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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【ファンレター】日本の初代ビリー、加藤航世さまへ

着せ替え航世くんビリー

 航世くんビリーへ

 

航世くんのビリーについて書こうといざ意気込むと、目まぐるしく色んな記憶や気持ちが脳裏を嵐のように現れては消え、良い書き出しが思いつきません。

航世くんは私が初めて観ることができた日本のビリー。

そういったご縁もあり、カンパニーごと大好きでしょうがないビリーの日本オリジナルキャストの中でも、航世くんビリーは私にとって本当にめったくそ特別な存在です。

初めて航世くんのビリーを観たのは7月30日の夏真っ最中。

日本でビリーを観れる喜びに浮き足立ちながら赤坂ACTシアターに向かった私を迎えてくれたのは、ビリーに出演できる喜びをその端々に感じる本当に素敵なカンパニー、素晴らしい日本語訳詞、台詞、そしてまだどこか緊張感を漂わせているような航世くんビリーの真摯でひたむきな姿でした。今思い返してみると、その時に観た航世くんのビリーは静かながら内にとてもとても強い思いを秘めているように感じるビリーで、私はその秘められた強くてまっすぐな気持ちがその頃から気になっていたのだと思います。

次に航世くんのビリーを観れたのは、日本ビリー初観劇から一ヶ月ほど経った9月3日。

たった一ヶ月の期間で航世くんのビリーは目を見張るほど進化していて、航世くんが得意なバレエはもちろんのこと、Angry Danceのタップダンスの気迫も、お芝居も、歌も、すべてがびっくりするくらいパワーアップしていて…。もちろんその裏には航世くんの絶え間ない努力があったのだと思いますが、これだけの短い期間で驚くべく成長を遂げる若いパワーが眩しくて仕方ありませんでした。ビリーエリオットという作品の魅力にどうしようもなく取り憑かれていったのは、この2回目に観た航世くんビリーの進化が大きなきっかけだったのだと思います。

どうしても、どうしても航世くんのビリーの集大成を見たくて、追加した大阪遠征。本当に、本当に、そうすることにした自分を自分で褒めてあげたいくらい航世くんのラストビリーの2公演は素晴らしかったです。

初めて航世くんのビリーを観たとき、どこか硬かった表情はとても柔らかくなっていて。お芝居は9月に観た時よりもさらに進化しているのに、より航世くん自身をビリーに感じられて。透き通るような綺麗な歌声は、繰り返し何度も聞きたくなるもので。何より、ダンスを踊っているときのうちから滲み出てきて溢れ出すよろこびが航世くんが航世くんであり、ビリーがビリーである所以なんだとヒシヒシと感じられて、見ているこちらまでも幸せな気分になりました。

どちらかというと、日本の初代ビリーたちの中では笑顔が控えめな航世くんのビリー。でも、だからこそ時折こぼれ出る航世くんのビリーの笑顔がとても輝いて見えて、そんな航世くんの笑顔が大好きです。

集会場でみんなを眺めているときや、おばあちゃんの昔話を聞いているときにどこかずっと遠くを見て何かを探しているような航世くんビリーの横顔がとても好きでした。物語の中のビリーはまだバレエに出会う前だけど、やがて来る運命の出会いを予感させているようで。バレエダンサーとして、高い目標をずっと抱え続けている航世くんのビリーならではの表情のような気がしたのです。

一幕で一番好きな航世くんビリーのシーンはSolidarityでのバレエ教室でのシーン。

アチチュード・プロムナードで地面を見つめながら回っていたビリーが体を起こして腕を上げた瞬間、すべてが静寂に包まれて、みんなが吸い込まれるようにビリーに見入る数秒間が本当にたまらなく大好きです。誰もが息を飲んで、瞬きをするのも忘れて航世くんのビリーの美しいバレエに魅了されているのが空気として感じられる。航世くんのビリーはうすく微笑んでいて、「ああ、この子は本当にバレエが大好きなんだなぁ」と実感するのも大好きです。

デビー、バレエガールズと一緒のラインダンス(?)も最高に楽しそうでこっちも笑顔になるし、曲の最後の見せ場、アラセゴンターンからのピルエットを決めるシーンも、航世くんのバレエの美しさはもちろんのこと、うまく踊れたよろこびが溢れんばかりにこぼれ出るような航世くんビリーのうれしそうな表情が忘れられません。

マイケルと一緒に歌って踊るExpressing Yourselfにウィルキンソン先生、ブレイスウェイトさんと一緒に踊って歌うBorn to Boogieなどのバレエ以外のダンスナンバーも、踊っている航世ビリーは素の笑顔で本当に楽しそうで。違うダンススタイルで踊っていても、航世くんのビリーの踊りにはどこかバレエを感じさせる部分が随所にあって、それがとても航世くんらしく感じられて凄く好きでした。

そして一幕ラストのAngry Dance…

「子供らしく過ごさなくたっていい、俺はバレエダンサーになりたいんだ!」を地でいっているイメージの航世くん。その航世くんのAngry Dance。力強くて、かっこよくて、迫力満点で…それでいて足や腕の伸ばし方とか、やっぱりバレエの要素を感じる部分がとても美しくて。

千秋楽のパフォーマンスでは、途中で一瞬メロディが「白鳥の湖」に変わるところで入るピルエットが美しいだけではなく勢いや力強さも素晴らしくて、航世くんビリーの全身から発せられる全力の怒りの表現を固唾を飲んで見入っていました。最後に舞台の床に倒れこんでから、ゆっくり時間をかけてから力強く立ち上がるまでの間の取り方も最高でした。

