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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】演劇『R&J』(알 앤 제이) @ Dongguk University Lee Hae-rang Art Company, Seoul《2018.9.16マチネ》

 つい先週韓国で演劇観劇デビューしたばかりですが、9月最初の連休は2本演劇作品を観劇してきました。両方とも友達の話を聞いているうちに自分も観たくなった作品。うち一本はシェイクスピアの戯曲の中でおそらく一番有名な『ロミオとジュリエット』が劇中劇になっていて、劇中劇と劇中の現実が交錯するジョー・カラルコ (Joe Calarco) 氏の脚本による『R&J』(알 앤 제이) という作品。日本では2005年に初演があり、ちょうど今年2018年の1月から2月にかけて、世田谷パブリックシアターのシアタートラム、兵庫県立芸術文化センターで再演があったばかり1なので、もしかしたら日本でこの作品を観劇されたことのある方もいらっしゃるかもしれません。舞台ならではの表現方法、演出がとても魅力的で劇場に足を踏み入れた瞬間にワクワクした気分で気持ちが浮き立つとても好きなタイプの作品でした。私が観劇した回のキャストのみなさんは以下の通り。

 学生1(ロミオ):ソン・スンウォンさん
 学生2(ジュリエット/ベンヴォーリオ/ジョン修道士):ユン・ソホさん
 学生3(マーキューシオ/キャピュレット夫人/ロレンス修道士):ソン・ユドンさん
 学生4(ティボルト/乳母/バルサザー):イ・ガンウさん

 まずはplayDBに掲載されている作品のあらすじをざっくり日本語に翻訳した内容をご紹介します。

厳格な規律に溢れるカトリック男子校に在学中の四人の少年たちは夜遅く寮を密かに抜け出して秘密の場所に向かう。 彼らは赤い布で包み隠していた禁断の本、『ロミオとジュリエット』を開いて朗読を開始し、作中の禁じられた愛、暴力、欲望の話に次第に魅了されていく。 学校の規律を破って劇を演じていた少年たちは、戯曲の中の人物の人生に自分たちの人生を投影し、自分たちをめぐる禁忌と抑圧、偏見の壁を越えることができるかどうか悩む。 冷たい現実の始まりを知らせる授業の鐘の鳴る前まで、彼らはまるで一晩の夏の夜の夢を見るように自ら創造した『ロミオとジュリエット』の結末に向かって駆けていく。

 韓国版の制作会社のSHOWNOTEからいくつかイメージ動画が作られているんですが、これがまた素敵なんですよね。

 

(以下、ネタバレが含まれるのでご注意ください)

 『R&J』が上演されているイヘラン芸術劇場は東国大学のキャンパス内にある劇場。席数は300強と少なめですが、客席の傾斜が大きく天井が高くて舞台の奥行きも広い開放感のある小劇場です。この劇場の造りがおそらくイギリスの名門パブリックスクールをイメージした男子学生四人の所属するカトリック学校の雰囲気にぴったり。劇場の客席に入った瞬間に目に飛び込んでくる古びた木の学習机と椅子を積み上げた舞台に、灰色の石造りの壁の高くから差し込む月光のような冷たい光。どことなくひんやりとして古い石造りの建物特有の匂いさえ漂ってきそうな雰囲気のセットに作品への期待感が急上昇していきます。

公演ハイライト動画

 

 この作品は舞台上にも70席ぐらい客席が用意されていて、舞台と一体となったその木の椅子の客席はメインステージを通常の客席と挟む形で向かい合って設置されています。今回の観劇は、この作品を推してくれた友達から譲ってもらったそのステージ席での観劇。ある意味、舞台に立つ役者さんと同じ視野での観劇となるステージ席からの観劇ということもこの観劇体験を特別なものにしてくれました。

 厳しい校則にがんじがらめになって息が詰まる学校生活の現実から逃れるように『ロミオとジュリエット』の朗読劇に没頭していく四人の学生たち。物語の冒頭で、寮を抜け出して彼らの秘密基地に忍び込んでふざけながら配役を決めていったり、『ロミオとジュリエット』の脚本をめぐって追いかけっこをしたり...という場面は「あー、こんな子らおったわー」というリアルでナチュラルな男子学生っぷりなんですが、劇にのめりこんでいって役が憑依しているようになっていくと、学生として役を演じている彼らと役者として『ロミオとジュリエット』の登場人物を演じている俳優さんたちの境界が曖昧になっていくように感じるのも不思議な体験。かと思えば、劇中劇の出来事が現実の出来事と重なったり、彼らが学生としての彼らや劇中劇で演じている役だけではなく、彼らを取り巻く現実にリンクしているように感じる演出もとても面白かったです。

