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【観劇レポ】ミュージカル『エドガー・アラン・ポー』 (에드거 앨런 포, Edgar Allan Poe) @ BBCH Hall《2016.5.29マチネ》(Part 2)

韓国版ミュージカル『エドガー・アラン・ポー』

  2016年5月29日に禁断の弾丸日帰りソウル観劇を発動して、ミュージカルエドガー・アラン・ポー』(에드거 앨런 포, Edgar Allan Poe) のプレビューを観てきました。韓国版の演出は、ロンドンのAbbey Road Studioで録画されたSteve Balsamoさん主演のショーケース版とかなり違う部分もたくさんあり、「両者の比較をしてみたい!」ということでプレビューの感想も交えた比較記事の後半部分、第二幕の比較です。前半部分の第一幕はこちらからどうぞ。

 一幕側の記事でも書きましたが、ブログ記事の特性上ネタバレしかありません。ネタバレを踏みたくない方はご注意ください。「問題ないよ!」という方は続きからどうぞ^^

 

韓国版曲名 / 韓国版曲名和訳 [役名] – 対応するショーケース版曲名 / ショーケース版曲名和訳

 比較
 プレビュー公演感想など雑記

 

[ACT TWO]

Opening / オープニング

 1幕のオーバーチュア同様こちらもショーケース版にない新曲。

 

One (가제) / ひとつ (仮題)  [Virginia]

 ショーケース版にない新曲。ショーケース版でここで歌われるのはヴァージニアが夫であるポーへの不満を少し漏らしながらも自分は彼から離れられないと歌う少しコミカルなナンバー(The Devil I Know)だが、韓国版は病床のヴァージニアが歌うメロウなバラード。

 

달님의 시간 (Reprise) / お月様の時間(リプライズ) [Poe, Virginia]  – Tiny Star (Reprise) / 小さな星(リプライズ)

 ポーは創作活動に没頭していて、自分の世界に閉じ篭っている。そんなポーを咎めるヴァージニアの母である叔母。そんな母親をやんわり諌めるヴァージニア。二人きりになった後、発作が起きて苦しみ、吐血したヴァージニアに駆け寄るポー。私は貴方を愛しているけど、貴方は私を愛していない、同情しているだけと悲しげに告げるヴァージニアにポーは優しく母親に歌ってもらった歌う。そんな中、ヴァージニアはポーの腕の中で事切れる。ショーケース版では、この曲の流れでThe Bells (Reprise) が始まり、ポーとヴァージニアは引き離されてヴァージニアはアンサンブルの暗闇に吸い込まれるように亡き人になる。またヴァージニアがポーに話すような内容の部分も特にない。グリスウォルドがポーにお悔やみの言葉を掛け、二人が抱擁する場面もある。

 

관객석 그 어딘가 / 観客席、そのどこか  [Poe]  – Somewhere in the Audience / 観客の中のどこか

 ヴァージニアが亡くなり、創作意欲を失ったポーが喪失の悲しさを切々と歌うメロウなバラード。ヴァージニアの棺に縋り、悲しむポー。弔問客の中にはグリスウォルドとレイノルズの姿も。ショーケース版はThe Bells (Reprise)からヴァージニアの葬儀の場面に移り変わる(と言ってもそれ程明確ではない)が、韓国版はこの曲から。

 
나를 믿어 / 私を信じて  [Griswold]  – Trust Me / 私を信頼して

 失意のうちにいるポーの元にグリスウォルドが訪ねてくる。再び酒に溺れ、乱れるポーの生活を諌めるグリスウォルド。彼を励まし、自分を信頼して欲しいと歌うグリスウォルドのソロナンバー。この流れの中、グリスウォルドは荒んだポーに代わって彼の作品の管理をすることを申し出る。このような場面やこういった曲の使われ方はショーケース版にはなく、オリジナルに近いのはどちらかというと韓国版のリプライズの方。どちらかというとショーケース版の冒頭の Literary Executive (作品の権利の代理人) を選んではどうかと勧めるグリスウォルドの独白を膨らませた内容と言えるかもしれない。

 

종 (Reprise) / 鐘(リプライズ)  [Company]  – The Bells (Reprise) / 鐘(リプライズ)

