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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』(스토리 오브 마이 라이프, The Story of My Life) @ , Seoul《2019.12.28ソワレ, 2020.1.25ソワレ》

2019-2020年シーズン韓国SOML観劇キャスト

 今年韓国で上演されて10周年を迎えたミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』(스토리 오브 마이 라이프, The Story of My Life, 以下SOML)。10周年ということもあり、二人劇のミュージカルに対して9名の俳優さんたちがキャスティングされたのですが、私が観劇できたの以下の日と組み合わせ。

  1. [2019.12.28 ソワレ]
     トーマス・ウィーバー:コ・ヨンビンさん
     アルヴィン・ケルビー:イ・ソクジュンさん
  2. [2020.1.25 ソワレ]
     トーマス・ウィーバー:ソン・ウォングンさん
     アルヴィン・ケルビー:イ・チャンヨンさん

 五十路手前のベテラン俳優さんペア、同じ二人ミュージカルではありながらも趣が全然違う『スリル・ミー』での共演経験があるペアの二組での観劇と相成りました。

 SOMLの作品紹介は前回のシーズンで観劇したタイミングで書いているので、作品のあらすじなどを知りたい方はこちらを参照ください。

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください。)

感想

 今回はシンプルにそれぞれの回の印象を書いてみたいと思います。

ヨンビントーマスとソクジュンアルヴィン

2019.12.28 ソワレのキャストボード 2019.12.28 ソワレのキャストボード
 

 私が初めてこの作品に出会った2015年-2016年の公演シーズンで観たペアの中で、組み合わせとしては1回しか観なかったけど強烈に印象に残ったペアがこのお二人。あまりにも素晴らしかったので、その記憶を上書きしたくないと思ってそれ以降この組みわせでは観てなかったヨンビントムとソクジュンアルのペア。SOML出演者のみなさまの中ではベテランに入るお二人。お二人がこの作品に出るのはもしかしたら今回が最後になるかもしれない。長年一緒にこの作品を演じてきた俳優さんどうしならではの親密で温かい空気に再び触れたくなってチケットを取ったのでした。

 ヨンビンさんとソクジュンさんのペアに感じるのは二人がとても自然体だということ。韓国SOMLはレミントン先生のお葬式への潜入、川に木の枝を投げ入れて滝までたどり着くかを競う「ゴール・イン」遊び、「Here's Where It Begins」の雪遊びなどいくつか公演ごとに内容が異なるアドリブポイントがあるのですが、そのアドリブポイントでもそこまでふざけすぎることはなく。(あ、お葬式潜入だけはソクジュンさんがかなりヨンビンさんに無茶振りしていました。それをニコニコしながら真似するヨンビンさんが可愛かったです。)子供時代も他の俳優さんたちほど声を作り込んで変えるということもないので、二人が紡ぐSOMLの物語は大人になったトーマスが同じく大人になったアルヴィン(といってもさほど昔から変わらない)の魂を呼び寄せて二人の思い出を回想しているように感じました。このお二人は言葉がなくても二人の間に流れる空気が優しくて穏やかで、それが本当に大好きです。履き慣れたスリッパのようにしっくりとくる、そんなお二人。

 ブロードウェイキャストのOSTを初めて聞いた時から私の中で俺様なイメージが強いトーマスですが、ヨンビンさんのトーマスはとても穏やかで優しい普通の人という印象が強く。さらにアルヴィンのことが心底大好きでしょうがないことが常にダダ漏れなトーマスなので、些細なボタンのかけ違いからどんどんと彼らが疎遠になっていくのが本当に切ないのです。私が初めてこのペアを観たときに特に印象に残って好きだったのがラストナンバーの「Angels in the Snow」のトーマスとアルヴィンのやりとり。

 

 「山を越えて日が暮れて」という一節で終わってしまう物語。アルヴィンに「これで全部?」と原稿用紙の束を渡されて聞かれるトーマス。頷きながら少し情けなさそうに優しく笑うヨンビンさんのトーマスが本当に好きで、それがまた観れたことがすごくうれしく。というよりは、とてもとても好きだったことをその瞬間に思い出したという感じでしょうか。

 だけど、この日の公演で一番心に焼き付けられたのはアルヴィンと幼き日の約束を再度交わしなおしたトーマスが再び一人になって、アルヴィンの弔辞を始めようとする本当にラストのラストの場面でした。

