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【旅レポ】ストラトフォード=アポン=エイヴォン (Stratford-Upon-Avon) でシェイクスピア劇を

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 4年前に初めて訪れてからいつか夏に来てみたいと思っていたシェイクスピアの生まれ故郷、ストラトフォード=アポン=エイヴォン (Stratford-Upon-Avon, 以下SUA) の街。やっとその念願が叶い、ロンドンから少し足を伸ばして一泊二日で小旅行と観劇を楽しんできました。ちなみにストラトフォード=アポン=エイヴォンの地名ですが、「エイヴォン川沿いのストラトフォード」という意味で、イギリスには「ストラトフォード」という街がたくさんあるからだとか。

  SUAはシェイクスピア生誕の地ということもあり、いくつかの劇場が街にありますが、一番大きな劇場はロイヤル・シェイクスピア・カンパニー (Royal Shakespeare Company, 以下RSC) のロイヤル・シェイクスピア劇場。そのロイヤル・シェイクスピア劇場で上演中のウィンザーの陽気な女房たち』(The Merry Wives of Windsor)は奇しくも私が初めてSUAに旅行したときに観た『ヘンリー4世』に登場する太っちょ騎士のフォルスタッフを主人公とした喜劇。予習をまったくせずにで挑んだため、観るまでその事実を知らずにいたのですが、なんだか不思議なご縁を感じます。


ウィンザーの陽気な女房たち』予告編

ロンドンからSUAへ

 ロンドンからSUAは電車でおおよそ2時間半ぐらいかかります。今回、SUAでは一泊して帰ってくる予定。1週間分の遠征の荷物が入ったスーツケースを引き摺って歩き回るのは避けたい...ということで今回の旅で初めて Left Luggage という手荷物一時預かりサービスを使ってみました。

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 Left Luggageは鉄道*1の主要な駅にはありますが、SUA行きの列車が発着しているメリルボーン (Marylebone) の駅は比較的小さめの駅であるため、Left Luggageの店舗がありません。というわけで、今回の宿の最寄り駅でヒースロー空港からの特急列車も発着しているパディントン (Paddington) 駅がメリルボーン駅から地下鉄で2駅の距離なので、そこで荷物を預けてみました。

 荷物預かりサービスの料金は時間制で、24時間以内なら12.5ポンド、それ以降は1日7.5ポンド*2。日本のコインロッカーと比べるとだいぶ割高なのは否めませんが、身軽に旅をするために今回はチャレンジ。荷物を預ける時に、荷物は自分自身のものなのか、パッキングは自分でしたかを聞かれ、セキュリティのために空港などにも設置されている手荷物検査機で荷物を通すように言われます。電子機器の類をスーツケースに入れたままだと、預けれないと言われるのでご注意を。荷物を受け取る時に必要なバーコードと預け入れ時間が印字された紙を手渡されるので、失くさないように保管を。支払いは手荷物受け取り時で、クレジットカードOKです。

 無事荷物を預けたら、メリルボーン駅に移動して電車の乗車時間になるまで待機。SUA行きの電車は、Chiltern Railwaysという鉄道会社が運営しています。複雑怪奇なイギリスの鉄道料金ですが、料金は断然事前予約の朝と夜のラッシュの時間を避けたOff-Peak Advancedのチケットがお得です。

 鉄道のチケットの予約は駅でもできますが、私はtrainlineというネット予約サイトで事前予約をしています。trainlineはiOSAndroidのアプリも出していて、アプリやネットで予約したチケットを二次元バーコードチケットとしてダウンロードすることも可能です。アプリにダウンロードしない場合は駅でプリントアウトしたチケットを受け取ります。アプリにバーコードチケットをダウンロードした場合は、メリルボーンの改札でもそれをかざし、車掌さんからチケット提示するように言われた場合もバーコードチケットを見せればOKです。バーコードは乗車日の当日に事前に有効化 (Activate) する作業が必要になります。

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 実際に列車の発着するプラットフォームは駅構内の電子掲示板に表示されますが、結構直前にならないと番号がわからないので見逃さないようにご注意を!

