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【観劇レポ】ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』(Swan Lake) @ The Royal Opera House, London《2018.6.5ソワレ》

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 2018年のGWは海外出張が入ったため、その振替休暇として6月頭に毎年恒例のロンドンへの遠征観劇旅行に来ています。今回の渡英の大きな目的のひとつはロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス (Royal Opera House) に本拠地を置いているロイヤル・バレエ (The Royal Ballet) のバレエ観劇デビューをすること!2017年の『ビリー・エリオット日本初演で加藤航世くんのビリーにすっかり魅せられてしまった私はわかりやすく「バレエも素敵...。今後渡英するときはROHにも行ってみよう!」と決意。奇しくも私が渡英する時期に上演されてる演目は『ビリー・エリオット』でも音楽が使われていて、バレエを観たことがない人でもきっと知っているチャイコフスキー作曲の超有名バレエ、白鳥の湖』(Swan Lake) という偶然。「これは観るしかない!」と思い、私が密かにバレエ観劇の師匠と心の中で仰いでいるフォロイーさんにおすすめの席などを教えていただいてチケットも確保し、そして先日念願のROHとロイヤル・バレエ観劇デビューをしてきました。初観劇ならではのまっさらで高揚感に溢れる感想を記憶がフレッシュなうちに記録にとどめておきたくて、今パソコンを開いてこの記事を書いています。

 

 気がついたら初めてイギリスを訪れた2011年から丸7年が経ち、ロンドンに足を踏み入れた回数は2桁に乗っていたのですが、今までROHの側を通り過ぎたことはあっても中に足を踏み入れるのは初めて。さらにバレエ観劇に関しては、映像作品の鑑賞を除くと、20年以上前にアメリカに住んでいた頃、近隣地方都市のバレエ団の『くるみ割り人形』を観て以来。ROHの豪華で華やかな内装と、ミュージカル観劇するときとはちょっと雰囲気の違う客層にも少しドキドキしながらロビーでプログラムを購入し、待合室のふかふかの椅子に座りながら客席に入れるまでプログラムのあらすじを読んだり、キャスト表を見たりしていると、ラッパのファンファーレが鳴り、オーディトリアムへ入場が開始。オーディトリアムのさらに豪華でロイヤルな雰囲気に「素敵!」と内心感嘆しながら自分の席を探して席に着くと、そこはフォロイーさんのおすすめ通りに視界を遮るものがなく全体が見渡せるとても素敵な席!急上昇する期待感にさらにドキドキしながら開演を待つのも素敵な体験でした。

 私が観劇した6月5日の公演のキャストは以下のキャスト表の写真の通り。主役のオデット姫/オディール (Odette/Odile) はサラ・ラム (Sarah Lamb) さん、ジークフリート王子 (Prince Siegfried) は平野亮一さん、魔術師ロットバート (Von Rothbart) はトーマス・ホワイトヘッド (Thomas Whitehead) さんです。配布されるキャスト表に記載されていたあらすじをざっくり意訳したものをご紹介します。(ちなみに有料のプログラムにもあらすじが載っていますが、若干プログラムのほうが詳しいです。)

(以下、ネタバレが多く含まれるのでご注意ください)


プロローグ

 オデット姫は魔術師フォン・ロットバートにより白鳥に変えられる。

一幕

 人間に化けたロットバートに監視される下、宮廷でジークフリート王子は自身の誕生日祝いに参加している。ジークフリートの母は王子に亡き父のクロスボウを贈り物として授ける。王妃は次の日の夜にジークフリートの名前の下に開催される宮廷の舞踏会で花嫁を選ばないといけないと言い渡す。

二幕

 ジークフリートを心配したベンノは彼を追って湖のほとりに行く。ベンノは王子に宮廷に戻るよう促す。ジークフリートは結婚についての一切の話題を避ける。

 再び一人になったジークフリートは遥か上空を飛ぶ白鳥の群れを見つける。彼が驚くことにそのうちの一羽が一人の美しい乙女、オデット姫に変身する。オデットは彼女がロットバートの呪いの犠牲者であり、昼間は白鳥の姿になり、夜に自身の姿に戻る生活を余儀されなくなっていることを伝える。呪いはまだ愛したことがない人が彼女に不滅の愛を誓うことにのみによって破られる。

 ロットバートが現れ、オデットは彼に王子に危害を与えないように懇願する。ジークフリートはロットバートを撃とうとするが、オデットは魔術師が殺されたのならば、呪いは解けないことを説明する。オデットと王子はお互いへの愛を表現する。

