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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ザ・フィクション』(더 픽션, The Fiction) @ TOM Theatre, Seoul《2019.4.27-2019.6.30》

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 土曜日は14時、17時、20時の3回に渡って上演された85分の一幕モノのミュージカルという手の出しやすさも手伝い、観劇回数がグンと伸びたHJ Cultureの韓国創作ミュージカル『ザ・フィクション』(더 픽션, The Fiction)。 物語のメインとなる登場人物のグレイとホワイトは俳優さんごとに衣装が全然違うことにも象徴されているように、俳優さんが違えば演技の方向性も大きく違い、さらにその組み合わせでまた全然違った雰囲気を味わえたこの作品。私が観劇した日時と俳優さんの組み合わせは下記の通りでした。

  1. [2019.4.27 17時公演]
     グレイ・ハント:パク・ギュウォンさん
     ホワイト・ヒスマン:ユ・スンヒョンさん
     ヒュー・デッカー/ブラック:アン・ジファンさん
  2. [2019.5.5 14時公演]
     グレイ・ハント:パク・ユドクさん
     ホワイト・ヒスマン:ユ・スンヒョンさん
     ヒュー・デッカー/ブラック:パク・ゴンさん
  3. [2019.5.18 14時公演]
     グレイ・ハント:パク・ユドクさん
     ホワイト・ヒスマンパク・ジョンウォンさん
     ヒュー・デッカー/ブラック:パク・ゴンさん
  4. [2019.5.18 17時公演]
     グレイ・ハント:チュ・ミンジンさん
     ホワイト・ヒスマン:ユ・スンヒョンさん
     ヒュー・デッカー/ブラック:パク・ゴンさん
  5. [2019.6.1 17時公演]
     グレイ・ハント:チュ・ミンジンさん
     ホワイト・ヒスマン:ファン・ミンスさん
     ヒュー・デッカー/ブラック:アン・ジファンさん
  6. [2019.6.29 14時公演]
     グレイ・ハント:パク・ユドクさん
     ホワイト・ヒスマン:ユ・スンヒョンさん
     ヒュー・デッカー/ブラック:パク・ゴンさん
  7. [2019.6.30 14時公演]
     グレイ・ハント:パク・ユドクさん
     ホワイト・ヒスマンパク・ジョンウォンさん
     ヒュー・デッカー/ブラック:パク・ゴンさん

 これだけの回数を観たのにカン・チャンさんのホワイトとキム・ジュニョンさんのヒューは観れず。キャスケパズルはなかなか上手くはまりません…。

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2019.4.27のキャスト表 / 2019.5.5, 2019.6.29のキャスト表
f:id:theatregoersatoko:20190909223211j:plain 2019.5.18 14時公演, 2019.6.30のキャスト表
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2019.5.18 17時公演のキャスト表 / 2019.6.1のキャスト表

作品紹介

 まずはplayDBに掲載されているあらすじをざっくり訳した内容をご紹介します。

 1932年、米ニューヨーク、小説と現実が覆される事件が発生する。 作家グレイ・ハントの連載小説 『影のない男』の主人公ブラックが現実に登場したのだ。 ブラックは犯罪者を殺害する殺人魔…彼の小説中の犯行が現実にそのまま再現され、人々は再びブラックと作品に熱狂するようになる。 そうしているうちに、作家の最後の小説が発表され、その小説の結末どおり作家が死を迎えながら物語は始まる。

 殺人鬼ブラックと作家グレイの関係について疑問を抱くようになった警察官のヒューは、事件の真相を暴くために小説の作家グレイと彼の担当記者のホワイトの調査を始めるが…

 『ザ・フィクション』の初演は2017年の6月。第11回大邱国際ミュージカルフェスティバル (Daegu International Musical Festival, 以下DIMF)の出展作品だったこの作品は2017年DIMF創作支援作の対象に選ばれ、さらに2018年にはKT&G 想像広場創作劇支援事業の〈想像ステージチャレンジ〉作品に選定され、漢南のKT&Gサンサンアートホールで上演されています。今回の公演は満を持しての大学路初公演。2018年公演のキャスト6名に加えて新キャスト4名が合流し、公演期間も倍に。作曲、音楽監督はチョン・ヘジンさん、演出はユン・サンウォンさんが手掛けています。


2019年ミュージカル『ザ・フィクション』スポット動画

感想

 冒頭に書いた通り、俳優さんによる役作りの方向性の違いが印象に残った『ザ・フィクション』。せっかくなので、各俳優さんごとの印象の違いについて書いてみたいと思います。ちなみにヒューだけ一見色と関係なさそうな名前ですが、ヒュー (Hue) には色相という意味があったり。

ギュウォンさんのグレイ

 ぶかぶかのロングカーディガンの上着も含めて少年っぽさが印象に残った作家先生。あの萌え袖は狙っているとしか思えない!物語の設定としてはグレイはホワイトよりだいぶ年上のはずなのですが、ギュウォンさんグレイとスンヒョンさんホワイトの組み合わせだと年齢設定が逆転しているようにも感じました。少年らしい感受性の高さと持ち前の優しさでホワイトを救ってあげたいけど、どうしていいのかわからずオロオロしてしまう姿が記憶に残っています。

