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【観劇レポ】ミュージカル『パガニーニ』@ Sejong Culture and Arts Center, Seoul《2019.3.31ソワレ》

 2019年2月半ばに始まったミュージカルパガニーニ』(파가니니, Paganini)のソウル公演もついに千秋楽。大田公演から観劇していたこの作品の見納めのために今月3度目の渡韓をしてきました。千秋楽のキャストは以下のみなさま。

 パガニーニ:KoN(イ・イルグン)さん
 ルチオ・アモス:キム・ギョンスさん
 コルレン・ボネール:イ・ジュニョクさん
 アキレ:パク・ギュウォンさん
 シャルロット・ド・ベルニエ:ユ・ジュヘさん
 アンサンブル
  パク・ミンフィさん、パク・スヒョンさん、キム・ユハンさん、チョ・ヨンアさん、 サ・ダビンさん、ユン・ヨンソクさん、ユン・ヘギョンさん、キム・ジンソクさん、イ・ドフィさん、イ・グァンピョさん

 大田公演も含めると合計6回観た『パガニーニ』の舞台ですが、奇しくも配役がダブルキャストになっている役はそれぞれの俳優さんを3回ずつ観ていました。熱量の高い舞台の後の舞台挨拶ではオルタネートキャストのベンジさん(パガニーニ)とファン・ミンスさん(ルチオ・アモス)をも含めた全キャストが登場。仲の良さそうなカンパニーの様子にほっこりして劇場を後にしました。

 これまでに観たソウル公演の観劇レポはこちら。

 詳しめのあらすじ付きの大田公演のレポはこちら。

 ちょっと分量が多いですが、まだどちらも読んでいない方で「読んでみようかな」と思ってくださった方は大田公演のレポから読んでいただいた方がわかりやすいかもしれません。

感想

 すでに書きましたが、千秋楽に相応しい熱量の高い舞台だった3月31日の夜公演。今回はシンプルに一幕と二幕、そしてカーテンコールと舞台挨拶について印象に残ったことを書いてみたいと思います。と、その前にいきなり斜めを行く感じの感想になってしまいますが、この日の公演でとても印象に残っていることの一つが客席の本気具合。「許可証1コンプ余裕な強火オタしかいないんじゃ…」と思わせるぐらい咳の音もクシャミの音も一切聞こえない静寂。なぜそう思ったかさらに補足すると、初見さんがいたら笑いが起きるだろう場面でも「シーン」とテロップを入れたくなるくらいみなさま集中している感じで「そういえば、この場に集まった人たちはあの激戦のチケッティングを勝ち抜いた猛者たちだった...」2と思い出してちょっと緊張してくるくらい。でもこういう緊張感、自分の集中力も上がるので好きです。特に『パガニーニ』は静か中での演奏場面なども多いので、このみんなが音に集中している感じがとても心地よかったです。

(以下、ネタバレが多く含まれますのでご注意ください)

Act One

 一幕で特に注目して観ていたのは大田公演以来久しぶりに観るギュウォンさんのアキレの演技。前回のレポのスンヒョンさんのアキレとの対比でも少し触れましたが、少し大人びた雰囲気のスンヒョンさんのアキレに対して、少年と青年の間のような少し幼い雰囲気を感じるギュウォンさんのアキレ。落ち着いた雰囲気で理路整然と父の無実を主張するスンヒョンアキレに対して、ギュウォンアキレは情に訴えていくような感じで一生懸命父の汚名を晴らそうとする印象があります。そんなアキレの様子に釣られるかのようにヒートアップしていく原告側のルチオ司祭の主張。かなり二人でギリギリやり合います。役の年齢差を考えるとアキレとルチオは少なくとも10歳、おそらく20歳くらいは離れているのではないかと考えるとちょっと大人気ない司祭様。でもそれだけルチオはパガニーニを筆頭にした過去の亡霊たちに囚われているのかもしれません。

 一幕でもう一つ印象に残ったのは意外と苦労人かもしれないコルレンの姿。新しい「カジノ・パガニーニ」のオープンの前にパトロン達を集めても、その賛辞は「高利貸しの息子」で成金のコルレンではなく、コルレンを見出したことになっている貴族のシャルロットの父に向けられる。本当に、本当に一瞬だけですが(←)、やや所在無さげに自分の状況を苦々しく思っている様子のジュニョクさんコルレンがそこにいました。そう考えると、コルレンが自身の立身出世にパガニーニを利用しようとした理由には、他人からの評価を気にせずに自由気ままに自分の好きなように振る舞いながらも名声を得ているパガニーニを妬む気持ちが潜在的にあったのかもしれません。

