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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ミッドナイト』(미드나잇, Midnight)@ DCF Daemyeong Culture Factory, Seoul《2018.12.30マチネ》

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 2018-2019年の年末年始の観劇第4弾はソウル大学路のデミョン文化工場のライフウェイ・ホールへ。こちらの劇場でミュージカル『ミッドナイト』(미드나잇, Midnight) を観劇してきました。2017年にソウルでワールド・プレミアが行われた『ミッドナイト』。この作品は1930年代のソ連の一部であった頃のアゼルバイジャンを舞台にしたエルキン・エファンディエフ (Elchin Afandiyev)1 の戯曲、『地獄の市民たち』(Citizens of Hell) を原作としたティモシー・ナップマン (Timothy Knapman) の脚本によるミュージカル。ビジター、マン、ウーマンという物語の中心となる三人の人物以外の登場人物たちを俳優兼ミュージシャンの「プレイヤー」たちが務めるという一風変わった演出のミュージカルです。私が観たキャストのみなさんは写真の通り、以下のみなさまでした。

 ビジター:コ・サンホさん
 マン:キム・ジフィさん
 ウーマン:チェ・ヨヌさん
 プレーヤー
  キム・ソニョンさん(ギター、隣人夫、他)
  キム・サラさん(フルート、隣人妻、他)
  シン・ジグクさん(コントラバスNKVD、他)
  イ・ナレさん(バイオリン、NKVD、他)
 ピアニスト:オ・ソンミンさん

 ミュージカル『ミッドナイト』の音楽監督前日に行ったコンサートの主役でピアニストのイ・ボムジェさん。サンホさん、ヨヌさん、ジフィさんという観たい俳優さんたちが揃う日を狙って日程を決めたところ、奇しくも大晦日の前日の観劇となりました。

あらすじ

 まずはplayDB掲載のあらすじをざっくり訳した内容をご紹介します。

12月31日深夜0時直前に訪れたミステリアスな男、
そして明らかになる衝撃的な秘密!

毎晩、人々がどこかに連れて行かれて誰も知らないうちに消える恐怖の時代。 愛と信頼でお互いを慰め合いながら厳しい時期を乗り越えたある夫婦に大晦日の夜の12時直前、「ドン!」と激しくドアを叩く音とともに不吉な客、《ビジター》がやってくる。 二人の恥辱の秘密を一つ一つ明かし、夫婦を恐怖と軽蔑に震えさせる《ビジター》。 耐え難い真実に苦しむ夫婦に《ビジター》は自分の正体を明らかにし、最後の選択を迫る。

果たして《ビジター》は何者で、この夫婦はどんな選択をするのだろうか。

感想

 言論が統制されている監視社会を舞台にしたディストピアものということで、ジョージ・オーウェルの『1984』と少し似ているなと思いながら観劇した『ミッドナイト』。『1984』はモデルとなっている地域、国を匂わせつつも架空の国家を舞台としていますが、『ミッドナイト』はスターリン政権下のアゼルバイジャンが舞台の設定。実際にこのような監視社会で人々がお互いの目を気にしながら過ごしていたのだとすると、とても薄ら寒いものを感じます。インターネットの発達で高度に情報化されている現代社会はその情報が分析、監視されて統制される社会と隣り合わせの可能性が否めません。『ミッドナイト』のような監視社会はフィクションの世界だけのこととは言い切れない現実があります。

 そんな『ミッドナイト』はお隣のビバルディ・ホールで上演中の癒し系ミュージカル『メイビー、ハッピーエンド』とは対極のダークな雰囲気の冷やし系ミュージカルなのですが、ブラックユーモア満載でビジターとともにプレイヤーたちが踊り、歌い、演奏しながらお互いに必死に隠し事をする夫婦を嘲笑う様子も演出の妙でエンターテイメント化されて面白く感じるのです。ちなみにプレスコールの動画を観る限り、2017年初演と今回の2018-2019年の再演では舞台セットも演出もかなり変わっていそう。再演版は衣装とセットを観る限り、2018年にロンドンのユニオン劇場 (Union Theatre) で上演されたバージョンにとても近そうなんですが、同じ演出なんでしょうか?


