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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』(Daddy Long Legs) @ Davenport Theatre, New York《2016.5.1-2016.5.4》(Part 1)

Daddy Long Legs at Davenport Theatre

Daddy Long Legs at Davenport Theatre

 [2016.5.1, 2016.5.4 CAST]
 Jerusha(ジルーシャ) : Megan McGinnis
 Jervis(ジャーヴィス: Adam Halpin

 2016年のGWの休暇を利用した2年ぶりのBroadway観劇の旅の最大の目的は、Off-Broadwayで上演されているミュージカル Daddy Long Legs を観ることでした。日本でも演じられたことのある人気作品であることは知っていたのですが、私が初めてこの作品をきちんと知ったのは、2015年の12月に放送されたOff-Broadwayの劇場からの無料ライブストリーミングがきっかけでした。前例のない取り組みだったこのライブストリーミング放送。出張先からの帰宅路をワクワクしながらいそいそと帰り、帰宅後何をするよりも早くにパソコンの画面に釘付けになって放送を観たことを今でも鮮明に記憶しています。結果、すっかりこの作品の魅力に魅了されて、「こんな素敵なものをタダで見せてもらって本当にいいのかしら?」と妙にドキドキしたことも覚えています。

  その後ライブストリーミングを見た人に対して舞台のチケットを半額以下の価格で提供するというキャンペーンがあり、そのお知らせをメールで受け取った直後、気がついたらチケットをポチッていました(笑)

 日本人の女性なら、小学生時代に「あしながおじさん」を読んでジュディ(ジルーシャ)の学生生活にときめいて憧れた方も多いかと思うのですが、この作品は大人になってから読んでみても、子供の頃とはまた違ったときめきを感じられて個人的に大好きな作品です。

 W45th St.の9th Ave.と8th Ave.の間の通りにあるDavenport Theatreは客席200未満のとてもかわいらしい小さな劇場。客席と役者さんの距離が近く、マイクを通さない生の歌声が後ろの方の席でも問題なく聞こえるこの劇場は、私のように至近距離で役者さんの表情を見たい派にはたまらない空間です。なので、劇場に入った瞬間からかなり私のテンションはあがっていました。

 当たり前ですが、やっぱり映像と生の舞台は全然違いますね。気軽に来ることはできないニューヨーク。観劇の枠をどう使うかにはいつもめちゃくちゃ悩みます。ダディはライブストリーミングで見ているし、その分を別の作品に回すという選択肢もあったはずなんですが、そうしなくて本当に良かったと思います。元々予定していた1回の観劇だけでは満足できず、未見の作品の枠を削ってもリピートしたくなるとは…。

 Daddy Long Legs の作品としての魅力はなんといってもその素晴らしい音楽と原作からのフレーズを上手く引用したウィットと遊び心に富んだ歌詞と台詞回しだと思います。ジルーシャの天真爛漫な魅力は原作のまま、原作では想像力を巡らせるしかなかったジャーヴィス側の物語にもひとつの明確な解釈を与えてその心情を追うことができるようになっているのも、登場人物がジルーシャとジャーヴィスの二人だけのミュージカルならでは。そんな作品を、歌に感情を乗せて歌うのが上手く、細やかな表情や視線の演技が素晴らしいMegan McGinnisさんとAdam Halpinさんのお二人で、しかもあの小さな劇場で観ることができて本当に幸せでした。見た目のイメージも私の中のジュディとジャーヴィー坊ちゃんのイメージにかなり近い二人。しかもこの二人、私生活ではご夫婦で…。そんなお二人が舞台上で毎日恋に落ちて、結ばれる。ちょっと不謹慎かなぁ、と思いつつもそれだけでもかなりキュンキュンしてしまいます。

 Meganさんのジルーシャの魅力は澄んだきれいな歌声、少女らしいキュートな声と表情豊かな大きな瞳。キラキラと輝く目はまさに天真爛漫で元気一杯なジュディそのものという感じです。Adamさんのジャーヴィスは背が高く、微笑むととても優しくなり、笑うと少年のようになる青い目とえくぼが素敵。何よりもジルーシャを静かに見守る時の視線が蕩けそうに優しくて、床にゴロゴロ転がりたくなります(笑) もう、本当にこのお二人のジルーシャとジャーヴィスが大好きすぎます♡

 ここからは、ストーリーを追いながら感想を。ネタバレしかないのでご注意ください。歌詞と台詞の日本語訳は個人的な好みを反映した雰囲気意訳で厳密には訳していませんのであしからず。


ACT ONE

  1. The Oldest Orphan in the John Grier Home
  2. Who Is This Man?
  3. Mr. Girl Hater
  4. She Thinks I’m Old
  5. Like Other Girls
  6. Freshman Year Studies
  7. Things I Didn’t Know
  8. What Does She Mean by Love?
  9. I’m a Beast
  10. When Shall We Meet?
  11. The Color of Your Eyes
  12. The Secret of Happiness
  13. The Color of Your Eyes (Reprise)

 物語は原作と同様に、月初にJohn Grier孤児院の賛助員たちが視察に訪れる「憂鬱な月曜日」をジルーシャが嘆く The Oldest Orphan in the John Grier Home から始まります。その流れの中で小さなトミー・ディランになったり、リペット先生になったりするMeganさん。ジルーシャ以外の声の作り方が上手いなーと思うと同時に、ジルーシャ自体もこういう声真似が上手いんだろうなぁと想像させられて。「憂鬱な月曜日」にジルーシャを笑わせた、Daddy Long Legs(あしなが蜘蛛)に似た影を落とした背の高い紳士。その紳士に作文の才を見出されたジルーシャは彼の援助を受けて大学に進学することになります。大学に到着したジルーシャ。Mr. Girl Hater で表現されるジルーシャの初めての手紙、または Daddy Long Legs(あしながおじさん命名の瞬間は印象的なメロディと原作に忠実な歌詞に唸らざるを得ません(笑)