 個人的に一幕で一番好きなナンバーは「悪魔を見たか」(악마를 보았나니) 3パガニーニの演奏を初めて見るルチオが人々が熱狂する様子に「あれは悪魔だ」と直感のみで断定し、その様子を見てほくそ笑むコルレンが「そうだそうだ」と囃し立てるナンバーなのですが、パガニーニの演奏を聞いている誰よりもボルテージを上げているルチオとコルレンの歌がかっこいいロックナンバーなのです。「他に説明のしようがなかったのか」という声が聞こえてくる気がしないでもないですが、だいたい合ってるはず。(←)この時のジュニョクさんのコルレンはジャケットを脱いでてそれを肩に担いでいるのも良き。ギョンスさんの司祭様がどっちが悪魔なのかよくわからなくなる表情をするのも良き。

Act Two

 登場人物の感情が大きく揺れ動く二幕。ソウル公演から追加された「私が笑っている時」(내가 웃고 있을 때) のナンバーが歌われる場面は二幕でも印象的な場面の一つ。今までブログ記事では明示的に触れていなかったのですが、パガニーニはこの時点で「クリスティン」の本当の名前はシャルロットで彼女がコルレンの婚約者であることもわかっているのですよね。ここでパガニーニとコルレンが交わした取引。自分がシャルロットの歌手デビューを請け負ったのにも関わらず、その約束を無視してパガニーニの舞台に上がったことにあれだけ腹を立てていたのに、お金のためにあっさりとシャルロットをパガニーニに「売った」コルレン。法外な額を必ずや納めてみせると力強く言い放って去っていくKoNさんのパガニーニの姿を見ながら不敵な高笑いをしていたジュニョクさんのコルレン。高圧的でありながらもどこか自嘲する響きを感じたその乾いた笑い声がとても印象に残っています。

 シャルロットを解放するお金を工面するために病体に鞭を打ちながら演奏会の準備をするパガニーニの元に慌てながら転がり込んでくるシャルロット本人。今までシャルロットの前ではいつでも自信に溢れて前向きで明るかったパガニーニが見せる弱った姿。そんなパガニーニの姿を見て強くなれるシャルロット。パガニーニが不安に思うシャルロットに掛けた言葉を返し、そんな言葉を受けて咽び泣くように震えるKoNさんのパガニーニ。感謝の言葉の代わりに震えながらも丁寧にお辞儀をし、シャルロットのためにバイオリンを演奏をするパガニーニ。この演奏を通したパガニーニの返礼。音楽で繋がって心を通わせる彼ららしいやりとりだなぁと思うのです。

 「悪魔の財産は教会に還元するべきだ」とルチオが言い始めたことによってパガニーニの財産を自分のものにするためにルチオの存在が邪魔になったコルレン。10年前の「魔女の手」の事件を引き合いに出してルチオ自身も悪魔であると主張して彼を追い詰めるコルレン。彼がルチオの目の前に10年前の事件の銃を置いていったのは、ルチオが自責の念から自滅するように仕向けるための仕込みだと思われます。それまで散々コルレンの掌で踊らされていたルチオはまたもやコルレンの思惑通りに自殺寸前までに追い込まれますが、ここで神に祈りを捧げて思い留まるルチオ。しかしながら、今度は自分の手で必ずパガニーニを「改心させる」という執着に囚われることになるのです。

 パガニーニの演奏会の招待状を携えて戻ってくるシャルロット。バチカンから司祭たちが到着することを急ぎ伝える神父たちの言葉にやや放心気味に耳を傾けた後、「パガニーニが悪魔ではないと思ったことは唯一度もないのですか?」と聞くシャルロットに対して、不敵な笑みを浮かべながら答えをせずに彼女の前を通り過ぎていった時のギョンスさんの司祭様の表情が忘れられません。