 夜が明けると、ロットバートがオデットをジークフリートから引き離し、姫は白鳥の姿に再び戻ってしまう。

三幕

 ロットバートは遠方の土地から宮廷の舞踏会に訪れた賓客たちを歓迎する。ジークフリートはようやく舞踏会に到着し、母親に四人の美しい姫たちの中から花嫁を選ぶように命令される。嫌々王子は四人の姫たちと一人ずつ踊るが、花嫁を選ぶことを拒否する。

 ファンファーレが鳴り、招待されざる客人であるオディールの到着を告げる。ロットバートの魔法により、彼女はオデットと瓜二つの姿をしている。ジークフリートは自分の愛する人が到着したことが信じられない。

 ジークフリートはオディールの美しさに魅了される。オデットはジークフリートにその偽りについて警告しようとする。事態に気づかないジークフリートは花嫁としてオディールを選び、結婚と永遠の愛を誓う。ロットバートは正体を明かし、宮殿を制圧する。悲嘆にくれ、ジークフリートは湖へと戻る。

四幕

 湖のほとりで白鳥たちがオデットの帰りを待ち構えている。傷心の彼女が現れ、白鳥たちにジークフリートの裏切りを伝える。永遠に白鳥の姿から戻れない運命から逃れる唯一の方法は死...呪いから自由になるためには彼女は湖の波の中にのまれて消滅しなくてはならない。

 ジークフリートの嵐の中の必死の探索は湖のほとりで終わる。彼はオデットに許しを乞う。ロットバートが現れ、ジークフリートに自身が誓った内容を思い出させる。運命の逃げ道がなくなったオデットは岩場に駆け寄り、湖へと身を投げる。彼女の犠牲により魔術師の力は破られ、残されたジークフリートは王女の亡骸を掻き抱く。


 オープニングはあらすじにも書いた通り、オデットがロットバートに魔法で白鳥に変えられてしまう短いシーンから。ロットバートの魔術師というよりは邪悪な精霊のような雰囲気のインパクトのあるビジュアルと、白鳥に変えられてしまったオデット姫の象徴的な白い羽のチュチュ姿の鳥の羽ばたきを彷彿とさせる手の動きが印象に残ります。舞台はすぐさまジークフリート王子が暮らす宮殿の庭のシーンへ。宮殿を守る衛兵たちと思われる男性ダンサーたちの勇ましいダンスから始まり、続いて宮廷勤めの女性たち、華やかな衣装の王侯貴族たちが登場。ジークフリード王子の友達のベンノが登場し、続いてジークフリード王子が登場します。ジークフリート役の平野さんは2016年に高田茜さんと同じタイミングでプリンシパルに昇格されたのが私のタイムライン上で話題になっていたので名前は存じあげていたのですが、踊る姿を拝見するのはもちろん今回が初めて。舞台映えする長身に登場した瞬間に「王子だ!」と一目見てわかる華やかなオーラ。もうなんならそこで立っているだけでかっこよくて素敵なので、登場人物が多い場面ですが、気がついたらついつい目で王子の姿を追ってしまう自分がいました。これはアカン。王子が登場した後は王妃と二人の王子の妹の姫たちが登場。王子にクロスボウが贈られる場面の後、ベンノと妹姫たちのソロ、パ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワが続きます。妹姫のマヤラ・マグリ (Mayara Magri) さんとミーガン・グレイス・ヒンキス (Meaghan Grace Hinkins) さんもベンノ役のルカ・アクリ (Luca Acri) さんも若々しくて躍動感に溢れていてキラキラしている!ここらへんぐらいから「宝塚沼の人たちが言う、「致死量のキラキラ」って」こういうことを言うんじゃなかろうか」と眩しさの過剰摂取により脳内の感想が妙な方向へ向き始めます。ソロやパ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワの後は踊ったダンサーたちがお辞儀してくれるから、惜しみなく拍手できるのもなんかいいし新鮮だなぁと思ったり。ROHのシネマ・スクリーニングは何回か観ていますが、映画館では拍手は聞くものでするものではなかったので、そんな所も印象に残りました。

