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【観劇レポ】ミュージカル『インタビュー』(인터뷰, Interview) @ Dream Art Center, Seoul《2018.8.25ソワレ》

ミュージカル『インタビュー』2018.8.25ソワレキャストボード

 先月に引き続き、今月末もマチソワで韓国創作ミュージカルの『インタビュー』(인터뷰, Interview)ソウル大学路のドリームアートセンターで観劇してきました。前回のマチネのレポと同様に今回の観劇レポも個人的な備忘録の色合いが強いネタバレ満載レポになる予定です。今回私が観たソワレの回のキャストのみなさまは下記の方々です。

 ユジン・キム : イ・ゴンミョンさん
 シンクレア・ゴードン : キム・ギョンスさん
 ジョアン・シニアー : キム・スヨンさん

 先月末に引き続き、今回もマチネがドンファさんシンクレアでソワレがギョンスさんシンクレア。チケットを取った当初は特に意識していなかったのですが、ソワレの回はゴンミョンさんのユジン先生とギョンスさんシンクレアのペアマッコン1でした。どちらの公演もすごくよかった!直前に観たパク・ウンソクさんのユジン先生、チョン・ドンファさんのシンクレア、チェ・ムンジョンさんのジョアンのマチネの観劇レポはこちら。

感想

(以下、ほぼネタバレしかないのでご注意ください)

ゴンミョンさんのユジン先生

 8月8日にネットでライブ中継された『インタビュー』の公演は7月末に私が観劇したマチネ公演と全く同じキャストだったことは前回の『インタビュー』の観劇レポでも書いた通り。そのライブ中継も含めるとゴンミョンさんのユジン先生を観るのは4回目。しかし、ライブ中継でカメラで視点が固定される状況で『インタビュー』を観てみて思ったのです。「私、自分が思っている以上にシンクレアばっかり見てて先生あんまり見れてないな」と。…ごめんなさい、先生。

 そんな反省も踏まえていつもより意識的に視線を向けて観たゴンミョン先生。ゴンミョンさんのユジン・キム先生は演技派な精神科医というイメージ。ミステリーやスリラーが結構、いやかなりお好きなのではと思わせる節があります。実際に刑事事件の捜査の一環として精神鑑定を担当する精神科医の先生はそんな捜査目的のお仕事ばかりをしているんでしょうか?そしてゴンミョン先生は実は熱くて優しい先生ですが、表向きは結構いけず。「シンクレア・ゴードン」を名乗ってたマットが自身の正体をほのめかしてからの二人のやり取りは積み上がっていく緊張感が堪らないですが、よくよく考えてみるとこれだいぶ先生が悪ノリしていますよね?(←)マットは加害者であると同時に被害者でもあるので、「シンクレア・ゴードン」の名前の書かれたノートをマットが所持している理由を問い詰める場面で、ゴンミョンさんのユジン先生がノートで小突きながら語調を荒らげて迫る部分では、すごく見ていられないような気分になります。この日のギョンスさんマットはとてつもなく闇が深い感じの役作りだったので、より一層物語の後半になって先生の後悔を感じる部分がありました。

 言い換えると、ゴンミョンさんのユジン先生は私が観たユジン先生の中で「気難しくて皮肉屋の推理小説作家のユジン・キム」のペルソナを演じていることが一番はっきりとわかりやすいユジン先生。ゴンミョン先生は表に出ている人格がマットからジミーに変わった瞬間から感じられる先生の戸惑いや焦りの感情がわかりやすく、そういう人間臭さも強く感じるユジン先生です。

スヨンさんのジョア

 ゴンミョンさんのユジン先生と同じくライブ中継された公演に出演していたスヨンさん。彼女のジョアンは生中継の視聴分を含めると3回目になるのですが、観る度に若いのに上手いなぁと感じる女優さんです。ミュージカル『風と共に去りぬ』をTV番組の公開オーディションで決めたMBC「キャスティング・コール」で決勝戦まで勝ち残った鳴り物入りの新人女優さんの彼女。私は番組の全部を観たわけではないですが、「キャスティング・コール」で募集していた『風と共に去りぬ』のスカーレット役より『インタビュー』のジョアン役のほうが彼女の良さが引き出される気がします。

 そんなスヨンさんのジョアンですが、彼女が演じるジョアンはマットに対する罪悪感を明示的に感じるジョアンです。生きていくためになりふり構っていられない必死さを感じるスヨンジョアンですが、必死ながらも狂気に取り付かれているわけではなく。自分のためにマットを利用していることの自覚があり、それに対して後ろめたい気持ちがありながらもそうせざるを得なかったと感じる部分にスヨンさんのジョアンの悲しさがあります。「人形の死」の曲中でマットに対して

넌 미쳤어!
お前は狂ってる!

