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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】演劇『報道指針』(보도지침, Report Guideline) @ TOM Theatre, Seoul《2019.4.28-2019.6.30》

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ここは法廷であり広場であり劇場です。
이곳은 법정이자 광장이자 극장입니다.

 劇中の台詞を引用した「女」役の女優さんの凜とした声のアナウンスを合図に開始される演劇『報道指針』(보도지침, Report Guideline)は1980年代に韓国で起きたとある事件を元にした法廷ドラマです。その題材からして難解なことが予想されていながらも、キャスティングされた実力派の俳優陣、報道の在り方と言論統制という今の日本に置き換えてみても色々と考えさせられる面白いテーマに惹かれて観劇したこの作品。言葉の壁にぶつかりながらも俳優さんたちの熱量の高い演技に胸が熱くなり、わけがわからないままに涙を流した初観劇。2回、3回と観劇回数を重ねていくうちに理解できる部分が増えていき、あれよあれよと言ううちに俳優さんたちの演技だけではなく、演劇と言葉の力を信じる心が伝わってくる脚本にどんどんと魅了されていきました。叶うならば日本でも観られたならと願わずにいれない舞台です。

 私が今シーズンの『報道指針』を観た回数は全部で4回。その日程とキャストの組み合わせは下記の通り。

  1. [2019.4.28 マチネ]
     ジュヒョク:パク・ジョンボクさん
     ジョンベ:カン・ギドゥンさん
     スンウク:オ・ジョンテクさん
     ドンギョル:アン・ジェヨンさん
     ウォンダル:ユン・サンファさん
     :チェ・ヨンウさん
     :イ・ファジョンさん
  2. [2019.6.2 ソワレ]
     ジュヒョク:イ・ヒョンフンさん
     ジョンベ:チョ・プンレさん
     スンウク:オ・ジョンテクさん
     ドンギョル:アン・ジェヨンさん
     ウォンダル:ユン・サンファさん
     :チャン・ギョクスさん
     :イ・ファジョンさん
  3. [2019.6.15 ソワレ]
     ジュヒョク:イ・ヒョンフンさん
     ジョンベ:キ・セジュンさん
     スンウク:ソン・ユドンさん
     ドンギョル:アン・ジェヨンさん
     ウォンダル:ユン・サンファさん
     :チェ・ヨンウさん
     :イ・ファジョンさん
  4. [2019.6.30 ソワレ]
     ジュヒョク:イ・ヒョンフンさん
     ジョンベ:キ・セジュンさん
     スンウク:オ・ジョンテクさん
     ドンギョル:アン・ジェヨンさん
     ウォンダル:チャン・ヨンチョルさん
     :チャン・ギョクスさん
     :キム・ヒオラさん
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2019.4.28 マチネ, 2019.6.2 ソワレのキャストボード
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2019.6.15 ソワレ, 2019.6.30 ソワレのキャストボード
 

 4回でクァン・ドンホさんのドンギョル以外は全キャスト制覇。ドンホさんも観たかったのですが、枠を確保することが叶わず残念。1回しか観ることができなかった俳優さんたちもできたら複数回観たかったと思わせる個性あふれる配役でした。

作品紹介

 冒頭でも書いた通り、『報道指針』は実際に韓国で起きた事件とその裁判に発想を得て創作された演劇作品です。この実際にあった事件というのが、1986年の全斗煥(チョン・ドゥファン)政権のもとに発令された「報道指針」の存在を韓国日報のキム・ジュオン記者が月刊誌『言葉』(말)1 にて暴露したことが罪に問われて裁かれた事件。この事件に関わった言論人は国家保安法違反で拘束され、9年後の1995年に最高裁判所で無罪判決を受けます。しかしながらこの事件自体が政府から発信された「報道指針」によって報道されることがありませんでした。

 キム・ジュオン記者をモデルとした物語の中心人物のキム・ジュヒョク、ジュヒョクに賛同して「報道指針」の告発記事を掲載した月間『独白』(독백) の編集長のキム・ジョンベ、彼らが裁かれる裁判で弁護士を務めるファン・スンウク、ジュヒョクとジョンベの罪を追求する検事チェ・ドンギョルの4人に彼らが大学時代の演劇サークルの同期で仲間であったという設定を与え、さらに4人の運命を握る事件の判事ウォンダルも4人の恩師で演劇サークルの大先輩であったということを前提に繰り広げられる『報道指針』の物語。「男」、「女」役の2人の俳優はその時々に応じてジュヒョクらの大学時代の先輩、新聞社の同僚、狂言回しなどの役を演じます。2016年に初演が演じられ、今回の2019年の公演は2017年に続いてソウルでは三度目のシーズン。2017年に引き続き、脚本を書いたオ・セヒョク氏が演出も担当しています。

