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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』(Daddy Long Legs) @ Davenport Theatre, New York《2016.5.1-2016.5.4》(Part 2)

2016/5/1, 2016/5/4のDaddy Long Legsキャスト

2016/5/1, 2016/5/4のDaddy Long Legsキャスト

 2016年のGWにOff-Broadwayでミュージカル Daddy Long Legs を観てきました。本記事はその感想レポの後半部分。前半部分の [Part 1] はこちらからどうぞ。前半同様台詞や歌詞の訳は自分の好みにアレンジした雰囲気意訳ですのであしからず。


ACT TWO

  1. Sophomore Year Studies
  2. My Manhattan
  3. I Couldn’t Know Someone Less
  4. The Man I’ll Never Be
  5. The Secret of Happiness (Reprise)
  6. Humble Pie
  7. Graduation Day
  8. Charity
  9. I Have Torn You from My Heart
  10. My Manhattan (Reprise)
  11. All This Time

  2幕はいよいよジルーシャの親友サリーの兄、ジミー・マクブライドの名前が登場。ジルーシャの意味深なP.S.付きの手紙に慌てて再び大学を訪れるジャー ヴィス。ジミーに対する対抗意識がミエミエで、変に気取ってカッコつけるAdamさんのジャーヴィスは本当にかわいくて(笑)そんなジャーヴィスがジルー シャにNYの街を意気揚々と案内する My Manhattan を実際にマンハッタンのタイムズスクウェア近くの劇場で聞くのは感慨深いものがあります。大人気なくマクブライド家からの夏休みの招待を辞退するように Daddyの「秘書」として言い付けるジャーヴィス。(ここでタイプライターに向かう前に手をワキワキさせるAdamジャーヴィスも好きですw)そんな舞台裏を知らず、マクブライド家といっしょに夏休みを過ごす許可が下りずに落ち込むジルーシャ。Daddyに裏切られた気分で傷ついた心情を歌った I Couldn’t Know Someone Less は胸が締め付けられます。

 2ヶ月振りのジルーシャの手紙に再度自分の身分を明かすべきだと悩むジャーヴィスは、しかしやはりここでも思い切ることができず。(The Man I’ll Never Be) 虚構のDaddyを演じ続けることを選び、偶然を装いジャーヴィスとしてLockwillowを訪れます。ジルーシャもジャーヴィー坊ちゃんの登場のニュースに再びDaddyへ浮き足立った手紙を書かずにいられません。ジルーシャがジミーに手ほどきを受ける予定だった釣り、乗馬、カヌー、射撃を全部自分が教えたことに対して勝ち誇ったような表情をするAdam坊ちゃんはやっぱり大人気なく(笑)純粋に喜ぶMeganジルーシャの対比がまたかわいいのです(笑)二人で過ごした Lockwillowの場面で一番好きなのは、日曜のミサをサボって農場近くの丘Sky Hillに登った後、夕立に降られた二人が雨宿りをする場面。The Secret of Happiness (Reprise) で、ジルーシャへの特別な感情をはっきりと自覚したジャーヴィスが心情を歌うところです。

I imagined
the secret of happiness was the art of compromise
But I discovered
the secret of happiness is looking into her eyes

しあわせの秘密は妥協することだと思っていた
だけど、しあわせの秘密は 彼女の瞳を覗くことだと知った

Happiness comes as a total surprise

しあわせは思わぬ形でやってくる

(中略)

and that her happiness is more precious than mine
and the secret… the secret of happiness is
the secret of happiness is clear
the secret of happiness is near
the secret of happiness is here

そして彼女の幸せは自分のものより大切だということを
そして、しあわせの秘密は
しあわせの秘密は明らかだ
しあわせの秘密は近くにある
しあわせの秘密はここにある

 ジルーシャ以外に心を寄せる相手がいないジャーヴィスの孤独は、ジュリアの誘いを受けてニューヨークの彼女の家で冬休み過ごしたジルーシャの手紙で綴られた「らしくない坊ちゃん」の描写に垣間見ることができます。

 ジャーヴィスがジルーシャにできるだけのことをしてあげたいという思いを募らせる一方、数々の恩を受けたジルーシャは世界に借りを返していなければと自立精神を高めていきます。ジルーシャの大学3年目の夏休みの過ごし方についてのジャーヴィスのあの手この手を尽くした上での盛大な空回りと強がりは見ていて本当に微笑ましく(笑)完全に坊ちゃんを翻弄し、楽しそうに「あ、ジミーが呼んでるわ。それでは、ごきげんよう〜」と軽やかに手紙に綴るMeganジルーシャは本当に小悪魔のようでチャーミングで。Daddyへの手紙にトドメを刺されたAdamジャーヴィスががっくり項垂れて歌う Humble Pie にはニヤニヤしてしまいます(笑)

