Sparks inside of me

劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ビリー・エリオット』(Billy Elliot) @ Umeda Arts Theater, Osaka《2020.11.8》

ミュージカル『ビリー・エリオット』(Billy Elliot) @ Umeda Arts Theater, Osaka《2020.11.8》

 2020年の10月は私にとって仕事に忙殺されて観劇が全くできなかった試練の月でしたが、そんな10月をなんとか乗り越えて迎えた翌月11月。自分へのご褒美にもなったミュージカル『ビリー・エリオット』のマイ大阪初日はマチソワでの観劇。奇しくも私にとっての東京公演ラスト2回のビリー観劇回とかなりキャストが重なり、以下の方々でした。

  1. 2020.11.8 マチネ
     ビリー:中村海琉さん
     お父さん橋本さとしさん
     ウィルキンソン先生安蘭けいさん
     おばあちゃん阿知波悟美さん
     トニー中井智彦さん
     ジョージ:星智也さん
     オールダー・ビリー:大貫勇輔さん
     マイケル:菊田歩夢さん
     デビー:森田瑞姫さん
     トールボーイ:石井瑠音さん
     スモールボーイ:豊本燦汰さん
     バレエガールズ
      北村栞さん、下司ゆなさん、柳きよらさん、新里藍那さん、増田心春さん
     お母さん:家塚敦子さん
     ブレイスウェイトさん森山大輔さん
     デイヴィ:辰巳智秋さん
     アンサンブル
      加賀谷真聡さん、茶谷健太さん、倉澤雅美さん、
      板垣辰治さん、大竹尚さん、大塚たかしさん、斎藤桐人さん、佐々木誠さん
      高橋卓士さん、照井裕隆さん、丸山泰右さん、小島亜莉沙さん、竹内晶美さん、
      藤咲みどりさん、井坂泉月さん、井上花菜さん、出口稚子さん
  2. 2020.11.8 ソワレ
     ビリー:利田太一さん
     お父さん橋本さとしさん
     ウィルキンソン先生:柚希礼音さん
     おばあちゃん根岸季衣さん
     トニー中河内雅貴さん
     ジョージ:星智也さん
     オールダー・ビリー:永野亮比己さん
     マイケル:河井慈杏さん
     デビー:小林桜さん
     トールボーイ:高橋琉晟さん
     スモールボーイ:西山遥都さん
     バレエガールズ
      咲名美佑さん、下司ゆなさん、柳きよらさん、新里藍那さん、増田心春さん
     お母さん:家塚敦子さん
     ブレイスウェイトさん森山大輔さん
     デイヴィ:辰巳智秋さん
     アンサンブル
      加賀谷真聡さん、茶谷健太さん、倉澤雅美さん、
      板垣辰治さん、大竹尚さん、大塚たかしさん、斎藤桐人さん、佐々木誠さん、
      高橋卓士さん、照井裕隆さん、小島亜莉沙さん、竹内晶美さん、
      藤咲みどりさん、井坂泉月さん、井上花菜さん
2020.11.8 マチネのキャストボード 2020.11.8 ソワレのキャストボード 
2020.11.8のキャストボード(左:マチネ、右:ソワレ)
 

 私の2020年再演ビリー東京公演ラスト2回の観劇レポはこちら。他の観劇回、日本初演や韓国の観劇レポはカテゴリーの『ビリー・エリオット』から飛べるようになっています。

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください。)

感想

マチネ

 私の2020年再演ビリーの初日は海琉くんビリーの初日。その時もすでにかなり仕上がっていた海琉くんのビリーですが、やはりビリーたちは日々進化する小さな魔人たち。東京公演終盤で観たときと比べてもその成長は目覚ましく、なんだかそれだけで胸がいっぱいになってしまいました。4人のビリー達の中で海琉くんだけは千秋楽を観ることが叶わず、この日が海琉ビリー見納めだったのも余計にその感慨を強くしたのかもしれません。