(以下、ネタバレが多く含まれるのでご注意ください)

法廷であり、広場であり、劇場

 舞台はジュヒョクとジョンべが「報道指針」の存在を暴露する記事を『独白』に掲載したことを発表する記者会見の場面から始まります。この場面で観客たちはその記者会見に参加する報道陣。実際に記者会見の様子を撮影することを「女」によって促され、おもむろに周囲が一眼レフや手持ちのスマホでシャッターを切る音を聞きながら自分自身もデジカメのファインダー越しにジュヒョクとジョンべの姿を覗いてみると、不思議な臨場感に包まれていきます。周囲が暗くなり、ジュヒョクとジョンべに当たるスポットライト。

 ある日から新聞社に届くようになった「報道指針」のファックス。「この単語は必ず使うように」、「この写真は絶対使うな」。誰が何のためにこのようなファックスを送ってくるのか。真実を知るために「報道指針」の存在を暴露する本を公表することを高らかに宣言し、二人が紙の束を宙へとばら撒く場面はまるでスローモーションで再生される映画のワンシーンのように強く印象に残ります。

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 暗転後、舞台はジュヒョクとジョンベが裁かれる法廷の場へ。観客の拍手を受けて裁判官、検察官、弁護士、二人の被告人が入場し、揃い踏みする裁判の登場人物たち。いよいよ国家保安法違反の罪に問われているジュヒョクとジョンベの裁判の開始です。

4人の出会い

 裁判が検察官からの被告人質問へと移った時にドンギョルがジョンべに対して発した、キム・ジュヒョクとキム・ジョンベはどのように出会ったのかという質問。ここで、この作品の一つのキーフレーズになっている

정말 몰라서 묻습니까?
本当にわからなくて聞いているのですか?

の登場です。検事チェ・ドンキョルはキム・ジュヒョクとキム・ジョンベが大学時代にどのように出会ったかよくご存知じゃないですか。検事、どうなんですか答えてください、と剣呑な目つきでドンギョルに問うジュヒョク。

돈결아, 대답해봐!
ドンギョル、答えてみろ!

とジュヒョクが語気強く言ったことを合図に舞台は同じ言葉が発せられた過去へ。時は4人が大学生だった頃、大学の演劇サークルで初めて顔を合わせたドンギョル、スンウク、ジョンベ、そしてジュヒョク。『報道指針』は全体的に緊迫した雰囲気のシリアスな場面が多いですが、随所に笑える場面も盛り込まれていて。そんな笑いの要素が比較的多いのがジュヒョクたちの大学時代の場面です。サークルの先輩に促されて、それぞれが演劇で実現したいことを大声で叫ぶことになる4人。


2019年プレスコールより
 

 裕福な家に育ち、飢えを知らずに勉強ばっかりをしてきた自分が嫌いだというドンギョルは演劇では乞食や盗賊や革命家になりたいと言い、同じように勉強ばかりしていた貧しい育ちのスンウクは両親の期待を重荷に思い、それを振り払うために勉学に打ち込んだ自分が嫌いだと言い、演劇では貴族にも浮浪者にも詩人にもなりたいと言います。毎日お酒が飲めて綺麗な人が多いと聞いたからサークルに入ったと言う道楽者のジョンベ。「酒を飲むことによって無意識が表出して演劇の精神が現れるだなんて納得がいかない」と先輩に食ってかかり、「昼のうだる暑さは試練だ」と言うストイックでマイペースなジュヒョク。性格も出自もそれぞれに全然違う彼らは、演劇サークルで熱く議論を交わし、先輩にしぼられ、お酒を飲んでクダを巻きながら普通の大学生らしく友情を深めていきます。

 考え方が似ていながらも育ちが対照的なドンギョルとスンウクに、性格も考え方も全く違うジョンベとジュヒョク。育ち以外は共通点が多く、仲が良かったドンギョルとスンウクが裁判で主張を逆にする検察官と弁護士という対立する関係になったのはなぜか。水と油と言えるくらいキャラが正反対だったジョンベとジュヒョクが志を同じくする同士とした立ち上がることになったのはなぜか。彼らが置かれた境遇と、関係性の変化をどう読み解くかが演劇『報道指針』の鍵になっていると感じます。

