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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇記録】2022年下期観劇まとめ(7月〜9月)

What I saw in Theatres 2022

 わたしの2022年第三四半期の観劇記録です。個別のレポを書いた作品はそちらへのリンクを、個別レポを書いていないものは簡単に感想も書いています。いつものごとく観劇後かなり時間が経って書いてるものが多いので色々とご容赦を。



July - 7月

ミュージカル『フリーダ・カーロ -折れた支柱-』(FRIDA KAHLO) @ Tokyo Metropolitan Theatre, Tokyo《2022.7.2ソワレ》

 TipTapサポーターズに入会してその特典で初めて抽選に応募したチケット。なんと最前列センターのお席をご用意いただき、至近距離からガツンと食らってきました。とても良かったです。

ナショナル・シアター・ライブ『リーマン・トリロジー』(The Lehman Trilogy) @ Cine Libre Ikebukuro, Tokyo《2022.7.3》

 トニー賞受賞記念の再上映。すでに複数回観ている作品ですが、7月で日本での上映権が切れてしまうということで二週連続で観劇してきました。2年前に観劇した時の観劇レポの記事ですがリンクを貼っておきます。

ミュージカル『アナと雪の女王』(Frozen) @ Shiki Theatre Spring, Tokyo《2022.7.9マチネ》

ミュージカル『アナと雪の女王』(Frozen)

 映画がとても良かった話題のディズニーミュージカルも一度は生で観てみよう!ということでぴあシートの抽選に応募してゲットしたチケット。思っていた以上にオリジナルに忠実な感じの展開だったことに少し驚きました。登場人物はみんな凄く可愛かったんですが、その中でも三平さんのアナのキュートさにやられました。映画も久しぶりに観たくなり、映画でアナの声を担当した神田沙也加さんを思い出してそれだけで泣きそうになったり。物語の展開上の個人的な涙腺スイッチポイントは幼い姉妹のすれ違い。切なくなってメソメソ泣く涙腺よわよわ通常運転での観劇でした。

演劇『2020』@ Parco Theater, Tokyo《2022.7.16ソワレ》

演劇『2020』

 Genius lul-lul (GL)高橋一生さん
 ダンサー:橋本ロマンスさん

 NODA・MAP『フェイクスピア』の配信を観て、一度高橋一生さんの舞台を観てみたいと思っていたところに舞い込んだ上田岳弘さん作、白井晃さん演出の高橋一生さん主演の新作のニュース。舞台だけではなく他媒体でも活躍する高橋さんの一人芝居ということでダメ元で抽選に応募したのですが、なんとか一枚チケットをゲットして観てくることができました。高橋さんの役は何度も転生を繰り返してきており、2020年のコロナ禍から710年も沈黙を貫いてきた男という設定。抽象的で捉え所の無い部分も多かったですが面白い舞台でした。ダンサーの橋本ロマンスさんはクールで中性的な雰囲気でかっこよく、子供のような笑顔がとてもキュートでギャップ萌え。お芝居を通して投げかけられる疑問は「人類は、ヒトはどこに向かっているのか?」という内容。自分は「房から零れ落ちた葡萄」側なのか、「房に残ったままの葡萄」側なのかを観劇後考えたりしましたが、そのどちらでもあるような気がしています。途中、「田山ミシェル」の場面で高まる高橋一生さんファンミーティングのような雰囲気に戸惑うことも。総合的には色々と観劇後あれこれ考えたくなる舞台で、予定していなかったのにプログラムを買っちゃったりもしました。

バレエ『ロイヤル・バレエ・ガラ(Bプロ)』 @ Orchard Hall, Tokyo《2022.7.17ソワレ》

 アレクサンダー・キャンベルさん
 リース・クラークさん
 セザール・コラレスさん
 マルセリーノ・サンベさん
 高田茜さん
 ヤスミン・ナグディさん
 マリアネラ・ヌニェスさん
 平野亮一さん
 ウィリアム・ブレイスウェルさん
 フランチェスカ・ヘイワードさん
 サラ・ラムさん
 エドワード・ワトソンさん

