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【観劇レポ】ミュージカル『インタビュー』 (인터뷰, Interview) @ Zepp Blue Theater Roppongi, Tokyo《2017.3.4ソワレ》

2017年東京来日版『インタビュー』キャストビジュアル

 2017年3月4日、Zeppブルーシアター六本木に韓国ミュージカル『インタビュー』(인터뷰, Interview) の来日公演を観に行きました。「~お願い、誰か僕を助けて~」という若干ネタバレ気味な副題が付けられた来日公演。私が観に行った回のキャストは

 ユージン・キム : イ・ゴンミョン さん
 シンクレア・ゴードン : イ・ジフン さん
 ジョアン・シニアー :  キム・ジュヨン さん

でした。

 チケットのお値段は高めですが、韓国ミュージカルを日本語字幕付きで観られる貴重な機会!元々韓国で観たいと思っていた作品でなおかつ出演キャストにも惹かれたので、公演前日に突発でチケットをポチして観劇してきました。結論から先に言うと観に行って大正解!字幕のおかげで結構難解な話の筋もしっかり理解することができ、手に汗を握るスリリングでスピード感溢れるストーリーにグイグイと引き込まれました。すごく面白かった!!

  来日公演の主催会社「新’s WAVE」さんのサイトに掲載されていたあらすじを下記に引用して紹介します。

2001年、ロンドンのある小さい事務所のドアを叩く音・・・。

ベストセラー推理小説『人形の死』の作家であるユージン・キムの事務所へ、作家志望の青年シンクレアが訪ねてくる。ユージンは、その日の前日に自殺を企てた連続殺人犯が書いた遺書を差し出し、シンクレアに文章を作って見ろと促す。遺書を読んだシンクレアは、‘自分の中の怪物’という話を語り出すが、突然、『人形の死』の実際のモデルはジョアン・シニアーではないのかと尋ねる。慌てたユージンに向かってシンクレアは、これまでの彼とは全く違う人物のように、『人形の死』を通して公になった‘オフィーリア殺人犯’のスタートは、ユージン・キムであり、その後起きた連続殺人はユージンの模倣犯コピーキャット)だと話す。

​10年前の殺人事件の真犯人を探す、二人の男の‘インタビュー’が始まった。

(以下、ネタバレを含むのでご注意ください。)

 

 ジフンさんが演じる「シンクレア」を名乗る二十代の青年マット役は多重人格者という設定。主人格であるマットを含めてジミー、ウッディ、アン、ノーネイム(No Name)の年代も性別すらも異なる5人の人格を演じ分ける必要があります。さらにマット役は青年時代と少年時代の両方を演じないといけない。なかなかに俳優さん泣かせな難しい役だと思いますが、逆にこの複数の人格の演じ分けは俳優さんの実力の見せ所でもあるわけで。田代親世さんの「韓国エンタメナビゲート」中のインタビュー記事では、

この作品では演技で鳥肌を残せるような結果を残したい

とジフンさんの意気込みを語っていますが、いやはやお見事。ジフンさんの芸達者っぷりには脱帽するばかりです。繊細で感受性豊かなマットから、粗暴でガラの悪いジミー、あどけないウッディにおませなアン、底が知れない不気味さを湛えたノーネイム、それぞれ鮮やかな対比で魅せてくれました。

 ユージン先生役のゴンミョンさんはこの作品が初めまして。「これぞミュージカル俳優!」という感じの深く響くいい声が魅力的な俳優様でした。一見斜に構えているように感じるユージン先生の実はとても熱い心が伝わってくる演技が良かった。緊迫した雰囲気の中で交わされる先生とマットとその身体に同居する人格達の会話の応酬、マットの中の人格が目覚める度に接し方を慎重に探り、言葉を選びながら距離を詰め、少しずつ真相に迫ろうとするその緊張感がたまりません。そうはさせまいと次々に入れ替わるマットの人格に翻弄される演技も良かった。

 3人の役者さんの中で唯一の女性で過去の人でもあるジョアン役を演じるジュヨンさん。とても演技に引きこまれる女優さんでした。幼く無邪気で残酷、そして静かな狂気を感じずにはいられないジュヨンさんのジョアン。屈託のなさそうな笑顔を見せながらその瞳に揺れて見えるのは間違いなく狂気で、それは彼女がその生い立ち故に自分の身を守る為に身につけたものだと考えると胸が痛いです。そしてこのジョアンはマットの目を通して見たジョアン像であるということが切ない。そんなジョアンに戸惑いながらもその瞳に吸い込まれていくように惹きつけられていくジフンさんマットの演技も良くて。

 『インタビュー』のもう一つの魅力はやっぱりその音楽!マザーグースの “Who Killed Cock-Robin?” の詩をベースに曲を付けた 자장가 (子守歌) を代表とする可愛らしい雰囲気と不気味さが同居しているような曲や、싱클레어의 공격 (シンクレアの攻撃) をはじめとするマットとユージン先生の激しい言葉の応酬を歌詞に乗せた緊張感と疾走感溢れる曲や 유서 (遺書)노네임의 이야기 (ノーネイムの物語) のようにどこかノスタルジックでメロウなメロディが綺麗な曲。全体的にピアノの旋律が印象的なダークな雰囲気の曲が多いのですが、どの曲も物語にすごく合っていて。どの曲もすごく私好みで、『インタビュー』のOSTも私のヘビロテプレイリストの一つです。

 かなり重くて暗いテーマを題材にしていながらも「面白かった!」という印象が先行するのは、テンポ良く展開される脚本の良さと、密室での心理戦を真に迫る演技で熱演する俳優様達の実力に依るところが大きかったと思います。特にジフンさんは韓国で主演公演をこなしながら短期間の練習で来日公演に挑んだとはとても信じられない演技の完成度!「短期間の来日公演だけで終わっちゃうのはもったいなさすぎる。是非とも韓国での再演に出て欲しい!」と思っていたので、今年の韓国再演キャストの中にジフンさんの名前を見つけた時には思わず心の中で小躍りしてしまいました(笑)気が早いですが、公演を重ねたジフンさんのシンクレアがどう進化するのかが今から楽しみでしょうがありません。来日公演で観れなかったキャストや新たにキャスティングされた俳優さんも気になるし、今からすでにおかわりする気満々の作品です^ ^


 余談ですが、英語の “Interview” は日本人がまず最初にイメージするであろう著名人に対する直撃レポートのこと以外にも、仕事の採用面接や事情聴取、問診などの意味でも使われる言葉でもあります。このミュージカルタイトル、なかなかに深い。