 堕ちていくポーはさらに酒と薬に溺れていく。グリスウォルドはそんなポーを労わるような素振りを見せながらも、更にポーを破滅に導いていく。アンサンブルの厚みのある声で歌われる不吉な予感をさせるメロディと、グリスウォルドに操られるように堕ちていくポーの姿が印象的なナンバー。

 曲中に地面に座るポーに向かってグリスウォルドが跪き、ポーの手に額を寄せ、口付けるシーンがあるんですが、優しげなのに同時に薄ら寒くなるくらい酷薄で妖艶さをも漂わせてるヒョンリョルさんのグリスウォルドと、気怠げな色気を発しているマイケル様のポーにゾクゾクしました…。1幕のRepriseじゃない方もそうなんですが、韓国版の The Bells はアンサンブルの振り付けがすごくカッコよくて好きです!もちろんグリズウォルドのシャウトも^ ^

 

태양이 나를 비춰주길 / 太陽が私を照らすことを  [Elmira]  – Let the Sun Shine on Me / 私を太陽の光で照らして

 自暴自棄に暮らすポーの元にポーの元恋人のエルマイラが現われる。彼女はヴァージニアの訃報を聞いたと聞き、ポーに苦しみを乗り越えて立ち直って欲しいと励ます。昔の恋が再燃する二人が歌うバラード。ショーケース版との違いは、ポーがエルマイラに再会するきっかけ。ショーケースではエルマイラは鉄道労働者の劣悪な労働環境を正す活動家をしておりその活動中に再会するが、韓国版ではその後に繋がる Train to Freedom の曲を含めて丸々カットされているので、エルマイラが活動家をしているエピソードも特に言及はない。韓国版のポーはエルマイラの励ましを受けて、再び自分を取り戻そうと奮起する。

 

나를 믿어 (Reprise) / 私を信じて(リプライズ)  [Griswold, Reynolds and Company]  – Trust Me / 私を信じて

 集会会場でポーの窮状を訴えて、彼を助けなければならないと歌うグリスウォルドとアンサンブルのナンバー。ポーを気遣っている風に見せかけながら、ポーについて有る事無い事悪評を広めながら盛大にポーをDisっているのはショーケース版と変わらない。韓国版のみ曲の直後、ポーがグリスウォルドに対してもう自分自身で管理をするので作品の権利を全部返すように詰め寄る。グリスウォルドは戸惑いながらも了承するが…

 ショーケース版はサイコパス (psychopathic) だの屍姦趣味 (necrophilic)だの本当に言いたい放題ヒドイこと言ってるのですが、韓国版はなんとなく悪く言っていることまではわかっても、詳しくは何言っているのかがわからないのですごく気になる…

 

매의 날개 (Reprise) / 鷹の翼 // 죽음 / 死  [Poe and Company]  – Wings of Eagle / 鷹の翼

 自分を取り戻す決意をしたポーがその意志をのせて力強く歌う同曲のリプライズ。ポーの創作の言葉がプロジェクションによってポーを中心に翼のように羽ばたく演出が印象的。ここに該当する場面はショーケース版ではない。

 一転して暗転する舞台。暗闇の中、グリスウォルドが舞台の端に佇み厳しい表情で前方を見据えてる。その側にやって来るガラの悪そうな男達。男の一人がグリスウォルドに一言二言話し掛け、グリスウォルドもそれに何か答える。再び正面を睨むグリスウォルド。そこにポーが一人登場する。男達に殴る蹴るなどの暴行を受け、両腕を拘束され無理矢理酒と薬を盛られ、ポーは倒れる。

 ショーケース版では、 Train to Freedom の曲の終盤でレイノルズが登場し、鉄道会社の代表に酒を手渡す。酒を渡され、鉄道労働者に凄まれ小突かれ、ポーは酒に口をつける。酔ったところで、アンサンブルが扮する鉄道労働者達に次々に暴行を受け、ポーは倒れる。動けないポーの側にしばらくしてレイノルズがやって来て、その助けを乞う言葉を無視し、息絶えるのを待つ、という展開でグリスウォルドは登場しない。ショーケース版は陽気な音楽と対照的な暴力的な場面が薄気味悪い雰囲気を出しているが、韓国版は暴力の場面以外はとても静かで、その静けさが凄味を出している印象。

