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【観劇レポ】ミュージカル『ビリー・エリオット』(Billy Elliot) @ Akasaka ACT Theatre, Tokyo《2020.9.20マチネ》

ミュージカル『ビリー・エリオット』(Billy Elliot) @ Akasaka ACT Theatre, Tokyo《2020.9.20マチネ》

 大好きなミュージカルビリー・エリオット』(Billy Elliot) を毎日観れる夢のような、一回観劇した後の体力消耗加減が半端ないのである意味修行のような連休の2日目。私にとっては4回目の再演ビリーのキャストは以下の方々でした。

 ビリー:渡部出日寿さん
 お父さん益岡徹さん
 ウィルキンソン先生安蘭けいさん
 おばあちゃん阿知波悟美さん
 トニー中井智彦さん
 ジョージ:星智也さん
 オールダー・ビリー:大貫勇輔さん
 マイケル:日暮誠志朗さん
 デビー:森田恵さん
 トールボーイ:高橋琉晟さん
 スモールボーイ:大熊大貴さん
 バレエガールズ
  北村栞さん1、佐藤凛奈さん2、髙畠美野さん3、並木月渚さん4、古矢茉那さん5
 お母さん:家塚敦子さん
 ブレイスウェイトさん森山大輔さん
 デイヴィ:辰巳智秋さん
 アンサンブル6
  加賀谷真聡さん、茶谷健太さん、倉澤雅美さん、
  板垣辰治さん、大竹尚さん、大塚たかしさん、斎藤桐人さん、佐々木誠さん、
  高橋卓士さん、照井裕隆さん、丸山泰右さん、小島亜莉沙さん、竹内晶美さん、
  藤咲みどりさん、井坂泉月さん、井上花菜さん、出口稚子さん

2020.9.20 マチネのキャストボード 2020.9.20 マチネのキャストボード
 

今回がお初となったキャストの方々は出日寿くんのビリーと誠志朗くんのマイケルの同級生ビリー&マイケルコンビ。

 私の2020年再演ビリー初日の観劇レポはこちら。簡単な作品紹介もこちらの記事で書いています。他のビリーたちの観劇回、日本初演や韓国の観劇レポはカテゴリーの『ビリー・エリオット』から飛べるようになっています。

感想

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください。)

 オープニング公演初日を観た人たちから熱のこもった絶賛コメントがたくさん寄せられているのを眺めながらとても気になっていた出日寿くんのビリー。バレエが上手いのは聞いていたけどこんなに歌も演技も上手いなんて聞いていない、初日だなんてとても思えない仕上がり…エトセトラ、エトセトラ。実際に観てみて思ったのは、出日寿ビリーは噂通り演技も自然で透き通るようなボーイソプラノの歌声もとてもきれい。でもやっぱり一番強く印象に残るのは「凄いダンサーだ!」ということでした。

 バレエを踊る場面の軸がしっかりした安定感。「Solidarity」(団結を永遠に) ラストのアラセゴンターンからのピルエットなんていったい何回転しているのでしょうか。それなのに出日寿ビリーにはまだ余裕すら感じます。ビリーを演じることになって初めて習ったというタップダンスもタップ音がとてもクリアで鮮やか。「Angry Dance」(怒りのダンス)のあの難しそうな激しい振付のダンスもキレ味抜群。「Expressing Yourself」(自分を表現しよう)では誠志朗くんのマイケルとも息がぴったりで、二人がナンバーのラスト近くでお互いの手を合わせて叩く場面もバチンと小気味よく決まって拍手喝采でした。誠志朗くんマイケルがまた芸達者で。あっけらかんと明るく自由にのびのびと振舞っているようで、人の心の機微にとても聡い深い思いやりを感じるマイケルでした。

 普段の自分は割と平常心と自分を表現していた出日寿くんですが、出日寿ビリーにもそんな本人のキャラクターを感じます。肩に余計な力が入っていない感じというか、堂々としていて物怖じないというか。そんなちょっとクールな出日寿ビリーですが、踊っているときのニコッとした笑顔はただただキュートという表現が私の中で一番しっくりきます。そんなギャップも出日寿くんビリーの魅力。