 さて、私はバレエについて全く詳しくないのですが、今回のロイヤル・バレエの『白鳥の湖』は1895年にロシアのマリインスキー劇場バレエ団によって上演された通称「プティパ=イワノフ版」をベースに、ロイヤル・バレエのアーティスト・イン・レジデンス (Artist in Residence) であるリアム・スカーレット (Liam Scarlett) 氏によって新たに追加の振付がされた新しいバージョンの『白鳥の湖』だそうです。世界各国で上演されている『白鳥の湖』も、このプティパ=イワノフ版を元に改訂を加えたものが多いのだそうです。『白鳥の湖』は全部で四幕構成。今回の公演では二幕の終わりと三幕の終わりに休憩が入りました。

 二幕はいよいよ白鳥たちの登場です。『白鳥の湖』をテレビの映像でしか観たことが私でも知っている有名な「小さな白鳥の踊り」(Cygnets' Dance) も二幕です。私が「おお〜、これがかの有名な!」と心の中で盛り上がれるのには、二幕は各種ある『白鳥の湖』の中でもプティパ=イワノフ版の振付のまま踊られることが多いからだそうだとか。動画で見るとわからないのですが、白鳥たちがリズミカルに刻むポワント・シューズのザッザッという音も小気味よく響いてそんな所も印象に残りました。そして二幕は姫と王子の出会いの場面でもあります。ROHシネマシーズンの金平糖の精役で拝見したときも思ったのですが、オデット姫役のサラさんは同じ人間だと思えない美しさ!憂いを帯びて儚げで、それでいて凛とした佇まいの姫で、「そうだよね、これは一目惚れしちゃうよね。わかるよ、王子」と思わずにいられない美貌。なんといいますか、彼女の周りだけ空気の澄み具合が違って見えるというか。そんな感じでございます。姫と王子のパ・ド・ドゥは子供の頃に憧れたバレエの世界のイメージ、うっとりと憧れたおとぎ話の美しいお姫様と王子様の物語そのもの。また平野さんもサラさんもスラッとした長身の美男美女なので眼福度が色々振り切っている。「もう駄目だ、素敵すぎて死ぬ...」とかアホなことを考えながら食い入るように二人の踊りを見詰めたのであります。そんな二人の間に割り込んでくるロットバートは私の眼福を奪う存在でしかありません。貴方ちょっとお邪魔よ!だがしかし姫は白鳥に戻され、王子から離れて飛び去っていくのでした、という所で休憩突入です。休憩中はひたすらふわふわふわふわしてました(←)

 三幕は王子の花嫁を決める宮殿の舞踏会の場面。この宮廷のセットと舞踏会に呼ばれた王侯貴族たちの衣装が豪華絢爛で、それにもうっとり。特に特徴的な四人の姫たちと彼女が擁する使節団の衣装が個性豊かで目を引きました。四人の姫達とその臣下たちは基本的に衣装のモチーフは統一されているけど、姫だけがパンケーキ・チュチュなのも誰がどういう立場の人なのかが視覚的に一目瞭然でわかりやすい。バレエは言葉で表現しない分、踊りともう一つ、衣装も各登場人物達の個性を表現する大きな手段になっているのだと感じました。

 さて、あらすじでも書いた通り、舞踏会に遅刻して登場した王子は母の言いつけられて四人の姫達に挨拶をして踊るのですが、このダンスの王子の社交辞令感というかお義理感というか、嫌々やらされている感がハンパない(笑)所作はあくまで優雅なのに「だって俺の姫じゃないし...」とまるで顔に書いているあるかのようなそっけなさに思わず笑いそうになりました。正直者すぎる(笑)そんな腹芸のできない王子は、主役だから余計そう感じるのかもしれませんが、他の誰よりも表情豊かに感じられて、そんな所がすごく好きだなぁと思ったり。今までの色々なインプット(といいながら目下愛読している『ダンス・ダンス・ダンスール』の影響が大きい)により、ジークフリート王子に対しては「残念なイケメン」のイメージが強いのですが、まさに。(←)そんな残念なところもありつつも、一度踊りはじめたら舞台が狭く感じるほど躍動感溢れる精悍な王子はやはり人を惹きつける魅力を感じるのです。そんな中、ファンファーレとともにオディールの登場です。わかりやすく喜ぶ王子。ですが、オディールは姿形こそはオデット姫と同じでも放つ雰囲気が全然違う。憂いを帯びて儚げな雰囲気のオデットに対して、オディールは挑戦的で華やかで、その微笑みは蠱惑的。実際にそういう設定なので当然といえば当然なのかもしれないですが、姿は同じなのに全く別人に感じるサラさんの役作りに「凄い!」と心の中で褒め称えたのは言うまでもなく。オディールは踊りもオデットよりダイナミックで、有名な黒鳥の32回のグラン・フェッテでは客席から大歓声。この夜一番大きな拍手が王子とオディールの二人に送られました。

