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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『伝説のリトルバスケ団』(Interpark配信 / Welcome K-Stage)《2021.6.21, 2021.9.24》


Welcome K-Stage『伝説のリトルバスケ団』トレーラー
 

 私が全方位にゴリ推ししたい韓国創作ミュージカルナンバーワンに挙げている『伝説のリトルバスケ団』(전설의 리틀 농구단, 以下、バスケ団)。去年2020年にVLIVEおよびNAVER TVで無料で公演が生中継された時も狂喜乱舞していましたが、今年は6月にインターパークの有料動画配信、さらに9月には韓国観光公社主催のウェルカム大学路、Welcome K-Stageで日中英の3ヶ国語の字幕付きでなんと無料配信されるという大盤振る舞い。大好きな作品の理解を深め、まだ未見の方々に広めるこれとないチャンスということでツイッターで熱苦しいダイマを展開しながら配信の日を楽しみにしていました。今年の有料配信、無料配信はどちらも同じ2020年公演時の映像が使われており、2020年の生中継配信とは主人公以外はキャスト違い。キャストのみなさまは以下の方々でした。

 ジョンウ:ユ・スンヒョンさん
 スヒョン:イム・ジンソプさん
 サンテキム・スンヨンさん
 スンウ:ク・ジュンモさん
 ダイン:クァク・ダインさん
 ジフン:キム・チャンさん

布教用に作成した登場人物紹介シート

 2019年のソウル大学路の公演は4回観劇し、はてはグンポの地方公演まで追いかけて観に行った大好きな作品。2020年の生中継はもちろん、今年の有料配信ではアーカイブされたのをいいことに複数回リピしましたが、それでも毎回泣いてしまう恐ろしい作品。ウェルカム大学路の配信では日本語字幕でさらに理解が深まり、嗚咽で呼吸困難になって頭が痛くなるまでエグエグ泣きました。大好きな作品をさらに好きになれる機会を、広める機会ができたことが本当にうれしかったので、この観劇レポはその感謝の意味も込めて書いています。

 作品の制作陣の紹介は2019年にソウルでプレビュー公演を観た直後に書いていますので、ぜひそちらも合わせてご参照ください。2020年の生中継配信の時の感想へのリンクも貼っておきます。

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください。)

感想

 2019年公演の時もアン・ジェヨンさんとダブルキャストでジョンウを演じていたユ・スンヒョンさんですが、スンヒョンさんのジョンウを観たのは今年の有料配信が実は初めて。すっかりジョンウはジェヨンさんのイメージがついていたのですが、想像はしていたものの、スンヒョンさんのジョンウはまた全然違った雰囲気とアプローチでジョンウを演じていたのがとても印象に残りました。無気力でやる気がないという点は二人とも共通していますが、やさぐれていてガラが悪く、どこか子供じみた振る舞いをするジェヨンジョンウに対し、クールで何かを諦観して斜に構えているように感じたスンヒョンさんのジョンウ。

 いきなりクライマックス場面のネタバレになってしまいますが、ジョンウがバスケ団員を引率して訪れた束草市の海辺で判明するジョンウと幽霊三人組の関係とジョンウがやる気が感じられないながらもバスケを続けていた理由。三人組はかつてジョンウのチームメイトで、みんなで訪れた海で溺れた子供達を助けようとして海難事故にあい、帰らぬ人となったのでした。辛い思い出を回想して、瞳が潤んでも、それが溢れないように静かに堪えているというように感じたスンヒョンさんのジョンウ。ジェヨンさんのジョンウがうずくまった時には両目から涙の跡がはっきり見えるくらいだったのに対してその姿はとても対照的。泣かないというよりは泣けない、泣くことを自分に禁じているように感じたスンヒョンさんのジョンウの姿には15年が過ぎても彼に重くのしかかるサバイバーズギルトが感じられ、とても胸が詰まりました。

