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【観劇レポ】ミュージカル『キンキー・ブーツ』(킹키부츠, Kinky Boots) @ Blue Square, Seoul《2018.3.10マチネ》

2018/3/10 『キンキー・ブーツ』マチネキャスト

 日本でも2016年に三浦春馬さん、小池徹平さんのダブル主演で話題となった、ありたい自分でいることの素晴らしさを伝えてくれるハッピー・ミュージカル『キンキー・ブーツ』(킹키부츠, Kinky Boots) をソウルで観てきました!韓国での公演は、2014年の初演、2016年の再演に引き続き今回は3回目。2018年の公演のキャスティングが発表された瞬間に「絶対に観なきゃ!!」と思ったのが、チェ・ジェリムさんのローラ!というわけで、私が観た回のキャストはキャスト・ボードの写真の通り

 チャーリー (Charlie, 찰리) : イ・ソクフンさん
 ローラ (Lola, 롤라) : チェ・ジェリムさん
 ローレン (Lauren, 로렌) : キム・ジウさん
 ドン (Don, 돈) : コ・チャンソクさん

でした。チャーリー、ローラ、ドンと幼少期のチャーリーとローラを演じる子役ちゃんたち以外はシングルキャストの韓国キンキー。パワフルで前向きなメッセージにたくさんの元気を貰い、悲しい気分になることなんて何一つないようなハッピーなシーンで何故か気付いたらダラダラ涙を流して泣いていた、そんな観劇でした。

映画からミュージカルへ

 『キンキー・ブーツ』は2005年に公開された同名の映画*1を原作にしたミュージカルで、私の中では『ビリー・エリオット』(リトル・ダンサー)とともに映画もミュージカル版の両方が大好きで、それぞれの魅力を堪能できる作品です。

キンキーブーツ (字幕版)
 

 映画、ミュージカルの両方で舞台となる、主人公チャーリーの故郷ノーザンプトン (Northampton) にある紳士靴工場にはモデルがあり、『キンキー・ブーツ』は実話をもとにした物語になっています。そんな、キンキーの物語のあらすじをご紹介。 

(以下、ネタバレが含まれるのでご注意ください。)

  チャーリー・プライスはイングランドの田舎町ノーザンプトンの生まれ。代々続く紳士靴メーカー「プライス&サン」の現社長の一人息子だ。父のように紳士靴作りに興味を持てず、婚約者のニコラの紹介で彼女と共に不動産業の仕事をはじめるためにロンドンに引っ越しをした直後に、父の突然の訃報が舞い込んでくる。

 思わぬ形で「プライス&サン」を引き継ぐことになったチャーリーが発見したのは、父が隠していた紳士靴の大量の売れ残り在庫と破綻寸前の工場の経営状況。このままだと工場の従業員を何人もリストラしないといけないような苦境に立たされたチャーリーは、工場で働くローレンの「ニッチな市場でも見つけなさいよ!」という発言と、酔っ払いの男たちに絡まれていたところに遭遇したドラァグ・クイーンのローラにヒントを貰い、「特別な男性たちのための特別な靴」を制作、販売することに社運を賭けてみることにする。

  ミュージカル版の作曲、作詞担当は本作で第67回トニー賞を受賞した歌手のシンディ・ローパー (Cyndy Lauper) さん。私の中では前向きなメッセージに溢れる歌詞とキャッチーで耳に残る楽曲が素敵な最高のハッピー・ミュージカルです。

The Land of Lola

 B'wayオリジナル・キャストのビリー・ポーター (Billy Porter) さんローラ、ロンドンのオリジナル・キャストのマット・ヘンリー (Matt Henry) さんローラに今年の公演にもキャスティングされている韓国のチョン・ソンファ (정성화) さんローラに続いて私にとっては4人目のローラのジェリムさんローラ。

  一言で感想を言うなら最高。素敵すぎてもはやしんどいレベル。キャスティングが発表された時点ですでにジェリムさんにローラにめちゃくちゃ期待していましたが、期待に対する満額回答以上の最高にカッコよくて素敵なローラでした。

 190センチ近くの長身がヒールを履くともはやスーパーモデル並みのスタイル。ソウルフルな楽曲にとても似合うジェリムさんのパワフルな歌声を聞いていると、「ローラになってくれてありがとう! (T_T)」と拝みたくなるような気分になってきます。ドスの効いた男声と可愛く作った声のギャップも最高だし、ローラのときのカリスマと包容力溢れる完全無敵感と、紳士服を着たサイモンのときの不安で所在なさげにしているギャップも最高。きっと自信なさげにしているサイモンに「抱きしめてあげたい!」と思ってハグしてあげてたら、気付いたらいつの間にか立場逆転してローラ姐さんに抱きしめられているんだぜ、きっと..._:(´ཀ`」 ∠):

