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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』(전설의 리틀 농구단) @ Tower Hall Funabori, Tokyo《2023.7.27ソワレ》

ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』(전설의 리틀 농구단)

 ミュ友さんのチケット運に助けられて、チケット争奪が激戦だった韓国創作ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』(전설의 리틀 농구단, 以下一部『リトルバスケ』と略記) の一日限りの日本初演のプレビュー公演を船堀で観てきました。当日にこうやって興奮冷めやまぬまま観劇レポを日付を跨ぎながらも書いている時点で私をよく知るみなさまはご察しかと思いますが、とっっっっっても良かったです!!!たった一ヶ月の練習期間で素晴らしい完成度のプレビュー公演を見せていただいたキャストの方々は以下のみなさまでした。

 スヒョン:橋本祥平さん
 ダイン:梅津瑞樹さん
 スンウ糸川耀士郎さん
 ジフン:吉高志音さん
 サンテ:太田将熙さん
 ジョンウ平野良さん

良いものを観た充足感でとても幸せです。

作品紹介

 先述の通り、ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』は韓国発のオリジナル創作ミュージカルです。パク・ヘリム氏の脚本、ファン・イェスル氏の音楽による本作は2016年にソウルから少し南に位置する安山市の安山文化芸術の殿堂で初演が上演され、それから再演を重ねながら徐々にバージョンアップされている作品です。安山文化財団が韓国のミュージカル制作会社のIM Culture社とタッグを組み、その共同制作で大きく内容がリヴァンプされた2019年のソウル公演1。このタイミングで私自身はソウルでこの作品を初観劇しており、その時に書いた観劇レポートでも作品紹介しているので、もし興味がある方は下記のブログ記事をご覧になっていただければ幸いです。

 会場で配布されたチラシを拝見する限り、今回の日本版の制作陣として訳詞と上演台本を担当されたのは、私オムさん、演出はTETSUHARUさん。バンドメンバーでキーボードコンダクターでもある田中葵さんが音楽監督を務めていらっしゃるようです。

感想

 自分で言っちゃいますが、私は結構お気に入りのミュージカル作品に対する愛が重いクチです。韓国版のリトルバスケは私が夢中になっている韓国創作ミュージカルの中でも私の最愛作品と言っても過言ではなく、そんな大好きなミュージカルが満を持して日本に上陸したことはとてもうれしくもあり、逆に愛が重すぎるゆえに日本版を素直にまっすぐ受け止められるかについては不安がありました。結果的に私の心配はまったくの杞憂。オリジナルの完全レプリカではないのにもかかわらず、日本のオリジナル要素にも日本版ならではの良さを感じられて、とてもうれしい誤算でした。

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください)

 日本版と韓国版では各登場人物たちの性格や雰囲気は少しずつ違っています。違いがありつつもそれがとてもしっくりしたのは、日本版は今回キャスティングされた俳優さんたちに寄せて設定を微調整して、上演台本をオリジナルからはちょっと変えているからなのだと思います。特に印象の違いが大きかったのがサンテとダインで、韓国版ではメガネをかけているちょっとファニーなキャラはサンテが担当していますが、日本版ではその要素がダインの領分になっています。それは過去に私が作成した作品布教シートの人物紹介を見ていただいてもなんとなく感じられるのではと思います。

韓国版の舞台配信があったときに作成した布教シート

 ちょっと変わり者でありながら影が薄めな韓国版のサンテはスヒョンと同じいじめられっ子の雰囲気がありましたし、韓国版でのサンテ役の俳優さんはマルチマンとして活躍されている味のある俳優さんたちがキャスティングされていたので、スラッとしたイケメンの太田さんがサンテ役で、サンテがバスケは好きだけど人と人の繋がりを冷めた目で見ているクールな現代っ子でも全然ストーリーが成立するのが私にとって驚きでした。韓国版のダインはふんわりとした雰囲気がとても優しそうで学級委員長をやってそうな男の子のイメージが強かったですが、梅津さんのダインはミュ友さんの言葉をそのまま借りると、「どこか様子のおかしい」ガリ勉くんのような雰囲気の残念なイケメンでしたし、平野さんが演じるジョンウは少し無気力っぽいところはあったかもしれませんが、そこまでやさぐれている印象はありません。わかる人が限定されてしまう表現になってしまいますが、平野さんのジョンウは私が観たことのある韓国版のジョンウの中ではキム・デヒョンさんが演じたちょっと冴えない部分もあるけどとても優しくて面倒見のいいジョンウに一番雰囲気が近い気がします。三人に比べると、スヒョン、スンウ、ジフンの雰囲気はまだ比較的オリジナルに近いかもしれません。

 登場人物の雰囲気だけではなく、物語の展開に関しても大きなものから小さなものまで違いが色々とあり、話の大筋としては変わらないながらもその違いに気づくたびに新鮮な気持ちになりました。違いを自分自身の目で見て確かめて楽しみたい人もいるかと思いますので、ここでいったんワンクッションを置きます。自分の目で確かめたい方は次の次の段落まで文章を読み飛ばしてください。まだ作品をご覧になっていない方で来年(2024年)に予定されている本公演を観る予定の人も、ここからは割と物語の核心に触れるネタバレが含まれるので、できたら1回目の観劇は何も情報入れないまっさらな状態で挑んで欲しいという気持ちが強いです。そしてできたら、2回目も観劇して、「あっ、ここは!」と色んな伏線を発見しながら鼻水をすすりながら観て欲しい。というわけで作品をこれから初めて観る方はさらにもう一段落読み飛ばしてください。

