COVID-19のパンデミックの影響により国内外で舞台作品の公演中止が相次ぎ、舞台オタクには試練の時になっている昨今。元々舞台作品の映像配信を積極的に行っていた韓国ミュージカル界ですが、この夏からNAVER TVおよびVLIVEでの公演生中継や録画配信が頻繁に提供されるようになってきました。生観劇とはまた違った魅力を持つ公演の映像作品を無料で視聴できるなんて、遠征できないオタクにはありがたすぎるお話。そんな韓国ミュージカル界のちょっとしたムーブメントを受け、8月にありがたく拝見することができた4作品の簡単な紹介と感想を書いてみたいと思います。
- ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』《2020.8.3ソワレ》
- ミュージカル『ルドウィク:ベートーヴェン・ザ・ピアノ』《2020.8.11ソワレ》
- ミュージカル『マリー・キュリー』《2020.8.17》
- ミュージカル『ファンレター』《2020.8.31》
ミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』《2020.8.3ソワレ》
初めて観て以来大好きな作品になり、私の中で広くいろんな人にゴリ推ししたい韓国ミュージカルナンバーワンに輝いているミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』(전설의 리틀 농구단, 以下、バスケ団)。2019年公演の好評を受けて早くもアンコール公演が決まり、観たくて観たくて仕方がないのに海を超えることができずに地団駄を踏んでいた私にとって何よりもうれしかったのがバスケ団の公演ライブ配信のニュースでした。
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大好きな作品を色んな人に観てもらう絶好の機会!ということで初めて布教シートなるものを作って熱心にツイッターでダイマしまくりました。(←)結構な力作になったので、せっかくなのでブログでも一部紹介いたします。
布教シートを作成した時点でのジフン役の出演予定キャストはキム・チャンさんだったのですが、残念ながらキム・チャンさんは健康上の理由で出演できず当日キャスト変更が発表に。当日のキャストのみなさまは以下の方々でした。
ジョンウ:アン・ジェヨンさん
スヒョン:イム・ジンソプさん
サンテ:シン・チャンジュさん
スンウ:チョ・ヒョヌさん
ダイン:アン・ジファンさん
ジフン:ファン・スンジョンさん
今回の公演生中継では、生観劇では絶対見れない舞台袖からのアングルでのショットを写してくれたのが本当にうれしかったです。風の噂によると制作スタッフの方々がカメラ監督に「今、このタイミングです!」とキューを送っていたとか。どおりで絶妙なタイミングでカメラのアングルが切り替わるはずです。
推し俳優様のジェヨンさんのジョンウを観れたのはもちろん、去年キャストスケジュールが合わずに見れずじまいだったアン・ジファンさんのダインを観れたのもとてもうれしかったです。ダインのアイスクリームソング1はタオル必須の号泣ポイントなのは変わらず。去年も結構な回数を観ているはずなのですが、映像でも生で観たときと同じタイミングで号泣。バスケ団が作品としてすごいなぁと思うのは王道のわかりやすいストーリーなのにしっかり笑わせてくれて泣かせてくれること。登場人物たちはみんな普通の人たちで作品を通して何かが劇的に変わるわけではないけど、みんなが物語の冒頭より少しだけ前を向けるようになっている。そんなところがいいのだ、とインタビューで語っていたのではジェヨンさんですが、まさにその通りなんだと思います。布教シートにも書いた振付や物語のテンポのよさ、同じメロディが使われるリプライズの場面の対比だとか、本当に好きなポイントが尽きない大好きな作品です。
観れて幸せ、色んな人に観てもらえて幸せで本当にホクホク気分で観劇後の余韻を楽しめた公演中継でした。いつかまたバスケットボールがコートの上を弾み、反響する音を生で味わいたいな、と思わずにいられないです。
ミュージカル『ルドウィク:ベートーヴェン・ザ・ピアノ』《2020.8.11ソワレ》
ルドウィク:テイさん
青年:ヤン・ジウォンさん
マリー:キム・スヨンさん
バルト:ペク・ゴヌさん
ピアニスト:イ・ボムジェさん
2019年に観たミュージカル作品の中でも個人的に刺さった作品のトップ5に入る、ミュージカル『ルドウィク : ベートーヴェン・ザ・ピアノ』(루드윅:베토벤 더 피아노, Ludwig: Beethoven the Piano, 以下、『ルドウィク』)。この作品で観たことをきっかけに推し9入りしたチョ・ファンジさんや同じく推し9枠のパク・ユドクさんが2020年公演ではキャストに名前を連ねていて、今年も絶対に観るぞと意気込んでいたところにこのご時世。公演生中継のキャストに推し俳優さんの名前はありませんでしたが、好きな作品を別キャストで観ることができてこちらもとてもうれしい配信のニュースでした。
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韓国ミュージカルのマルチキャスティングの醍醐味はここにあると思うのですが、やはりキャストが変わると雰囲気も変わってとても面白かったです。ベートーヴェンの青年時代役と甥のカールがメインの役どころとなるヤン・ジウォンさんは今回初めましての俳優さんだったのですが、特にカール役を演じている時の繊細で傷つきやすい役作りがとても好きでした。マリー役のキム・スヨンさんは『インタビュー』、『スワッグ・エイジ〜叫べ、朝鮮〜』、『ファンレター』とこれまで観たどの作品でも「上手いなぁ」と唸っていたんですが本作でも然り。『ルドウィク』が伝記物の枠から飛び出していく作品になっているのはマリーという登場人物の役割がかなり大きいので、余計に印象に残りました。
