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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ミスター・マウス』 (미스터 마우스) @ Dongsung Art Center, Seoul《2017.4.15マチネ》

ミュージカル『ミスター・マウス』ポスター

  2017年4月15日、大学路のドンスンアートセンターに韓国ミュージカル『ミスター・マウス』(미스터 마우스, Mr. Mouse) を観に行きました。大好きなダニエル・キイスSF小説アルジャーノンに花束を』をベースにした作品をホン・グァンホさん主演で演ると聞いて、「グァンホさんのチャーリー!?そんなの絶対にいいに決まってる!めちゃ泣けるに決まってる!」と鼻息荒く観に行くことを即決。が、そこは韓国ミュージカル界でも屈指のチケットパワーを誇るグァンホさん。当然ながら、チケット発売開始と共にグァンホさん出演回は瞬殺で完売。深夜のチケットの戻りをやっとのことで拾ってなんとかチケットを確保できるまではそわそわする日々でした。そうやって確保したチケットで私が観た回のキャストは

 イヌ(인후) : ホン・グァンホ さん
 カン博士 (강박사) : ソ・ボムソク さん
 チェヨン (채연) : カン・ヨンジョン さん
 お父さん (아버지) : クォン・ホンソク さん
 チャッジャル主人 (짜짜루 주인) : ウォン・ジョンファン さん

でした。全員書き出せていないですが、イヌ(インフ)役とカン博士役以外のキャストのみなさんはシングルキャストです。

  「チャーリーなんていないじゃないか」と思われた方、そうなのです。私自身勘違いしていたのですが、『ミスター・マウス』は『アルジャーノンに花束を』をそのままミュージカルにした作品ではなく、舞台設定を韓国に置き換えたミュージカルだったのです。『アルジャーノンに花束を』のチャーリーに相当するのが、この作品の主人公であるイヌなのです。

 韓国版インターパークに掲載されているシノプシスをざっくり訳すとこんな感じです。

三十二歳だが七歳レベルの知能を持つ「イヌ」は中華料理店「チャッジャル」で雑用をしながら暮らしている。偶然の機会で「脳活動の増進プロジェクト」の対象者になって、一朝一夕にして高い知能を持つようになった「イヌ」。賢くなった頭脳で知識を広げていく「イヌ」は「心で感じる真実」を教えてくれる「チェヨン」に人を感じる。しかし、自分を発明品のように扱う「カン博士」と、急に浮上する過去によって次第に混乱し…

  やー、グァンホさんファンとしては絶対外しちゃいけない、グァンホさんの魅力がこれでもかと詰められた美味しすぎる作品でした(*´꒳`*) というわけで、今回のレポも舞台の感想というよりかはただのグァンホさん萌えレポになってしまいました。ストーリー理解には全く役に立ちません(断言)

(以下、それでもネタバレ有りなのでご注意下さい。)

 

 知能レベルが7歳の時のグァンホさんイヌはグレーにブルーの差し色のライン入りジャージ着用で髪もボサボサ、全体的にもっさりした雰囲気。色んな人が同じ感想を漏らしているのを聞きましたが、「あれ、グァンホさんってこんなにずんぐりしてたっけ?」と首を傾げるレベルでコロコロしてます。歩くときも足を小刻みにちょこまかちょこまか動かす感じで、なんとなく小動物を彷彿とさせる感じ。歌うときも舌足らずで調子っぱずれで幼い雰囲気。ハングルの連音化もちゃんと理解していないのか、自分の名前は「イヌ」じゃなくて「インフ」だと言い張ります。天真爛漫であどけなく、糸目になる全力の笑顔はキュン死できるレベルで邪気がなくてかわいいです。「オーイェ〜〜〜!!」に何人の乙女のハートが撃ち抜かれたことでしょう。あざとい!!でもかわいい!!!つられてぎこちなく「オーイェ〜!」とノるボムソクさんカン博士にもキュン(*´꒳`*)

 手術を受けたイヌは驚異的なスピードで知能レベルが上がっていきますが、これは劇中ではイヌの長ゼリフで表現されています。たどたどしく舌足らずな喋り方だったのが声のトーンが落ち着いて、姿勢も目つきも変わって・・・。私、グァンホさんはあの歌声だけではなく素で話している時の低くていい声も大好きなんですけど、だんだんとその素敵ボイスになっていくわけです。この長台詞では会場から大きな拍手が。きっと会場私の同志だらけに違いありません(笑)

 賢くなったイヌはスポンジのように色んな知識を吸収していきます。そんな様子を見せてくれるのが図書館のシーンなのですが、この時のグァンホさんイヌは細身のスラックスにシャツの上からセーターという衣装。文学青年〜と言った雰囲気の爽やかイケメンの出来上がりです♡著名な思想家達の「愛」に関する名言を読み上げるグァンホイヌはロマンチストな夢想家という雰囲気。そんなイケメン文学青年グァンホさんイヌですが(←長い)、その姿でコサックダンスや屈伸運動(?)のようなオリジナルダンスを披露してくれます。失礼ながら意外と踊れるグァンホさんにびっくり(笑)オリジナルダンスを踊ってる時はいたずら好きの少年のようなキラキラしたお目目になるものですから、心臓に悪いったりゃありゃしません。キュン死寸前で瀕死です。やっぱりあざとい!!でもかわいい!!!

