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【観劇レポ】ミュージカル『アンナ・カレーニナ』(안나카레니나, Anna Karenina) @ Seoul Arts Center, Seoul《2018.1.28ソワレ》

2018/1/28 ソワレ『アンナ・カレーニナ』キャスト

 2018年1月28日のソワレは前週に引き続きソウルの芸術の殿堂に行ってきました。今回は芸術の殿堂で一番大きい会場であるオペラ・ハウスでロシアミュージカル『アンナ・カレーニナ』(안나카레니나, Анна Каренина, Anna Karenina) を観劇してきました。正確には、私が観たのはその韓国初演版ですが。この作品がロシア以外で上演されるのは初めてだそうです。私が観た回のキャストのみなさまは

 アンナ・カレーニナ (안나 카레니나) : オク・ジュヒョンさん
 アレクセイ・ヴロンスキー (아렉세이 브론스키) : ミン・ウヒョクさん
 アレクセイ・カレーニン (아렉세이 카레닌) :  ソ・ボムソクさん
 コンスタンティン・レヴィン (콘스탄틴 레빈) : キ・セジュンさん
 キティ・セルバツカヤ (키티 세르바츠카야) : イ・ジヘさん
 ティーヴァ (스티바) : ジ・ヘグンさん
 MC : パク・ユギョムさん
 パティ (패티) : キム・スニョンさん

でした。

  原作はあまりにも有名なトルストイの長編小説なのでストーリーを知っている方も多いかと思いますが、まずはインターパークに掲載されているあらすじを翻訳したもの紹介します。ちなみに私はキーラ・ナイトレイ主演の映画は観たことはありますが、原作は読んだことありません。

 みんなに愛されるような上品さと美しさを持つ貴族の夫人アンナ・カレーニナ。ロシア政界の最高政治家である夫カレーニン、8歳の息子と一緒に幸せなようだが、慣習的な結婚生活をしていた彼女の前に魅力的な外見の若い将校ヴロンスキーが現れる。 理性的で名誉を重要視するカレーニンとは違い、積極的かつジェントルなブロンスキーの情熱的な求愛にそれまで感じてみたことのない強い感情に混乱しながらも、幸福感を感じる。 結局、ヴロンスキーと致命的な愛に陥るようになったアンナは、二人の不適切な関係についた社交界の非難にもかかわらず、家庭を離れ愛と自由を選択する。 二人の禁止された愛によって彼らをめぐるこれらの人生も完全に変わることになるが...。

 オリジナルのロシア版とロシアミュージカルに関してとても詳しく解説してくれているサイトを見つけたので、あわせてご紹介しておきます。

ロシアミュージカルの歴史【アンナ・カレーニナ 韓国で上演決定】 - アートコンサルタント


ロシア版ミュージカル「アンナ・カレーニナ」トレーラー


  こちらの記事でも紹介されている動画の内容を拝見する限り、韓国版はかなりオリジナルの演出に忠実なようです。世界的にあまり知名度の高くない作品が韓国でライセンス公演される時は、かなり独自路線にアレンジされることが多いイメージがあるのでちょっと意外。

  その日のマチネに観た『エドガー・アラン・ポー』の劇場 (BBCHホール) から移動が楽だからというかなりいい加減で不純な動機で観ることにしたこの演目ですが、ブロードウェイやウェストエンド、フランスやドイツのミュージカルともまた違った雰囲気のロシアミュージカルを体験することができて面白かったです。主演は韓国ミュージカル界で安定のチケットパワーを誇る歌姫オク・ジュヒョンさんで、ヴロンスキー役がご贔屓俳優様との歌番組での共演で気になっていたミン・ウヒョクさんだったのも購入を後押ししました。本音を言うと、レヴィンとスティーヴァはチェ・スヒョンさんとイ・チャンヨンさんで本当は観たかったのですが日程が合わず。

 さて、実際に観劇してみた感想ですが、一幕が終わった後の幕間中に私がツイートしたのはこんな内容。

 

