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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【コンサート】HONGCERT Letter from London @ Olympic Park Olympic Hall, Seoul《2015.2.7-8》 (Part 2)

HONGCERT Letter from London

  2015年2月6日〜2015年2月8日の三日間で開催されたホン・グァンホ (홍광호, Hong Kwang-Ho) さんの二度目の単独コンサート、『HONGCERT Letter from London』。そのうち後半2日間の2月7日(土)、2月8日(日)の二日連続で行ってきました。当日の様子、曲の感想や個人的なエピソード、韓国人のファンの友達に教えてもらったMCの内容をいくつかピックアップして紹介したいと思います。コンサートの前半部分のレポートはこちらをご覧ください。

 

 

 노을  / 과수원길  /  섬집아기

 2013年に開催された1回目のコンサートと今回のコンサートの大きな違いの一つがグァンホさんが歌う曲の幅広さだと思うんですが、「노을」 (ノウル, 夕焼け) から始まり、「과수원길」 (グワスウォンギル, 果樹園の道)、「섬집아기」 (ソムジバギ, 島の家の赤ちゃん) へと続く韓国の童謡3曲のメドレーはそんな中でもかなりそれを象徴する選曲だったと思います。3曲はいずれも子守唄のようなおだやかで優しいメロディ。そんな曲を、童心に返ったような無邪気な笑顔のグァンホさんが楽しそうに歌うんですから、キュン死しかけたファンは私だけではないはず(笑)歌声だけではなく、歌い終わった後に、寝ている子供に対して「おやすみなさい」を囁くように呟く「고맙습니다」 (コマプスムニダ,ありがとうございます) にもキュンキュンしてしまいました ^^

춤을 춰요 에스메랄다 (Danse Mon Esmeralda)

 前回から引き続きセットリスト入りしたミュージカル『ノートルダム・ド・パリ』からの主人公カジモドの歌う鎮魂歌。アンコール曲以外はそのような選曲はあまり多くはないので、それだけこの曲は韓国のグァンホさんファンに人気があったり、グァンホさん自身の思い入れも大きかったりするんでしょうか。カジモドは、オリジナル・キャストの Garou さんに代表されるような低く少しひび割れたハスキーな歌声のイメージが強いですが、グァンホさんのカジモドは一味違います。力強いんだけど、どこか繊細な感じがする歌声。今回は1回目のコンサートの時と違って、「에스메랄다」 (エスメラルダ) の所を音を上げて歌っていました。それがすごくカジモドの感情の昂ぶりと同調しているように感じられて、コンサートを聴いているはずなのに、まるで舞台で グァンホさんのカジモドを観ているような感覚になりました。役柄や曲調によって、ガラリと雰囲気が変わるのが魅力のグァンホさんのレパルトリーの中でもカジモドはめっちゃ素敵声だと思います。

Nothing Like a Fire / Always

 前半のコンサートレポートで書いた通り、7日の二人目のゲスト出演者は、グァンホさんが 『ミス・サイゴン』でアンサンブルとして出演していた時代にクリス役として出演していた マイケル・リー (Michael Lee) さんでした。MCでは、マイケルさんはほとんど病気になることがなく、アンダースタディとしては全然活躍する出番がなくて張り合いがなかったから、僕は長く休んであげるんだとグァンホさんが冗談を言ってたとか(笑)(グァンホさんはWEのトゥイ役として現在2ヶ月ほどの長期休暇を取得中)そんな二人が一緒 に歌ったのは、ミュージカル『スリル・ミー』(Thrill Me) から「Nothing Like A Fire」という一曲。『スリル・ミー』はちょうどソウルで同時期に上演中で、まさにマチネで観てきたばっかりのツイ友さん二人はかなりテンションが上がっていました。マイケルさんのゲスト・ソロは Bon Jovi の「Always」。勝手にJCSの「ゲッセマネ」が聞けると期待していた私にとっては少しだけ残念でしたが、マイケルさんの素敵な高音にジーザスへの期待が高まったので、楽しみは次回の渡韓にとっておくとします。