 そんなジルーシャにとってもすべてが思い通りというわけではなく。出版社に送った原稿が辛口の批評付きで返送され、自分の子供を火葬したような気分になって原稿を燃やしたことを語る手紙は痛々しくて。でも翌日には新たな物語のプロットを思いついたことを、目を輝かせながら話すジルーシャの強さは眩しく。ジャーヴィスと喧嘩をして、距離を置く時間が増えるにつれ、ジルーシャが彼に対する肯定的なコメントを言及する手紙が増え。Daddyとしてそれらの手紙を受けるジャーヴィスは複雑そうな表情を見せることが増え。

 そしてとうとうジルーシャは大学卒業の日 Graduation Day を迎えます。この日だけは自分のために式に参列してほしいことを手紙で訴えるジルーシャですが…。4年間の勉学の成果として卒業証書を受け取ったジルーシャは会場にDaddyの姿を探しますが、用意された招待席は空席のままで。そのことに心を痛めて泣きそうな顔をするジルーシャ。その裏で誇らしげな表情でジルーシャを見守るジャーヴィスの姿があることに当然彼女は気づきません。この時のAdamさんのジャーヴィスの表情が本当にすごく優しくって。迷子の子供のように心細そうに瞳を潤ませるMeganさんのジルーシャを見て、同じようにつらそうな表情を見せるAdamさんジャーヴィス

Well this is your loss, Mr. Clothes Pole
さあ、これはあなたの喪失よ、物干し竿さん

Well here I am
僕はここにいる

Mr. Girl Hater, dear Mr. Smith
女の子嫌いさん、親愛なるスミスさん

Right before your eyes
きみの目の前に

Or whatever you’re called
You did not show
もしくはあなたが呼ばれている名前、それがなんであれ
あなたは現れなかった

I’m right here
僕はここにいる

You’re not here and now
I’m fighting back the tears
あなたは今ここにいない
私は涙をこらえている

Fighting back the tears
涙をこらえている

この曲は本当に切なくて、思い出すだけでも鼻の奥がツンとしてしまいます。その後、ジャーヴィスが独りジルーシャの卒業を祝い、「80代の後見人」のDaddy Long Legsの役目は終わったと零した後に歌う Charity も切なく。ジルーシャに与えているつもりが、彼女のからの愛を受け、いつの間にか立場が逆転していることを切々と歌うジャーヴィスの歌声が沁みます。その裏で、ジルーシャはもう Daddy Long Legs に対して報われない希望は抱くまいと I Have Torn You from My Heart と歌う姿も悲しくて。

 でも転んでもすぐ立ち上がれるのがジルーシャの強さ。卒業後Lockwillowから送られたDaddyに宛てた手紙には初めて売れた小説の原稿料で稼いだ$1,000の小切手が同封されていて。Daddyへの借りをすべて返した後はJohn Grier孤児院に寄付をして、Daddyと同じように賛助員になるつもりだと告げます。”So then you’ll HAVE to meet me” (そうしたら私に会わざるを得ないわ) とたくましく宣言するのを読んで、思わず笑みをこぼすジャーヴィス。ジルーシャの作家としての未来が開けたことを喜び、自立した彼女に勇気をもらったジャーヴィスは彼女に会うためにLockwillowを訪れることにします。心にひとつの決意を抱いて。(My Manhattan [Reprise])

Marry me, Jerusha
Give me your heart
You know you have mine

結婚してくれ、ジルーシャ
きみの心がほしい
僕の心がきみのものなのはもう知ってるだろう

そう、ジャーヴィスはジルーシャにプロポーズしたのです。ジルーシャの手を取り、跪いて愛の告白をするAdamジャーヴィスの顔は真剣そのもので、少し緊張に強張っていて。しかしその出来事をDaddyに報せる手紙の内容にはこう続きます。

Oh why, why did I refuse
ああどうして、どうして私は拒否したの

 ジルーシャに拒まれ、意気消沈して下を向いて俯くジャーヴィスはジルーシャが同じような表情をしていることに気づきません。ジルーシャの心が自分以外の男に向いていると考えるジャーヴィス。でもそうではないことをDaddyに弁明する手紙の中で、ジルーシャはひとつの告白をします。求婚を拒絶したのは、自分のような孤児がジャーヴィスのような良家の人間にふさわしくないと考えたからそうしたのだと。自分の出自をジャーヴィスに明かしてどう思われるかがたまらなく怖いことを。