 なんと表現するのが適切なのかよくわからないですが、とにかく舞台から伝わってくる圧倒的な熱量がハンパないのです。大型LEDスクリーンをふんだんに活用した豪華なセット然り、アンサンブルキャストのみなさまの迫力あるダンス然り、声量たっぷりにミュージカルナンバーを歌い上げるプリンシパルキャストのみなさま然り。そんな舞台上から「これでもか!これでもか!」と畳み込まれてくる圧とヴロンスキーのアンナに対する熱烈な求愛の圧とわりと強引な力技でどんどんと展開されていく物語の流れの速さの圧。なんともうまく形容できない迫力に完全に圧倒されて、観終わった後には「ほぇぇ...( ゚д゚)」となんとも気が抜けた情けない声を漏らしていました。ちなみに二階席からの観劇です。凄い。

 ロシア版のトレーラーを見ていただいた方には少し雰囲気がわかるかと思うのですが、『アンナ・カレーニナ』のセットの一番奥には巨大で高解像度のLEDスクリーンの前に橋のようなセットが組まれています。その更に前に上下二枚組で上下にスクリーンが動く櫓型のLEDスクリーンが4台設置されていて、場面ごとに映し出される映像を変えて場所を移動させることによって様々な情景を表現させています。このLEDスクリーンに映し出される映像がすごく綺麗で華やか。ロシア貴族の重厚な雰囲気の館のシーンも、雪烟る幻想的な冬の駅舎のシーンもこのスクリーンがとても効果的に使われています。後ろが透けて見える半透明の幕に対してプロジェクション映像を映し出して、奥行きが演出されているシーンもあり、それもとても印象的でした。こういった映像を多用する演出には賛否両論あると思うのですが、ミュージカル『アンナ・カレーニナ』はこの映像を中心とした舞台美術が本当に見事だったので、これだけでも作品を観てみる価値はあると思います。

 物語の展開に関しては、原作があまりにも有名なロシアの名作だからかもしれませんが、先述の通りで「みんな知ってるよね?どんどん先に行くよ!!」感があるのは否めません。物語のハイライトをミュージカルナンバーでバーンと表現して、それを息をつく間のないテンポの良さで疾走していく感じ。見ごたえたっぷりの群舞の場面も多いので、ちょっとだけフレンチミュージカルと雰囲気が似ているかもしれません。フレンチミュージカルの超アクロバティックな感じとはまたちょっと違うのですが。優雅でダイナミックな感じのダンスが多いので、そこはさすがバレエ大国ロシアです。個人的には音楽とダンスの比重に関してはフランス産のミュージカルとドイツ産のミュージカルの間ぐらいのイメージ。

 ミュージカル版オリジナル要素としては、鉄道駅員のような制服姿のMCという狂言回しが登場すること。このMC役ですが、歌枠の役かと思いきや、アンサンブルキャストに混じってキレッキレのダンスを踊るシーンもあってかっこいい。狂言回し役ならもう少し登場シーン多くてもいいのになぁとちょっと思いました。あとはアンナが観に行くオペラの歌姫パティ。本職のオペラ歌手の方なのでしょうか、圧倒的な声量と美声でカーテン・コールでも誰よりも熱い声援と拍手を受けていました。本当に素晴らしい歌声だった!

 オク・ジュヒョンさんのアンナは流石の安定感。気怠げな色気溢れる華やかなアンナも、徐々に精神不安定になっていく弱い彼女も見事に演じていました。ミン・ウヒョクさんのヴロンスキーは元野球選手だけに、長身の堂々たる体躯に軍服がとてもよくお似合い。加えてあの甘いマスクにただならぬ色気を振りまきながらあんなに熱烈に口説かれたら、アンナがぐらっときちゃうのもわからんでもないなぁと思いました。だがしかしあの周りを顧みない行動はイケメンだから許される。イケメンでも本当は嫌だけど。アンナが持つ人間としての弱さは自分自身にもあるものなので、彼女がああなってしまったことを強く非難できるわけではないですが、やっぱりイマイチ彼女に感情移入できない。ヴロンスキー、カレーニンにもそれぞれそういう人間くさい弱さがあって。『アンナ・カレーニナ』は人間のそういう部分を突きつけられる物語なので、ストレートに表現されるとなかなかに鬱展開で色々削られるのですが、ミュージカル『アンナ・カレーニナ』はそれがいい具合に舞台スペクタクル化されていたと思います。

 結構特色の強い作品だけに好き嫌いが結構はっきり別れそうな作品ですが、豪華キャストによる豪華絢爛なミュージカル『アンナ・カレーニナ』は華やかな大劇場作品の醍醐味を存分に味わえるので、もし迷っている方がいるのであれば一見の価値ありだと思います。