 でも物事を理解できるようになるのは良いことばかりではありません。知識を身につけるにつれ、カン博士らが自分を一人の人間ではなく「実験対象」として扱っていることを知り、それに反発する感情を知ったり、忘れ去っていた辛い過去の記憶のフラッシュバックに怯えるようになったり。知的障害者が侮って不当に扱う人達がいることに怒りと悲しみを覚えたり。無知な「インフ」だった頃には知らずに済んでいた負の感情をイヌは膨大な知識と共に知っていくことになります。そんなイヌを演じるグァンホさんはすごく表情豊かで、演技のはずなのに自然で胸にグングン迫ってくる説得力があって。

 イヌが久しぶりに働いていた中華料理店チャッジャルに顔を出す場面は、原作の『アルジャーノンに花束を』よりだいぶ温かい雰囲気ですごくホッコリしてやっぱり泣けました。ここら辺のアレンジは情に熱い韓国らしいなぁ、とも思いました。

 実験結果の発表会で「僕は人間なんだ」と悔しい心情を吐露する場面や、カン博士と対立し、激しくぶつかり合うシーンでは、空気がビリビリと震えているような気さえするぐらいでその場を制していました。特にボムソクさんとの対決は大劇場さながらの迫力。

 マウスの「イヌ」が死んで実験の失敗が明らかになり、自分自身の知力の低下を感じて心が荒んで傷つくグァンホイヌを見るのは本当に胸が痛くて苦しかったです。原作を読んだ時も思いましたが、「幸せ」の在り方の難しさを感じずにいられない。「知らずにいる」ことで保たれる幸せはあるけど、それが幸せだったのだと気付くには「知る」必要があったりするわけで。

 イヌがお父さんに会いにいくシーンはもうただただ号泣。「自分をみてくれれば」と思いながらも、名乗り出れないイヌの姿に涙、涙。またお父さん役のクァン・ホンソクさんの演技が素敵なんですよね。お互いを思い遣りながらすれ違う親子の姿に、ただでさえ弱い私の涙腺は決壊状態です。そんな二人して捨てられた子犬のような悲しい顔しないで・・・。・゜・(ノД`)・゜・。

 結局イヌの知能レベルは7歳児レベルに後戻りしてしまいます。「アルジャーノンに花束を」と書き遺す代わりに「インフ」はマウスのイヌを偲ぶ歌を歌います。一見最初に戻ったようだけど、そうではなくって。原作のチャーリー同様、最終的に「インフ」がどうなったのかは語られていません。(単に私がちゃんと理解できていないだけという可能性も否定できませんが・・・)何かを知ってしまえば、もうそれを知らなかった頃に戻ることができないのは「インフ」も私たちも同じ。でも知能レベルが元のレベルに戻って、知った様々な感情が純化されて、感謝の気持ちだとか、悲しむ気持ちだとか、友達を大切に思う気持ちだとか人間の幸せの一番原始的なところにある感情だけが残されたようにも感じられるグァンホさんの「インフ」の姿は、ある意味とても幸せそうに思えました。

 グァンホさんが本当に凄いなぁと思うのは、その圧倒的すぎる歌唱力はもちろんですが、その歌に感情を乗せることの巧さとその表情豊かな素晴らしい演技力。グァンホさんの演技が本当に本当に大好きなんですよね。言葉がわからなくても、その表情に見入っているだけで伝わってくることが本当にすごく多くて。なんだかすごく大袈裟な表現になってしまいますが、グァンホさんが立つ舞台を観ていると、感情移入して流す涙とはまた別に、「ああ、この人はミュージカルの舞台に立つために生まれてきた人なんだなぁ」という感慨だとか、この奇跡のような存在の方が立つ舞台を生で観ているという僥倖に「ありがたいなぁ、幸せだなぁ」となんだかよくわからない涙を流す時が度々あるのです。初めてグァンホさんを知ったWEサイゴン然り、パルレも然り・・・。『ミスター・マウス』はそんなグァンホさんの演技の魅力を隅々まで堪能できる作品でした。