独白

 演劇サークルで彼らが学んだことのひとつが「独白」。「男」役の先輩がお手本で示して見せた『ハムレット』の独白を再現してみせるドンギョル、いつも持ち歩いている手帳に書いた日記から両親との思い出の話を選んだスンウク。「すみません!準備ができませんでした!」と言って居直ったジョンベのせいで連帯責任で罰を受けそうになった4人に手を差し伸べたのは彼らの憧れの先輩。彼女はチャップリンの映画『独裁者』の有名な演説の台詞をジョンベに紹介し、ジョンベに「この言葉を誰に伝えたい?」と問いかけます。


映画『独裁者』よりチャップリンが演じる演説場面
 
 

 それはお気楽でいい加減に見えるジョンベの心に火が灯った瞬間。「独白」の持つ力に魅了され、だんだんと熱のこもっていくジョンベの「独白」は裁判で証言をする彼の姿へと繋がっていきます。後に月間『独白』は発行部数も少ないし、国家保安に影響があるとも思えませんと力なく言うジョンベ。裁判中、スンウクに「力がないと思うのなら、なぜ発行したのですか?」と問われ、ジョンベは「そうしないと死んでしまうような気がしたから」だと答えます。

知っていることを知ってると言えること

 劇中で印象的だった場面の一つは証人尋問の場面。証人として呼ばれるのは「男」、「女」がそれぞれに演じるジュヒョクの新聞社時代の同僚たちです。「男」が演じるのは、ジュヒョクの先輩、あるいは上司と思われる新聞記者。「指針」に従うことに反抗するジュヒョクに対し、おとなしくファックスで送られてくる「報道指針」に従うように指示する先輩記者。そんな新聞社に出入りしていた謎の黒服の人物たち。

균형, 균형, 균형!
均衡、均衡、均衡!

전직대통령의 비자금 게이트가 실리면
인기 가수의 마약 게이트가 실리는 게 균형이야.
元大統領の裏金が発覚したら
人気歌手の麻薬所持事件が載るのが均衡だ

(中略)

모든 국민은 모든 뉴스에 대해 알 권리가 있잖아?
すべての国民はすべてのニュースを知る権利があるじゃないか?

어떤 기사에 더 열광할지는
국민이 자유롭게 판단할 수 있잖아?
どんな記事に熱狂するかは
国民が自由に判断できるじゃないか?


演劇『報道指針』のハイライト動画
 

 ジュヒョクと同じように疑問を投げかけた結果、黒服の何某から拷問を受けたと思われるジュヒョクの先輩記者。先輩記者はドンギョル検事の厳しい追求にフラッシュバックするトラウマを振り払うように、感情が抜け落ちたような表情で「新聞社に出入りしていた黒服の人たち」の存在を否認します。

 「女」役の俳優さんが演じるのはジュヒョクの新聞社で働く事務員と思われる女性。彼女は毎日送られてくる「報道指針」のファックスを受け取る係でした。ジュヒョクに頼まれ、送られてきたファックスが綴じられたファイルをジュヒョクに渡す彼女。やがてそのファックスは月間『独白』に掲載され公表されることになります。彼女は、自分たちが必ず守るから裁判では自分の知っていることを正直に証言してくれるだけでいいとジュヒョクとスンウクに言われます。挑戦的で、でも今にも泣きそうな表情で「本当に?」と二人に問う彼女。しかし彼女は涙を必死に堪えながらも、「ファックスなど一度も送られてきたことはありません」と裁判で証言するのでした。

 白いものを白いと言える心理的安全性。それが失われ、良心の呵責に苦しみながらも自分の身の安全のために偽りを口にした彼らたち。正しいと思ったことを貫くことがどれだけ彼らにとって困難なことであるか。私には苦しみながらも自身を守る決断をした彼らを責めることができません。そのように強力な権力に怯えて生きる恐怖、真実を真実として語れない彼らの苦しみ、悔しさを思うと涙が止まらなかった場面です。

