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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ネクスト・トゥ・ノーマル』(Next to Normal) @ Theatre Creation, Tokyo《2013.9.23-2013.9.28》 (Part 1)

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(敬称略)
 Diana : 安蘭けいシルビア・グラブ (Wキャスト)
 Gabe : 小西遼生、辛源 (Wキャスト)
 Dan : 岸祐二
 Natalie : 村川絵梨
 Henry : 松下洸平
 Dr. Fine/Dr. Madden : 新納慎也

  日比谷シアタークリエに日本初演となるブロードウェイ・ミュージカル、ネクスト・トゥ・ノーマル』(Next to Normal、以下N2N) を先週観てきました。作品の名前自体は同じ制作陣がイディナ・メンゼル (Idina Menzel) 主演で新作ミュージカルを制作しているというニュースなどから知っていたのですが、ブロードウェイやその前のオフ・ブロードウェイ公演は観たことはなく、CDを事前に買って予習することもなく、東宝さんの公演フライヤーでネタバレを踏むことなく、まっさらの状態で観ました。観に行こうと思ったきっかけは、シアター・ガイドの安蘭さんとシルビアさんの対談インタビュー記事を読んで興味を持ったのと、Twitterでフォローしている観劇仲間さんの評判が良かったから。急遽チケットをとったので予習の時間を取れなかったからなのですが、まっさらな状態で観れて本当によかったです。なので、まだこの作品を一度も観たことがなく、これからN2Nを観ようかなと思っている方はこの先は読まないことをお勧めします。私自身は、1週間で5回も劇場に通うくらいこの作品にハマりましたが、何も知らない状態での観劇1回目の衝撃は本当に一度きりしか味わえない貴重な体験だと思うので。一応今回の投稿はネタバレなしで書いているつもりですが、「satokoの匙加減は信用できん!」という方は、ここで引き返すことをオススメします。ぼやかして書いていても、勘のいい人にはわかってしまう部分もあるかと思うので…

 

 5回も劇場に通ってしまうほどの魅力がどこにあるのかと聞かれると、まず最初に挙げたいのが楽曲の素晴らしさです。ピアノの印象的な旋律から始まり、ダーンと鳴り響くギターの音で締めくくられる短い序曲を聴くだけですごくワクワクします。メロウな雰囲気のバラードとノリのいいロック曲が多いのは、少しミュージカル版『春のめざめ』(Spring Awakening) と似ているかもしれません。ロック以外の色んな雰囲気の曲が楽しめるのも魅力です。公式パンフレットのインタビューで出演者の方達も語っていますが、この曲が登場人物達の心理状態に密接にリンクしていて、怒っているときは激しいロックだったり、ハッピーでご機嫌の時は明るいカントリー調の曲だったり、妖しげなジャズ調の曲があったり。曲の雰囲気だけで登場人物の心中を察することができます。ミュージカルに多いリプライズですが、このリプライズの使い方もすごく効果的で。これが緩急つけて物語の進行といっしょにテンポよく進んでいくので、何度も聞きたくなるような中毒性があります。かなり重いテーマを扱っている作品なのにも関わらず、重苦しくなりすぎることなくお話が入ってくるのは、ひとえにこの楽曲使いの巧さがあるように思います。

 二つ目は構成の見事さです。登場人物の動きや台詞、曲の歌詞の至る所に伏線が張られていて、1回目に観たときと、最後までひととおり通して観た後に観たときでは受ける印象がまるで違います。鋭い人なら1回目でこの張り巡らせられた伏線に気づくのかもしれませんが、次から次へと明かされる新たな事実に、1回目の観劇では息を詰めてドキドキしながら観ていました。「どうなっちゃうの?」とハラハラしながら観るこの体験は本当に観劇1回目だけなので、何にも代え難いです。特に、1幕の後半から2幕目以降は曲の合間に拍手を挟む余裕がないほどの怒濤の展開で、客席全体が固唾を飲んで舞台を見守っているのが体感できます。残念ながら日本語の訳詞になった段階で抜け落ちちゃっている部分もあるのですが、原詞はその言葉の選び方からかなり練られていて素晴らしいので、興味がある方は是非1回観劇した後に読んでみてください。私は1回目の観劇後に即AmazonKindle版のスクリプトをポチりました(笑)元の詞と訳詞では意味が違っているところに関しては、違和感を感じるところもあるのですが、個人的には日本語版は日本語版で気に入っている部分もあります。

 3階立てのセットと照明の使い方もかなり効果的で、2回目観劇以降はそれだけを見ていても新たな発見があります。色にも大きな意味が隠されている本作ですが、意味のあるなしを差し置いても照明で照らされて色づいたセットは見ていて本当に綺麗です。

 キャストもたったの6名、バンドの編成も小さめ、セットも比較的シンプル、現代劇だから豪華絢爛な衣装があるわけでもない。なのに、このコンパクトさでこれだけ豊かな表現ができるのかという意味でも、N2Nは驚きでした。たった6名のキャスト(Wキャストを含めても8名)と言っても役者のみなさんはダイアナ役の安蘭さん、シルビアさんをはじめとして日本でも有数の実力派揃い。日本での観劇青葉マークの私にとっては、どの方も演技を観るのが初めてだったのですが、みなさんの熱演に観ている方も心が熱くなりました。Wキャストとなっているダイアナ、ゲイブを演じている2組4名の役者さんがそれぞれ違った雰囲気を持っているので、それも劇場に足を運ぶ回数を増やす原動力になりました。

 登場人物、ストーリー、キャストのみなさんに触れたネタバレ編は次の投稿で。