スンヒョンさんのホワイト

 プレスの効いたスーツをビシッと着こなしている姿が遣り手の編集者の雰囲気を大いに醸し出しているスンヒョンさんのホワイト。なんとなくスンヒョンさんのホワイトが一番仕事に厳しそうなイメージがあります。最初からどこか底が知れず、笑顔に若干の胡散臭さを感じるのもスンヒョンさんのホワイトの特徴。抱えている闇の深さも、その方向性の拗らせ方も大きいホワイトなので、グレイ先生がいなくなってから彼は本当に大丈夫なのかが心配になってしまいます。スンヒョンさん、今まではどちらかというと純朴な雰囲気の役で観たことのほうが多かったのですが、こういう裏や影のある役もお似合いですね。

ジファンさんのヒュー

 冷静沈着に状況を静かに観察しているように感じるジファンさんのヒュー。特徴があって印象に残る歌声の方で、しっかりナンバーを歌い上げてくれるのが心地よかったです。ホワイトへの接し方も、犯人と疑ってかかっているというよりはニュートラルな雰囲気。

ユドクさんのグレイ

 ちょっとくたびれたシャツにサスペンダーの装いが苦労人っぽいユドクさんの作家先生。気難しいのかと思いきや、陽だまりのような温かさを持った懐と情が深くて優しいグレイ先生で『影のない男』のとある場面を書くきっかけとなった少年との出会いの場面では、歌詞の合間にオフマイクで少年に呼びかける「行こう」(가자) の台詞と笑顔が優しすぎて毎回この場面で泣いていた私。なんというか、あらゆるところで人の良さが滲み出ているように感じるグレイでした。そんな優しいユドクさんの先生だからこそ、ホワイトのことを信じてあげて欲しかったな、とも思ったり。この役はユドクさんのハマリ役だなぁ、としみじみ思います。

ゴンさんのヒュー

 鋭い視線に隙のなさそうな身のこなしがとても刑事っぽいゴンさんのヒュー。ジファンさんのヒューと比べて少し皮肉屋で、物語の冒頭ではホワイトに対してあまりいい感情を抱いていないのをあまり隠そうとしない雰囲気が印象に残りました。ホワイトが抱えている後悔や葛藤に触れた後にはやや態度が軟化するゴンさんのヒューですが、それは彼自身の事件を未然に防げなかったことに対する不甲斐なさへの苛立ちみたいなものあるのかもしれないな、と思いました。

ジョンウォンさんのホワイト

 表向きの人懐っこさと、抱えている闇を隠さなくなった状態のギャップが一番激しいジョンウォンさんのホワイト。観れた三人のホワイトの中で一番酒浸りでスキットル1が手放せないホワイトでもあります。スンヒョンさんのホワイトはまた別の方向性で、でも同じくらい闇の深いジョンウォンさんのホワイト。なんというか、ズドンとまっすぐに深い感じの闇。ジョンウォンさんのホワイトは、彼がどれだけ『影のない男』が大好きでその小説を心の拠り所として生きてきたのがすごくわかりやすくて切なかったです。

ミンジンさんのグレイ

 首に巻いたスカーフがお洒落でパリッとしたスーツの着こなしに拘りを感じるミンジンさんの作家先生。多分、全出演陣の中で一番役作りとしてアル中で、嫌なことがあるとすぐにアルコールに逃げる弱い大人なところが人間臭さを感じるミンジンさんの先生。仕事に厳しそうなスンヒョンさんのホワイトとの組み合わせでは緊張感が漂う中での信頼関係という雰囲気でしたが、年の離れたミンスさんのホワイト相手だとお兄ちゃんみがかなり割増になるのがとても印象的でした。

ミンスさんのホワイト

 若者らしいフレッシュさと子犬のように純粋にグレイを慕う姿がとても印象的だったミンスさんのホワイト。ミンスさんのホワイトの心の闇は彼が純粋で真っ直ぐだからこそ、極端に走ってしまう精神的な幼さが痛々しく感じて、ほっとけない雰囲気を醸し出しているホワイトでした。どこかあどけなさを感じるミンスさんのホワイトですが、仕事に関しては曇りのない笑顔でズバズバ切り込んでいって容赦がなさそうです(笑)

 

 組み合わせとして一番好きだったのは2回観て、さらに今季の『ザ・フィクション』の観劇をしめくくったユドクさんのグレイ先生、ジョンウォンさんのホワイト、ゴンさんのヒューの組み合わせ。お互いを大切に思っている気持ちのすれ違いがとても切ないグレイとホワイトだったなぁと思います。ミンスさんホワイトの真っ直ぐな作家先生を慕う気持ちにだんだんと心が開かれていくミンジンさんのグレイの組み合わせも印象に残っています。

 ロックな雰囲気な楽曲も耳に残るナンバーが多く、小さな劇場の舞台の上でお盆を使った演出も印象的。また再演があれば、色んな俳優さんの組み合わせで観てみたい作品です。

f:id:theatregoersatoko:20190924235742j:plain 2019.6.30の14時公演のカーテンコールより
 

  1. ジョンウォンさんのホワイトを観るまで、酒浸りキャラが一人もいなかったので物販のスキットルがなぜ売られているのかずっと謎でした(笑)