 シンプルながらも煌びやかなステージで、ライティングも衣装もキラキラしているんですけど、一番輝いているのは役者さんたちの笑顔なんですよね。客席を振り返ることはしなかったですが、その笑顔が伝染して、みんな笑顔なんだろうなと思わせる素晴らしい舞台でした。こんな素晴らしいキャストで観てしまってからは、他のキャストで観るのが少し怖くなってしまうくらい。それくらい良かったです。