 古典作品、近代作品、コンテンポラリー作品がバランスよくラインナップされている英国ロイヤル・バレエの夏恒例のガラ公演。英国に渡るのは難しくとも来てくれるのであればということでチケットをポチ。出演を予定していたローレン・カスバートソンさんが来日できなかったのは残念ですが、ロイヤルの代表的なレパートリーを堪能しました。ヌニェス様とサラさんの美しさにうっとり。バレエ・ガラを観てよく思うのは、大技が多くて盛り上がるのは古典作品だけど自分はコンテンポラリー作品が好きだなぁということ。いつか全幕(?)のコンテンポラリー作品も生で観劇したいです。

コンサート『ミュージカル・ガラ・コンサート〜10th Anniversary〜』 @ Tokyu Theatre Orb, Tokyo《2022.7.18マチネ》

コンサート『ミュージカル・ガラ・コンサート〜10th Anniversary〜』

 ノーム・ルイスさん
 ケイシー・リーヴィさん
 ウィレマイン・フェルカイックさん
 ジェイ・アームストロング・ジョンソンさん
 マイケル・アーデンさん

 はからずとも三日連続で渋谷の劇場に通いましたが、三日目は東急シアターオーブの10周年記念ミュージカル・ガラコン。めっちゃくちゃ満足度の高いコンサートでかなりのホクホク気分になりました。演出を担当されたマイケル・アーデンさんが急遽出演キャストとしても参加することになったこのコンサート。ノームさんも、ケイシーさんも、ウィレマインさんも、ジェイさんもみんな素晴らしかったんですが、マイケル・アーデンさんの歌声に完全にやられました。一気に舞台を掌握するあの感じが素晴らしすぎる。舞台で歌うのは2018年のオーブコンぶりと知って驚愕しました。低い声スキーにはたまらないノームさんの深い素敵バリトンが大好きなのはもちろん、ケイシーさんもウィレマインさんも二人ともめっちゃ声が好みで。私はエルサ、エルファバの音域が大好きなんだなぁと再確認。二人ともかっこよくて惚れるしかない。ジェイさんは歌もダンスも演技も三方良しの俗に言うTriple Threatの俳優さん。お歌も素晴らしかったんだけど、もっと踊ってる姿も観たかったです。また、5人で歌う時のハーモニーが素晴らしすぎて。2幕ラストの『ラ・カージュ・オ・フォール』の「The Best of Times」と『ウェスト・サイド・ストーリー』の「Somewhere」はよくミュージカルのガラコンでみんなが歌うイメージがありますが、『カンパニー』の「Being Alive」は全然合唱のイメージがなかったのに調和が素晴らしすぎて鳥肌でした。またやってほしい!

ミュージカル『伝説のリトルバスケ団』(전설의 리틀 농구단) NAVER公演ライブ配信《2022.7.18》

ミュージカル『伝説のリトルバスケ団』(전설의 리틀 농구단) NAVER公演ライブ配信

 ジョンウ:キム・デヒョンさん
 スヒョン:イム・ギュヒョンさん
 サンテ:シン・チャンジュさん
 スンウ:イ・ジョンソクさん
 ダイン:グォン・ジョンスさん
 ジフン:チョン・チャノさん

 ジョンウ役が二人とも新キャストになってとても気になっていた2022年シーズンのミュージカル『伝説のリトルバスケ団』の公演。私がいかにこの作品が大好きかはすでにいっぱい語っているので割愛しますが、この作品はキャストが変わってもずっと観続けたいなと思っている作品です。デヒョンさんのジョンウコーチはすごく優しい人だなぁという印象です。何気にサンテとかなり仲良しで、ヘタレでちょっと冴えないけど凄くいい先生でスヒョンとのやり取りでかなり泣かせられました。『アランガ』再演でのミュージカル俳優デビュー以来に久しぶりに観たギュヒョンくんのスヒョンもとても可愛く、かなりのハマり役でした。初めましてだった三人の幽霊くんたちもとても可愛く。ジョンウ役を演じたアン・ジェヨンさんもユ・スンヒョンさんも今回のキャストのデヒョンさんも全然違った雰囲気のジョンウだったので、2022年シーズンでもう一人のジョンウとしてキャスティングされている歌う方のパク・ウンソクさんのジョンウもすごく観たくなりました。有料配信でいいので是非やってほしいです。

コンサート『ミュージカル・ガラ・コンサート<ザ・レジェンド>』(뮤지컬 갈라콘서트 <더 레전드>, Musical Gala Concert ) NAVER公演ライブ配信《2022.7.18》

