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【観劇レポ】ミュージカル『メイビー、ハッピーエンド』 (어쩌면 해피엔딩, Maybe Happy Ending) @ Sunshine Theater, Tokyo《2017.5.27マチネ》

2017年東京来日『メイビー、ハッピーエンド』ポスター

  2017年の5月末の週末、同年の韓国初演が連日ソールドアウトの大好評のうちに終わった韓国の3人ミュージカル『メイビー、ハッピーエンド』(어쩌면 해피엔딩, Maybe Happy Ending) の来日公演を観に行きました。韓国での公演中に、観に行きたいなーと思った頃にはもうチケットが完全にソールドアウトになっていたこの作品。独自に『メイビー、ハッピーエンド』*1というタイトルが付けられたこの公演は、韓国人キャストによる来日公演とは言うものの、K-POPアイドルを中心に起用されたキャストに完全一新され、演出も日本公演用に新しに見直されたバージョンになるとのこと。このため、韓国での再演を待つことにして日本公演は観に行くのを我慢するつもりだったのですが、twitterのTL上に上がってくる日本公演の感想を読んでいるうちに観に行きたくなってしまい、誘惑に負けて突発で観に行ってしまいました。

 私が観に行った回のキャストは下記の通り

 オリバー : SE7EN (チェ・ドンウク)さん
 クレア : キム・ボギョンさん
 ジェームズ : ラジュンさん

でした。

 結論。泣きました。途中、嗚咽を堪えるのに必死で苦しくなるくらい号泣。これは絶対韓国で再演したら観に行きます!もうこれから迷うことなく、まだ観たことがなくて気になる韓ミュ作品を日本で演るのなら観に行くことにしたいです。日本語字幕最高!!誘惑に負けてよかった!

  まずはミュージカルのあらすじをご紹介。

近未来のソウル、ソウルメトロポリタンの郊外。
人間の身の回りのお世話するロボットのヘルパーボット5のオリバーは、
旧型となったロボットたちが住む専用アパートに住んでいる。
LPレコードプレイヤーにジャズの月刊誌、話し相手の「植木鉢くん」。
元雇い主ジェームズの影響を受けたお気に入りたちに囲まれながら、
オリバーはいつかジェームズが自分を迎えに来てくれる日を信じて
慎ましくながらも幸せに暮らしていた。

ある日、同じアパートの向かいに住むヘルパーボット6のクレアが
オリバーの部屋に「充電器が壊れてしまったので貸して欲しい」
と突然訪ねてくる。

内向的であまり融通が利かないオリバーに賑やかで活発なクレア。
ヘルパーボット6であるクレアに対する彼のコンプレックスも手伝い、
突然現れた闖入者であるクレアをオリバーは最初は歓迎しないが、
充電器の貸し借りをきっかけにはじまった二人の交流を通して
徐々に距離を詰めていくオリバーとクレア。

ある日、クレアはオリバーに「今ならホタルが見れるから」と
ジェームズが住む済州島へ行こうと誘い出す。
二人きりの冒険の果てに彼らが発見したのは・・・

(以下ネタバレありなので、ご注意ください)

 

 私の涙腺は弱すぎるんですかね・・・もうかなり序盤から泣いていました。どれくらい序盤かというと、オリバーが最初に歌う「僕の部屋の中に」 (나의 방 안에) からです。朝一に起きたら、「植木鉢くん」に挨拶をして、朝のニュースをチェックして、毎回同じ時間にやってくる郵便配達員から荷物を受け取って・・・変わりばえのない日々を幸せそうに繰り返す変わらないオリバーに対して、アパートの外の世界では無常に時が過ぎ去っていって。1曲のうちに、いつもオリバーの部屋に郵便を運んでいた配達員のおじさんもいつの間にか年老いていて、ジャズの月刊誌とともに注文していたヘルパーボットの部品が生産終了になるほどの月日が流れているのです。月刊誌のカバーを飾る有名ジャズ奏者の写真が素敵だと言って、毎回同意を求める質問をしていたオリバー。それに対していつも無反応を貫いていた配達員のおじさんが、ヘルパーボット5の部品生産終了をオリバーに告げた日に限って同意する言葉を返したあたりで涙腺決壊です。そんなことがあっても前向きで明るい表情のオリバー。うわーん、なにこれ切ない・・・。・゜・(ノД`)・゜・。

