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【観劇レポ】ミュージカル『パガニーニ』(파가니니, Paganini) @ Daejeon Culture & Arts Center, Daejeon《2018.12.23》(Part 3)

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 大田芸術の殿堂とHJ Cultureの合同企画として制作されたミュージカルパガニーニ(파가니니, Paganini)。2019年の2月から開始されるソウル公演に先立って、開館15周年記念公演として2018年12月21日から12月25日の5日間の期間限定で大田芸術の殿堂で行われた公演。いち早くその大田公演でミュージカル『パガニーニ』を観てきました。この記事はその観劇レポの第三部。前回、前々回のレポにも書きましたが、私が観劇したのは12月23日のマチネとソワレ。ネタバレ控えめで全体的な印象を書いた観劇レポのPart 1はこちら。

事前にある程度内容を頭に入れて予習したい方々向けに詳しめのあらすじの一幕分を書いた観劇レポのPart 2はこちら。

続・パガニーニの物語

 前回のレポに引き続き、今回のレポでは事前にある程度内容を頭に入れて予習したい方々向けに少し詳しめのあらすじの続きを書いていきたいと思います。私の韓国語力の問題で、時々(多分)などと歯切れの悪いカッコ書きが付いてたり、カッコ書きがなくても内容を勘違いしている部分もあるかもしれないのでそこは何卒ご了承ください。

(以下、ネタバレが多く含まれますのでご注意ください。)

猫のようにか弱く泣く子供

 舞台は再び1844年の宗教裁判の場面に戻る。パガニーニの演奏技術は悪魔の所業などではなく血の滲むような練習の成果であることを主張するため、アキレは父の生い立ちを語って聞かせる。(「か弱く泣く子供」가냘프게 우는 아이)子供の頃から病弱だったパガニーニ。ただ熱心に練習に励んでいただけなのに、呪いを受けた悪魔の子供と呼ばれ続けたパガニーニ

それぞれの思惑

 自分が必ず歌手デビューさせると請け負っていたのにも関わらず、パガニーニの演奏会でその初ステージを踏んだシャルロット。それを快く思わないコルレンは自分の思い通りに動かないシャルロットを非難し、彼女に対して前で声を荒げる。シャルロットはそんなコルレンの姿を目の当たりにし、それがコルレンの本当の姿なら結婚は取り止めにしましょうと彼に言う。パガニーニのことやお金のことで言い争いになる二人の元に客人が来たとの知らせが入り、シャルロットはコルレンに別室に押し込まれる1。その客人とはパガニーニだった。シャルロットのことやカジノのことなどで意見が対立する二人(多分)。言いたいことを言って去っていった二人に苛立つコルレンだが、また悪巧み顔で何かを妙案を思いついたような素振りを見せる。

 コルレンが向かった先はまたしてもルチオ司祭の元だった。しかしコルレンが強い語調で「悪魔パガニーニ」の話を振っても反応が悪いルチオ。「悪魔のバイオリニストの演奏会」の様子を見ていたルチオは演奏会にいた他の観客達とは異なり、パガニーニが本当に悪魔であるかについて懐疑的で慎重になっていた。(「まるでつままれたように rep. 」마치 홀린 것처럼 rep.)それならバチカンから他の司祭たちを呼ぶまでと言い捨てて去っていくコルレン。ルチオは迷った挙句、軟禁されている2シャルロットを訪ねて演奏会を実施するのは危険だからやめた方がいいと警告しにいく。「信じる信じないは貴方の自由だが」と差し迫った表情で告げるルチオの言葉からバチカンから司祭たちが来ることにコルレンが関わっていることを知ったシャルロットは慌ててパガニーニの元へと急いでいく。

「悪魔」のスキャンダルと「悪魔」の実情

 一方、コルレンは「悪魔に魂を売り渡してバイオリンの演奏技術を手にれた」というパガニーニの噂を広めさせ、その話題性を利用して「悪魔の最後の演奏会」という名目でパガニーニの演奏会のチケットを高額で売り捌いていく。(「悪魔のスキャンダル」악마의 스캔들)自分の計画が思い通りに進んでいっていることにほくそ笑むコルレン。

 噂の張本人であるパガニーニは病弱な自身に近付く死を感じていた。自分の音楽のためには倒れることはできない、自分は生きたいとの心情を吐露し、バイオリンの演奏にぶつけるパガニーニ。(「私は生きたい 」난 살고 싶어)そんなパガニーニの元にルチオの警告を受けたシャルロットがやってくる。ルチオが伝えた通り、演奏会は危険だから駄目だというシャルロットに対して、パガニーニは演奏しないのであれば自分は生きている意味はないと言う。命は自分も惜しいし、死は怖いという正直な心情をシャルロットに打ち明けるパガニーニ。弱気なパガニーニを見て落ち着きを取り戻したシャルロットは、演奏会前に自分を励ましてくれたパガニーニの言葉を彼に対して掛け、自分の本名とパガニーニの音楽が自分に与えたくれたものをパガニーニに伝える。(「あなたの名前、私の名前」그대 이름, 나의 이름)それに対してバイオリンの演奏で応えるパガニーニ