 チャ・ジヨンさん
 マイケル・K・リーさん

 この日はオーブで生のミュージカルガラコンの後にNAVER公演ライブ配信のはしごという忙しい一日。配信開始の時間とアーカイブ時間が違ったので、まずは『伝説のリトルバスケ団』の配信を途中まで観てから『ザ・レジェンド』を観始めて、そのインターミッション中にバスケ団を進めてさらにいったり来たりするウルトラCで乗り切りました。ジヨンさんもマイケルさんも韓国の大劇場作品を中心に活躍するミュージカル俳優さんとしてはトップクラスに好きなお二人。屈指の歌ウマ俳優のお二人がミュージカルナンバーだけではなく、ポップスナンバーもいっぱい歌ってくれたのはとても耳福でした。中でも私が特にうれしかったのがりーにむことマイケルさんがミュージカル『カンパニー』の「Being Alive」を歌ってくれたこと。観客層の好み的になかなか韓国で『カンパニー』を観るのは難しいかなぁという感触を持っていたのですが、マイケルさんが演じるボビーはとても観たいと思っていまして。そんな私の内なる願望を叶えてくれるように「Being Live」の歌詞中のBobbyとなっている部分をMichaelにアドリブで置き換えて歌ってくれるのは私的ご褒美すぎました。結局、私はミュージカルオタクなのでミュージカルナンバーを歌ってくれるのがうれしいのですよね。ジヨン姐さんが『HOPE』の曲とか「I Dreamed a Dream」とかを歌ってくれたりとか。ミュージカル『Once』の「Falling Slowly」のしっとりしたデュエットもとても良かったです。

演劇『The Pride』@ Akasaka Red/Theater《2022.7.24ソワレ》

演劇『The Pride』

 オリヴァー:岩尾海史さん
 フィリップ池岡亮介さん
 シルヴィア福田麻由子さん
 医者/男/ピーター:山﨑将平さん

 韓国で観て衝撃を受けたアレクシ・ケイ・キャンベル氏の戯曲。50年の時を隔てて生きる同じ名前の3人の男女を中心に物語が展開されますが、2022年の日本の上演ではSide-AとSide-Bという二組のチームに分かれて上演されるということでまずは若手の俳優さんたちで編成されたSide-Bの初日を観てきました。日本語での登場人物の口調に慣れるまでは少し戸惑った部分もありますが、慣れたら物語にグイグイ引き込まれました。韓国で観ていて、英語版のスクリプトも読んだので物語の流れは承知の上でしたが、それでももとにかく50年前の三人の物語とてもとても辛く。特に1幕のラストと「治療」の場面はゴリゴリ削られます。オリヴァーが話す「啓示」のエピソードにうっかり泣きそうになるのは一度観劇しているからならでは。やっぱりシルヴィアがかっこよくて大好きです。あんな友達欲しい。そして傷ついてもあんな風に強く優しくできる人でありたいと思うのです。みなさまとても良かったです。

韓国版の観劇レポ
theatre-goer.hatenablog.com  

ミュージカル『春のめざめ』(Spring Awakening) @ Asakusa Kyugeki, Tokyo《2022.7.30マチネ》

 なかなかチャンスがなかったけどずっと観たかった作品。フレッシュな才能が眩しくてとてもよかった!

演劇『The Pride』@ Akasaka Red/Theater《2022.7.31マチネ》

演劇『The Pride』

 オリヴァー:井上裕朗さん
 フィリップ池田努さん
 シルヴィア陽月華さん
 医者/男/ピーター:鍛治本大樹さん

 2022年7月最後の観劇はSide-Bに引き続き、Side-Aキャストによるアレクシ・ケイ・キャンベル氏の『The Pride』を観劇しました。奇しくも私が観劇したのはSide-Bキャストかつ公演の初回、そしてSide-Aかつ公演の最終回。Side-Aのキャストのみなさまはキャリアを重ねて来られた俳優さんたちの大人チーム。当初オリヴァー役にキャスティングされていた荒木健太郎さんが体調不良で降板されたため、演出の井上さんが代わりにSide-Aの全公演オリヴァー役を務めるという配役になりました。予想通りSide-AはSide-Bとはまた違った雰囲気でこちらもとても良かったです。特に陽月さんのシルヴィアがとてもとても素敵で。自分も50年後に生きる人たちに”It will be all right”と胸を張って言える行動が起こせるかな、などと考えながら帰り道に考えたりしました。井上さんのオリヴァーも急遽代役として立ったとは思えないほど良かったのですが、井上さんご自身の年齢が他の3名のキャストの方と比較すると結構上だな、とどうしても感じてしまったので、当初キャスティングされていた荒木さんのオリヴァーでのSide-Aも観たかったなぁと思ったり。

