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【観劇レポ】ミュージカル『スモーク』(SMOKE) @ Asakusa Kyugeki, Tokyo《2019.8.2-8.9》

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 去年(2018年)に韓国で初めて観て好きになり、同年の日本初演もとてもよかったミュージカル『スモーク』(SMOKE)。東京でその短い生を終えた韓国の詩人李箱(イサン)の詩と人生に着想を得たこの作品は、今年の6月にも池袋の東京芸術劇場でキャストを一新した公演が行われましたが、翌月7月末から日本初演が上演された浅草九劇で初演キャスト5名に新キャスト2名が加わった公演がスタート。さらに初演では《超》を演じた日野さん、《海》を演じた大山さんは初演でそれぞれが演じた役はもちろん、お互いの役を入れ替えた公演も行われるとのこと。「これは観なくては!」ということで再び浅草を訪れて観劇してきました。2019年の九劇版『スモーク』の私の観劇日程、キャストのみなさまは下記のとおり。

  1. [2019.8.2 ソワレ]
     超(チョ):木暮真一郎さん
     海(ヘ)日野真一郎さん
     紅(ホン)池田有希子さん
  2. [2019.8.4 ソワレ]
     大山真志さん
     :木内健人さん
     高垣彩陽さん
  3. [2019.8.9 ソワレ]
     大山真志さん
     日野真一郎さん
     池田有希子さん

 ちなみに去年の観劇レポはこちら。初回観劇のレポには作品の概要やあらすじ、ミュージカルの物語の元になった詩人イサンとその作品についてもご紹介していますので、興味がある方はご参照ください。

 ちなみに、当初私が確保していたチケットは2回目の8月4日のチケットのみ。去年の配役から役替わりした大山さんの《超》と新キャストの木内さんの《海》が観れるからということで確保していたチケットだったのですが、その後、いち早く再演初日を観劇した友達から「日野さんの《海》は必須!」と言われて急遽追加した8月2日のチケット。実際に日野さんの《海》を観た直後に、「これは大山さんの《超》との組み合わせでも観なきゃいけないやつだ!」と思い、さらに追加した1週間後のチケット。結局2枚追加した去年のデジャ・ヴュよ…。

感想

(以下、ネタバレが含まれているのでご注意ください。)

 芸劇版『スモーク』を観劇してから2ヶ月を経て改めて浅草九劇で『スモーク』を観て思ったのは、芸劇の『スモーク』と九劇の『スモーク』は全然印象が違うということ。これは芸劇版『スモーク』を観劇した後に書いたコラムの追記としても書いたことなのですが、芸劇の『スモーク』では天井が高くて広々とした劇場空間、キャストの違いによる見せ方の違いが影響して、どこか一歩引いた俯瞰する視点で李箱の鏡の世界全体を見渡すような気分で作品を観劇していたのだと気付かされました。九劇の『スモーク』は舞台の四方を東西南北にちなんだブロックで区分けされた客席でぐるりと囲った狭い密閉空間。席によっては手を伸ばせば間違いなく劇中の登場人物に触れることができ、俳優さんの汗や唾が飛んでくるぐらいの距離感で演じられる九劇の『スモーク』。激しくぶつかり合う3人の感情にずりずりと引き摺られていき、自分の感情もその奔流に流されていく。3人が閉じ込められている鏡の世界の一部になって固唾を飲んで見守る「暗闇の中で光を放とう」と踠き苦しんだ一人の人間の物語。セットやキャストの動線はそこまで大きく変わるわけではないのに、俳優との物理的、心理的距離感が違うだけでここまでも違った印象になるのかと驚きでした。

