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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』(전설의 리틀 농구단) @ Seokyeong University Performing Arts Center, Seoul《2019.9.15ソワレ》

 個人的に作品選びに絶対の信用を寄せているアン・ジェヨンさんが出演ということで観るのをとても楽しみにしていた韓国創作ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』(전설의 리틀 농구단, 以下、バスケ団)。今年に入ってから新しくきれいになってオープンした西京大学校公演芸術センターSKON2にて上演され、2019年9月10日から9月15日までのプレビュー期間の最終公演を早速観てきました。私が観劇した回のキャストのみなさんは以下の通り、

 ジョンウ:アン・ジェヨンさん
 スヒョン:ソン・ユテクさん
 サンテ:シン・チャンジュさん
 スンウ:ク・ジュンモさん
 ダイン:イ・ジュスンさん
 ジフン:キム・チャンさん

でした。

2019.9.15 ソワレのキャストボード ロビーのキャストボードの隣にある黒板
ダイン役のジュスンさんの似顔絵がわりと特徴を掴んでてジワる

作品紹介

 まずはplayDBに掲載されているミュージカルのあらすじをご紹介します。

 上手なことは一つもなく、いつも一人のスヒョンは、この世に自分を理解してくれる人が一人もいない。 同窓生たちのいじめを避けて学校の周りをうろつき、明かりが消えた暗い教室の窓の外に身を投げる。 どれだけ時間が流れたか、自分の周りに集まってくる同窓生たち。 スンウ、ダイン、ジフンだと名乗った彼ら。 同じ制服を着ているのに、なぜか名札の色がおかしい。 学校を巡察している警備員は「一人でいないで早く家に帰りなさい」と騒ぐ。

「ちょっと待って、君たち何者!?」
「俺たち?この学校をさまようお化けさ」

15年間、男子高校をさまよう幽霊たちは、一挙手一投足スヒョンを追いかけ、願いを聞いてほしいという。

「いいですよ。どうせ死ぬつもりだから、好きなようにやってみてください」

 ジョンウがコーチを務める廃止直前の区役所バスケットボール団にスヒョンを連れていった幽霊たち。 区役所杯リトルバスケットボール大会に参加するための彼らの孤軍奮闘訓練記が始まる。

 安山文化財団が制作したこの作品の初演は2016年、安山文化芸術の殿堂にて。その後2017年に中国ベセト演劇祭の招待作品としての公演を経て、2018年に初の大学路公演を含む5都市での公演が行われ、2019年の今回の再演は安山文化財団とIMカルチャーの共同制作となって帰ってきました。作品の脚本と作詞は『私とナターシャと白いロバ』、『サンキュー・ベリー・ストロベリー』などを手掛けたパク・ヘリムさんで作曲は『カルミラ』のファン・イェスルさん。振り付けは作品の制作陣に2018年から合流したシン・ソンホさん(『あの日々』、『ロギス』)が担当されています。2018年の公演では演出はオ・セヒョクさん、音楽監督はダミロさんでしたが、今回の再演で演出を担当するのはミュージカル『ロギス』、音楽劇『テイル』などを手掛けたチャン・ウソンさん、音楽監督はヤン・ジュインさん(『マディソン郡の橋』、『紳士のための愛と殺人の手引き』)という布陣。新たに書き下ろしされた曲も追加されて今回の公演に至っているようです。

感想

 最終日ではあるものの、今後手が加えられる可能性もあるプレビュー期間中の公演だった9月15日のソワレ公演。結論から先に書くと、「何一つ変えなくても大丈夫!」と心の底から思えるほどとても完成度の高い公演でした。笑える要素も盛りだくさんの少しコミカルな青春スポーツ作品でありながら、どストレートに号泣スイッチを撃ち抜かれる感じの泣けるいいお話でもあったり。バスケの動きをふんだんに取り入れたダンスも、実際に俳優さんたちが汗を飛ばしながらバスケをする姿も本当に見応えたっぷり。歌って、踊って、バスケして…それだけでも十分大変そうですが、しっかりと演技でも魅せてくれて。スポ根青春モノならではの爽快感と心温まる気持ちで劇場を後にできる本当に素敵な作品でした。公演期間が短いこともあり、身近にあまりこの作品を観る予定にしている人がとても少ないので色んな方にこの作品のプレゼンしたい気分です。というわけで早速。(←)

(以下、ネタバレを多く含むためご注意ください)

[2023.7.28追記]
 とてもうれしいことに本作の日本公演の上演が決定しました!以降では、かなり作品の物語の核心に触れるネタバレ全開で感想を書いていますが、こんな感想記事を書いておきながら、私自身はもしこの作品を観る機会があるのであれば、1回目は前情報なしでまっさらな気持ちで観て欲しい気持ちが大きいです。そして2回目で序盤から張り巡らされている伏線を一つずつ確認しながらの観劇をおすすめしたいです。