 何かに取り憑かれたようにパガニーニを「救う」ために異端審問官としてパガニーニに悪魔であることの告白を求めるルチオ。元々ルチオはかなり思い込みの激しい独善的な人物として描かれてはいますが、この場面の司祭様の様子はほとんど狂人の域。到着するや否やパガニーニからの招待状を投げ捨てたり、パガニーニの「告白」の直前ですでに無言で法衣の下に隠し持っていた銃に手をかけていたり。「人々を熱狂させる音楽に拘ることが罪だというのなら自分は確かに悪魔だ」というようなパガニーニの「悪魔の告白」を引き出せた後は不敵な高笑いをした後に高圧的に「悪魔パガニーニ、署名しなさい」と告白書をパガニーニの前に投げ落としたり、パガニーニが座っていた椅子に脚を組んで座ってご機嫌な様子でパガニーニのバイオリンの弦を弾いてみたり。パガニーニの胸ぐらを掴んで「死ぬのが怖くないのか」と脅してみたりとおよそ聖職者のする所業とは思えません。そりゃあ「司祭の仮面を被った悪魔」だとパガニーニ自身にも言われてしまっても何ら不思議じゃないというものです。立場がある意味ここで入れ替わるルチオとパガニーニ。ルチオの行動の矛盾を語気強く指摘するKoNさんのパガニーニも、それを受けて取り乱すルチオを演じるギョンスさんも演技の熱量が凄かった。

 でも、やっぱり二幕のハイライトは何と言っても物語のラスト直前のパガニーニのコンサートでしょう。間違いなく今まで私が聞いたKoNさんのパガニーニとしての演奏の中で一番キレ味抜群の超絶技巧の演奏。即興演奏部分も絶好調でめちゃくちゃカッコイイ!KoNさんも、客席全体も「パガニーニの演奏」に全神経を集中させていることが伝わってくる張り詰めた緊張感がゾクゾクする数分間でした。気持ちとしてはパガニーニが演奏を終えた瞬間に盛大な拍手とスタオベをしたいけど、演奏の疾走感そのままで次の場面へと流れていく物語がもどかしい。

 ギョンスさんが演じるルチオの最後の登場場面はこの演奏会の余韻がぶった切られる聖職者の怒声で始まる短い場面。ルチオは果たしてパガニーニの演奏会に最初からいたのか、バチカンの司祭達と共に会場にやってきたのか。それともこれは何年も後の宗教裁判の場面なのか。前回の観劇時のように十字を切る手を途中で力無く重量に任せて降ろすのではなく、十字を切ろうと動かしていた手を明確な意思を持って途中で止めたように感じたギョンスさんのルチオ。これが彼の「信仰が揺らいだ」瞬間なのかもしれません。

Curtain Call

 俳優さんたちの舞台挨拶付きのスペシャルカーテンコールが行われた『パガニーニ』の千秋楽。舞台に再登場した時にわーっと走りこんできて、アンサンブルキャストの全員とハイタッチしていたギュウォンさんと、すでに舞台に登場している全員の肩を満面の笑顔で労うように一通り叩いてから舞台中央でお辞儀をしたギョンスさんの姿が特に印象に残っています。この日は前日に千秋楽を迎えたキャストのみなさん、パガニーニとルチオのオルタネートキャストのお二人も揃って全員集合。他の人の挨拶を聞きながら少し泣いていたギョンスさん。舞台上のキャラクターとのギャップよ!

 同じ役を演じている先輩俳優さんの言葉に涙ぐんだり言葉を詰まらせたりしていたヒョンジさんにミンスさん。団子状態の列になって感極まった様子のKoN兄さんの様子を斜め横から覗き込んでいた、ベンジさん、ギュウォンさん、スンヒョンさん、ギョンスさん、ミンスさんの5人組。KoNさんとギュウォンさんのパガニーニ親子ペアがお互いに見つめ合いながら手を繋いで歌っている姿がお気に召さなかったのか、ずっとふるふる頭を振っていたかと思えば、したり顔でわざわざ二人の間に割って入って繋いだ手を引っぺがしに行っていたギョンスさん。後輩ちゃんにマイクを貸してあげて、二人で仲良く一緒にシャルロットパート歌っていたジュへさんとヒョンジさん。カンパニー全体の仲の良さが伝わってくるカーテンコールでそんな所も素敵な公演でした。


  1. パガニーニ』のマニアカードの名称。ちなみにスタンプ10個でマニアカードコンプリートですが、1回目にボーナススタンプを貰えるので比較的コンプリート難易度は低めのマニアカードではあります(←この感覚からしてもうおかしい)

  2. 私自身は心優しいミュ友さんが拾ってくれた戻りチケットでの参戦。ここ数年でマッコンであれだけいい席で観れたのはもしかしたら初めてかもしれないです。ありがたや、ありがたや…(T_T)

  3. 大田公演では「悪魔の手」(악마의 손) という名称でプログラムに載っていたナンバーが改題。