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【観劇レポ】ミュージカル『マディソン郡の橋』 (매디슨 카운티의 다리, The Bridges of Madison County) @ Chungmu Art Hall, Seoul《2017.4.15ソワレ》

2017/4/15 ソワレ『マディソン郡の橋』のキャスト

  2017年4月15日、タイミングに恵まれて韓国でのミュージカルマディソン郡の橋』(매디슨 카운티의 다리, The Bridges of Madison County) の初日を観に行ってきました。主演の二人を含むほぼすべてのキャストがシングルキャストであることも話題を呼んだ本作品。初日のキャストは

 フランチェスカ (Francesca) : オク・ジュヒョン さん
 ロバート (Robert) : パク・ウンテ さん
 バド (Bud) : パク・ソヌ さん

でした。なんとフランチェスカの夫のバド役以外はみんなシングルキャスト、主演の二人の代打となるオルターネイトキャストも無しという俳優様の力を信頼した大胆キャスティングです。

 韓国初演公演の初日、しかもアメリカ以外の国では初めて公演ということもあってか、劇場は開演前から業界関係者と思われる方々やオク様、ウンテさんのファンと思われる人達でいっぱい。ソウルでミュージカル作品を観に行くと、観客の9割ぐらいが女性という事も珍しく無いのですが、この日ばかりは会場にいらっしゃるおじさま方の多さが目に付きました。みなさまオク様ファンだったのでしょうか?そんな出演キャストのペン同士の集団がひしめく中で、アウェイ感を感じながら若干肩身の狭い思いをして自分の席に着いたのですが、そういう特別な日の公演だからこその舞台上の魔力を目撃する事ができて、いいタイミングで観劇できて本当にラッキーだったな、と思うのです。

  ちなみに私はたまたまいいタイミングでアメリカの長期出張が入って、トニー賞の楽曲賞を受賞しながらも興行が振るわず、惜しまれながら短いランでクローズしてしまったブロードウェイ公演も生で観る機会に恵まれました。なんだかちょっと不思議なご縁を感じます。

 原作の小説も、メリル・ストリープクリント・イーストウッド主演の映画もあまりに有名なので説明不要かもですが、簡単なあらすじをば。

 戦時中に海兵だったバドに見初められ、彼に連れられてアメリカに移り住んだイタリア人のフランチェスカは、夫と二人の子供と共にアイオワ州マディソン郡の牧場で慎ましく暮らしていた。ある日、娘のキャロリンが手塩にかけた牛のスティーヴィーを全米品評会に出すためにバドと子供達は泊まりがけの遠出でインディアナ州インディアナポリスに向かう。留守を預かるフランチェスカの元にローズマン・ブリッジを探していると言い、National Geographic 誌のカメラマンだと名乗るロバートが訪れる。ローズマン・ブリッジまでの道案内を買って出たフランチェスカは、彼女が住む田舎の外の世界からやってきたロバートに少しずつ惹かれていき…。

 初日の舞台上の魔力、それは主演のオクフランチェスカとウンテロバートの間に漂う只ならぬ緊張感、これに尽きます。お互い初対面の見知らぬ者同士が、立場上許されないと知りながらもどんどんと惹かれあっていく中で、相手の気持ちを探る時の息を詰めるような緊張感。このピンッと張り詰めた空気が初日ならではの俳優さんの緊張感と物語上の二人の間の緊張感に相まって、「うわぁあぁぁ」とか「ぎゃー」とか心の中で叫びながら顔を手で隠して指の隙間から覗き見るような気分でずっと観劇していました。一言で言ってしまうと、超エロい。

 ウンテロバートの生着替えとか、オクフランチェスカの入浴シーンとか実際にお色気サービスシーンもあって、それも確かにセクシーなのですが、息を飲むような二人の間の緊張した空気がなんともたまらんかったです。いえ、ウンテさんの見事な腹筋とか、開いたシャツの胸元から漂うフェロモンたっぷりの大胸筋とか、知り合いのウンテさんファンのみなさまが鼻血吹いてないか心配になるくらい本当にご馳走様です、という感じだったのですが。二人の間の空気が言葉を交わさずとも色々と濃密すぎて、なんか見てはいけないものを見てしまっているような気にさえしてきました。それが会場一体となって息を飲んでいるのを感じるのですよね。あの緊張感はヤバかったです。

 原作の年齢設定よりだいぶ若いオクフランチェスカとウンテロバートですが、オク様のフランチェスカは物語の冒頭では窮屈な田舎暮らしに疲れた中年主婦にちゃんと見え、ロバートと一緒に過ごしているときは10歳若返っているように見えたのでさすがだなぁと思いました。フランチェスカと私では生きてきた人生が違いすぎるので、なかなか感情移入をするのは難しいんですが、ロバートと別れてからの彼女の人生が中心に展開される二幕は、とても切ない気分になりしんみり。フランチェスカの選択を尊重し、最期までただひたすら一途に彼女を想い続けたロバートを演じるウンテさんは細やかな気遣いができる好青年そのもので。そして始終シャツの襟元からダダ漏れてくる色気にのぼせそうに…。二人とも歌唱力は折り紙付きですし、演技もすごくうまいのでぐんぐんと物語に引き込んでくれました。

 『マディソン郡の橋』はトニー賞を受賞したジェイソン・ロバート・ブラウンの美しい楽曲もすごくよくて、特にチェロの哀愁漂うメロディが印象的でした。レポではオクフランチェスカとウンテロバートにしか触れていなかったですが、他のキャストのみなさまもめちゃくちゃ歌える実力派揃い。主演の二人以外では特にバドのソヌさんとロバートの元妻のマリアンとフランチェスカの姉のキアラ役のユリアさんが印象に残っているのですが、このユリアさんの配役も実に贅沢。ちょっと変わったところで、フランチェスカがロバートに手料理を振る舞うシーンでは、実際に舞台から料理の匂いが漂ってくるのも面白くて、あまりにもいい匂いがするのでお腹が空きました(笑)

 渡韓直前の最後の最後まで他の作品を観ようか悩んでいた上での観劇だったのですが、またとはない貴重なタイミングで、オクフランチェスカとウンテロバートの間に漂う極上の緊張感で張り詰めた空気を体感することができて本当に良かったと思います^^

韓国版『マディソン郡の橋』ポスター

  奇しくも先日 6/18 は『マディソン郡の橋』の千秋楽でした。キャストのみなさま、2ヶ月の公演お疲れ様でした!