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【観劇レポ】ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』(Next to Normal) @ Theatre Creation, Tokyo《2022.4.2マチネ》

ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』(Next to Normal) @ Theatre Creation, Tokyo

 日本初演で見事にドボンと沼落ちし、それ以来ずっと大好きなミュージカルであるネクスト・トゥ・ノーマル』(Next to Normal, 以下N2Nと略記)。Aチームで観劇した再演のマイ初日では「私の大好きなN2Nが帰ってきた!」と感涙にむせび、また全然違った雰囲気だと聞いたNチームを観るのも俄然楽しみに。というわけで観てきました、Nチーム!そんなチームNのキャストのみなさまは以下の方々でした。

 ダイアナ:望海風斗さん
 ゲイブ:甲斐翔真さん
 ダン渡辺大輔さん
 ナタリー:屋比久知奈さん
 ヘンリー:大久保祥太郎さん
 ドクター・マッデン藤田玲さん

 個人的な結論から先に言うと、両チームともにキャスティングに死角なし!ありがとうキャスティングをまとめた偉い人!!!

2022.4.2 マチネのキャストボード
2022.4.2 マチネのキャストボード
 

 N2Nの簡単な作品紹介はAチームを観劇した時の観劇レポの記事に書いていますので、もしよかったらこちらも併せてご覧ください。

感想

 いろんな媒体で活躍されている俳優さんたちが多いチームNのみなさまですが、実は私は全員初めましての俳優さんたちばかり。結果、今後も他の作品で観てみたい俳優さんたちが一気に増えてとてもホクホク気分です。全員とても良かった!!前回はかなり後方の上手側の席からの観劇で全体がよく見えたのですが、今回は舞台を完全に見上げる感じの超前方列ドセンターの席。とにかく諸々の解像度がとても高く、それだけでかなりドキドキしました。見上げすぎて首が多少痛くなったのは否定できないですが、オフマイクの声も聞こえるこの距離感、この歌ウマ演技ウマ揃いのキャストで大好きな作品で体験できるなんてなんて至福!!ありがとう、チケットの神様!!!

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください。)

 ワンクッション置いた後にもくどく注意喚起になりますが、これから初めてN2Nを観る方々は是非前情報なしのフレッシュな状態での観劇をお勧めします。この作品はネタバレを踏んでしまうと面白さが半減してしまう可能性が高いので何卒!以下からは忖度なしのネタバレ全開で感想を書いていきたいと思います。

 Nチームのグッドマン一家は全員が精巧なビスクドールのような美男美女で、さらに全員とてつもなく頭が良く、それゆえに少し思い詰めやすい雰囲気があり、その様子がどこか浮世離れしているように感じました。一方でヘンリーはマリファナを常用してフワフワしているようで、地に足がついたしっかり者の雰囲気が印象的。グッドマン一家の中にいるとその安定感が異質な雰囲気がします。きっとナタリーはヘンリーのそんな安心して寄りかかれそうな居心地よさに惹かれたんだろうなという気がとてもしました。なんというか、大久保ヘンリーは誠実さが滲み出ている感じがするんですよね。そしてきっと世渡り上手。屋比久ナタリーはまさに思春期真っ只中な雰囲気で、とても感受性豊かで傷つきやすく、揺れるビー玉みたいな大きな目がとても印象的で。ナタリーが抱えている不安や心細さが彼女が歌う歌からビシバシと感じられて、それがとてもとてもよかったです。語弊がある書き方かもしれませんが、手負いの小動物をヘンリーがゆっくりと距離を詰めて手懐けていっているみたいだなとも思ったり。屋比久さんのナタリーは自分が母親のようになってしまうかもと不安がっていますが、自分の感情を押し込みがちでどちらかというとパパ似かもしれないなと思ったり。