2019.8.2 ソワレ

 去年組み合わせとして観れなかった木暮さんの《超》と池田さんの《紅》。フォロイーさんの一人が「反抗期の不良息子と母親」と表現していたのがいい得て妙。理想を実現するために精一杯虚勢を張っているイメージの強い木暮さんの《超》。厳しくも優しくて懐の深い「母なる海」を感じさせる池田さんの《紅》が相手だと、あれだけ強がっている木暮さんの《超》でも甘えたくなるのはわかる気がします。対して、日野さんの《海》は最初こそあどけなくしているものの、《超》でもある自身の姿が徐々に強く表に出てくる「記憶を失った李箱」としてのイメージが強く出てくる《海》。「可愛い人、可愛い貴方」(어여쁜 사람, 어여쁜 당신)1のダンスの場面も《紅》をエスコートする姿がとてもスマートで様になっていて、全体的な印象としても「かっこいい《海》」。《海》役にあまり「かっこいい」という単語のイメージがなかったのに、日野さんの役作りは説得力があって目からウロコが落ちる気分でした。なので、対木暮さんの《超》だと後半はパワーバランスとしてかなり《海》が強い印象。《海》が少年らしい振る舞いをする部分は、どこか去年に観た大山さんの《海》を彷彿とさせる部分もあり、そんなことからも「是非大山さんの《超》との組み合わせで観たい!」と思い、8月9日のチケットを追加したのでした。

2019.8.4 ソワレ

 大山さんの《超》と新キャストの木内さんの《海》が観たくて最初からチケットをとっていた公演。高垣さんの《紅》を含めてとてもパワーバランスの良い3人の公演でした。大山さんの《超》は期待通りとても良かった!去年観た《海》もよかったですが、《超》のパートの音域とかを考えても私は《超》を演じる大山さんのほうが好きかもしれません。低めのよく響く声がとても心地がいい!初めましての木内さんの《海》は自然な少年らしさがとても印象的な《海》。序盤の少年らしさが前面に出ている部分も、後半の記憶を取り戻しつつある《海》もどちらもとてもよかったです。大山さんの《超》との組み合わせは、《海》の理想が世間の批判に翻弄されることなく、どんと構えていて動じない強さなんだろうなぁと言う感じでしっくり。去年同様、高垣さんの《紅》はやっぱり《超》と《海》と共にいられなかったことの悲しみが強く出る《紅》だと思いました。

2019.8.9 ソワレ

 公演期間も中盤に入り、キャストのみなさんにも疲れも出てきただろうにこれまで観た九劇版『スモーク』で一番熱量の高い公演でした。キャストとしては去年初めて九劇の『スモーク』を観たときと全く同じキャストで《超》と《海》の配役が入れ替わり。これは大山さんの《海》、日野さんの《超》の組み合わせを観ているからこそ感じることなのだと思いますが、私はこの8月9日の配役での組み合わせの方が断然好き!お互いがお互いの役を演じたことがあることが凄くプラスになっている組み合わせなんだろうなぁと強く思いました。大山さんの《超》と日野さんの《海》は元々は同じ人物だというのが物凄くしっくりくるし、大人な感じの二人をさらに大きな愛で包み込んでくれる感じの池田さんの《紅》の組み合わせが絶妙で。全身全霊で感情をぶつけ合う3人にお互いの信頼関係の強さもとても感じました。きっとこの3人だとセーブしようとしてもコントロールできないくらい気持ちがヒートアップしちゃうんだろうなぁとも感じたり。3人とも視線で訴えてくる感情がかなり大きくて、ぐいぐいと物語と3人の感情に引きずり込まれてくる感覚がとても大きく、観終わった後にはぐったりと消耗。できればもう1回この組み合わせで観たかったですし、以前の配役にも回帰してみたかったけどこの組み合わせで2019年の九劇『スモーク』を締められてよかったです。

 『スモーク』をすでに観たことがあり、これからこの組み合わせで観る人には是非読んで欲しいのですが、げきぴあさん掲載の大山さんと池田さん、大山さんと日野さんの対談がとても興味深かったので紹介しておきます。

最後に

 あらためて、ミュージカル『スモーク』は観れば観るほど色々な解釈や感じ方ができるスルメ作品だなぁと実感。今回はDVDも発売されるということで、残念ながら生では拝見できなかった元榮菜摘さんの《紅》を始め、観れなかった組み合わせを映像で観れるのがとても楽しみでもあります。これからも色んな俳優さんが色んな解釈で挑むミュージカル『スモーク』を日本でも韓国でも観ていきたいです。


  1. 日本公演の曲名がわからないので、もしかして間違っているかもしれません。日本語の歌詞からすると、「愛しい人、愛しいあなた」かも。後で調べて間違っていたら修正します。