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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』(어쩌면 해피엔딩, Maybe Happy Ending) @ DCF Daemyeong Culture Factory, Seoul《2019.1.1ソワレ, 2019.2.9ソワレ》

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 2019年の観劇2作品目は韓国創作ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』(어쩌면 해피엔딩, Maybe Happy Ending) をチョイスした年末年始の観劇旅行。初演から爆発的な人気で観客から愛され、日本でも独自演出で2回上演されたこの作品。韓国の初演の終盤、アンコール公演ではそのあまりの人気っぷりにチケットが瞬殺で完売。そんなこともあり、日本公演は2回とも観劇しながらも韓国では観れずに悔しい思いをしていたのですが、今年に入ってやっと念願叶ってソウルでおへぷ1を観ることができました。その約一ヶ月後の千秋楽間際にも観劇したこの作品。私が観劇した回のキャストのみなさまは下記のみなさまでした。

  1. [2019.1.1 ソワレ]
     オリバー:ムン・テユさん
     クレア:パク・ジヨンさん
     ジェイムズ:クォン・ドンホさん
  2. [2019.2.9ソワレ]
     オリバー:シン・ジュヒョプさん
     クレア:パク・ジヨンさん
     ジェイムズ:ヤン・スンリさん

 作品のあらすじや物語の流れは初めて『メイビー、ハッピーエンディング』2を観た2017年5月の東京公演の観劇レポに書いていますので、気になる方はこちらをどうぞ。

 2回とも塗るつけまつげが綺麗さっぱり流れてなくなるくらい泣いたのに、長いこと感想を書くことをサボってしまったのでディテールを書き留めておけないのがすごく悔しくてしょうがないのですが、当時のツイッターのツイートなんかを参考にしながら印象に残っている部分を書いてみたいと思います。

(以下、ネタバレが含まれますのでご注意ください)

 1回目のオリバー役はムン・テユさん。クレア役は2回ともパク・ジヨンさん。韓国のミュージカル俳優さんの中では小柄なテユさん。ヒールを履いたジヨンさんのクレアとテユさんのオリバーが並ぶと背格好が似ていることから同じ規格の男女のおもちゃの人形みたいでとても可愛かった二人。テユさんのオリバーがどこかゼンマイ仕掛けの人形めいてカクカクしていることや、ジヨンさんのクレアが大きな目を縁取るバシバシの睫毛を瞬く仕草がやっぱりお人形さんみたいで二人ともおもちゃの国の住人のようだとずっと思っていました。

 意地っ張りでちょっと偏屈でコミュ障だけど純粋なオリバー。テユさんのオリバーで一番印象に残っているのはその感情表現。ジャズの月刊誌と一緒に届くはずの交換部品が届かず、郵便配達のおじさんがヘルパーボット5の部品の製造中止をオリバーに伝えた後、戸惑って少し変な顔をするテユさんのオリバー。それはまるでオリバーが「悲しい」という感情に初めて出会った戸惑いのように感じました。「悲しい」けど、「悲しい」という気持ちがよくわかっていないからそれを表現できないオリバー。チェジュ島への冒険を経てクレアと心を通わすうちにどんどん感情表現が豊かになっていくテユさんのオリバー。その悲しみの表現は床に手をついて泣き崩れるまでに。クレアの寿命が近づいていくのを感じるとともに悲しみの表現ばっかりが人間らしくなっていくのが本当に切なくて胸が痛かったです。

 シン・ジュヒョプさんのオリバーは物語の序盤での小さな男の子のような明るい子供っぽさが印象的だったオリバー。テユさんのオリバーが終盤に向けて感情表現がどんどん人間らしくなっていくのに対して、ジュヒョプさんのオリバーはクレアに向ける愛情表現がどんどんと大人っぽくなっていくように感じました。

 ジェイムズ役のクォン・ドンホさんとヤン・スンリさんはお二人とも堂々たる体躯の長身で、ざっくりニットの上着に蝶ネクタイ、人の良さそうな笑顔がなんだか大きなくまさんのぬいぐるみみたい。その大きな胸にズボッと埋まってハグされたい包容力を感じるジェイムズでした。

 細い手足と大きな目が印象なジヨンさんのクレアは多感な少女のようなのにどこか達観しているように感じるクレア。オリバーが純粋に人を信じて慕う様子に少しずつ惹かれていく様子がとてもわかりやすく、二人の物語を観ている観客たちの心に寄り添うなクレアでした。ジヨンさんのクレアでとても好きなのは物語のラストの演技。オリバーの部屋に招かれ、座った彼女の目の前のテーブルに置かれた「植木鉢くん」。「植木鉢くん」を見て、本当にとても控えめに微笑んでみせるジヨンさんのクレア。クレアが記憶を残していたと解釈したい人にとっても、記憶は消去したけど何かが彼女に残っていると解釈したい人にとってもどちらにでも受け取れそうな絶妙なラインの演技。観客それぞれの「もしかしたら」に委ねさせてくれる演技が凄く好きでした。

 めちゃくちゃ泣けて、でも最後には心温まる気持ちで劇場を後にできるこの作品。やっぱり素敵な作品だと思うので、また再演された際にも観たいと思います。

[2019.11.2追記]

 2020年8月にシアタークリエにて浦井健治さん主演で翻訳公演がされることが発表されましたね!翻訳公演のタイトルが『メイビー、ハッピーエンディング』と改まったことを受けて、本記事中に記載のタイトルも見直しを掛けました。人気ミュージカル俳優の浦井さんが主演ということでかなりチケッティングは激戦になりそうですが、本当に素敵な作品だし、日本版は上田一豪さんが演出を担当されるということなので是非観に行ってみたいなと思っています。


  1. 韓国語のタイトルの読みが「おっちょみょんへぴえんでぃんぐ」なのでそれを略して「おへぷ」(어햎) と韓国のミュオタの間では呼ばれているようです。

  2. 当時の来日公演では、『メイビー、ハッピーエンド』という作品タイトルで上演されていましたが元は同じ作品です。(ただし演出は異なります)