俺が責任を取る

 裁判の証人尋問が自分たちにとって完全に不利な結果に終わって意気消沈するジュヒョク、ジョンベとスンウク。スンウクはそんな重い空気を変えるためにジュヒョクとジョンベを飲みに誘います。場面は再度過去へと戻り、彼らが大学卒業後に久しぶりに再会した日の回想へ。ジュヒョクは手に入れた「報道指針」のファックスのファイルをジョンベとスンウクに見せ、それを世間に公表することをジョンベとスンウクに持ちかけます。自分が働いている新聞社で記事を書くことを考えなかったのかとジュヒョクに聞いたジョンベは、ジュヒョクの表情を見ただけでその質問の答えを悟ります。戸惑いや恐れの気持ちを抱えながらも仲間の話に乗る腹を決めるジョンベとスンウク。そこに遅れてやってきたドンギョルが登場します。ジュヒョクから示されたファックスのファイルを書類箱から取り出し、数冊無言で眺めた後に重々しくため息をつくドンギョル。

다시 한번 물을게.
もう一度だけ聞く。

정말 할거야?
本当にやるのか?

 ドンギョルが箱の中身を撒き散らした後、場面はさらに過去へ。書類箱から溢れて床に撒き散らかされたのはファックスが綴じられたファイルではなく、世界各国の劇作家が書いた戯曲の本でした。集められた戯曲はいずれも大学の図書館で禁書扱いになっていた本。その中で、ドンギョルはドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの『ガリレイの生涯』を演りたいと言い出します。演劇サークルの先輩と次回作の選択について揉めているところに登場するウォンダル教授。教授はドンギョルらの選択を聞き、「ブレヒトがどんな人物かお前たちは知っているのか?悪いことは言わん。いいからやめておけ」と言い、脚本を投げ捨てるウォンダル。真実を真実として言うために戦ったガリレオ・ガリレイの物語を演じることの未練が捨てきれない仲間の気持ちを察し、ウォンダルに「それはお願いでしょうか、それとも従うべき指針ですか?」と教授に尋ねるスンウク。それには答えず、ウォンダルはその場を立ち去ります。教授が去って解ける4人の緊張感。韓国は民主主義国家で表現の自由が保証されているのだから、してはいけない演劇もなければ見てはいけない本もないと主張し、自分が責任を取るからと言うドンギョル。そうして彼らは『ガリレイの生涯』を演じることを強行した末、それが問題となり行政安全部に連行されてしまいます。

 口汚く安全部の男に罵られ暴行される仲間と比べて、父が財政界の重鎮であるために明らかに手心が加えられるドンギョル。そんなドンギョルも男に父親の顔に泥を塗っていると罵倒されます。そんな4人の窮地を救ったのはウォンダル教授。彼らはまだ学生で何もわかっていない、自分の顔に免じてどうか彼らを許してやってほしいと膝を折り、土下座をして許しを請うウォンダル。ウォンダルの懇願を受けて、男は「お前たち、エリート先生にこのように頭を下げさせたことをよく覚えていろよ」と言い残し、その場を後にします。恩師によって助けられた4人ですが、ドンギョルはウォンダルのやり方が気に入りません。かつて検察官だったウォンダルがなぜ目の前で犯されている罪に沈黙を選ぶのかを語気荒く追求します。煮え切らないウォンダルの回答に対し、ドンギョルは「だったら貴方は沈黙し続けてください」と言い捨てて去るドンギョル。この大学時代の事件が4人に大きな影を落とし、彼らは異なる道を歩むことになるのです。

最後の独白

 印象的な場面が多い演劇『報道指針』の中でも一番心に残っているのは裁判の最終陳述と最終弁論の場面2。ジュヒョク、ジョンベ、スンウクの順番でなされる彼らの「独白」。それぞれの「独白」が本当に熱いのです。

 自分たちのせいで傷ついたすべての人たちに謝りますと言い、自分は正義に駆られて行動を起こしたのではなく、娘の幸せを祈る平凡な父親だから行動を起こしたのだと泣きながら訴えるジュヒョク。

끊임없이 오늘을 얘기하면서, 시대의 표정을 읽어내려고 애쓰면서,
그 시대의 표정과 함께 분노하고 슬퍼하고 저항하면서,
마침내 언젠가 웃게 될 그 날을 상상하면서.
絶えず今日を語りつつ、時代の表情を読み取ろうと努めながら、
その時代の表情とともに怒り悲しく抵抗しながら、
ついにいつか笑うことができるその日を想像しながら。