 韓国版ではショーケース版以上にグリスウォルドがポーの死に関わっているような描写がされていますが、これもグリスウォルド役が担っているポーを潰すことになる数々のプレッシャーなどを暗喩しているように感じました。

 

달님의 시간 (Reprise) / お月様の時間(リプライズ)  [Elisabeth and Company]  – Tiny Star / 小さな星

 倒れたポーの元にポーの母親エリザベスがやって来る。苦しむポーを労り、幼き日々に彼を慰めた子守唄を歌うエリザベス。エリザベスに導かれて死後の世界へと旅立つポー。ショーケース版でも基本的な流れは同じ。

 ここでも膝枕が…(笑) 前も書いたんですが、ここのシーンが実は1幕のシーンにつながっていて、冒頭の悪夢に苦しむポーの姿 = ポーの暗い人生 だったのかなぁとちょっと感じました。

 

널 심판해 (Reprise) / お前を裁く(リプライズ)  [Griswold]  – What Fools People Are (Reprise) / 人はなんと愚かなのか(リプライズ)

 ポーが亡くなり、引き続きポーの創作物への権利を持ち続けるグリスウォルド。その立場を利用してポーの作風は悪であるという批判を広め、ポーの創作物を糾弾するグリスウォルドのナンバー。ショーケース版ではレイノルズを呼び寄せてポーの悪評を広めるように指示したり、ポーの詩を改竄しようと言及するシーンもある。どちらも曲が始まる前の冒頭部分でグリスウォルドがポーに対する辛辣な評価を話す部分があり、韓国版では言葉遣いが幾分柔らかくなっている。これは実際に実在した Rufus Griswold が書いたポーの死亡記事の内容や、彼のポーに対する評価の言葉を引用したものである。

 ショーケース版の台詞と歌詞の書き起こしと対訳をつけてみたので、興味がある方はこちらからどうぞ。 韓国版でもだいたい似たようなことを言ってたりもするんですが、どうにもショーケース版の David Burt さんのグリスウォルドは小物臭がかなり強く感じられて^ ^; そんなグリスウォルドにも聴き込むうちに愛着が湧いてきましたw なんというか、アホでかわいいw 韓国版グリスウォルドがカッコよく感じるのはご贔屓様が演じているのも多分にあるのかも

 

관객석 그 어딘가 (Reprise) / 観客席、そのどこか  [Elmira, Virginia]  – Somewhere in the Audience (Reprise) / 観客の中のどこか(リプライズ)

 ポーの墓前にやって来るエルマイラ。かつてポーがヴァージニアの死を悼んだ時に歌った曲を歌ってポーの死を悲しむ。ヴァージニアもまた夫の墓前にやってきて、エルマイラ同様にポーの死を悼む。これは全編を通してだが、エルマイラとヴァージニアの衣装はショーケース版では黒く、韓国版では白い。ステージングの多少の違いはあるものの、基本的な流れは似ている。

 
영원 / 永遠  [Poe]  – Immortal / 不滅

 死後の世界に旅立ったポー。ポーは自分のために泣いてくれるな、自分は自由で死してなお人々が自分を記憶するのなら自分は永遠の存在だと歌う。ショーケース版では、ポーは肩に大鴉 (Raven)を乗せて登場する。

 ショーケース版ではポーはずっと赤いロングコートを着ていて、このシーンでそれを脱いで下に着ていた黒一色の衣装になって黒ずくめになるのですが、韓国版ではそれまで着ていた赤いロングコートの代わりに白いロングコートを着ます。その白い衣装が解き放たれたポーの魂の自由を象徴しているような気がします。(韓国版では、ポーを含めてエリザベス、エルマイラ、ヴァージニア以外は黒を基調とした衣装を着ています。)マイケルさんのポーは、中盤から後半にかけてずっと苦しんで辛そうな表情が多いので、肩の力がぬけたような穏やかな表情がすごく印象的でした。この曲の最後は本当にいい笑顔で。曲もかっこいい!

 


 私が見たのはプレビュー公演中だったので、これからまだまだ役者さんの演技も演出も変わっていく可能性はありますが、オリジナルの叙情的な雰囲気はそのままに結構自分好みに変わっていたので、大満足な観劇でした。今後どう役者さんの演技が変わっていくのかを見るのもすごく楽しみです!