Oh Daddy,
but I miss him, and miss him, and miss him.
ああおじさん、
でも私は彼が恋しくて、恋しくて、恋しくて

The whole world seems empty and aching without him
I hate the moonlight because it’s beautiful and he isn’t here to see it with me
彼なしでは世界の全てが空虚で辛く感じて
月光は美しくて、憎くて…それを彼とここで一緒に見ることができないから

 ほぼ原作の手紙通りのこの台詞を話す時、Meganさんのジルーシャの目には大粒の涙がたまり、それがこぼれ落ちて頬を濡らして。今ままで潤んだ瞳を見せることはあっても、決して泣かなかったジルーシャが初めて見せる大粒の涙にシンクロして私も涙が止まらず。(そして思い出しながらまた泣く…)一方、Adamさんジャーヴィスはジルーシャからの手紙を大切に胸に抱えて目を閉じていて。Daddyに縋るように助けを求めるジルーシャの手紙を受けて、ジャーヴィスは初めてDaddy Long Legsとしてペンを取ります。すべてを白日のもとにさらす覚悟をして。

 そしてとある水曜の午後、Daddyからの手紙の指示を受けたジルーシャは、マンハッタンにあるDaddyの家を訪れます。ジルーシャがそこで見つけたのは当然ジャーヴィス。最初ジャーヴィスがDaddyの秘書かと疑うジルーシャですが、そうではなくジャーヴィスこそがDaddy Long Legsその人であることを遂に知ります。自分がずっと騙されていたことを知り、羞恥や混乱で怒るジルーシャ。ジャーヴィスはジルーシャのなじる言葉を甘んじて受け入れるしかありません。

 ジルーシャに自分の手紙を全部読んだのかを聞かれ、頭をブンブン縦に振るしかできないAdam坊ちゃんは妙に可愛くて(笑)しかも今後に及んで “it was all your fault!” (すべてきみのせいだ) などと子供っぽく怒りながら言い始める坊ちゃん。元々本当に関心を払うつもりはなかったのにジルーシャの手紙に好奇心を抑えることができなかったこと。ジルーシャの想像通りの姿とかけ離れた自分自身の姿で彼女の前に現れることしかできなかったこと。ジルーシャに狂おしいほど恋に落ちるのがわかっていたのなら、こんなことはしなかったこと。

 だんだん落ち込みながら正直な胸の内を語るジャーヴィスにカンカンに腹を立てていたジルーシャも少しずつ落ち着きを取り戻します。ここで “Go on?” (続けて?) と少し高飛車に先を促すMeganさんのジルーシャもとても可愛くて。そして All This Time で、最初からずっとDaddyがジャーヴィスだったなんてと歌います。ここで再び責めるジルーシャに項垂れるジャーヴィスですが、

Though it seems that I’m last to know
I’d be a fool to let you go

知るのは私が最後みたいだけど
(ここで)あなたを行かせてしまうのは愚かなこと

という言葉に二人で笑顔になり。ずっと正体を隠していたことを許すとジルーシャが言った後に抱き合う二人は本当に素敵な幸せそうな笑顔で。長い長い遠回りを経てついに結ばれた二人につられれて笑い泣きしてしまい、とても幸せな気分になれるのでした。

 なんか、後半になればなるほど思いが爆発して止まらず長々と書いてしまってすみません。ここまで読んでいただいてありがとうございます。ミュージカルDaddy Long Legsは多少原作と異なる部分はあるものの、その核の部分は損なわれることなく、耳に残る美しい音楽と軽快な台詞回し、歌ウマで演技派のキャストの演技で魅せてくれる本当に素敵なミュージカルでした。緞帳のない舞台上に置かれた大小様々なスーツケースを組み合わせることによって表現される様々な場面も面白くて。何よりもこれだけ泣いたり笑ったり切なくなったりして、最後に幸せな気分になって帰れるのが最高でした。

 ニューヨークはBroadwayもOff-BroadwayもOff-Offも魅惑的な作品に溢れていますが、ミッドタウンウェストの少し外れにあるこの素敵な小さな劇場で観れるこの作品は、他の中規模、大規模の劇場とは一味違った特別な経験ができること請け合いです。どなたか一人でも、この作品に興味を持ってくれたり、実際にOff-Broadwayでも観てみようと思っていただけたら、こんなにうれしいことはありません。