 軽く地方公演を観たことのある方のブログを読んだぐらいの予習状況の私でも問題なくお話についていけたのでストーリーは凄くわかりやすいと思うのですが、この物語の鍵はスヒョンに取り憑いた(?)彼にしか見えない三人の幽霊たちの正体。明るいチームのエース選手だったスンウ、学業優秀で穏やかで優しいダイン、ひょうきんで少し武闘派のジフン。彼らはスヒョンを交えて三人組から四人組になるのですが、気が弱くて少しそそっかしい小動物系のスヒョンのポジションにかつて収まっていたのがジョンウ。大人になって背もうんと高くなって1、やや捻くれて世の中を斜に見るようになってしまったスヒョンらのコーチのジョンウは幽霊三人組のバスケ仲間だったのでした。

 バスケ大会の会場2が海の近くにあることを聞いてテンションが上がるバスケチームの学生たちにお構いなしに自分は海が嫌いだから行くのは嫌だと却下するジョンウ。わかりにくいけど優しいジョンウは結局スヒョンらに絆されて海まで車を回すことになるのですが、彼が海を嫌う理由が判明するのは海から帰ってきた物語の後半。ジョンウの留守中にメンバーへの指示出しを譲り受けたホイッスルとともに任されたスヒョン。しかし、スヒョンは物語の冒頭でもちょっかいを出していた高校のいじめっ子たちに大切なホイッスルを奪われて壊されてしまいます。何一つうまく出来ず、友達がいない自分に落ち込んで泣くスヒョンを見つけ、「俺も友達はいないし、大丈夫だ」と不器用な言葉でスヒョンを慰めようとするジョンウ。「そのように見えます」とスヒョンに憎まれ口を叩かれながらも、ジョンウは苦笑いしながらかつて自分にも友達がいた時代のことをポツポツと話し始めます。「ダンクシュートこそ男の美学」とドヤ顏で語っていたエースのスンウのこと。海で溺れる子供を助けようとして仲間の三人が海難事故で亡くなったこと。「バスケットボールは一人でやるスポーツではないから特別だ」ということをスヒョンに言いながら、自分でもそのことをやっと思い出したように感じたジョンウの姿。そんなジョンウの前に姿を現す三人の旧友たち。自分との約束を果たすために成仏することなくこの世に留まり続けた彼らと再会することによって溶けていくジョンウの後悔とわだかまり。無事立ち直ったジョンウの姿を見届けたことを感謝し、あの世に渡ることをスヒョンに告げる三人の幽霊たち。兄さんたちなしでどうやって大会に挑めばいいの、と不安がるスヒョンに対して「大丈夫だから」と言って去っていく三人。3そうして、ジョンウとスヒョンは大切な仲間たちとの活動の場を守るためにチームと一緒にバスケの練習に励み、大会に挑んでいくのです。

 今回、「もしや初回にして私のベストキャストなのでは?!」と思うくらいよかった俳優のみなさま。普段は明るくておしゃべり大好きでおよそ友達がいないタイプには全く見えないユテクさんがいかにもいじめっ子に付け入られそうな気弱な小動物系男子にしか見えないのも、はっきりと視認できるくらいの涙の筋で両頬を濡らしながら過去のトラウマを振り返るジョンウを演じた後、一度舞台袖にはけて数分後に戻ってきたジェヨンさんが完全に厳しいスパルタコーチの顔になっているのも「役者さんってスゴイ…!!」となりました。劇中で一番の号泣スイッチだったダインのアイスクリームの歌を歌ったジュスンさんも気になる俳優さんに。また、この時、おそらくダインのお父さん役として登場するジェヨンさんの演技がまためっちゃ泣かせてくれるのですよね。亡くなった息子と同じ高校の学生を見つけてあんなに優しそうな笑顔で目を細められたら泣くしかない…。

 どこか映画『愛が微笑む時』(原題『Heart and Souls』4) を彷彿とさせる部分もありながらも、爽やかな青春物語として仕上がっているバスケ団。笑えて、泣けて、最後に爽快でほっこりとした気分になれるこの作品が上演は2019年10月27日まで。個人的にかなり広範囲の人におすすめしたい作品なので、少しでもこのレポを読んで興味を持ってくださった方がいらっしゃればとてもうれしいです!

カーテンコールが撮影可能だったのでパシャリ。
ホイッスルを吹くユテクさんの隣でエアーホイッスルをするジェヨンさん(笑)
 

 

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  1. [2019.9.28追記] よくよく考えたら、ユテクさんと一緒にスヒョンにキャスティングされているイム・ジンソプさんは小柄なユテクさんとは対照的にジェヨンさんと同じくらい長身なので、この感想はユテクさんとの組み合わせならではの感想ですね。
  2. [2023.7.28追記] これは私の当時の韓国語力不足から来る勘違いですが、バスケ大会の会場が海の近くにあったわけではなく、バスケ大会の前に行うことになった束草(ソクチョ)市の強豪バスケチームとの親善試合が束草の海の近くだったという設定です。
  3. [2019.12.2追記] ここ結構好きだった部分なのですがプレビュー限定だったようで、本公演では幽霊三人組はジョンウに別れを告げる場面が最終登場場面になって、スヒョンには黙ってあの世に旅立っていきました。ちょっと残念だけど、彼らの15年の心残りがジョンウとの約束だからそれが果たせた後は旅立つのは自然な流れかな、と納得。
  4. 1993年にアメリカで製作されたロン・アンダーウッド監督、ロバート・ダウニーJr主演のファンタジーコメディ映画。 なぜ邦題こうなった問題がここでも勃発。