 初めて観たとき、どこかずっと悲しさを湛えたビリーだと感じた海琉くんのビリー。この日の海琉くんのビリーを観て感じたのは、彼が抱えているのは自分を不甲斐なく思う気持ちや悔しさ、やるせなさだということ。この日、そんな海琉くんビリーが歌う「The Letter」には何かに挑むような苛烈さを内包しているように感じたのでした。「誇れる自分」の理想の姿と現状とのギャップを埋めるために、自分には何かが圧倒的に足りていないと感じているその焦燥感。そして抑圧されたその感情が一気に爆発する「Angry Dance」。まるで嵐のようなダンスを通した感情の発露はいっそ暴力的なくらいで、二階席で観ていてもその気迫には凄味を感じました。

 笑顔が少なめな海琉くんのビリー。低めで少しハスキーなボーイソプラノも相まって、そのどこか大人びた姿にはストイックなかっこよさを感じます。妥協を良しとしない努力の人なのに、それを見せたがらないような。私が勝手に抱いているイメージですが。

 大貫さんのオールダー・ビリーと一緒に踊る「Swan Lake Pas de Deux」は二人の揃った動きが本当に思わず息を飲むほど美しくて。指先まで神経が行き渡った伸びやかな海琉くんのバレエ。彼は涼しい顔で「夢のバレエ」の場面を演じてみせますが、そこまで持っていくために海琉くんがどれだけ努力したんだろうと思いを馳せずにいられません。

 そんな海琉くんのビリーだからこそ、「Once We Were Kings」で橋本さんの父ちゃんとパジャマの奪い合いをして無邪気な笑顔を見せてくれたときには胸がキュッとしたのでした。

ソワレ

 この日の夜公演は橋本さんのジャッキー父ちゃんと太一くんのビリー、そして橋本さんと中河内さんトニーの組み合わせの最終日。初演でジャッキーを演じていた吉田鋼太郎さんとも、再演でも続投となった益岡徹さんともまた違った方向性の独自のジャッキー像を作り上げていた橋本さんですが、大阪公演に入ってからはより一層その独自のカラーが出てきて、息子たちに示す不器用な愛情がよりストレートに表出されるようになったと感じました。

 この日は、バレエスクールのオーディションを受けるためにロイヤル・オペラハウスのステージにビリーが父ちゃんと一緒に降り立つ場面でさとし父ちゃんはガッチリとビリーの肩を抱き、対する太一ビリーも父ちゃんの腰にしっかりと長い腕を巻きつける仲良しっぷり。オーディション結果を伝える通知の手紙のいたずらがバレて、トニーにビリーがくすぐられる場面ではさとし父ちゃんはなぜかビリーではなくガウチトニーをくすぐってみたり。

 マチネでも書いた「Once We Were Kings」でのパジャマの上下のどちらをどっちが畳むかを巡った小競り合いもそれを顕著に感じた一場面。そんな攻防を経て、コートを着たビリーに一回転してみせるように父ちゃんがビリーに身振りで指示をした後、口元を大きくへの字に曲げてジッとビリーを見つめる父ちゃん。向き合う太一ビリーの後ろ姿は、「こんな父ちゃんの姿を見るの、初めて」と背中で語っているようで。勢いよく飛びついてきたビリーをしっかりと抱きとめて、込み上げてくる感情に耐えるようにギュッと目を瞑ったその姿はお芝居と現実の感情がリンクしているようで、胸が本当にギュッとしました。

 その後、晴れやかな笑顔でマイケルに別れを告げる太一ビリーに同じくらいいい笑顔で笑って見送る慈杏マイケル。その笑顔が切なげに揺れるのはビリーが背を向けてからで。そんな太一ビリーも母ちゃんに別れを告げるときは下唇を噛んで涙を湛えた目で精一杯笑顔を作ろうと頑張りながらも瞳が揺れていて。

 ラスト近辺の別れの場面を中心に印象に残っているのは私自身が迫り来る『ビリー・エリオット』の終演の日にセンチメンタルになっていたのかもしれません。翌週はいよいよ大阪公演、そして『ビリー・エリオット』の大千秋楽。自分はマイケルのように上手くビリーに「またな」と挨拶できるのだろうか。そんな感傷を引きずりながら、新幹線で家路につくのでした。

1, 2分で書ける簡単な匿名アンケートを実施しています。
よかったらご協力ください。