 そもそもその境遇の設定からしてもの哀しさが漂うオリバーとクレアですが、やがて迎える終末に対して悲観するでなく日々を前向きに過ごしていて。二人が済州島への冒険の末に「恋する」という感情を知るまでは。そんなひたむきな彼らのかわいらしいやり取りを見ているうちに、心がじんわり温かくなっていくのを感じる、そんな本当に素敵なストーリーのミュージカルでした。また、どこかレトロでノスタルジックな雰囲気で、温かさを感じるメロディが素敵な楽曲がすごく物語の雰囲気に合っていて。ロボットである、という二人の設定を活かした台詞や行動も物語のいい仕掛けになっていてよかったです。

 ヘルパーボット5であるオリバーは、その性能の故にあまり複雑な感情表現が得意ではないという設定であるため、SE7ENさんが演じるオリバーは最初ちょっと堅物でありながらあどけなく可愛らしく、少年のような雰囲気。そんなオリバーがクレアとの交流を通して「愛」という感情を知っていくうちに、少し大人びたような表情を見せるのが印象的でした。カーキグリーンのパンツにシャツにサスペンダーという衣装もとても似合っていてかわいい。以前、エリザベートのトート役で観たことがあるのですが、随分と印象の違う役なので驚きました。すごくかわいいオリバーでした。

 クレアを演じるキム・ボギョンさんは、おもちゃ箱をひっくり返したようなかわいらしくて透明感溢れる歌声がとても魅力的な女優さんでした。クレアは人間とほぼ遜色ない感情表現が可能になったヘルパーボット6であるという設定であるため、ある意味彼女は観客の分身のような存在だったように思います。過去の経験を通して移ろいやすい人の性を知っているクレアは、「ジェームズは友達だ」「迎えに来ると約束した」とジェームズとの友情を信じて疑わないオリバーの純粋さをまるでお姉さんのように心配しますが、それはまさに観ている私自身の気持ちでもあって。最初はそんなオリバーを小馬鹿にしていた彼女が、だんだんとその純粋な心に惹かれていって、済州島のジェームズの家で見つけたジェームズとオリバーの絆の証に「変わらない愛」の存在を信じるようになる過程がすごくわかりやすくて良かったです。もちろんジェームズの家でのエピソードには泣きました。泣くよ、そりゃ泣くさ!!

 実際劇中にそんなエピソードはないんですが、糸電話もジェームズがオリバーに教えてあげて、植木鉢もジェームズがオリバーに贈ったものだったのだと思えばすごくほっこりするし、泣けるなぁ・・・。

 済州島での冒険を経てオリバーとクレアの間に芽生えた感情は激しく燃え上がるような情熱的な恋ではなく、それはそれはお互いを優しく思いやる温かな愛で。恋する二人のエピソードはどれもこれも可愛らしくて見ていて微笑ましいもので、ほっこりとします。特に二人がケンカの真似事をするエピソードがかわいくて好きです。そんな二人が、やがて訪れる別れにお互いを思い遣って怯えるようになる様子は、本当にただただ痛ましくて。このあたりからはもう最後までずっと泣いてました・・・。

 苦しさに耐えられなくなった二人がとった選択、そしてラスト・・・。ここは是非実際に舞台を観ていただきたい。ハンカチじゃ間に合わないのでタオル持参推奨。・゜・(ノД`)・゜・。

 ただいま、OSTを激リピ中です。そしてこのレポを書く間もなんどいちいち泣いてその手が止まったことか。日本公演は二人の部屋のセットの使い方がなかなかニクいなぁと思ったのですが、韓国版のセットと演出はまた全然違っているみたいなのでそれがすごく気になります。サンシャイン劇場の後方席で観てこの有様なので、狭い大学路の劇場で観たら私は呼吸困難になるんじゃなかろうか・・・なんて心配もありますが、なんとしてでもこの作品は韓国でも観たいです!

 日本公演は後日、衛生劇場で放送されるそうですので、レポを読んで気になった方は是非。騙されたと思ってみてください!

[2019.11.2追記]

  2020年8月にシアタークリエにて浦井健治さん主演で翻訳公演がされることが発表されましたね。本当に素敵な作品なのでみなさまぜひ!心が洗われますよ〜

  2019年の韓国再演を観たときの観劇レポはこちらからどうぞ。

*1:2020年8月に初演が発表された日本語版のタイトルはオリジナルに忠実な『メイビー、ハッピーエンディング』というタイトルになっています。