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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『ランボー』(랭보, Rimbaud) @ TOM Theatre, Seoul《2018.12.1マチネ, 2018.12.31マチネ》

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 「ランボー」と聞いて、シルヴェスター・スタローンを思い浮かべた人、はい挙手。実は私もその一人だったりするのですが(←)、ミュージカルランボー(랭보, Rimbaud) はフランスの詩人、アルチュール・ランボーを題材にしたDouble K Film and TheatreとLiveの共同制作による2018年初演の韓国創作ミュージカルです。「韓ミュの人たちって本当に詩人が好きね〜」なんて思いながら眺めていた公演実施のニュースには、キャスティングされた俳優さんの名前として錚々たる大学路の人気ミュージカル俳優さんたちと並んで『スモーク』ですっかり気になる若手ミュージカル俳優の一人になったカン・ウニルさんの名前が。演劇『R&J』ではずっと観たいと思いつつも枠がはまらず観れなかったウニルくんを今度こそ観るぞという決意の元、以下の日程、キャストのみなさんで『ランボー』を観劇しました。

  1. [2018.12.1 マチネ]
     ランボー:ユン・ソホさん
     ヴェルレーヌ:チョ・サンユンさん
     ドゥラエ:カン・ウニルさん
  2. [2018.12.31 マチネ]
     ランボー:ユン・ソホさん
     ヴェルレーヌ:キム・ジョングさん
     ドゥラエ:カン・ウニルさん

 ランボー役は別キャストでも観たかったのですが、枠の関係でヴェルレーヌ役だけが1回目と2回目の観劇で違う組み合わせになりました。が、キャストが一人変わっただけなのに、1回目と2回目はびっくりするくらい全然印象の異なる感想となったのでした。

(以下、ネタバレが多く含まれるのでご注意ください)

 最初に正直に告白しておきます。『ランボー』の初回観劇は私の中で2018年一番の撃沈案件でした。その時点ですでに年末に2回目を観る予定でしたが、別の作品にするべきか本気で悩むレベルで消化不良を起こしていました。なので、以降はこの点を踏まえた上で読み進むか判断いただければ幸いです。

 観劇後最初にまず私が思ったのは「これは本当に『ランボー』というタイトルでいいの?」ということ。『ランボー』というタイトルの割にはヴェルレーヌの苦悩の心理描写のウェイトがかなり大きく感じ、「少なくとも主人公はランボーではないよね?」などと観劇後のモヤモヤを友達に聞いて貰っていたりしました。ランボーヴェルレーヌの関係性をどう捉えればいいのかがよくわからなかったのも私がモヤった理由の一つ。

 サンユンさんが演じるヴェルレーヌは自分の才能に対する自己肯定感が低くくさらにプライドも高いが故に、その才能に惚れ込んでいるランボーに対してもかなり心を閉ざしているように感じました。ランボーという若い才能への敬意より才能に対する嫉妬を強く感じるヴェルレーヌなので、「ランボーと一緒にいて幸せだと思ったことは一度もない」という台詞の本気度が後に観たジョングさんとは全然違って聞こえるサンユンさんのヴェルレーヌ。(ジョングさんのそれは酔っ払いの戯言にしか聞こえません←)ソホくんのランボーがかなりストレートに熱くヴェルレーヌの詩への愛をアピールする役作りで、ウニルくんのドゥラエも素直にわかりやすくランボーを慕っている役作りだっただけに、その対比に「この人、自分のことでいっぱいいっぱいで本当にランボーのこと好きなんかなぁ」と思ってしまったのがモヤった最大の原因な気がします。サンユンさんの演技はやっぱり巧いなぁと思ったので余計募るモヤモヤ感。

 多分俳優さんどうしの相性と私の好みの問題で、他の組み合わせでも観た友達の感想を聞く限り、サンユンさんのヴェルレーヌはパク・ヨンスさんとかソン・スンウォンさんのランボー、ヨンギュさん、チョンフィさんドゥラエとの方が相性が良さそうな気がします。特にヨンスさんはヴェルレーヌに対しても敵対心を見せる役作りと聞いたので。

 対してジョングさんのヴェルレーヌさんは、ランボーへの惚れ込みがめちゃくちゃわかりやすい。愛がダダ漏れ、溢れんばかりです。ウニルくんも同じく「好き好き大好き」ビーム大放出タイプなのでランボーを巡ってのヴェルレーヌとドゥラエの攻防も分かりやすく、漫画なら確実に二人の間にバチバチと火花が散っているだろうなぁという雰囲気です。お互い嫉妬全開。なんというか、すごく周囲の目を気にして神経をすり減らしていそうな苦労人っぽいサンユンさんのヴェルレーヌと比較するから余計そう思うんでしょうけど、ジョングさんのヴェルレーヌって「この人はどうしようもない人だなぁ...」という感じるんですよね。それが憎めなくて可愛らしくもある。そしてそれで周囲になんだかんだ構ってもらえてそう。

 2回目の観劇でガラリとラストの印象が変わった理由の一つに、ウニルくんが演じるドゥラエの演技の変化もあったと思います。ジョングさんヴェルレーヌとの組み合わせで観た回では、舞台の終盤でランボーを懐かしみ、アフリカの大地に座り込んでしまったヴェルレーヌに対して穏やかな笑顔で手を差し伸べて、ヴェルレーヌを助け起こしてあげていたウニルくんドゥラエ。「え、ちょっと待ってウニルくん。サンユンさんにはそんな優しくなかったやん。終わりの方でも二人とも半分お通夜みたいな雰囲気やったやん」と思わず心の中で叫びましたが、何回もランボーを観ている友達に聞くと、直近の別の回ではサンユンさんヴェルレーヌにも手を差し伸べていたらしいので、ウニルくんが特段サンユンさんだけに塩対応というわけではなかったようです。よかった、よかった。(←)

 ランボーがアフリカに残した最後の詩が自分が見つけた日記だとは気づけずに「これじゃないみたいだ」とワンコのように必死に砂を掻き出すウニルくんドゥラエは不憫で。そう思いつつも、その日記、ひいてはランボーのアフリカでの生活そのものが詩だと瞬時に理解できたヴェルレーヌと一緒にアフリカに来るように仕向けたのはランボーなりのドゥラエの贈り物で愛だったのかなぁと思うので、ラストでドゥラエがその辺も引っくるめて全てを受け入れたように笑う2回目の観劇のラストのが断然好きでした。

 思えば、1回目の観劇ではランボーのアフリカでの生活自体が彼の生き様を象徴するような詩であることをや、ヴェルレーヌはそれを難なく理解できる存在だったという所まで上手く消化して理解できてなかった気がするのでそりゃモヤりもしますわな、という話ですよね。言葉の壁が高い時には複数回観劇できるかって大事とか、俳優さんに大きく解釈が委ねられてる小劇場創作ミュージカルでは組み合わせめっちゃ重要と改めて実感した観劇でもありました。