 

8月 - August

バレエ『バレエ・アステラス2022』 @ New National Theatre, Tokyo《2022.8.6マチネ》

バレエ『バレエ・アステラス2022』

 海外で活躍されている日本人バレエダンサーを招聘して開催されている新国立劇場の夏のガラ公演。私は初めてだったのですが、日本人中心のバレエガラも一度観てみたかったので挑戦してみました。バラエティ豊かなラインナップでとても良かったです!特に印象に残ったのは刈谷さんとテッサリーニさんの『Walk the Demon』、石崎さんとトリオさんの『カルメン』、そして平田さんと平野さんの『ロミオとジュリエット』。新国立バレエ団のお二人の『海賊』も良かったです。最初の作品の芥川也寸志の『トリプティーク』、高校時代に部活で弾いたことがある曲ですごく懐かしい気分になったり。総評としてはやっぱり私はバレエはコンテンポラリーや新しめの作品が好きだなぁという結論に落ち着くのでした。

音楽劇『刻』 @ Asakusa Kyugeki, Tokyo《2022.8.11ソワレ, 2022.8.13マチネ》

音楽劇『刻』2022.8.11ソワレキャスト表 音楽劇『刻』2022.8.13マチネキャスト表

 高峰雅司:伊藤裕一さん/東山光明さん
 北野拓郎:大沢健さん/伊藤裕一さん
 横山光大山真志さん
 高峰美沙:橘未佐子さん
 チェリスト:鈴木和生さん

 韓国のミュージカル制作陣の中でも指折りで好きな作曲家のホ・スヒョンさん。公私を共にするパートナーであるチュ・ジョンファさんとご夫婦で携わった『SMOKE』、『BLUE RAIN』、『ルードヴィヒ〜Beethoven the Piano〜』などの作品が日本でも上演されて日本でも注目されるようになってきているところで、初めて日本のクリエイターの方と組んで音楽劇『刻』が浅草九劇で上演されると知り、絶対観ると意気込んだのをよく覚えています。はりきって最初から2公演分チケットを取っていた本作ですが、かなり色んな意味で辛く、どう消化すればいいものか悩んでしまう個人的な問題作でした。以降はそれを踏まえて読み進めていただけたらと思います。

 20年以上前に日本全国を震撼させた神戸連続自動殺傷事件とその事件と当時中学生だった犯人をモデルとしていると思われる本作。それだけでズドーンと重い作品であることは想像に難くないのですが、とにかくとても後味が悪い舞台でした。決して後味悪い系の舞台は嫌いでは無いのですが、ラストの横山の台詞に展開される高峰父のソロ曲。あの曲が私としてはとても気持ち悪く感じられて。どんな事があってもどんなことをしても子供を守るという親のエゴイズムがあれほど気味悪くて気持ち悪く思ったのは初めてかもしれません。

 舞台終盤の衝撃的な暴力の場面。あの部分は物理で表現するのではなく、あくまで俳優さんの演技だけで見せて欲しかったと強く思います。観ていない方には何のことやらですが、あの「びろびろ」は一気に私の集中力を捥いでいきました…。物理としてはモノがある故に試される想像力。オタクは逆は得意なんです。正直、あの演出は本当にいただけなかったです。俳優さんの熱演が素晴らしかっただけに余計に募る残念に思う気持ち。

 チェロの哀愁漂う旋律はとても良かったですが、全体的にこの作品は音楽劇に適した題材だったのかは疑問が残ります。好きなクリエイターが関わっている作品だけに辛口評価ばっかりが続いて心苦しいですが、当たり障りのない感想だけ書くのもなんか違うと思ったので記録のために残しておきます。気を悪くされた方がいらっしゃったらすみません。

ミュージカル『バンジージャンプする』(번지점프를 하다) Meta Theater Live配信《2022.8.14マチネ》

ミュージカル『バンジージャンプする』(번지점프를 하다)

