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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【作品紹介】ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』

 ミュージカル『ファン・ホーム』の日本初演を観てからというものの、「日本でもっと小劇場ミュージカルが観たい!」と常々思っていた気持ちがより一層大きくなりました。観たいものを観るためには地球の裏側に行くのもやぶさかではない私ですが、スーッと言葉が沁みてくる母国語公演もやっぱりいいなぁと最近しみじみ思うことが多く。ぜひ日本で演って欲しいなぁという気持ちもモリモリ込めて、私が好きな日本未上演のミュージカル作品を紹介してみたいと思います。韓国にミュージカルを観に行き始めてからは、好きな小劇場作品がどんどん増え続けているのですが、今回は『ファン・ホーム』が響いた方には気に入って貰えるんじゃないかなぁと思う作品、ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』(The Story of My Life, 以下一部SOMLと略記) をご紹介したいと思います。

作品概要

 ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』はニール・バートラム (Neil Bartram) 作詞作曲、ブライアン・ヒル (Brian Hill) の脚本による一幕ものの二人ミュージカルです。このミュージカルはトーマス・ウィーバー (Thomas Weaver)とアルヴィン・ケルビー (Alvin Kelby) の二人の数十年に及ぶ友情を、アルヴィンの葬式を目前にトーマスが「頌徳文」(しょうとくぶん)の原稿を書くために、本来そこにいないはずのアルヴィンと対話しながら過去を振り返って回想する形で展開していきます。

 本作は2009年2月3日にブロードウェイのブース劇場 (Booth Theatre) でウィル・チェイス (Will Chase)、マルコム・ゲッツ (Malcom Gets) という比較的知名度の高い二人の俳優を主演に迎えてオープンしましたが、18回ののプレビュー公演とたった5回の本公演だけでクローズしたいわゆる「フロップ」1 でした。しかしながら、韓国では2010年の初演を機にたちまちファンの心を掴み、今年(2018年)の年末ごろから再演を予定している小劇場ミュージカルの人気作品であり、私がこのミュージカルに初めて出会ったのも2015-2016年の再演の際でした。

あらすじ

 ベストセラーを世に何本も送り出した小説家のトーマス・ウィーバーは筆が進まず行き詰って頭を抱えていた。彼は長年の親友であったアルヴィン・ケルビーと幼年時代に交わした約束に従い、故郷に戻り、彼の葬式で読み上げる弔辞の原稿に取り掛かっていたのだが、書き出しからして思うように進まない。「知っていることを書け」(Write What You Know) と自分に言い聞かせ、原稿に戻るトーマスにやがて本で溢れかえった書斎のような空間とアルヴィンの姿が見え始める。依然として筆が進まないトーマスに対してちょっかいをかけはじめるアルヴィン。邪険に扱うトーマスにめげることなく、アルヴィンは二人の出会いの話から始めてみてはどうかと提案する。二人は小学一年生の時、担任のレミントン先生が毎年開催するハロウィンの仮装パーティと往年の名作クリスマス映画、『素晴らしき哉、人生!』(It's A Wonderful Life) がきっかけとなって友達になったのだ。いつの間にかアルヴィンのレミントン先生の思い出話に引き込まれていたトーマスは、アルヴィンとともに二人が出会った6歳の頃に記憶が戻っていくのであった。そのようにして、トーマスは作家を志すきっかけ、多感な学生時代、故郷を離れたその日、トーマスが大学に入った後の二人の再会、夢を実現してからの自分の私生活…弔辞の原稿書いている今現在にいたるまでの記憶をアルヴィンと一緒に辿っていく。

『ファン・ホーム』との共通点

 親友と親いう違い、相手が亡くなってから経過した時間の差はあるものの、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』の主人公のトーマスは、『ファン・ホーム』の主人公のアリソンと同じように身近な人間が亡くなった理由は何にあるのか、その原因の一端が自分にあるのではないかと疑って傷ついています。そんな主人公が過去と正面から向き合い、故人との思い出、楽しい思い出も、苦い記憶も振り返りながら自分の中に残った後悔と向き合う姿が音楽にのって丁寧に描かれていること。最終的には「相手の気持ちを想像することはできても知ることはできない」という事実を受け入れて、故人との宝物のような記憶を自分の糧とし、前向きに今後の人生を主人公が歩んでいくことが感じられるラスト。過去と己を見つめ直す魂の再生の物語という意味で、『ファン・ホーム』が心に響いた方には『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』にも心動くものがあるのではないかと思っています。

