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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『マリー・キュリー』(마리 퀴리, Marie Curie) @ Daehakro Art Theatre, Seoul《2019.1.2マチネ》

 2019年の観劇3作品目は大学路芸術劇場1でトライアウト公演中だった新作の韓国ミュージカルマリー・キュリー』(마리 퀴리, Marie Curie) を観てきました。私が観た回のキャストのみなさまは上記のキャストボードの写真の通り、

 マリー・キュリー:キム・ソヒャンさん
 ピエール・キュリー:パク・ヨンスさん
 ルーベン:チョ・プンレさん
 アンヌ:キム・ヒオラさん
 ジョシュ:キム・アヨンさん
 ポール:チャン・ミンスさん
 アメリ:イ・アルムソルさん

のみなさまでした。

 まずはplayDBに掲載されているミュージカルのあらすじをざっくり翻訳したものからご紹介します。

1903年、フランス・パリ。
マリー・キュリー》と《ピエール・キュリー》は長年の研究の末、新しい放射性元素ラジウムを発見しノーベル物理学賞を共同受賞する。 マリーの研究を支援してきた事業家《ルーベン》はラジウムを商業化して大きな成功を収める。折良く、キュリー研究所ではラジウムの疾病治療効能が見つかり臨床試験に拍車がかかる。

しかし、ルーベンの工場で働く工員《アンヌ》が書いた手紙一枚によって状況が変わることになる。 職工たちの死がラジウムのせいだと思っているアンヌは真実を明らかにするためにルーベンを告訴し、マリーとピエールはラジウムの危害性に対する証言でお互いに立場が分かれるが...

(以下、ネタバレを多く含みますのでご注意ください)

(2023/3/15追記)『マリー・キュリー』はトライアウト公演から本格的な商業公演に移る過程でかなり手が加えられており、この感想はトライアウト公演時点での、韓国語理解が不十分な人間が書いている内容であることをご留意ください。

 観劇した日からすでに4ヶ月ぐらい経ってしまったのでだいぶ記憶が薄らいでしまって記憶がだいぶ怪しい部分もあるのですが、正直な全体的な感想としては「俳優さんの演技は凄く良かったけど、脚本と音楽に物足りなさを感じる」でした。

 マリーとピエールの夫婦が二人の研究室でラジウムを発見する場面から始まり、二人がノーベル賞を受賞するまでがミュージカルの序盤部分。「私は《キュリー夫人》ではなく《マリー・キュリー》だ」と歌うナンバーが序盤のハイライトでもあることから、近頃韓国ミュージカルで一大ムーブメントになっている女性をエンパワーメントするミュージカルというのが基本的なコンセプトなのだと思いますが、その物語の流れが「女性をエンパワーメントするような内容になっているのか?」と聞かれるとどうしても首を捻らざるを得ない内容なのがこの印象の背景にある気がしています。

 マリーとピエールが発見したラジウムを蛍光塗料として使い、ラジウム時計で一財産を築いたルーベン。そのルーベンが所有するポーランドの工場で働いていた姉アメリの勧めもあり、同じように時計工場で働くことになるアンヌ。キャストボードの写真の大きさからはそんな感じは全くしないですが、このアンヌが『マリー・キュリー』の第二の主役と言って差し支えないくらいの重要人物です。アンヌの姉のアメリを始めとし、次々と原因不明の病によって命を落としていく時計工場の工員たち。職工たちの死にラジウムが関わっているのではと疑ったアンヌはそれを訴える手紙をルーベンとキュリー夫妻宛に送ります。名声を得た女性研究家であるマリーに憧れを抱いているように描写されているアンヌ。しかし、ラジウムの可能性を信じているマリーと、アンヌの訴えからラジウムの危険性を無視できないとピエールは意見が対立。さらにラジウムの研究に没頭していくマリー。ピエールは苦慮の上、マリーに内緒で自身を被験体としてラジウムの効能を調べる実験に踏み出します。アンヌとも連絡を取り合っていたピエールは、彼女がルーベンを訴える裁判で職工たちの訴えを後押しする立場で証言台にも立つことになります。夫婦がすれ違う中で突然訪れたピエールの死。愛する夫の死にマリーは悲しみに明け暮れますが、さらに科学者として研究に邁進していくことを決意し、幕。私の韓国語力にかなり難がある上に記憶がだいぶ怪しいのであまり参考にならないですが、だいたいミュージカルの物語としてはこんな流れだったと思います。

 主演のソヒャンさんは演技も歌も本当に素晴らしかったです。凛として力強く自分の信念を貫き続けたマリーを好演。それだけに、脚本と私の韓国語力不足のせいでマリーの人生のどの部分にフォーカスして彼女の生き様を伝えようとしたのかがボンヤリしてしまったのがとても惜しく。ピエール役のヨンスさんの演技で特に印象に残ったのが終盤の裁判の場面でわずかながら足を引き摺って歩く姿。「自身を実験体にした後遺症なのかな?」と思わせる細かいけど自然な演技に舌を巻きました。プンレさんのルーベンの冷酷な実利主義者ならではのいやらしい感じも秀逸だったし、第2のヒロインであるヒオラさんの芯の強い女性像もとても良かったです。

 でもなんか全体的に構成の緩急のつけ方がイマイチだったんですよね...。これといって耳に残るミュージカルナンバーもなく。マリー・キュリーという女性科学者を主人公に据えるという試みと、女性をエンパワーメントする女性が主人公の小劇場作品を韓国ミュージカルの幅広いラインナップに加える流れ自体は全力で応援したいと思っているので、トライアウト公演のフィードバックを元により良い作品にしていただきたいなと願っています。


  1. 旧アルコシティー劇場。『マリー・キュリー』の公演が行われたのは大劇場の方です。