 ソ・イヌ:イ・チャンヨンさん
 イン・テヒ:チェ・ヨヌさん
 イム・ヒョンビン:レンさん
 オ・ヘジュ:イ・ヒュさん
 ナ・デグン:パク・グンソクさん
 ユン・ギソク:チャン・ジェウンさん

 ソウルで観劇した回数は一回だけなのにもかかわらず、その一回がとても印象に残っていたミュージカル『バンジージャンプする』。今回の再演では大好きな女優さんのチェ・ヨヌさんと韓国風に言うと私が「信じて観る」俳優さんの一人であるイ・チャンヨンさんが共に主演で共演するということで楽しみにして取ったチケットでした。前回観た2018年の公演とは色々と演出が変わっていた今回の公演。久しぶりに観た本作は私が記憶していた以上にイヌとテヒは二人だけの狭い世界で完結したように生きていて、イヌが苦しんでいるときもそれに対して何もできない周囲の人たちの気持ちを思うと辛くなってしまいました。随所に挿入されるワルツの旋律とダンスもイヌとテヒがくるくると回るオルゴールで向かい合う男女の人形のようで。『バンジージャンプする』はとても美しい愛という呪いの物語だなと感じました。ラストシーンに関してはミュージカルの原作となった映画に近い演出なのは今回の方ですが、個人的にはある程度観客に判断を委ねた形で終わる2018年の演出の方が好きだったなとも思ったり。ヨヌさんもチャンヨンさんもとても素敵でした。

ミュージカル『ミス・サイゴン』(Miss Saigon) @ Imperial Theatre, Tokyo《2022.8.19ソワレ》

 戦火の中の人間関係の特殊さ、その異様さだったり気持ち悪さを感じる部分がそのまま生々しく伝わってきたのが印象的でとても良かった観劇でした。

BHSミュージカル研究所『これ1冊!ミュージカル音楽史Cpt.2 誕生&スタンダード期(1900-1950)』 @ Tiara Koto, Tokyo《2022.8.26》

BHSミュージカル研究所『これ1冊!ミュージカル音楽史Cpt.2 誕生&amp;スタンダード期(1900-1950)』

 BHSミュージカル研究所さんの「聞くミュージカル史の教科書」第二弾。前回投影されているスライド、有料でいいからPDFにして発売して欲しいと思っていたので、今回から講義台本が発売されたのはとてもうれしかったです。今回はAABAのようなミュージカルの「型」ができあがったスタンダード期のお話。「Smoke Gets in Your Eyes」みたいに曲単品では知っていたけど、元々はミュージカルの曲だとは知らなかった曲が多かったのが印象的でした。ミュージカル黎明期の作曲家や作詞家は名前を意識していなかった人も多く。やっぱり極めたオタクの話は面白いなぁと思いながら大部さん、谷本さん、向笠さんの三人組のパワーバランスが絶妙さも堪能しました。ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』が大好きなのでダイジェスト版でも生演奏で聴けたのもとてもうれしく。オリジナル曲の『アメリカが聞こえる歌』もとても良かったです。

ナショナル・シアター・ライブ『プライマ・フェイシィ』(Prima Facie) @ Cine Libre Ikebukuro, Tokyo《2022.8.28》


 

 久しぶりのナショナル・シアター・ライブはジョディ・カマーの一人劇『プライマ・フェイシィ』を。ロンドンで大評判になってたのでとても期待して観に行ったのですが、ジョディ・カマーの演技が壮絶かつ繊細でとても素晴らしかったです。多分現地で見たら完全に当てられてしばらく席を動けなかった類の舞台と演技だったと思います。ネタバレになってしまいますが、法廷をゲームのように捉えていた飛ぶ鳥落とす勢いの前途有望な女性弁護士のテッサが同僚のジュリアンと職場でヤッてしまってそのうち付き合う雰囲気になり、ある日テッサがジュリアンにデートレイプされるという展開を辿るのこの舞台。テッサは性加害事件の加害者を弁護する立場から被害者になり、さらに加害者を追求する立場になって性加害の被害者は自身の立場を立証することがいかに負担のかかる困難なことであり、自分が信じていた法による秩序の重大な欠陥を認識することになります。そのプロセスがどれだけ大変かを見せるための舞台の演出上の仕掛けがまたとても良くできていて。782日。テッサがジュリアンを訴えて、法廷が開廷するまでもその後も彼女の戦いは続き...。法の力を信じてズタボロになりながらも戦い、その心が打ち砕かれて挫けていく姿を見ているのは本当に辛くて仕方がないのですが、テッサのママがずっと彼女の味方だったこと、テッサと元から馬が合っていた才気あふれる同僚のアンドリューがジュリアンではなくテッサ寄りの立場を取っていたことが唯一の救いでした。