韓国での人気の理由について考えてみる

 ブロードウェイで短命に終わったのにも関わらず、韓国では再演を繰り返す人気作となった大きな理由のひとつだと私が考えている理由の一つはブロードウェイと韓国のキャスティング方式の違いです。ブロードウェイでは基本的に一役に対してキャスティングされる俳優は一人で、俳優の病欠や計画休暇の際にスタンバイもしくはアンダースタディのキャストがその穴を埋める方式ですが2、韓国では一部例外はあるものの、日本と同様に主役や準主役などの主要な役どころはダブルキャスト、多い時にはクワッドキャストや5人が主役に配役されるようなことも珍しくありません。『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』の場合もその例外ではなく、初演時にはトーマス役、アルヴィン役にはそれぞれ二人ずつの俳優が3、2011-2012年の再演ではトーマスに二人、アルヴィン役に三人4の俳優、それ以降の再演も複数の俳優が同じ役にキャスティングされていました。なにせずっと舞台に出ずっぱりの二人劇ですので、キャスティングされる俳優さん達も特に演技力に定評のある実力派の俳優さん達ばかり。トムとアルの俳優さんの組み合わせごとに彼らが培った友情の形があり、関係性があり、物語があり、しかも公演と再演を重ねていくうちに俳優さんたち自身の友情と絆も育っていく...。一度作品を観た人にも「また観たい!」と思わせるような仕組みが揃っているのです。そんな濃密な空気感を味わうのに、大学路の小劇場のコンパクトな箱がぴったりだったのも大きいと思います。5理屈ではない「本物」の絆が感じられる俳優達の熱演に、カタルシスを得られる泣けて最後には温かい気持ちで劇場を後にできる物語が、韓国ミュージカルファンの間でこの作品が愛されている理由ではないかと思います。


2015-2016年ソウル公演ハイライト動画

2018-2019年韓国キャストのご紹介

 せっかくなので、今期の韓国SOMLのキャストのみなさんをご紹介してみたいと思います。韓国のパンフレットのキャスト順に倣って年功序列順で(笑)

カン・ピルソク(トーマス・ウィーバー

 私の韓国推し9にも名前を挙げさせていただいているソク様ことピルソクさん。私のソク様との出会いはSOMLとの出会いでもありました。ソク様のトーマスは成長するにつれて少し神経質な所も出てくるものの、少年時代はどこかほんわりした優しい雰囲気を感じるトム。初めてSOMLを観劇したときに、まさか「1876」のナンバーで涙が止まらなくなったことは未だに記憶に鮮明です。少年時代と成年後を行き来するトーマス役はピルソクさんの緩急をつけた演技の切り替えが存分に堪能するのにもぴったり!

主な出演作品

 See What I Wanna See(管理人/神父)、バンジージャンプする(イヌ)、ゴーン・トゥモロー(キム・オッキュン)
 推し9で挙げてない作品を中心に挙げてみました。

直近の出演作品

 光化門恋歌(中年のミョンウ)※掛け持ち

ソン・ウォングン(トーマス・ウィーバー

 SOMLへの出演は初めてのウォングンさん。優しい雰囲気の甘いマスクで長身のウォングンさんは私の中ではダディの坊ちゃん役のイメージが強いのですが、『容疑者Xの献身』の湯川役で石神に見せる友情もかなり評判が良かったのでどんなトムを演じてくれるのか楽しみです。アルヴィン役のチャンヨンさんとは『スリル・ミー』で共演していたので、趣きのだいぶ違うこの二人がどんなシナジーを見せてくれるかも注目したいです。

主な出演作品(役名)

 宮(イ・シン、イ・ユル)、スリル・ミー(彼)、容疑者Xの献身(湯川)

直近の出演作品(役名)

 ダディ・ロング・レッグズ(ジャーヴィス

チョン・ドンファ(アルヴィン・ケルビー)

 ドンファさんはSOMLは2011年以来になる久々の2回目の出演。私の周辺の一部のミュージカルファンの方々からは三つ子説が唱えられているほど変幻自在な俳優さんです。そんなドンファさんなので、主な出演作で何を挙げるか結構悩んだ結果、個人的に好きな作品と他の出演者の方と一緒に共演した作品に落ち着きました。トム役のウォングンさんとはプライベートでも仲が良いとの噂で、インタビューで共演にテンションが上がっている姿も記憶に新しく(笑)このペアも個人的に注目しています。

主な出演作品(役名)

 宮(イ・ユル)、スリル・ミー(私、彼)、ラフマニノフ(ニコライ・ダール)

直近の出演作品(役名)