 ロイヤル・バレエのFlickrアカウントに平野さんのジークフリート王子とサラさんのオディールの素敵な写真があったので、リンクをご紹介。サラさんのオディールの魔性の微笑みと、それにすっかり心奪われている平野さんの王子の表情、必見です。これ以外にもプロダクションの素敵な写真がいっぱいアップされているので、興味がある方はぜひ!

Ryoichi Hirano as Prince Siegfried and Sarah Lamb as Odile… | Flickr

 子供の頃の私は母親にねだって買ってもらった『白鳥の湖』絵本が大好きで、よくチュチュ姿のオデット姫の絵の落書きを描いていました。その当時は、「王子は騙されただけなのに、なんでオディールに永遠の愛を誓ったことになっちゃったんだろう」と思っていたのですが、実際にバレエを観てみたら一回で納得できました。王子はあんなに別人の雰囲気を纏っているオディールに心奪われたわけなのですから、これはまさに完全に王子の裏切り。オデットだと信じ込んでいたとしてもその事実は変わらないのだと思わざるを得ません。やはりジークフリートは残念なイケメン。(←)可哀想なオデット。図らずともだめんずウォーカーになってしまったことが姫の運命を決めてしまったわけなのです。と、脳内は『白鳥の湖』の物語にツッコミを入れながらも眼前に展開されている超絶テクニックの踊りを追い、賞賛、拍手喝采しているのですからカオスです。それ以外で三幕で気になったのは指を指差す仕草などの多分、様々なマイム。指を指差すのは結婚指輪から連想して結婚を表しているのかな、とか、こういうのもきっと色々と知ってくるとどんどん面白くなるんだろうなぁ、と感じました。

 四幕の開始は見事な白鳥達の群舞から。傷心のオデットは元々儚げだったのがそれに輪をかけて消え入ってしまいそうな姿。王子が許しを乞いにやってきますが、四幕の二人のパ・ド・ドゥはやはりもの悲しげな雰囲気です。そこにやってくる勝ち誇ったロットバート。ロットバートと王子の戦いに関して、もっと華々しく激しくドンパチやり合うのかなと勝手に思っていたのですが、思いの外割とあっさりめ。姫の呪いからの解放は彼女の死によってもたらされ、意識を取り戻した王子に残されたのは魂のない姫の骸のみ...という悲劇的なラストなのですが、オデットの魂が白鳥となり羽ばたいて自由に飛び立つように感じる表現もあり。王子の愛ではなく、自身の選択で自由を勝ち取る姫と裏切りの報いを受ける王子...ということである意味現代的な終わり方かもしれないなぁ、と思ったりもしました。

 観終わった後に異様な高揚感に包まれながら、今日の公演も素敵だったけど、『白鳥の湖』の他のバージョンも観てみて比較してみると面白いんだろうなぁとか、キャストが違うとどれくらい雰囲気が違ってくるんだろうと気になりはじめたり、「夏の渡英時にはROHでは何もバレエやっていない。さみしい」とか考え始めた私はいよいよバレエ沼にも片足以上を突っ込んだ気がしてなりません。勢い余って日本で開催されるガラ公演のチケットをポチっちゃったし。(←)

 私が観たキャストとは別キャストになりますが、今年の8月に『白鳥の湖』もロイヤル・オペラ・ハウス2017/2018 シネマシーズンの最後を飾る作品として全国各地の映画館で上映が予定されています。

tohotowa.co.jp

 平野さんがリオンディーズ王を演じて、サラさんもパーディタ役で出演されていた『冬物語』のスクリーニングも観たかった...(T_T) 帰国直後は、やはりお二人も出演する『バーンスタイン・センテナリー』も上映されるということなので、これもぜひ見に行かなくては!と思っています。

 バレエに関してはまだ沼に足を踏み入れたばっかりで、今後どんな作品、どんなダンサーさんが好きになっていくのかはまだ未知数でそれもワクワクするのですが、自分の意思で初めて観劇したこの『白鳥の湖』はきっとこれからも特別な作品、特別な経験になるんだろうな、とそんな気がしています。