二幕のMerry Christmas Maggie Thatcherの前でビリーが登場するシーン。

梅田芸術劇場の客席を1階から3階まで一瞬だけ見上げた様子には、3ヵ月の間ビリーとして舞台に立ち、さらに長い期間をかけてその準備に取り組んできた航世くんの軌跡への感慨が感じられて、なんだか胸の奥がギュッとしました。

父ちゃんがDeep Into the Groundを歌った後のビリーとマイケルの二人だけの会話のシーン。

台詞だけのシーンの中では、航世くんのビリーで一番好きな場面です。航世くんのビリーには、ひたむきさと同時に滲み出てくるような優しさを感じてそれがすごく好きなんですが、それを一番感じたのがこのマイケルとのやりとりの場面で。4回観れた航世くんのビリーの回でマイケル役を演じていたのは瑠くんと立樹くんがそれぞれ2回ずつですが、二人のマイケルたちは普段の明るさから想像もできないようなヒリヒリとした切実さでビリーを呼び止める表情がとても印象に残っているマイケルたち。「俺の手、冷たいだろ?」という声に滲み出ている優しさとか、「バレエが好きだからといって、俺はオカマじゃないからね?」という時の慎重で真剣な声とか、すごく真摯で誠実にマイケルの気持ちと向き合っているように感じて、ビリーを好きになったマイケルの気持ちがすごくわかる気がするのです。

そしてSwan Lake pas de Deux…

もはや色んな方々が絶賛し尽くしていて私が新たに言えることは何もないような気もしますが、”Dream Ballet”の通称のそのままに、本当に夢のような美しさでした。椅子を使った演出も面白いこのシーンですが、私にとっては航世くんが椅子から手を離した瞬間とか、椅子を放り投げた後の躍動感がとても印象に残っていて、枷から自由になって身一つで生き生きと踊るように感じる、ビリーが自身を解放しているように感じるのがすごく好きでした。千秋楽の大貫オルダービリーとのデュエットは、舞台上手に向かって二人で体を後ろに反らす時のシンクロ率が本当に素晴らしくて…。フライングの場面で会場から湧き上がる拍手の音が聞こえてきても、ただただ航世くんの姿を見つめ続けることしかできず。地上に降りたビリーの美しいアラベスクからの二人の力強く頷き合ってからのシェネと最後の腕を上げてのポーズも本当に素晴らしすぎて。きっと、何年も経っても思い出して泣くと思います。

本編最後のダンスと歌のナンバーのElectricity。

思いの丈を感じる間の取り方も、透き通って綺麗でありながらどんどん力強くなる歌声も。バレエの要素をふんだんに取り込んだダンスも。とても力強くて生き生きとしながらも、一振り一振りをとてもとても丁寧に嚙みしめるように踊りながらも踊りとしては流れるように鮮やかで。それは航世くんのビリーとしての最後の舞台に相応しいまさに集大成で。最後に美しいピルエットを回りきってポーズを決めた航世くんのやりきった充実感に溢れた誇らしげな表情が素晴らしく輝いていて忘れられません。泣き笑いの表情で顔をクシャクシャにした益岡さんの父ちゃんと同じように、あの奇跡のような瞬間に立ち会えて、誇らしくて、うれしくて、幸せでした。

ビリーの旅立ちの場面。

母ちゃんへの手紙はとても大切にするように丁寧に歌うのに、母ちゃんに「ううん、会えんと思う」と言われて「うん、そうだろうな」と答える航世ビリーの声には未練は感じられず、とてもすっきりとした表情で。物語としてビリーが生まれ育った町を旅立つのと同じように、航世くんも次の夢に向かって旅立つ瞬間でもあることが伝わってきて、胸がいっぱいになりました。

そしてついにやってきた千秋楽の本編ラストシーン。

いつもは食い入るようにマイケルの表情ばっかりを見てしまう私ですが、この日ばかりは航世くんのビリーの一挙一動に釘付けになって見ていました。

マイケルに呼び止められて、見送りに来た親友の元に走って戻ってほっぺにキスをするビリー。そのまま踵を返し、一瞬だけ立ち止まるもののの、すぐに再び力強く歩みだしてから「またな、マイケル」と告げて後ろを振り返らずに旅立っていった航世くんのビリー。マイケルへの粋なお餞別には、ふざけるような要素は一切なくて、真摯で誠実で。力強くて、優しくて、頼もしくて。こんなことをされてしまったら、マイケルは次の恋に進めなくなっちゃうんじゃないのかなと心配しながらも、マイケルが好きになったのがビリーで良かったね、と思わずにはいられないのです。

これ以外にも本当にここには書ききれないくらい好きな部分がいっぱいあって、色々と挙げだすとキリがなくて。

もう航世くんのビリーを見ることができないのだと思うと切ない寂しさが胸に広がっていきますが、清々しくて晴れやかな航世くんの笑顔と素晴らしい集大成を千秋楽で見ることができたので、心にはそれを上まる幸せな気持ちで満たされていきます。

本編の旅立ちの時からすでに前を向いて次に向かって力強く歩み続けている印象がしていた航世くん。みんなで踊るフィナーレは、一緒に頑張ってきた家族のような仲間のみんなへの好意と感謝で溢れていて。カーテンコール後の挨拶でも、次の夢に向かってすでに走り出していることを力強く教えてくれた航世くん。きっともう耳にタコができるくらい言われ続けていると思いますが、やっぱりこの言葉を送りたい。

あんたはめったくそ特別よ
幸運を、祈っとるよ

航世くんのビリーが大好きでした。これからもずっと。
ビリーになってくれて本当に本当にありがとう。

いつまでも

次は、バレエの舞台で輝いている航世くんに会いに行くのを楽しみにしています。