 大小色々違いがある中で日本版での変化点として特に印象に残ったのは、スヒョンの「願い」がストーリーの一つのキーポイントになっていることです。スヒョンが生きる希望を失って身投げをするときに歌う「SOS信号」と、ジョンウが海難事故にあったバスケ仲間たちのことを回想している時の曲が同じメロディで曲名も「SOS信号 [Reprise]」となっているように、スヒョンとジョンウの境遇は韓国版でもリンクされた形で演出されていますが、ジョンウがスヒョンに対して自分と近いものを見出している描写に比べて、その逆は韓国版では少し薄めです。それが、日本版ではスヒョンが一人ぼっちになってしまったジョンウに自分を重ねて幽霊三人組たちにジョンウの前に姿を現すことを「お願いする」形になっているのは、これはこれでとてもいいなぁと思いました。ただ韓国版の、いまだにサバイバーズギルトに苛まれるジョンウに対して直接三人が呼びかけて本懐を遂げるバージョンも大好きなので、正直甲乙つけがたい!スヒョンとジョンウの境遇のリンクでさらにグッとくるのが、主将のホイッスルの部分です。ジョンウから渡されたホイッスルをいじめっ子たちに壊されてしまって泣きべそをかくスヒョンに対して、ジョンウは「ただのホイッスルだ」と軽く流して不問にしますが、それが実は昔、事故の直前にダインからジョンウに託されたホイッスルであったことが明かされます。すべてを「一緒に見ていた」ダインが、ジョンウと同じように「ただのホイッスルだ」2と言ってあげるのがすごく温かくて、韓国版でも大好きな場面で、今、思い出しながらも泣いているんですけど、さらに日本版ではスヒョンが主将のホイッスルを壊されてしまう様子を「見ているだけだった」サンテが新しいホイッスルをスヒョンにプレゼントしてあげるところがすごく心に印象に残りました。これは、今回追加された日本版オリジナル要素の中で一番好きな変化点です。


日本版ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』
プレビュー公演ゲネプロダイジェスト映像

 

 ダインのアイスクリームソング3に嗚咽したり、ホイッスルを壊されたスヒョンを再び襲う絶望からジョンウが語るスンウとの「ダンクシュート」の思い出話、幽霊三人組とジョンウとの再会の「一戦」までの怒涛の流れに呼吸困難になるくらい泣けるのは変わらず。作品愛を再確認すると共に、たった一ヶ月の練習期間でここまでの完成度に作品を持ってきたキャストとスタッフのみなさまには頭の下がる思いです。俳優さんたちの演技、歌とダンスはもちろん、バンドのみなさまの演奏もとても良かったです!改めて、リトルバスケは物語も大好きだけど、耳に残るキャッチーな音楽も本当に素晴らしいなぁと思いました。強いて一つだけリクエストするとしたら、今回のプレビュー公演ではカットされていたサンロク区バスケチームの存続がどうなったかの部分について本公演ではやってくれるといいなぁと思っています。さらにリトルバスケの初見はまっさらな気持ちで観て、2回目で随所にちりばめられた伏線に気付いて最初から泣きそうになりながら観るのが個人的なおすすめ観劇方法なので、たくさんの人が2回は観れるように公演期間を長くして欲しいなぁ、と。これだけプレビュー公演の評判が良くて、キャスティングされている俳優さんもとても人気のある人たち揃いで本公演もプレビュー公演同様血ケッティング必至な気がしますが、なんとか頑張って本公演のチケットもゲットしたいなぁと思っています。こんな素敵な形で私の大好きな韓国創作ミュージカルを日本に持って来てくれたことを改めて感謝申し上げます。チケットをゲットしてくれたミュ友さんにも改めて感謝です!

 素晴らしい完成度の日本版を観たことによる満足度は半端ないですが、違う良さがあるからこそ韓国版もまた観たくて恋しくなってしまいました。コロナ禍のせいで多くのこの作品を愛する日本人が韓国版リトルバスケを観れたのは2019年の韓国地方公演が最後になると思いますので、何卒IM Culture様と安山文化財団様におかれましては次の再演をご検討いただけると幸いです。何卒!


2019年『伝説のリトルバスケットボール団』ソウル公演
「このコートの中の僕らは」ミュージックビデオ

 

 まだまだリトルバスケの感想を読み足りない方がいらっしゃれば、この記事の冒頭で紹介した2019年ソウル公演の観劇レポだけではなく、韓国版の配信の感想を以下のブログ記事でも書いていますのでよかったらぜひ。

2020年ソウル公演のNAVER公演ライブ配信の感想
theatre-goer.hatenablog.com
2020年ソウル公演の有料配信、字幕付き無料配信の感想
theatre-goer.hatenablog.com
2022年ソウル公演のNAVER公演ライブ配信の感想
theatre-goer.hatenablog.com
 
[2024.3.5修正]

 本公演にて販売されたパンフレットで日本版のミュージカルナンバーのタイトルが判明しましたので、それに従って曲名を修正しました。

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  1. 会場で配られたチラシとともに写真で撮っているのが2019年のソウル公演の時に現地で購入した公演プログラムです。
  2. 正確に書くと、韓国版と日本版では少しだけ台詞が違っていて、韓国版では「ただの古いホイッスルだ」とジョンウもダインも言います。
  3. 韓国版の2020年キャスト版上の曲名は「いまになって来てごめん」(이제 와서 미안해)、日本版のタイトルは「今さらごめんね」です。