ミュージカル『ミッドナイト』より「親愛なる閣下」(Dear Comrade Stalin)
/ コ・サンホ、キム・ソニョン、キム・サラ、シン・ジグク、イ・ナレ
"Dear Comrade Stalin"は直訳すると「親愛なるスターリン同志」
 
ロンドンのユニオン劇場の公演レビュー。割と辛口。
www.thestage.co.uk
 

 劇中何度も登場する "Knock, knock, knock!" の歌詞が印象的な「その日がやってきた」(그날이 찾아왔어, The Future Came A-Knocking)2のメロディはかなり中毒性高し。一度この曲が脳内を流れ始めると、しばらくエンドレスリピートすること間違いなしです。


ミュージカル『ミッドナイト』より「その日がやってきた」 / コ・サンホ、ヤン・ジウォン
 

 ローレンス・マーク・ワイト(Laurence Mark Wythe) によるどこか不気味だけど美しいピアノを主旋律とした音楽もとても素敵。テーマがテーマだけに観る人を選びそうな作品ですが、私はかなり面白く観ることができました。


ミュージカル『ミッドナイト』ピアノメドレー / イ・ボムジェ、オ・ソンミン
 

 主要登場人物三人のうち、ジフィさんが演じる愛妻家な弁護士の夫(マン)は比較的普通の人の役なのですが、サンホさんが演じるビジターとヨヌさんが演じる妻(ウーマン)がかなりの曲者。どこかコミカルながらも時にとてつもなくゲスい表情で人の神経を逆撫でするような言動ばかりをするサンホさんのビジターは人ならざる人の雰囲気が秀逸。その歌声もたんまりと堪能させてくれました。いい声だ。制服姿も素敵。好き。衝撃度、猟奇度ナンバーワンのウーマン役のヨヌさんの一見貞淑な雰囲気でありながら妖艶で冷え冷えとした怖すぎる美貌もたまりません。私、こういう振り幅の大きい俳優さんが男女問わず大好きなんですよね。「うわー。うわぁああああ」と心の中で叫びながらちょっとニヤニヤしながら(←)舞台上のお二人をずっと眺めていました。パンチがありすぎる二人と比較するとマンの印象がどうしても薄くなってしまうことは否めないのですが、狼狽え、焦り、揺れる「普通の人」の姿をジフィさんが好演していました。マンが普通の人だからこそ際立つウーマンの異様さ、ビジターの異質さ。気まずい雰囲気の中に流れる三人の緊張感が凄い。

 ブロードウェイでアラン・カミング (Allan Cumming) 主演のミュージカル『キャバレー』3を観たときも同じことを思ったのですが、プレイヤーのみなさんのように楽器ができて、歌えて、踊れて、演技もできる人たちはどっから湧いてくるんでしょうか?個人的に、ミュージカル『ミッドナイト』の面白さはプレイヤーの方々がいてこそなので、シングルキャストでこの重要な役割を務めている四人の俳優兼ミュージシャンのみなさまには盛大な拍手を送りたいです。先述の『キャバレー』やミュージカル『シカゴ』のように、モラルに反するような内容的にちょっとアレな感じの物語も演出によってエンターテイメント化されていると楽しめるというタイプの方々には是非おすすめしたい作品です。


2018年 ミュージカル『ミッドナイト』スポット動画
 

  1. アゼルバイジャン出身の作家、政治家。

  2. “The Future Came A-Knocking” は直訳すると、「未来がノックしてやってきた」

  3. 1998年、2014年に同演出でリバイバル上演。アラン・カミング狂言回しのMC役で出演し、トニー賞の主演男優賞を受賞。私が観たのは2014年の再演のほうです。この演出のプロダクションでは舞台となるキャバレー「キットカットクラブ」(Kit Kat Klub) のパフォーマーとしてミュージシャン兼俳優のアンサンブルのみなさんが舞台上で演奏するという演出でした。ブロードウェイ初演は1966年。