On the Edge of Time / Please Don’t Make Me Love You

 8日の二人目のゲストはミュージカル女優のチョ・ジョンウン (조정은) さん。現在韓国で10周年を迎えているミュージカル 『ジキルとハイド』 で エマ役として出演中の彼女は、グァンホさんの高校の先輩でもあるそうです。二人はミュージカル 『ドクトル・ジバゴ』から「On the Edge of Time」というとてもメロディの綺麗なデュエット曲を披露してくれました。初日のゲストのキム・ソニョン (김선영) さんとジョンウンさんは友達で、 二人にとってはグァンホさんは弟のような存在とのこと。彼女たちが集まると、よく二人で「あの可愛かったグァンホちゃんが立派になっちゃって、今や世界的スターよ」というような話になるそうです(笑)しかしグァンホさん、いくら姉のような存在だからといって、長身のジョンウンさんをさらに背を高くさせている ヒールが気になるからって、レディのドレスの裾をめくってはいけません(汗)ジョンウンさんのソロはミュージカル 『ドラキュラ』から切ないメロディラインがとても印象的な「Please Don’t Make Me Love You」。ジョンウンさんが歌う曲のタイトルを告げた時に、「え、なんて?(僕に対する言葉?もっかい言って??)」といった雰囲気でイタズラっ子のように聞き返すグァンホさんがすごく可愛かったです(笑)

Creep

 セットリスト中の洋楽曲の中でも特に私のお気に入りの一曲なのが Radiohead の「Creep」という曲。今まであまりレポートでは触れていなかったですが、コンサートのバンドとオケの演奏も、グァンホさんの歌声に負けず劣らず素晴らしくて、この曲はサビの部分が始まる直前のギターと、それに連動した照明のカットインがとてもかっこよかったです。ちょっとメロウなエレキのメロディラインもたまらなく好みで。選曲もいちいちツボすぎます。オリジナルの Radiohead のバージョンは、割と淡々と歌っている感じのイメージが強いですが、グァンホさんバージョンはかなり情感たっぷり。随分雰囲気が違います。ただ、”weirdo” (変人) の部分が”widow” (未亡人) に空耳してしまう発音なのはオリジナルといっしょでした(笑)

사랑밖엔 난 몰라  / 그때 그 사람 

  シム・スボン (심수봉) スペシャルと名付けれたトロット曲(韓国の演歌とでも言うべきでしょうか?)のメドレー。MCで語られていた選曲の理由はとても素敵なエピソードでした。 グァンホさんがロンドンの『ミス・サイゴン』でトゥイ役でウェスト・エンドデビューしたのは先述の通りですが、そんなロンドンで活躍中の彼に会いに、グァンホさんのご両親がロンドンへ遊びに来たときの話です。ご両親のロンドン観光の車の運転手を買って出たのが、グァンホさんと共演中で3日間に渡るコンサートのゲストでもあるヒューさん。実はヒューさん、ご自身の韓国人の友達に頼んで韓国の歌のCDを作ってもらい、それをカーステレオに忍ばせていたのです。シム・スボンさんの曲はそのヒューさんセレクションの曲なのだそうです。この一件があって以来、そんなに好きではなかったこれらの曲が、グァンホさんにとっても大好きな曲になったそうです^^

 ホンサート仕様では、「사랑밖엔 난 몰라」(サランパッケン ナン モルラ, 愛しか私は知らない) はまさに演歌のような雰囲気。グァンホさん自ら手拍子を始めて会場が盛り上がった「그때 그 사람」(クッデ ク サラム, その時、その人) は、少しジャズ風のアレンジが印象的で、会場から控えめに入る合いの手の声が微笑ましかったです^^ メドレーを歌い終わった後に、グァンホさんがなんか大きな掛け声をかけていたんですが、あれは「いいとも!」みたいな韓国のお決まりの挨拶なんでしょうか?

조조할인 (早朝割引) / 담배가게 아가씨 (タバコ屋のお嬢さん)

 K-Popsからの選曲の中でのお気に入りは イ・ムンセ (이문세) さんの「조조할인」(チョジョハリン, 早朝割引)。この曲は「これぞまさにアイドル・ポップス!」という印象を抱くとてもかわいく楽しい雰囲気の曲でした。グァンホさんの歌い方もアイドル風 (笑)客席からは自然と手拍子がはじまり、最終日はみんなスタンディング状態で大いに盛り上がりました。

 そんな雰囲気の曲から一転して、続けて歌われたのが激しいロック曲の「담배가게 아가씨」 (タムベガゲ アガッシ, タバコ屋のお嬢さん) なので本当に参ります(笑)かわいいアイドルから格好良いハードロッカーに変身したグァンホさんに会場は大狂乱!!ミュージカル俳優さんのコンサートでこんなに黄色い声の大合唱に包まれながら飛び跳ねることになるとは思ってもいなかったです(笑)しかしこの雰囲気の変わりっぷりは本当に卑怯(笑)最終日は、曲が終わっても終わらない大歓声に応えて、なんとこの激しい曲を頭からもう1回歌ってくれる大サービス!グァンホさんもめっちゃノリノリで、ステージを右に左に 駆け巡り、ラストではヘドウィグのように会場に向かってペットボトルの水を撒いていました^^

발걸음 (足取り)