と叫んでいたスヨンさんジョアン。狂わずにギリギリのところで踏みとどまっている彼女の強さ、マットを利用していることを後ろめたさを隠せない彼女の弱さのどちらもマットがあれほどにジョアンを愛した理由のひとつなのかもしれないな、と思いました。

ギョンスさんのシンクレア

 今回で4回目となるギョンスさんが演じるシンクレア。公演の度に違う要素が取り入れられて公演の度に違う印象を与えてくれるギョンスさんのシンクレアですが、8月25日のソワレはマットの闇の深さと狂気を感じるジョアンへの愛情が印象的な回でした。

 先月末の観劇レポでは、「シンクレア・ゴードンはマットの中の人格の一人か否か?」という疑問を提示したのですが、今回の観劇で私が感じたその問いに対する答えは「否」。ユジン先生に『人形の死』の単行本にサインを貰ったギョンスシンクレアはうれしそうに紅潮しながら「うわぁ」「わぁ、ありがとうございます」と発声。その直後に笑顔でワントーン低い声での「質問をひとついいですか?」、そしてその後の何かに取り憑かれたような豹変っぷり。これらが同じ人物だと納得してしまうほどの鬱屈した闇の深さをこの日のギョンスマットには感じたのです。ただし、「シンクレア・ゴードン」を名乗るマットに対するノーネイムの干渉を感じるのは先月末の観劇と同じで。記憶への干渉によってひどく不安定になっているマットの人格がさらに複雑に分裂されているようにも感じました。

 ユジン先生に噛み付きそうな勢いのギョンスマット。「ジョアンの話」の曲中で彼女を見つめ、抱きしめるその貌はどうしようもなく愛する人に向ける「男」のもので。そのただならぬ空気にゴクリと生唾を飲みました。考えてみれば、金髪の教育実習生のシンクレア・ゴードンは干渉されたマットの記憶の中ではジョアンの命はもちろんその心を奪っていた憎き相手。人畜無害を装って相手の懐に潜り込んでから絶望に陥れてやろうと思うだけの動機がギョンスマットにはあるんだとなんだか納得してしまいました。

 あまりにもマットが殺気立っているため、ジミーが随分と落ち着いているように感じたのもこの日の特徴。煙草を咥えたままその灰を撒き散らしながら話すイメージがついていたギョンスジミーですが、この日は煙草を咥えながらあまり話さず、マイペースにゆっくりと煙を肺に満たすような雰囲気。両手の指を鳴らしながらライターを要求したり煙をユジン先生の顔に吹きかけたり、ガラが悪いのは変わらずなのですが。「一度も吸ったことありません」とマットの真似をする小馬鹿にしたように言う台詞も、いつもだったらマットのナイーブさを揶揄するように聞こえるのに、今回ばかりは「あいつはとんだ嘘つきだな」と言っているようにも聞こえて。そんなガラが悪いながらも落ち着いているジミーが声を荒げるのは、自分を怯えたような目で見るジョアンの記憶を回想している最中、ユジン先生がジョアンを殺害したのは誰だと詰め寄るとき。この部分についても色々と思うことがたくさんあるんですが、長くなりそうなので次回のギョンスさんジミーのレポートに回したいと思います。

 いろいろと記録に残しておきたいことは他にもたくさんあるんですが、この日の私的なハイライトは物語後半のジョアンの呼びかけに応えてマットの人格が目覚める直前から再びノーネイムの干渉を受けて、マットが取り戻した記憶が再度封じられるまで。マットの人格が表に浮上してから、それを抑え込むためにノーネイムらが次々に入れ替わっていく演技がいつも本当に鳥肌が立つくらい素晴らしいのですが、この日特に印象に残ったのが、ノーネイムと激しく言い争うジミーが「マットの幼年時代の話をクズ作家に告げ口したのは」

내가 아니야! 내가 아니야!
俺じゃない!俺じゃない!

내가 아냐! 내가 아냐! 내가...!
俺じゃない!俺じゃない!俺じゃ...!

と影を踏みつけるように大きな音で足を踏みならした後にマットの人格が再び浮上して、冒頭でシンクレアを名乗っていたマットが「僕にも似たような経験があります」と話していた時2と同じように

이건 내가 아니야...
これは僕じゃない...

と震える声で頭を抱えて呟いた後に、悲痛な泣きそうな声で

도와주세요... 도와주세요...
助けてください... 助けてください...

제발 좀 도와주세요!
お願いだから少し助けてください!