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 私が事前予約したチケットは、リーミングトン・スパ (Leamington Spa) 駅で電車を乗り換えるチケット。ロンドンから1時間ほど車窓からイングランドの田舎風景を眺めながらゆっくり列車の旅を楽しんでいざ乗り換え駅に到着した後、事件は起こったのです。

 リーミングトン・スパ駅でSUA行きの列車を待っていると、突如「大変申し訳ありませんが、本日の午後のSUA行きの列車は設備と従業員の都合上キャンセルされました」とのびっくりのアナウンス。

 今回のSUA遠征は当然のことながら観劇予定込みの遠征。観劇に間に合うのか、そもそもSUAにたどり着けるのか...いろんなことが秒の間に脳裏を駆け巡りました。何はともあれ、ホームでぼーっとしていても埒があきません。仕方がないので、「私、SUA行きの電車を予約していたんですけど」とアプリ上のチケットを見せながら駅員さんに質問。すると、すぐに「バスが出るから駅を出て」との指示。指示に従って改札の外に出てみると、どうやら同じような憂き目にあったと思われる乗客のみなさまがずらり。手近なところにいた金髪鼻ピアスの若いお姉さんに、「ここがSUA行きのバスを待っている人の列ですか?」と質問すると、「そうだと思う。私もどこに連れて行かれるのかわからないんだけど」との回答が。苦笑いを交換するお姉さんと私。

 どうなることやらと心配していましたが、意外とすぐにSUAへの振替移動のマイクロバスが到着。一台ですべての乗客を捌ききれていなかったので、第二陣に回された人たちがどうなったかはわかりませんが、元々電車で到着するのと同じぐらいの時間にSUAに到着することができました。地図で見てみると、リーミングトン・スパとSUAはそこまで遠くなかったようです。

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 狭いマイクロバスでみなさんと一緒に揺られているうちに、なんだかこのハプニングも楽しくなってきてしまい、妙にハイテンションに(笑)そしてこのあてがわれたマイクロバスですが、天窓があり、なんとその窓は非常出口と書かれていました。思わず二度見したよね。

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ホテルにチェックイン

 今回の小旅行の宿として予約したホテルは鉄道の駅とロイヤル・シェイクスピア劇場のちょうど間くらいの位置にあったので、まずは荷物を下ろすためにもホテルにチェックイン。1階にお洒落なワインビストロレストランが入っているお洒落なホテルで、ロンドンのホテルの4、5倍の部屋の広さ、広々としたベット、ロキシタンのアメニティまでついている素敵お洒落ホテルだというのに、一泊のお値段はロンドンのホテルとほとんど変わらないというお値段...。

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 ホテルのレストランも美味しそうだったので、夕飯もホテルでいただきました。私が注文したのはシーバスの蒸し物。ニンニクが程よく効いていてとても美味でした。また機会があればここはまた利用してみたい。

エイヴォン川のほとりにあるロイヤル・シェイクスピア劇場

 RSCのロイヤル・シェイクスピア劇場はエイヴォン川のほとりにあります。時間軸が少し前後しますが、ホテルにチェックインして一息ついた後は、夕飯前に劇場の周辺をぐるっとお散歩して回りました。

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 季節が夏だということもあり、観覧車や小さなローラコースターなども設営されていて、家族連れで賑わっていました。とはいえ、そこは詩情あふれるシェイクスピアの生まれ故郷。川辺の柳の木々が多い緑地はひんやり、ひっそりとしていて格好の散歩コース。川を行き交うボートや、白鳥の群れなどを横目に見ながらぶらぶらと散歩を楽しみました。