 元ボクサーで間違いなくそんじょそこらの人には負けない肉体的な強さを持ちながら、自分が一番強く自信を持てるのはドレスを着ている時だと言うサイモン。ドラァグとして装うことはサイモンにとっての武装のようなものですが、他人に敬意を払い、簡単に考えを変えられない人たちもそのまま受け入れるために、その武装を解いて工場の人達の輪に入っていき、徐々に「ドラァグとして装うこと」「ローラとしてのサイモン」を周りの人達に認めさせていくサイモンは本当に強くて優しくて素敵な人だな、と思います。周りに受けいられることによってパワーを貰って、そのことに決して感謝することを忘れないローラ。身近にこんな人がいたら絶対惚れるわ...。

The Soul of a Man

 『キンキー・ブーツ』のもう一人の主人公のチャーリー役は初めましてのイ・ソクフンさん。失礼ながら、「ジェリムさんのローラが観たい」ということを基準に選んだ観劇日程だったので、チャーリーが誰であるかはあまり気にしていなかったのですが、ソクフンさんのチャーリーも本当に素敵でした。

  キンキーの物語の一つの見所は、なんとなく周囲に流されて生きているように見えていたチャーリーが、自分の好きなもの、守りたいものを見つけて成長する姿だと思うのですが、ソクフンさんのチャーリーはそこが本当に素晴らしかったです。初登場時は優柔不断で頼りなさげに見えたチャーリーが、だんだんと本当に頼もしくてカッコよく見えてくるんですよね。ソクフンさんは歌手の方だそうですが、ソクフンさんもかなりパワフルな歌声の持ち主。そのパワーの最大値を「The Soul of a Man」で全開放している感じが、チャーリーの成長の物語とリンクしていてさすがだなぁと思いました。

 守りたいもののために奔走するチャーリーがそれに熱中するあまりに、守りたかった人たちが自分の元を離れていって、初めて守りたかった彼らを蔑ろにしていたことに気づいて一人ぼっちになる。やり方を間違えたことに気づいたチャーリーのために、やり直すチャンス与えるのがローラから「人をありのままに受け入れること」を「男らしさを証明する課題」として受け取ったドンというのが、キンキーの物語で私が最高に好きなポイントの一つです。

The History of Wrong Guys

 キム・ジウさんのローレンは2016年の公演でもシングル・キャストだったので、2年ぶりの再会。さらに可愛くてパワフルで好きにならずはいられないローレンになってカムバックする姿を見れて本当にうれしいです。

  めちゃくちゃスタイルよくて綺麗で可愛い女子が、「ゲヘヘ」とか「グフフ」という擬音語がピッタリな感じで好きな人に萌えたりキュンキュンしているギャップ。「相手は彼女持ち!ダメダメダメダメ!」と自分に言い聞かせながらも止められない胸キュン。そんなローレンの心情をコミカルに歌う「The History of Wrong Guys」は好きになった歴代のだめんずを振り返りながら揺れる複雑なオトメゴコロを歌いながらも、そんなだめんずたちでも「人を好きになること」に対して決して後ろ向きな感じを感じさせないのところが好きです。きっとローレンはそれぞれにいいところがあるだめんずを渡り歩いてきたから、チャーリーを見出して信じることができたのじゃないかな。

Raise You Up / Just Be

 好きな曲がたくさんある『キンキー・ブーツ』ですが、私が一番好きなのはラストに全カンパニーで歌う「Raise You Up / Just Be」です。


[1열중앙석] ‘킹키부츠’ JUST BE - 이석훈, 최재림, 심재현, 김지우 외(프레스콜)

  ベタだけど、「プライスとサイモンの成功の秘訣」の6か条の部分が好きなのです。

One, pursue the truth
一、真実を追求し

Two, learn something new
二、新しいことを何か学び

Three, accept yourself and you’ll accept others too!
三、自分を受け入れたら人も受け入れられる!

Four, let love shine
四、愛に輝きを

Five, let pride be your guide
五、誇りを道標にし

Six, you change the world when you change your mind!

六、自分の考えを変えた時に世界が変わる

 ローラのキンキー・ブーツを履いてドンがミラノのファッション・ショーのランウェイに現れる瞬間もこの曲のハイライトのひとつだと思うのですが、この「成功の秘訣」の最後のひとつをドンが歌うことに大きな意味があって。キンキーの物語の見所の一つがチャーリーの成長だと先ほど書きましたが、チャーリー以上の変化を見せてくれるドン。ドンがチャーリーを尊重することによってローラに敬意を払い、受容の前向きな連鎖が物語の世界を飛び出して舞台の外まで続いていくように感じる。最高にハッピーな物語であるのにも関わらず、気がついたらすごい勢いで涙が流れて止まらないのは、温かい気持ちの連鎖が続く『キンキー・ブーツ』の優しい世界が大好きだからなのだと思います。

*1:日本での公開は2006年