 

9月 - September

演劇『ヒストリー・ボーイズ』(History Boys) @ TACCS1179, Tokyo《2022.9.3ソワレ》

演劇『ヒストリー・ボーイズ』(History Boys)

 ヘクター:藤崎卓也さん
 リントット春風ひとみさん
 校長:鈴木良一さん
 アーウィン:染谷洸太さん
 ポズナー:犬飼直紀さん
 デイキン:髙尾勇次さん
 スクリプス:中村翼さん
 ラッジ:河野賢治さん
 ティムズ:木村風太さん
 ロックウッド:荒川湧太さん
 アクター:安田啓人さん
 クラウザー:脇卓史さん

 最前列の席をご用意いただいたのでソウルの大学路の小劇場以上に舞台との距離感が近いハコで自分がグラマースクールの壁になった気分でドキドキしながら観劇しました。青春の生き生きとした煌めきを感じるカンパニーでとても良かったです。英語で映画を観た時に思った「面白かったけど、私はこの子たちの教養の半分もないな」としょんぼりした気持ちが今回あんまりなかったのは翻訳の違いなのでしょうか?相変わらずヴィトゲンシュタインは哲学者だということぐらいしかわからないし、オーウェルも知らないし、フランス語もさっぱりなのですが。自分を正当化しようとするヘクターに対して、自分はヘクターが好きだけど、ヘクターはクズだと本人に向かってピシャリと言い切るリントット先生が凄く好きだなぁと改めてしみじみと思いました。女性の歴史学者でもあるトッティ先生がいることによって物語が投げかける教育や社会に対する疑問がとても多面的になるなぁ、とも。何気に客席が舞台関係者がとても多くて本編とは関係しないところでドキドキしたり。

ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』(Daddy Log Legs) UP!!!配信《2022.9.4》

 ジャーヴィス井上芳雄さん
 ジルーシャ上白石萌音さん

 ずーっとチケット争奪戦に敗れ続けている日本版の『ダディ・ロング・レッグズ』。なので海外では結構な回数観ているのに、日本版は実は初めて配信で観ました。井上芳雄さんのジャーヴィス上白石萌音さんのジルーシャもとてもよかったです。お互いがお互いの心の穴をピッタリと埋める存在で、惹かれ合うのは必然だったんだなぁと感じる二人で。なにせ日本版を観るのが初めてだったので、一幕の「Things I Didn't Know」で引用されている作品が英語版と日本語版で結構違うことが気になったり。調べようとしたらすでにかなり詳しく調べていらっしゃる方がいて、その方のブログがかなり面白かったのでせっかくなので紹介します。

 影響されやすいチョロオタクなのでその日はブランデンブルグ協奏曲を聞いてみたりしました(笑)個人的にミュージカル版のダディの原作との差異で好きな変化点は、ジャーヴィス側の心理にもスポットライトを当てたことはもちろん、原作のようにジルーシャが病を得たジャーヴィスをなし崩し的にジュディが許すのではなく、ちゃんと一通り怒ってそれに対する赦しをジャーヴィスが乞い願うところだったりします。

ミュージカル『ダブル・トラブル』(Double Trouble) @ Jiyu Theatre, Tokyo《2022.9.10ソワレ》

ミュージカル『ダブル・トラブル』(Double Trouble)