と言った後、

죽고 싶어... 죽고 싶어... 죽고 싶어...
死にたい...死にたい...死にたい...

と3回ぐらい消え入りそうな声で呟いていたのがあまりにも痛々しくて。その後の台本にも書かれている幼い約束の日に立ち戻ったマットの「助けてください」(살려주세요) の台詞が直訳すると、「生かしてください」という意味なのも痛烈な皮肉のように感じました。あまりに深いギョンスマットの心の闇。

 ジョアンが「話があるの」とマットに打ち明けるときのギョンスマットの表情も目が不安に揺れて表情も強張っていて、ジョアンが自分を裏切ることを予感していることが如実に感じとられて。ロンドンに行くという彼女に対して「じゃあ僕は?」と聞くまでは穏やかでも、ジョアンが自分を捨てるつもりだという言葉を聞くと「お願いだからしっかりしてくれ!」と叫び、「ずっと僕のそばにいてくれると約束してくれたじゃないか」と詰め寄る言葉も、いままで観たどのマットよりも静かな怒りと絶望に満ちていて。涙を流した後に狂気に捕らわれたようにジョアンを殴り、自分が言った通りにジョアンが魂のない「人形」になってしまった後、マットは「姉さん」ではなく、何度も「ジョアン」と名前で彼女を呼んでいて。なんというか、マットのジョアンに対する歪んだ愛の深さにこれでもかというほど打ちのめされました。

 そんなギョンスマットなので、ユジン先生が

아이가 괴물이 되어도 원하는 건
(その)子が怪物になっても望んだことは

아주 작은 집
とても小さな家

그게 전부
それがすべて

と歌っても、「本当にそうなんだろうか。そんな簡単な話じゃないくらいもう色々と拗れまくっているんじゃないか」と思ってしまうという鬱展開。マチネがかなり希望が見える終わり方だっただけに救いがなさすぎて、抉られすぎてつらかったです...。

ギョンスウッディ対ゴンミョン先生

 パターン化されてきたずどーんと重くなった空気を変えるためのウッディ対先生の対戦結果ご報告。先攻はゴンミョン先生。やたらとご機嫌な猫なで声で「ウッディ〜!」と遠くから呼び掛けるものの、警戒心を強めるギョンスウッディ。ギョンスウッディはおとなしく、エア鉄砲を先生に仕掛けたりはしないのですが、この日はノートを巡る攻防がやたらと長かったです。自分のすぐそばを手で指し示して「ここに置いて」との仕草をするウッディに対して、少しずつしかノートをウッディの方に寄せてあげないゴンミョン先生。焦らし作戦が功を奏してか、この日はかなりウッディに接近することに成功し、そのままウッディのお絵描きタイム見守りモードに移行していました。ギョンスウッディはマザーグースの子守唄を歌いながらお絵描きしつつ先生の質問に答えるのがかわいい...。

カーテンコール

 カーテンコールで役者さんが登場する順番はジョアン役、ユジン先生役、シンクレア役の順。シンクレアを名乗るマットと同じように眼鏡をかけた状態で登場するギョンスさんですが、そのままの状態で客席に向かってお辞儀をした後、眼鏡をとってきているジャケットの内ポケットにしまった後に改めてお辞儀をします。ジョアン役のスヨンさんとギョンスさんがハグした後には組み合わせとして最後になるギョンスさんとゴンミョンさんが熱いハグ。ゴンミョンさんはその後、ギョンスさんとは反対にしまっていた眼鏡を取り出してかけてお辞儀をしてみて客席の笑いをとっていました。ずどんと重くなっていた心に癒しをありがとう、ゴンミョン先生!ギョンスさんですが、この日はノーネイムの人格が表に出てきたときにユジン先生の机に置かれていたユジン先生の眼鏡をかけて、しばらくそのままの状態でずっと話をしていました。これもペアマッコンならではのちょっとしたお遊びだったのかな?(笑)かなり抉られる鬱展開ではありましたが、組み合わせ千秋楽ならではのとても熱量の高い舞台を観れて本当に良かったです。

 

[2021/2/26修正]

 先生の名前の表記を英語風読みのユージン・キムから来日公演時に発売されていた台本準拠のユジン・キムに訂正しました。


  1. マッコンをハングルにすると막공。「最後の公演」という意味の 마지막 공연(マジマク コンヨン)の略語と思われ、千秋楽のこと。ペアマッコンはキャストの組み合わせの最終公演。

  2. 「僕にも似たような経験があります」と冒頭に言っていたときも「これは僕じゃない…助けてください」(이건 내가 아니야…도와주세요) とギョンスシンクレアは言います。