 ランボーランボー
 直近というか掛け持ちですね...。三つ子説のもう一つの理由は掛け持ちの多さ。

イ・チャンヨン(アルヴィン・ケルビー)

 チャンヨンさんは今期の韓国キャストの中で唯一の初演キャスト。SOMLへの出演は初演の翌年の2011年と久々の出演となった前期の2016-2017年に引き続き4回目でアルヴィンにキャスティングされている俳優さんとしては最多になるので、SOMLはチャンヨンさんの代表作と言えるかもしれません。チャンヨンさんのアルヴィンは優しさと同時に葛藤を感じる繊細さが印象的。作品ごとに演じる役の振り幅が大きい演技派の俳優さんのイメージが強いです。

主な出演作品(役名)

 アルター・ボーイズ(エイブラハム)、トレイス・ユー(イ・ウビン)、スリル・ミー(私)

直近の出演作品(役名)

 オーディナリー・デイズ(ジェイソン)

チョン・ウォニョン(アルヴィン・ケルビー)

 ウォニョンさんは今回がSOML初出演。今回キャスティングされている俳優さんの中では唯一私が観たことのない俳優さんなのですが、歌、演技はもちろん、ダンスやラップまでなんでも器用にできるとてつもなく引き出しの多い俳優さんとの評判。確かに、ウォニョンさんの経歴を拝見する限りでは本当に作品の雰囲気も役柄も多種多様でおのずとアルヴィン役への期待値も高まっていきます!

主な出演作品(役名)

 イン・ザ・ハイツ(ウスナビ)、グーテンバーグ!(ダグ)、スモーク(海)

直近の出演作品(役名)

 オー!キャロル(デル)

チョ・ソンユン(トーマス・ウィーバー役)

 最年少のソンユンさんは2011年のSOML再演から4回連続での出演で、トーマス役の俳優さんとして最多の出演。透明感がある澄んだ歌声が魅力的な俳優さんです。ソンユンさんのトーマスは虚勢を張って強がっている外側に対して、繊細で傷つきやすい内面の弱さのギャップが印象に残るトム。個人的には、前期、前々期に出演していたホン・ウジンさんのアルヴィン役との組み合わせが外から見える二人の力関係と内面的な二人の力関係が逆転していているように感じてとても好きでした。

主な出演作品(役名)

 兄弟は勇敢だった(イ・ジュボン)、ジキルとハイド(ジキル/ハイド)、三銃士(アラミス)

直近の出演作品(役名)

 容疑者Xの献身(石神)

素晴らしき哉、人生!

 SOMLの物語をさらに楽しむためには欠かせないのが往年の名作クリスマス映画の『素晴らしき哉、人生!』。この映画を観ることがトムとアルの二人のクリスマス恒例行事になっていたように、冬のクリスマスシーズンを前後に『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』を上演するのがソウルのミュージカル界の風物詩になりつつあります。心温まる友情と再生の物語を観た後に、新しい気持ちで新年を迎える...そんなことが日本で実現される暁を願わずにはいられません。

参考リンク

  • 作詞作曲・脚本のバートラムとヒルの公式ホームページの作品紹介ページ
     各国で行われた公演の舞台写真もあり、韓国公演の写真もあります。(私の推しペアの写真も!)ミュージカル『チャップリン』ですごく良かったロブ・マクルア (Rob McClure) さんも出演していたとは!
    bartramandhill | The Story of My Life

  • Music Theatre International の作品紹介ページ
     MTIはSOMLの公演ライセンスを取り扱っているので、ちょっと変わった内容としてページ内にチケット価格のシミュレーション機能などもあります。製作会社の方々は何卒日本での公演もご検討くださいませ m(_ _)m
    The Story of My Life | Music Theatre International

  • 本ブログの2016-2017年シーズンの公演の観劇レポ
     書いていることはほとんど上で書いたことの繰り返しですが、ご参考までに。


  1. flop. 興行的に振るわなかった作品。

  2. 『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』の登場人物は主役二人だけなので、スタンバイのキャストがいる形式をとっていたと思われます。

  3. 韓国初演キャストは、トーマス役にリュ・ジョンハン、シン・ソンロク、アルヴィン役にイ・ソクジュン、イ・チャンヨンがキャスティング

  4. 2011-2012年の韓国再演キャストはトーマス役がコ・ヨンビン、チョ・ソンユン(当時はチョ・ガンヒョンという名前で活動)、アルヴィン役がイ・ソクジュン、チョン・ドンファ、イ・チャンヨン

  5. 2015-2016年の再演からは、劇場は大学路ではなく三成(サムソン)駅の近くのペガム・アートホールに会場を移しています。