 劇中劇と現実が交差する場面で特に印象に残ったのは劇中劇の中でロミオとジュリエットが教会で秘密の結婚式を挙げる場面。劇中劇に没頭してロミオとジュリエットになりきる学生1と2に対して、外部からの干渉を察知したかのか、ロミオとジュリエットが憑依したような二人に不安になったのか、学生3と4は劇中劇を止めて学生1と2を引き離そうとします。劇を続行させようとする二人と、それをさせまいと妨害する二人が争っているうちに、ロミオとジュリエットであろうとしていた二人が、やりたいことをやりたいようにさせてくれない抑圧に抗う学生としての彼ら自身に戻り、それの邪魔をする二人が学生としての彼らを超え、彼らを抑え込もうとする環境、劇中劇の中のキャプレット夫人と乳母(大人たち)に重なって見えてくるのです。

 学生たちの現実の世界や劇中劇の世界に誘う仕組みとして作中に流れる音楽もとても印象的。特にピアノを主旋律としたどこか幻想的でノスタルジックな音楽が本当に綺麗で、厳しい学校生活の場面で流れる打楽器と電子音を主旋律とした音楽(これもかっこいい)との対比が鮮やか。

公演ハイライト動画

 

 小道具使いも印象的な『R&J』。学生たちが座る椅子、『ロミオとジュリエット』の脚本を隠していた赤い布、突然の雷雨により天井から雨漏りしてきた雨水を受けるために使ったゴブレット、教会などでよく見る炎が揺らめく白く太いキャンドル。特に赤い布を使った演出が面白くて、時にはジュリエットのドレス、マーキューシオ、ティボルト、ロミオの決闘で火花を散らす剣と血、ロミオとジュリエットヴェローナで一緒に過ごす最後の夜に彼らを包む天幕、ジュリエットに仮初めの死をもたらす不思議の薬やロミオを死に至らしめる毒薬になったりします。特に面白かったのは薬になるときの赤い布の使われ方。ゴブレットに受けた雨水を赤い布に垂らし、重みをつけた布が反動をつけて鞭打つように弧を描いて薬を飲んだジュリエット(学生2)へと吸い込まれていくように見えるのが美しく、どこか不穏な雰囲気を漂わせていて面白かったです。

 劇中劇への没入度の高さは学生の番号が小さいほど高く。ロミオを演じる学生1を残して他の学生たちが次々と戒律に縛られる学生生活に戻っていく中、学生1だけが朗読劇を始めたときと同じ

지금은 깊은 밤
いまは深い夜

という台詞を繰り返します。一度は他の学生たちと同じように制服のベスト、ネクタイ、ブレザーをしっかり着込んで日常に戻ろうとした学生1がそれらを脱ぎ捨てて、『ロミオとジュリエット』の脚本を隠していた木箱が入っていた場所へと捨てる場面。それはみんなと同じ制服という鎧を纏い、抑圧された生活に自分の心を殺すことを辞めるという意思表明の決意とも、その戦いを放棄することへの悔しさともどちらともとれるのがなんとも曲者です。きっと演じる役者さんによっても解釈や感じ方が変わってきそうな気がします。

 若手の実力派俳優を集めたと思われるキャストのみなさんはどなたもとても素敵で。スンウォンさん演じる学生1の切実でヒリヒリと感じる抑圧された若い熱量と痛みもよかったし、最初はヒロインを演じることに抵抗しつつも意外と乗せられやすく、夢見がちで優しい感じがジュリエットに重なる学生2のソホくんもよかったし、ひょうきんだけど一番冷静で脇役ながら劇中劇のキーパーソンになる三役の演じ分けもバッチリな学生3のユドンさんもよかったし、ノリが良く豪快で茶目っ気たっぷりな学生4のガンウさんもすごくよかった。ダブルキャストの裏キャストのみなさんもまた全然雰囲気が違ってすごくいいとの噂なので全員観たかった。特に『スモーク』で気になる存在になったウニルくんの学生3...。

 客席のどこで作品を観るか、どの役者さんの組み合わせで作品を観るか...。いろんな要素が重なって毎回が違う観劇体験が得られそうな『R&J』はきっと一歩足を踏み込んだら思いの外深い沼作品間違いなし。私は後1回しか観劇できないのが残念なのですが、この素敵な作品に出会うことができてよかったです。言葉がわからなくてもとても面白いけど、言葉がわかれば、さらに『ロミオとジュリエット』以外に引用されているシェイクスピア作品を知っていたらさらに楽しめるんだろうなぁと思うので、いつかしっかり予習した上で英語か日本語でも観てみたい作品です。

SHOWNOTE公式ツイッターより

  1. 詳細はこちら。http://tristone.co.jp/RJ/