 2013年のコンサートで、3,000人は軽く収容するオリンピック・ホール内になんとマイク無しで生声を響き渡らせたグァンホさん。今回のコンサート でもやってくれました!曲はおなじみの Emerald Castle のカバー曲「발걸음」 (パルゴルム, 足取り) 。去っていった恋人が忘れられない男の恋心を歌った切ない歌詞とドラマチックに盛り上がるロック調のメロディがすごく個人的にすごく好きで…。グァンホさんの生歌で聞けて本当に幸せでした!しかし、二時間以上ほぼぶっ通しで歌って喋って、それでもこの広さのホールでマイク要らずって、グァンホさんの喉はいったいどうなってるんでしょうか?ただただ感服です。

지금 이 순간 (This is the Moment)

 ミュージカル楽曲の中で「グァンホさんに是非コンサートに歌って欲しい!」と思っていた曲の第1位はやっぱり 『ジキルとハイド』 の「지금 이순간」(チグミスンガン, This Is The Moment) 。念願叶って、アンコールの中でこの曲を聴くことができました。舞い落ちる紙吹雪の中で朗々と歌い上げるグァンホさん。この紙吹雪がかなり激しくて、歌っているグァンホさんが埋もれて霞んで見えました(笑)動画やCDを繰り返し再生して何度も何度も聞いた素晴らしい歌声が生で!本当に感無量でした。

참 예뻐요 (本当に綺麗です)

 「지금 이순간」と同じくコンサートでとても聞きたいと思っていた韓国ミュージカル『빨래』 (パルレ, 洗濯) の「참 예뻐요」 (チャム イエッポヨ, 本当に綺麗です) 。2013年のコンサートではオープニング・ナンバーだったこの曲は、今回のコンサートでは最後を締めくくるラスト・ナンバーでした。コンサートの二曲目 「HOME」を歌ったときに登場した折り畳み自転車が再び登場。少し長めのMCの後、グァンホさんは自転車に跨がってオリンピック・ホールの会場へ。会場 を周回しながら歌いながら自転車を走らせていました。土曜日は通路席側に座っているたくさん観客達とハイタッチしながら会場を回っていて、日曜日はグァン ホさんが近くを通ると歓声と拍手の音がグァンホさんのマイクに拾われる、という感じでした。「가울 밤」(カウルバム, 秋の夜) と歌われるところが、コンサートの時期に合わせて「겨울 밤」(キョウルバム, 冬の夜) と微妙に歌詞が変更されていたり。この歌を歌っているときのグァンホさんの甘やさしい雰囲気の声、本当に大好きです。

 最終日の歌い始める 前のMCでは、グァンホさんは目に涙を湛えながら話しているように見えました。後で韓国人のファンの友達に教えてもらった内容によると、最終日ということでグァンホさんはかなりセンシティブな話題についても話してくれたみたいです。それまでの日程では、「韓国が恋しくて寂しい」というトーンで話していたの ですが、最終日では「実は鬱状態になって、カウンセラーにかかっていたことがある」という告白が。カウンセラーから言われたのは、鬱の状態はホームシックであることからくるものだと言われたそうです。こういう告白があったせいなのか、最終日でこの曲を歌っているグァンホさんに向けられる拍手と歓声は、前日より少し控えめながら、とても温かい雰囲気に包まれているような気がしました。

 すごく個人的な話になってしまいますが、私自身、言葉がほとんど通じない故郷を遠く離れた 土地で、異邦人として、自分が「アウトサイダー」だと感じながら暮らすことの寂しさを幼い頃に経験しています。グァンホさんは32歳。言葉の吸収が早い幼少期ではなく、大人になってからそのような経験をすることは私の想像を遥かに超えた困難があったことだろうと思います。そう話していたことを友達から教えてもらったとき、すごくブワーっと色んなものがこみ上げて来てしまい、不覚にも思わず泣いてしまいました。友達を驚かせた上に心配をかけてしまって、いい年してかなり恥ずかしかったのですが、一度溢れはじめた涙はしばらく止まらず。そして泣きながら強く思ったのは、そういう孤独を経験したグァンホさんに、彼がその孤独と戦い続けながら舞台に立ち続けたそのおかげで、心を動かされた観客がたくさんいることを知ってもらいたいということ。舞台にたってくれて、感動を与えてくれてありがとう、と伝えたいと思ったのでした。


  なんだか湿っぽい終わり方になってしまいましたが、二日間に渡って参加した二回目のホン・グァンホさんのコンサート、本当に夢見心地の至福の時間でした! つい最近、今年のWhat’s On Stage Awards の Best Supporting Actor in a Musical カテゴリで受賞し、ますます目が離せないグァンホさんですが、活動の場がどこであっても、舞台に立ち続けてくれるのであれば、全力で応援させていただきたいと思います。