この作品の好きなところは夢見て、夢破れた人たちが思ってもみなかった形で次世代へと夢を繋いでいくこと。ルドウィクもマリーも軒並みならぬ努力を重ねた上に才覚を持ち合わせる「天才」ですが、彼らが挫折を経験して、挫折した自分をやがて受け入れていく姿を見守っていくうちに彼らを身近な存在として感じるようになるのです。
少し残念だったのは同じく作曲家の人生を題材としたミュージカル『モーツァルト!』の配信日時が完全にバッティングしてしまったため、興味を持ちながらもこちらの配信が観れなかった人が結構いらっしゃったこと。そういったことも鑑みて今後のアーカイブありの有料配信などにも期待したいところです。
ミュージカル『マリー・キュリー』《2020.8.17》
マリー:
オク・ジュヒョンさん(一幕)
キム・ソヒャンさん(二幕)
ピエール:イ・ビョルさん
ルーベン:ヤン・スンリさん
アンヌ:
イ・ボムソリさん(一幕)
キム・ヒオラさん (二幕)
観客を入れた通常公演のライブ配信ではなく、公演のない月曜日に一幕と二幕のキャストを入れ替えて上演する特別公演を生中継する形で実施されたミュージカル『マリー・キュリー』(마리 퀴리, Marie Curie) の公演実況中継。実は私、2019年の年初に期間限定で上演された本作のトライアウト公演を観ているのですが、そこから大幅に手が入れられてリヴァンプされたと噂に聞いていた本作がどのように変わったのかはとても気になっていました。
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主演のマリー役に名だたる大劇場のミュージカル作品に主役として出演されているオク・ジュヒョンさんが大学路の小劇場発の本作に出演する、というのも注目ポイントの一つだったのですが、結論から言うと、改訂版ミュージカル『マリー・キュリー』はめっちゃ大劇場作品でした。セットの豪華さ然り、アンサンブル俳優さんの人数然り、舞台転換や演出のお作法も大劇場で上演することを想定に練り直されていて、もはやほとんど違う作品になっていたというのが個人的な感想です。マリーが研究者として自身を確立していき、夫となるピエールに出会うまでやアンヌとマリーのつながり、ラジウムの医療利用に関するエピソードが追加され脚本が大幅に強化されており、マリーの人生がよりダイナミックでドラマティックになっているように感じました。
残念ながら、今回最初の方の部分をながら作業をしながら観ていたこともあり、ちょっと途中で集中力が切れてしまったのでいつか改めてしっかり集中して観てみたいです。
ミュージカル『ファンレター』《2020.8.31》
キム・ヘジン:キム・ジョングさん
チョン・セフン:ムン・テユさん
ヒカル:ソ・ジョンファさん
イ・ユン:ジョンミンさん
イ・テジュン:ヤン・スンリさん
キム・スナム:イ・スンヒョンさん
キム・ファンテ:クォン・ドンホさん
韓国観光公社とK-PERFORMACEの共同主催で2020年8月31日から9月3日までの4日間にかけて開催された「K-Musical On Air」の第一弾として配信されたのがミュージカル『ファンレター』 (팬레터, Fan Letter)の舞台収録。こちらは今月配信で観た他の3作品とは異なり、2017年公演の録画映像であるため、出演キャストも一部2019-2020年シーズンの俳優さんと異なっています。同じく韓国観光公社が主催している「ウェルカム大学路」の宣伝も兼ねていることもあり、「K-Musical On Air」のVLIVEでの配信は英語字幕付き。韓国ミュージカルを布教するためにも、自分で観るためにもありがたすぎる取り組みでした。
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上で紹介した観劇レポでも書いている通り私の『ファンレター』初観劇もテユさんのセフンだったのですが、結構私の記憶が色々と飛んでいたので(←)テユさんのセフンの役作りを観ていてとても新鮮な気持ちになりました。テユさんのセフンはいかにも世渡りが下手そうないわゆるコミュ障気味の青年で、あれだけ文才があるのに対人での感情表現がとても不器用なのがとても愛おしく。そんなセフンが単身で弱い立場にならざるを得ない異国の地で過ごした日々の苦労や孤独は容易に想像できます。ヘジン先生のミューズとしての印象が強かったヒカルの存在もテユさんのセフンとジョンファさんのヒカルの組み合わせだとヒカルがセフン自身のミューズであり、セフンの芸術家としての業の深さの象徴として強く印象に残りました。ジョングさんのヘジン先生はやっぱり春風のような優しさが印象的で、先生が与える温かい赦しにはやっぱり号泣。生で観ることが叶わなかったジョンミンさんのユン先生を今回の配信で観れたもとてもうれしかったです。ジョンミンさんのユン先生が、最後の最後でジョングさんのヘジン先生に負けないくらい急に優しくなるの、反則…。キャストのケミストリーもとてもしっくりくるとても素敵な公演でした。
本作の配信についた英語字幕を見て思ったのは、日本語と韓国語は言語も文化も近いお国柄なので韓国ミュージカルを堪能する上で外国人の中で日本人ってかなり有利なんだなぁということ。どうしても英語になるとニュアンスが変わってしまったり、情報が落ちてしまう部分が気になってしまったのでいつか日本語字幕付きでの配信も是非検討していただきたいところです。
- 正確な曲名は「今になってごめん」(이제 와서 미안해)↩