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 ちなみに白鳥さんたち、近くでみると思いの外大きくてちょっとたじろぎます(笑)これだけ雰囲気のいい場所だと、ぷらぷら歩いているだけですごく楽しいし癒される...。

 この劇場周辺の川沿いをぐるりと一周するお散歩コースの途中にはシェイクスピアのお墓が安置されている聖トリニティ教会 (Holy Trinity Church) もあるのですが、教会をぐるりと囲む墓地が公園のようなっていて、お墓のすぐそばのベンチで観光客が普通に座っている姿を見るのはちょっとびっくりします。とても開放的。

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写真の奥に見えている尖塔が聖トリニティ教会のものです。

ウィンザーの陽気な女房たち

 ホテルに戻って早めの夕食をとった後は、『ウィンザーの陽気な女房たち』を観劇。

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  台詞はほぼシェイクスピアフォリオのままですが、登場人物のうちガーター亭の主人 (The Host of Garter Inn) がガーター亭の女主人 (The Hostess of Garter Inn) になっていたり、フォルスタッフの子分の一人のバードルフ (Bardolf) を女性が演じていたり、衣装が現代とエリザベス朝時代のもののミックスになっていたり、劇の冒頭で登場人物全員がランウェイに登場するようにポージングして名前が紹介されたりと、現代人にもとっつきやすくするような工夫が色々とされていて面白かったです。印象的だったのは、劇が始まる前に流れる映像と音でのシェイクスピアその人とエリザベス女王のやりとりの寸劇。『ヘンリー4世』劇中での女王お気に入りのキャラクターのフォルスタッフが『ヘンリー5世』には登場しないことをとても残念に思った女王が要求したのは、「フォルスタッフの恋物語」を2週間後にという無茶振り(笑)『ウィンザーの陽気な女房たち』が書かれた経緯は写真のプログラムにも書かれている通り、諸説あるみたいですが、この寸劇のように2週間でシェイクスピアが式典のために書き上げた作品、という説が実際にあるようです。しかし、この作品で「フォルスタッフの恋物語」という女王のリクエストに応えていることになるのかな(笑)

 物語は、ハリー王子、のちのヘンリー5世の悪友の太っちょ騎士フォルスタッフがお金に困窮し、裕福な二人の人妻からお金をせしめようと二人に名前だけを変えた内容もひどすぎるラブレターを送ることからスタート。あっさりとその事実が仲のいい二人、ペイジ夫人とフォード夫人の知るところとなり、二人の陽気な夫人はフォルスタッフをからかって仕返しをしてやろうと思いつくのですが...。フォルスタッフの企みはその子分のピストルとニムによってペイジ氏、フォード氏の旦那の方にも筒抜けになるのですが*3、泰然と構えるペイジ氏とは対照的に心配してやきもきするイケおじのフォード氏があたふたして可愛い。ノリノリでフォルスタッフをからかうフォード夫人とともに、この夫妻は私のお気に入りです。

SUAを離れる前に街を散策

 観劇を楽しんで一泊した翌朝、SUAを離れる前に街を少しだけお散歩しました。散歩したエリアはロイヤル・シェイクスピア劇場周辺と、シェイクスピアの生家のある The Shakepeare Centre の周辺。

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 前回訪問時に観光したので今回は中には入っていませんが、シェイクスピアが生まれた家やアン・ハサウェイの家もどちらもロイヤル・シェイクスピア劇場から徒歩圏内にあります。環境がよく、観劇も旅情も楽しめるSUAは私のお気に入りの街のひとつです。一泊二日でも十分に楽しめると思うので、ロンドンに観劇旅行をされるのであれば、少し足を伸ばしてSUAへの小旅行もぜひ検討してみてください。

*1:地下鉄ではなく鉄道であることに注意

*2:2018年8月現在の値段

*3:しかもその理由がフォルスタッフの企みのあまりにものどうしようもなさに協力を拒否した二人がフォルスタッフにより暇を出され、その意趣返しとしてバラされる