계속해서 오늘의 역사를 감당하는 것.
今日の歴史に耐え続けること。

오늘의 무게를 질문하는 것.
今日の重さを問うこと。

그것이 내가 생각하는 언론입니다.
それが私が考える報道です。

우리의 딸들이 어른이 되었을 때는 불합리한 재판이 없는 나라.
私たちの娘たちが大人になった時は不合理な裁判がない国。

제대로 사랑할 수 있는 나라가 되기를 기원합니다.
ちゃんと愛せる国になることを祈ります。

 最終陳述でも「独白」への想いを熱く語るジョンベ。

참 귀한 시간입니다.
本当に貴重な時間です。

독백의 시간이죠.
独白の時間ですね。

이 자리에 모인 여러분들의 얼굴을 잠시 바라봅니다.
この場に集まった皆さんの顔をしばらく眺めます。

다른 시간과 공간에서 각자의 삶을 살다가
이 자리에 모인 사람들.
他の時間と空間でそれぞれの人生を生きて
この場に集まった人々。

기적 같은 시간이죠.
奇跡のような時間です。

이 기적 같은 시간에 우리는
마음속으로 어떤 말들을 하고 있을까요.
この奇跡のような時間に私たちは
心の中でどんな話をしていますか。

 この裁判の記録が残り、いつかきちんと問い質される日が来ることを願うと言った後、大学時代に出会い、自分の心の拠り所であり続けている「指針」について語るスンウク。

생각해보면, 저를 이렇게 움직이게 만든 힘은
언제나 제 자신이 아니었습니다.
考えてみたら、自分をこんなに動かす力は
いつも私自身ではありませんでした。

언제나 강력한, 아름다운 지침이 있었습니다.
いつも力強い、美しい指針がありました。

책이 있었고, 신문이 있었고,
연극이 있었고, 선배와 스승이 있었고,
그리고 이제는 저기, 제 친구 주혁이와 정배.
本があって、新聞があって
演劇があって、先輩と師匠がいて
そして今はあそこに、私の友達のジュヒョクとジョンベ。

이토록 강력하고 아름다운 지침들이 하나 둘 늘어나면,
우리는 그 어떤 아름답지 못한 지침에도 길을 잃지 않을겁니다.
こんなに強力で美しい指針が一つ二つ増えれば
我々はいかなる美しくない指針にも道に迷いません。

그렇게 믿습니다.
そう信じています。

 ジュヒョクとジョンベの名前を挙げ、彼らの顔を眺めた後、じっとドンギョルを見詰めるスンウク。「信じているから」と言わんばかりに目を細めて笑顔を見せるユドンさんのスンウクに、祈るような眼差しを向けるジョンテクさんのスンウク。静かな、でも僅かに熱がこもっているように感じるジェヨンさんのドンギョルが返す視線とともに心に刻まれています。

終幕

 ウォンダルがジュヒョクとジョンベに下した判決は求刑で挙げられた罪状と比較するとあまりにも短くて軽い刑期。無罪なのか有罪なのかを明言しない裁判官に対し、ドンギョル、スンウク、ジョンベ、ジュヒョクらはその意図を問います。投げかけられる疑問の言葉劇中に一度発せられたことのある言葉ばかり。しかしここでも沈黙を選ぶウォンダル。そして学生時代の事件の後に教え子たちに向けて言った言葉をまた口にします。

이제 다들 어디로 갈건가
いま みんなどこに行くのだろうか

 結論を出さないラストは否応なしに観客に自分ならどうするかを問いかけます。ジュヒョク、ジョンベ、スンウクのように自ら立ち上がることはできるだろうか。そこまではできないとしても、自分にできることは何かないだろうか。

연극은 시대의 정신적 희망이다!
演劇は時代の精神的な希望だ!

 「もみの木」のハミングと併せて劇中で何度も登場する演劇サークル時代の彼らの合言葉。この演劇『報道指針』を観ると、このような演劇が演じられ、観客に疑問と問題提起を投げかけられる世の中に生きていることに感謝したい気持ちに溢れてきます。演劇、人の言葉が与える影響、力を信じて、思いの丈を発信続けてくれる舞台人たちがいることも。確かに演劇は時代の、私の精神的な希望だと私も感じるのです。この観劇レポートを書くこと。それがささやかながら私ができることなのかもしれません。


  1. 말 (マル) は韓国で「言葉」以外にも「話」などの意味があります。

  2. 演出の都合か、日本と韓国で刑事裁判のお作法に違いがあるせいかわかりませんが、ジュヒョクとジョンベの最終陳述の後にスンウクの最終弁論が、その後にドンギョルの論告、求刑が述べられます。