 ジミー(兄):原田優一さん
 ボビー(弟)太田基裕さん

 二人で何人もの役を演じるドタバタミュージカルコメディの『ダブル・トラブル』。原田さんも太田さんも芸達者とエンターテイナーが振り切っていてとても楽しかったです!たまには難しい事は何も考えずにゲラゲラ笑える作品を観るのもいいなぁとしみじみ感じました。かなり久しぶりに拝見した原田さんは、あのエンターテイナーっぷりでめちゃくちゃいい声で歌ウマでそれだけで面白いからずるい。最近はコンサートの感想も歌ではなくトークの感想が多いのだとか(笑)。太田さんは初めましてがミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』のアルヴィンだったので、弟キャラな立ち位置がとても新鮮でした。この作品は本当に速着替えに膨大なセリフ量にタップに歌に盛りだくさんで俳優さんにはきっととっても大変な演目なので、初演の練習の時にキレ気味に「この最後のショー部分要ります?」と言っていた心情お察ししますと思いながらも爆笑してしまいました。トークショーも含めて目一杯楽しませていただきました。しかし自由劇場は後ろの方の一番端っこの席でもめっちゃくちゃ観やすくて大好き...。

ミュージカル『COLOR』@ New National Theatre, Tokyo《2022.9.11ソワレ》

ミュージカル『COLOR』

 ぼく:成河さん
 濱田めぐみさん
 大切な人たち浦井健治さん

 成河さんと濱田さんの声の重なりはただただ心地よく。何を今更という感じですが、成河さんは色んな声色を使い分けて演技ができるのが魅力だけど、そもそもの声がめっちゃいい声だなぁと改めて思いました。音楽や白い背景に鮮やかな色が映し出されるセットの雰囲気や映像も好みでした。実在の、存命の方のお話をモデルとして作られた日本発の創作ミュージカルの『COLOR』。3人だけで演じられて、楽器はピアノとパーカッションのみの85分1幕ものだというのは少し韓国の大学路作品っぽいなぁと思ったり。

コンサート『musical and talk collection』 @ Asakusa Kyugeki, Tokyo《2022.9.17ソワレ》

コンサート『musical and talk collection』

 MC:伊藤裕一さん
 出演者:雅原慶さん、東山光明さん、石井雅登さん、木村つかささん
 スペシャルゲスト:ペク・ヒョンフンさん

 『SMOKE』、『BLUE RAIN』や『DEVIL』などの日本に輸入された韓国創作ミュージカルのコンサート。この回はゲスト出演者として私の好きな韓国の俳優さんの一人であるペク・ヒョンフンさんが出演するということでチケットを取りました。みなさま歌ウマで耳福でした。コンサートとしては短めだったので欲を言えばもっと歌ってほしかったですが、狭い空間で音楽を浴びる満足感でいっぱいになって劇場を後にしました。ヒョンフンくんは2019年の年末に韓国で観劇した『ファンレター』振りの再会。ミュージカル『DEVIL』から歌ってくれた「その名前」(그 이름)も「血と肉」(피와 살)もとてもよかったです。劇団四季時代以来のすごく久しぶりに雅原さんの歌声聞けたのもうれしく。

ナショナル・シアター・ライブ『ヘンリー五世』(Henry V) @ Cine Libre Ikebukuro, Tokyo《2022.9.23》

ナショナル・シアター・ライブ『ヘンリー五世』(Henry V)

 今回ナショナル・シアター・ライブで上映されたのはロンドンのドンマー・ウェアハウス(Donmar Warehouse)で上演されたプロダクションのもの。ヘンリー五世が戦時の英雄として描写される所謂トラディショナルな感じの『ヘンリー5世』ではないことは前情報として知った状態で観たのですが、こんなに悲しさや虚しさで気分が落ち込むとは全然想像してなかったです。『ヘンリー五世』は初見だったものの、『ヘンリー四世』は第一部、第二部も両方観たことがあるので、色々ショックだよ、ハリー...。面白かったと表現することすらちょっと憚られて、でもとても心に刺さったプロダクションでした。今回の演出の『ヘンリー五世』をこの作品に初めて触れる機会にするのは得策ではないと思っていたのではありますが、順序はどうであれ、この演出版を観た後では『ヘンリー五世』を観て虚しさを感じられずにはいられないのだろうなぁとも思いました。演出や脚によって色んな解釈を観れるシェイクスピア劇の醍醐味をとても強く感じた観劇でもあります。

ミュージカル『モダン・ミリー』(Thoroughly Modern Millie) @ Theatre Creation, Tokyo《2022.9.24マチネ》

ミュージカル『モダン・ミリー』(Thoroughly Modern Millie)

