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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『私とナターシャと白いロバ』(나와 나타샤와 흰 당나귀) @ Dream Art Center, Seoul《2017.1.8マチネ》

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  成人の日の三連休2日目はソウル大学路でミュージカル『私とナターシャと白いロバ』(나와 나타샤와 흰 당나귀)、通称ロバまたはナナヒンを観てきました。私がナナヒンを観るのはこの時が2回目で、この回に私が観たキャストは写真の通り、

 ペクソク(白石, 백석) : カン・ピルソク さん
 ジャヤ(子夜, 자야) : チョン・インジ さん
 サネ(男, 사내) : ユ・スンヒョン さん

でした。

 ナナヒンは現在の北朝鮮出身の詩人ペクソクと彼にジャヤという愛称をつけられた女性のラブストーリーです。年老いた妓生 (キーセン) のジャヤがペクソクのことを回想していたら、彼女の目の前に若かりし頃の姿のままのペクソクが現れて・・・。

 出演者はたったの3人、音楽も小さな舞台の上手側に設置された白いピアノの演奏のみ、白い竹藪のような間仕切りと舞台中央に置かれた台以外には特筆するようなセットもない実にシンプルな舞台なのですが、ペクソクの詩をベースにした美しい楽曲、切ないストーリーを演技と歌の両方でしっかりと魅せてくれる俳優様達のおかげでなんとも贅沢なものを観せてもらった気分になれる、とても素晴らしい仕上がりの作品でした。

  大好評のうちに公演終了し、近々に再演されるともっぱらの噂のこの作品ですが、ぜひ全乙女の皆様に厚手のハンカチを持参して観劇することをお勧めしたい!

 「妖精」(요정) のニックネームを欲しいままにしている(?)大学路の人気俳優のソク様ことピルソクさんですが、ジャヤの目を通したペクソクの姿として舞台に登場するソク様はまさに「妖精様オン・ステージ」。その包み込んでくれるような優しく甘い佇まいと可憐な魅力で乙女のハートを鷲掴みにすること間違いなし。結構いいお年の男性を捕まえて「可憐」が一番似合う形容詞というのはどういうことだ。でも可憐。ひたすら可憐。さすが妖精様。膝枕をねだる姿やドヤ顏があんなに可愛いなんてどういうことだ。さすが妖精様。いまいちぎこちないダンスも超可愛い。さすが妖精様。

 ジャヤ役のインジさんは知的で意思の強そうなキリリとした眉と目が魅力的な美人さんで、やがて料亭の経営で一財を成す女性実業家でもあったジャヤ役にぴったり。そんな男勝りな彼女が、ペクソクだけに見せたのであろう乙女な一面はとてもいじらしく、寂しさや辛い気持ちを隠して強がるように振る舞うジャヤの姿を見ていると、鼻の奥がツンとしてきます。まだとても若い女優さんのようですが、演技も歌もすごく巧い。インジさんジャヤの「この詩さえあれば、私は他はどうでもいいです」と言う台詞はすごく実感が篭っているようで、ジャヤにとってはペクソクの詩は彼本人に等しいんだろうなぁという感慨が印象的に残りました。

 初めてナナヒンを観た時はもう一人のジャヤ役チェ・ヨヌさんで、ヨヌさんは女性らしい所作とくるくる変わる豊かな表情が魅力的な女優さんで二人のジャヤは結構対照的。二人とも本当に凄く良かったので、甲乙つけがたいのですが、「ジャヤらしさ」はインジさんに軍配、細かい表情、話し方の演技はヨヌさんに軍配ありでしょうか。再演の際は是非二人ともキャスティングされて欲しいです。

 サネ(男)役は時には狂言回し、時にはペクソクの友人、時にはペクソクのお父様と様々な登場人物を演じないといけない役。また、サネ役はペクソクの詩の朗読も随所随所に入ってくるのですが、ユ・スンヒョンさんは色々な登場人物を表情豊かに演じる側、落ち着いた雰囲気でペクソクの詩を朗読する姿が素敵でした。これぞ好青年。

 ナナヒンは韓国語が不自由な私には台詞の大多数がちんぷんかんぷんだったのですが、演技派の俳優様達が見せてくれる表情にひたすら観入り、素晴らしい音楽と舞台の空気に魅了されて、最後にはジャヤの選び取った人生においおい涙を流すしかないのでした。そう、ナナヒンはジャヤの物語なんですよねぇ。少し余談になっちゃいますが、カーテンコールで一際大きな拍手で向かい入れられるジャヤ役を温かく迎えて、彼女を立ててエスコートするソク様は本当のジェントルマンだなぁとしみじみ思いました。

 ペクソクの詩の響きを大切に、大切にしながら作り上げられた思う楽曲は本当に素晴らしく。「바다」(海)「북관의 계집」(北關の女) 、タイトル曲の「나와 나타샤와 흰 당나귀」(私とナターシャと白いロバ) … 好きな曲をあげるとキリがありません。色々な魅力の相乗効果で大好きな作品となったナナヒンは本当に再演が待ち遠しい作品です。