 望海さんのダイアナと渡辺さんのダンはお二人ともダイアナとゲイブの設定年齢に近い年齢の俳優さんたちですが、物語の設定そのまま、若くして、覚悟もないまま人の親になってしまったまだ若い二人、という感じがとてもしました。渡辺さんが演じるダンは、ダン本人はそれなりにちゃんとナタリーに親として接しているつもりなのかもしれませんが、ダイアナしか見えていない感がとても強かったです。出会った当時の鮮烈な魅力で惹きつけられたダイアナをずっと静かに、でも情熱的に愛し続けてきたのだろうなと思います。なので、渡辺さんのダンにはゲイブを無視しつつもダイアナの理想のロマンスの体現としてのゲイブに強いライバル心と嫉妬心を感じました。颯爽としていて、一見クールだけどチャーミングでコケティッシュな魅力がある望海さんのダイアナ。望海さんのダイアナは一幕の病気の治療中の様子や必死に記憶を取り戻そうとしている時の姿は本当にとても苦しそうで、辛そうだったので、家を出ていくと彼女が決めてそれをダンに宣言したときのとても晴れやかで穏やかな表情がとても印象に残りました。きっとこれが本来の彼女の姿で、ダンが再会したかったのもそんな彼女だったんだろうな、と。しかし、Aチームでも思いましたが舞台終盤の大きめのシャツにタイトな黒のスラックスのダイアナがため息が出そうなくらいめちゃくちゃかっこいい...。この場面の渡辺さんのダン、最初はずっと無表情でぼんやりと前を向いているので整ったお顔も手伝ってとても人形めいていて、それがだんだんと顔の表情が歪んで人間味が増していきながらも苦しそうになっていく様子と望海さんのダイアナのふっきれた表情との対比もとても印象に残りました。そこからのゲイブとのあの場面、ナタリーとの会話、それを経て止まっていたダンの時間が動き出し、少しずつ彼がダイアナ以外にも向き合うようになっていく姿がよかったです。

 そんな美人な両親の理想の息子はまさにこんな姿の青年ですよね、という謎の納得感が半端なく大きかった甲斐さんのゲイブ。二人の息子としての説得力がとてつもなく高いのに、その整いすぎた造作が少し作り物めいていて、同時にこの世の人ではないというオーラも強く感じました。それでいて、ゲイブが両親を見つめる視線はいつもどこかキリキリとした切実さをはらんでいてとても切ない。甲斐ゲイブはダイアナとダンの両方の理想を吸い上げて、それを体現して育った存在のように感じられました。二人の果たせなかった理想を栄養として取り込んで大きくなったのに、両親の一人は自分を見てくれながらも自分を忘れて先に進もうとしているように見え、もう一人は物凄く自分を意識しているはずなのに無視し続けている。なんでなんだよ、どうしてだよ、という声なき叫びが聞こえてくるように感じるゲイブでした。そう考えるとナタリーとゲイブは似た者同士の兄妹なのかもしれない。だとすると、ゲイブもナタリーに対して強烈に嫉妬心を募らせているのかもしれないとも思えてきます。ダンが自分に向き合い始めたことによって、ゲイブも色々と縛られたことから解き放たれて、それでラストあの歌詞と表情に繋がるのかなぁ、と。

 私の中でドクター・マッデン≒新納さんという数式がほぼ出来上がっていたので観る前はどういう感想になるか少しドキドキしていた藤田さんのドクターですが、とても良かったです!ダイアナと出会った当初のロックスターっぷりも良いですが、何より医者として話している時の落ち着いた低めの声がとても素敵。このドクターのこの声を聞くために通院している患者も中にはいるのでは、と思ったり。ドクター・マッデンも終盤に近づくにつれて人間味が増していく役ですよね。ダイアナが幻覚を再び見始めた後のドクター・マッデンのちょっと熱くなっていると感じる場面、マニアックかもしれないですが結構好きな場面です。

 前回観たときも感じたのですが、新しい演出で特に好きだなと思ったのは二幕冒頭のWish I Were Hereの場面でダン役の俳優さんが医師(あるいは看護師)の一人に扮しているのではなく、奥の方でダンとしてダイアナの治療が終わるのを待っている姿が見えること。ナタリーのピアノリサイタルの場面のように異なる空間にいる登場人物たちの様子が同時進行で見える場面はオリジナルの演出でもいくつかありましたが、新演出のセットはそういった場面はもちろん、それ以外の場面も「舞台の裏側」が見える感じがとても好きです。

 なんだかどんどん感想が取り留めなくなってまとまりもあったもんじゃないですが、とにかく今日もしみじみと『ネクスト・トゥ・ノーマル』という作品が大好きだなぁという気持ちに浸れてとてもとても幸せです。残りチケットが一枚になってしまっていて、すでにロスが始まりつつありますがこれだけのパワーを感じる作品なので、次の再演は近い将来であり、ランももっと長くなることをアメリカ流に指をクロスしながら祈っています。

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