 ミリー・ディルモント朝夏まなとさん
 ジミー・スミス中河内雅貴さん
 ミス・ドロシー・ブラウン:実咲凜音さん
 トレヴァー・グレイドン:廣瀬友祐さん
 ジー・ヴァン・ホスミア保坂知寿さん
 ミセス・ミアーズ一路真輝さん
 ミス・フラナリー入絵加奈子さん
 バン・フー:安倍康律さん
 チン・ホー小野健斗さん

 2020年のコロナ禍の公演中止を経て2年ぶりにカムバックしたミュージカル『モダン・ミリー』はダンスも衣装も見応えたっぷりでとてもチャーミングキュートな作品でした。ミュージカルが生まれて間もないガーシュウィンの時代のへのオマージュがちりばめられている気がする本作。往年のミュージカル映画を何十年も後になってから舞台化した作品という意味では『トップ・ハット』と似てるけど、『モダン・ミリー』はほとんどの楽曲を一新させた作品とのこと。本編からは少し脱線しますが、BHSミュージカル研究所の講義でしっかり勉強して「ラグタイム風の音楽がこの時代っぽいよね」とか言えるようになりたいなと思いました。ビリーファミリー応援し隊としては丸山さんの鮮やかなハイビスカスのようなピンクのシャツに黒縁眼鏡のタイピストのタップダンスがとても素敵だったことをご報告いたします。朝夏まなとさんのミリーがスタイリッシュなのにとてもキュートなモダンガールなのはもちろんなんだですが、廣瀬さん演じる御曹司グレイドンがめっちゃいい声でスタイル抜群でカッコつけなのに急に挙動不審なるのが可笑しすぎてずるい。歌もダンスもある役だとどちらかというとダンスが記憶に残ることが多かった中河内さんですが、ジミー役は歌でめっちゃ魅せる感じでとても新鮮でした。なんか記憶していたより歌声が砂糖菓子のように甘くて、「こんな感じで歌う人だっけ!?」とちょっとびっくりしました。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター』(Fist of the North Star) @ Orchard Hall, Tokyo《2022.9.25ソワレ,2022.9.28マチネ,ソワレ》

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター』2022.9.25ソワレキャスト表 ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター』2022.9.28マチネキャスト表 ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター』2022.9.28ソワレキャスト表

 2021年の年末に観て、年越しで配信を繰り返し観ているうちにすっかりハマってしまい、名古屋遠征までして観に行ったミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター』。2022年の再演は1週間未満のとても短いランでしたが、このために有休を取得してなんとか三回観劇をねじ込んで観てきました。

 再演では色々と手が加えられていて、全体的に話の流れがわかりやすくスッキリした印象。上演劇場の設備の都合上、ワイヤーアクションに制約が出た部分が返って大貫さんケンシロウの身体能力の高さを見せつける結果になったり、面白い演出に繋がったりしていた部分も良かったです。再演で唯一すごく残念だなと思った部分は生オケではないので塩田さんの踊る指揮が見れないことでしょうか。脳内妄想余裕ではあるんですが(←)再演からのキャストのみなさまもとても良かったです。特に小西さんのトキの初演からいましたよね感がすごい。逆に三浦さんのレイは再演ならではの新しいレイだなという感じが強かったです。泥を啜ってギラギラ眼光鋭く生きていたレイが家族想いの優しいお兄ちゃんに戻って、想いをケンシロウに託すからケンシロウの目覚めに繋がってるという感じが再演では強まっていてそれがとても好きでした。なので初演のお二人と比べてマミヤとの恋愛要素薄めなのもしっくりくる感じです。一幕最後のケンシロウの見せ場のダンスは尺が大幅に増えていて、パーカッションだけのダンスシーケンスが圧巻であのダンスを観れただけでチケット代の元が取れた気分になります。ヴィーナスの森の演出もプロジェクションマッピングになったことで幻想的で虚構の夢の雰囲気が増していたのが好みでした。

 配信チケットが販売された9月28日の公演は生でマチソワしたのにもかかわらず配信の昼夜セット券を迷わず購入。作品が発表されたときはただただ作品のチョイスにびっくりし、最初にチケットを取ったのも怖いもの見たさと豪華なキャストにつられた感が強かったこの作品がこんなにお気に入りの作品になるとはまるで予想していませんでした。またぜひ再演してほしい作品です。


2022年累計観劇回数:69回(54演目)


 

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