 バレエ・スクールの面接の場面で二人並んでいる姿に妙に親子らしさを感じる出日寿ビリーと益岡父ちゃんの組み合わせ。さて、初演からずっと好き好き大好きと騒いでいたのだからそろそろちゃんと益岡父ちゃんのどこが好きなのかを書かないといけません。

 不器用ながらも家族を心の底から溢れんばかりの深い愛情で慈しむ男。仕事仲間との絆をとてもとても大切に思いながらも、迫り来る時代の潮流の変化に抗えないことを仲間内ではいちはやく察知しており、その諦観を黙して語らない。私の中で益岡さんが演じるジャッキー・エリオットはそんな人物です。寡黙で口下手ながらも表情がそれ以上に雄弁に色んなことを語る益岡父ちゃん。バレエを禁止されたビリーに「父ちゃんなんか大っ嫌いだ!」と言われて一瞬だけ見せる少し怯んだような目の揺らぎ。バールを持ち出そうとするトニーに「親父には関係ない」と言われて「そうかぁ?」と返すときに無理に明るく作ったように見せる苦笑いの表情。クリスマスパーティで酔った勢いで気持ちよく歌っていた最中に妻を思い浮かべて瞳に溜まっていく涙。

俺は見た 二人の 遥かな未来

 多幸感と絶望感をない交ぜにした表情をしてこのフレーズを歌った後、絶望が勝って言葉を詰まらせてしまうジャッキー父ちゃん。その姿は父には泰然と構えていてほしいトニーじゃなくとも見ていられません。そんな中で一人だけ熱心に母ちゃんが好きだった歌を歌う父ちゃんの姿を見つめ続け、歌えなくなってしまった父ちゃんの後を引き継ぐビリー。クリスマスパーティがお通夜のような雰囲気になってしまっても、ビリーは父ちゃんが母ちゃんを忘れずに愛していることを感じてうれしかったのかもしれません。クリスマスの挨拶を息子に返し、「さあ、家に帰ろう」と泣き笑いの表情でビリーの頭をなでる益岡父ちゃん。

 ビリーの才能に可能性を見出し、スト破りを決心する父ちゃん。悲痛な叫びでそんな父親を止めようとするトニーにあえて自ら何度も殴られようとしているように見えた父ちゃん。仲間から差し出されたなけなしのお金を茫然自失したような表情でただ見つめることしかできない父ちゃん。

すまん。みんな本当にすまん

 と絞り出すように言い、まるで大きな体がしょぼくれて小さく縮んでしまったように感じる父ちゃん。そんな益岡父ちゃんの姿に何度涙を流したかわかりません。きっとトニーはそんな父の姿が見ていられなかった。でもそんなジャッキー父ちゃんだからこそ、炭鉱夫仲間たちはジャッキーもビリーを見捨てることがなかったのだとも思うのです。

 二幕のジャッキー父ちゃんの姿は痛々しくて仕方がないので、そんな父ちゃんが泣き笑いの表情で

あいつ、俺の息子なんです

と誇らしげに言う姿には毎回号泣です。というか、これを書いている今も思い出して泣いています。バレエ・スクールの面接官の方に他意も悪気もないのでしょうが、ストがうまくいきますようにと言われて冷や水を浴びたような表情になってしまう益岡父ちゃんの顔を見ると、もうちょっと幸せに浸らせてあげてほしいと思わずにいられません。

 故郷を離れて旅立つ息子の旅支度を手伝う父ちゃんの温かい穏やかな笑顔。荷造りが終わったスーツケースをなんとも言えない神妙な面持ちで見つめる表情。勢いよく懐に飛び込んできた息子をしっかりと抱きしめてギュッと目をつぶって涙をこらえているように感じる表情。ビリーを肩車しているときに見せる、まだ幼い息子が可愛くて仕方ないといった表情。息子に被せたヘルメットのライトに照らされて、眩しそうに、感慨深げにビリーを静かに見つめる表情。「Once We Were Kings」(過ぎし日の王様)中の益岡父ちゃんはその一挙一動に確かな愛情が満ち溢れていて目が離せません。

 このレポを書いている今日も益岡父ちゃんでビリーを観劇予定。この作品を観た回数が通算20回を超えても、4日連続での観劇だろうとも、今日も変わらず厳しくも温かな家族の絆の物語に涙を流さずにはいられないのでしょう。

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