 大学に入学してしばらく経ってからの手紙の内容を表現している Like Other Girls では、“I just wanna be like other girls”私はただ他の女の子のようになりたいの)といいながら、普通の女の子らしからぬ(?)野心的な希望が生き生きと綴られていて。その中に

I just wanna be like other girls
Make lemon pies like other girls
Cure diseases and write a symphony
and win the Novel Prize

ただ他の女の子のようになりたいの
他の女の子のようにレモン・パイを作りたいの
病気を治して、交響曲を書いて
そしてノーベル賞を受賞する

という一節が出てきた時に、その野望の大きさに思わず吹き出すジャーヴィスといっしょに思わず笑ってしまったり。生き生きとしたその内容の中に、孤児院育ちというジルーシャの劣等感から来る不安も織り交ぜられていて。それを表情豊かに歌うMeganさんを見ていると、切なくなったり、笑顔になったり本当に忙しいです。

 あしながスミス氏の頭髪の状況を何度も確認する手紙をジルーシャが書いているのも原作通りで(笑) Things I Didn’t Know ではジルーシャの無知を嘆く心情に切なくなりつつも、スポンジのように知識を吸収する彼女に触発されたジャーヴィスが自分が当たり前のように享受していた教育の重みを再確認する姿が印象的です。同時にジャーヴィスにとってどんどんジルーシャが無視できない存在になってきているのがわかって。

 What Does She Mean by Love で、ジルーシャがクリスマスに書いた手紙のP.S.に記された Sending Love という内容に動揺するジャーヴィスもまるで思春期の少年のようで(笑)でもこれは後にわかることなのですが、彼は生い立ちから、ジルーシャのように家族の愛とは縁遠い人生を送ってきたからなのですよね。なので、試験に落第した挙句、おたふく風邪にかかったジルーシャがグチャグチャな感情に任せて書き殴った手紙とその後の後悔の手紙を表現した I’m a Beast の裏側で、お見舞いの花束を手配をするジャーヴィスの姿はとても説得力がありました。この場面で花束を手配するAdamさんジャーヴィスの真剣で必死な雰囲気がまたよくって。手紙に対する反応を初めてもらって、投げつけたひどい言葉に後悔しながらもDaddyの気持ちを感じ取ってうれしさに輝くMeganさんジルーシャの笑顔も本当にいい笑顔で。この曲は聴いているだけでも毎回泣いてしまいます。

 ジルーシャの様子が気になって、ついに後見人正体を伏せたまま彼女に会うために大学を訪れるジャーヴィス。彼のもう一つの姿、ジルーシャの同室のお高い良家の令嬢、ジュリア・ペンドルトンの叔父として。訪れたジャーヴィスのことを詳細に表現した The Color of Your Eyes はジルーシャの高揚した気分がMeganさんが歌うメロディを聞くだけで感じ取ることができます。曲が始まる前の部分で ”It turns out that he is sweet as a lamb!” (でも、彼は本当に感じのいい人だとわかったの) という評価を貰って、口の端だけでニヤッと笑ってみせるAdamさんジャーヴィスに萌え(笑)ジルーシャがジャーヴィスに抱いた好感、淡い恋心、憧れのようなものは手紙のポストスクリプトの多さに表れていて。そのへんの原作の表現の巧さがそのまま歌の歌詞になって、素敵なメロディにのっているのが原作のファンとしてもうれしいです。ある意味、ジルーシャの理想の体現であるDaddyの若き日々に対してジャーヴィスを重ねているのもその後を暗示しているようで。ジャーヴィスを通してジルーシャがDaddyへの思いを募らせているのが感じられるのもいいなぁ、と思うのです。

and oh how I wish
that you’d been with us too
and I knew the color of your eyes

そして、ああ
貴方が私たちと一緒だったらよかったのに
そして貴方の目の色がわかったのなら

 高評価に気を良くしていたものの、読み進めるうちに他人への手紙をこっそり読んでいるようなバツの悪さを感じるジャーヴィス。それでも手紙を読まずにいられず、確実にジルーシャがジャーヴィスの中で特別な存在になりつつあることを表現した Like Other Girls (Reprise) も秀逸で。

 The Secret of Happiness は、ジルーシャが初めてLockwillowで過ごす夏休み中に書かれた手紙。めげてしまうような出来事が連続して起こった後に、それを吹っ切るきっかけをジルーシャに与えたのがDaddyと同じ名前をいただいたあしなが蜘蛛で。蜘蛛のDaddy Long Legsを窓からそっと逃がしてあげて、そのDaddyが風に乗って漂う姿を見守るMeganさんのジルーシャの姿には「おじさん」のDaddyへの愛も見えるようで。美しいメロディに優しい歌詞、Meganさんの透き通った歌声にやっぱり涙してしまうのでした。

 滞在先の農家の屋根裏部屋でLockwillowとジャーヴィスのつながりを発見したジルーシャ。Lockwillowは幼い頃病弱だったジャーヴィスが、母を亡くした夏に静養するために滞在した以降、成年するまで夏休みを過ごした別荘だったのです。その発見から一層Daddyがどんな人なのかの知りたくなったという思いを募らせ、それを素直に表現した手紙を書くジルーシャ。ジルーシャの発見に焦り、名乗り出る必要性を感じながらも、彼女をがっかりさせるのが怖くて踏み出せないジャーヴィス。そんな二人の心情を交互に表現する1幕最後の The Color of Your Eyes (Reprise) もメロウな旋律と二人の演技に胸が切なくなって大好きです。

(Part 2につづきます)