오늘 우린... 앨빈 켈비를 생애를 기념하기 위해 모였습니다.
今日、私たちは... アルヴィン・ケルビーの生涯を記念するために集まりました。

どこかアルヴィンを探すように会場の上を見ながらここまでは落ち着いて話していたヨンビントム。

그는... 내 가장 친한 친구였습니다.
彼は... 私の最も親しい友人でした。

この一言を声を震わせながら時間をかけて言ったトーマスは、自分の言ったことが過去形になっていることに今更ながら傷ついているように感じました。時間を少し取って、落ち着きを取り戻そうと一息ついた後に「アルヴィンの話を一つしましょう」と言ったヨンビントムの声はやっぱり震えていて、泣き笑いの表情で。アルヴィンの死と向き合う勇気をアルヴィンに貰っても、親友の死の悲しみを乗り越えるのはまだこれからなんだと感じる悲しい笑顔に最後の最後で打ちのめされたのでした。

ウォングントーマスとチャンヨンアルヴィン

2020.1.25 ソワレのキャストボード 2020.1.25 ソワレのキャストボード
 

 ウォングンさんのトーマスとチャンヨンさんのアルヴィンは去年(2019年)も観たのですが、この組み合わせでは初めて。冒頭に書いた通り、『スリル・ミー』で共演経験があり、プライベートでも仲のいいお二人と聞いて気になっていたペアでした。

2018-2019年シーズンの観劇レポはこちら theatre-goer.hatenablog.com theatre-goer.hatenablog.com  

 このペアの回を観て驚いたのはいつの間にかウォングンさんのトーマスが今までかつて観たことないくらいメンタル最弱トーマスになっていたこと。去年観たウォングントーマスは苦悩は深いもののどちらかというと俺様ジャイアンで(言い方)、アルヴィンが不憫で不憫で仕方がなかったのですが...。なので、この日のチャンヨンさんのアルヴィンは自分の死に動揺しまくりで、目を逸らしまくりで作家としての自信もなさすぎな豆腐メンタルな親友(言い方)が心配で様子を見にきた幽霊でした。初期の「神様の偉大な図書館」のくだりでアルヴィンが言う、「まだ心の準備ができていないみたいだ」という台詞がここまでしっくりのも珍しい。

 ベテランペアとは対照的にちょいちょいとおふざけの小ネタが仕込まれているのもとてもこのペアらしく。正直に言うと、SOMLはかなりの回数を観てるし、二人の微笑ましいやりとりを「ちょっとやりすぎな感じもするなぁ」なんて思いながら冷静に観察してた自分もいたので、この回はそんなに泣かないかもとも思っていたのですが。が。最後の最後でやっぱり大きく感情を揺さぶられて号泣していました。

 アルヴィンの死と正面から向き合えないトーマスが目を逸らし続けている現実を直視できるように助けにやってきたアルヴィン。「なんで橋から飛び降りたんだ?」という問いかけにトーマスが辿り着くまでの長い道のり。なけなしの勇気を振り絞ってトムが投げかけた疑問に対して、チャンヨンさんのアルヴィンは少しバツが悪そうに、照れ臭そうに「なんだそんなことを考えていたのか」とでも言いたげに笑って見せます。

흘러간 틈새에
놓친 순간 속에
커다란 비밀이 있는 게 아냐

流れいく隙間に
逃した瞬間の中に
大きな秘密があるんじゃない

 トーマスにとっては眩しく映っていたアルヴィンの変わらなさ。強くて優しくて愛情溢れるチャンヨンさんのアルヴィンですが、トーマスと約束を再び交わし、別れが近づいた時に一瞬だけ寂しそうな表情をしたのが心に残りました。なぜならアルヴィンは知っているから。自分にとっての母がそうであったように、やがてトムの人生が自分なしでもどんどんと進んでいくことを。そんな寂しくて切ない気持ちを一瞬のうちにギュッと胸の奥に押し込んで、優しい笑顔で頷いてトーマスを見送ったチャンヨンアルヴィン。「アルヴィンの話を一つしましょう」と穏やかに言ったウォングントーマスの、どこかでアルヴィンが聞いているんじゃないかと探すように上空を彷徨うラストの視線も余韻を残す切ない幕引きでした。

 

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