 ここは字幕になっていなかった部分なのですが、「お前は泳げないからここにいて」とダインに助けを呼ぶこととともに主将のホイッスルを託されたジョンウ。実はそんな思い出が詰まったホイッスルを、託された大切なものを守ることができなかったと泣いて悔やむスヒョンに対して「ただの古いホイッスルだ」と言ってあげたジョンウのわかりにくい優しさ。この場面は2回目以降の観劇になるとスヒョンの絶望とジョンウの心境を思ってダブルで心が抉られる場面です。作中、何度もリンクしているように感じるジョンウとスヒョンの二人。物語の冒頭でスヒョンが人生に絶望して手紙を遺すナンバーがジョンウが辛い過去を回想する場面の曲のリプライズになっていて、なおかつその曲名が「救助信号」というのもゴリゴリ精神を削ってきますが、そんなところもこの作品の好きな部分です。


ユ・スンヒョンさんとイム・ジンソプさんへのインタビュー動画
 

 ノリのいい音楽と笑いがいっぱいのライトな雰囲気に油断していると突如谷に突き落とすような胸に刺さる場面が展開し、そこで流した涙を爽やかな風で吹き飛ばしていく、そんな趣のあるバスケ団。辛い気持ちで流す涙もあれば清涼感を感じながら流す涙もあり。ジョンウと幽霊三人組が再会を果たしてバスケを一緒にし、彼らがジョンウのそばにずっと一緒にいたと告げ、それに対してジョンウが「本当に?」と笑顔で確認する場面はその最たるものかもしれません。1

 日本語字幕で理解が深まり、より一層好きになったのがキム・スンヨンさんが演じるサンテ。幼い頃は神童扱い、今は記憶力が皆無ですぐに色んなことを忘れてしまうけど、バスケしているときは胸がときめく。その瞬間が好きだから、バスケでシュートが入っても入らなくても気分がいいか悪いくらいの違いしかないけど、その瞬間を求めているからバスケをやるんだと語るサンテ。怒りという感情は相手に期待するから発生するのであって、期待していない相手には怒ることはないのだと達観したようなことをいいながらもバスケのシュートが綺麗に決まればめちゃくちゃいい笑顔をし、密かに狙っていた主将のポジションにスヒョンが収まったことを素直に歓迎できないサンテはとても人間らしく。かと思えば実は幽霊三人組の正体に気づいていながらも彼らの存在を「何か事情があるんだろ?」とこともなげに言い切る。最初はあれだけやる気のなかったのに試合に負けてチームが解散になることを盛大に悲しむ他のバスケ団員たちとともに観る回数を重ねるごとに彼らの存在は愛おしくなります。

 アイスクリームのエピソードがいつも号泣スイッチを押すダイン。クァク・ダインさんが演じるダインは何かを押し隠そうとしながらも隠しきれていない優しい笑顔には本当に参ってしまいます。すべてジョンウとともに見てきたダインがジョンウに対して彼がスヒョンに言ってあげたように「ただの古いホイッスルだ」と返すのも好きな場面の一つです。三人組で敢えて一人を選ぶなら私はダイン推しですが、シャープな眼差しがかっこいいキム・チャンさんのジフンも、いかにも頼りがいのありそうな堂々とした姿が素敵なク・ジュンモさんのスンウも本当に大好きで。キャスト全員からこの作品への愛が伝わってくるのも私がバスケ団が大好きな理由の一つだと思います。

 普通の人が普通に生きていてもぶち当たる可能性が高い悲しみ。『伝説のリトルバスケ団』はそんな悲しみにそっと寄り添ってくれて、劇的に何かが変わるわけではないけどそっと背中を押してくれる素敵な作品。改めて、大好きな作品をより一層好きになって、広める機会をくださった関係者の方には本当にありがとうございます!

おまけ

 ちなみに束草市がどんなところかが気になって調べてみたら韓国観光公社のブログの束草市1泊2日モデルプランに行き当たりました。2もしや地方都市も紹介できるからと言う理由でこの作品が選ばれているという理由もあったりする?!

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  1. 実はここ、ジョンウのキャストによって台詞が違い、ジェヨンさんのジョンウは「知ってた」(알았지) と返します。
  2. [2023.7.28追記] 現時点では該当の記事は削除されていました。残念...