平行線を辿る主張

 またしても舞台は宗教裁判の場面に戻る。変わらず平行線を辿るアキレとルチオの主張。ルチオはパガニーニが自ら悪魔だと告白した瞬間に立ち会ったと言う。論点は告白書の有無についての議論になる。告白書はないのでパガニーニが悪魔だと言うことはできないと主張するアキレ。告白をしたという事実が重要だと言うルチオ(多分)。  

誰が悪魔なのか

 再度ルチオの元へと訪れるコルレン。コルレンを追い出そうとしようとするルチオに対して、コルレンはルチオが異端審問官としての最前線を離れるきっかけとなった過去の事件を暴いていく。「悪魔を断罪する悪魔」になったのではないか、自分が悪魔であることを認めたらどうだとルチオ詰め寄るコルレンに対し、ルチオはひどく狼狽しながらも強くそれを否定する。(「悪魔のように」악마 처럼)コルレンはなぜそれを知っているかのかの証拠としてルチオが持ち歩いている聖書の元の持ち主の女性が自決した時の銀の銃を証拠として突き出す。

 ルチオを脅したコルレンが去った後、ルチオは自身の体から悪魔を必死に追い出すかのように十字が描かれた自身の右手で何度も自分の胸の上を声を上げながら叩く。コルレンによって渡された銃を身につけ、ルチオは神に対して、自分を救い、闇を払い神の意志を遂行するための力を授けてくださいと祈りを捧げる。(「神の監視者」신의 감시자

「悪魔」の最後の演奏会

 そんなルチオの元に今度はシャルロットが訪れる。彼女はパガニーニから託された演奏会の招待状をルチオに渡し、ルチオの警告をパガニーニに伝えても彼は何も恐れてはいないと告げる。去り際に「パガニーニが悪魔ではないと思ったことは本当に一度もないのですか?」と悲しげに聞くシャルロット。ルチオはそれに答えない。

 直接パガニーニに会いに行くルチオ。バチカンから司祭たちが来る前に悪魔であると告白して悔い改めれば救われると説得するルチオ。どうしても自分を悪魔に仕立てたいのだなと嗤い、ヤケになって「そうです、私は悪魔です」と言うパガニーニ。やっと引き出された「告白」を聞き、告白書を差し出してそれに署名するようにパガニーニに促すルチオ。しかしパガニーニは告白書に署名すれば、自分の子供が「悪魔の子」の烙印を押されてしまうことになるからとそれを拒否する。死罪に問われる可能性を示唆しても頑なに署名を拒否するパガニーニに対し、ついにルチオは銀の銃を取り出してパガニーニ向ける。「貴方こそ司祭の仮面を被った悪魔じゃないのか」とパガニーニにも指摘され、崩れ落ちるルチオ。パガニーニは演奏会を決行することをルチオに伝える。

 宗教裁判の証言台に立つルチオは過去を振り返り、「自ら悪魔であることを告白しながらも最後までパガニーニは告白書に署名しなかった」と言い、パガニーニのように信仰を揺るがす存在が再び現れないようにするため、それが彼がこの裁判に証言者として立っている理由だと告げる。3

 ついにパガニーニの最後の演奏会が幕を開ける。人間離れした演奏技術で魅せるパガニーニ。(「悪魔のコンサート」악마의 콘서트)演奏会のフィナーレとともに時間軸が宗教裁判へと再度移転し、証言した内容を踏まえて、列席する聖職者たちに公正な判断を願うと証言を締めくくるアキレ。ついに裁判長の司教から判決が言い渡され、アキレの異議申し立てが受理される運びとなる。音楽で花開いたパガニーニの人生、貴方のことはその音楽で我々は記憶すると人々は振り返る。

登場人物とキャストの印象

 なんとかPart 3でここまでたどり着けました!(←)Part 1で書いた全体的な印象と重複する内容もありますが、ここからは各登場人物と俳優さんの役作りの印象について書いてみたいと思います。映り込みがひどくてだいぶ見づらくて申し訳ないのですが、観劇日のキャストボードの写真も貼っておきます。

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 私が観劇したのは12月23日のマチネとソワレの両公演ともにキャストは以下のみなさまでした。

 パガニーニ:KoN(イ・イルグン)さん
 ルチオ・アモス :キム・ギョンスさん
 コルレン・ボネール:ソ・スンウォンさん
 アキレ:パク・ギュウォンさん
 シャルロット・ド・ベルニエ:ハ・ヒョンジさん

アキレ

 アキレの役所は1844年の宗教裁判の時間軸で過去の事件の事実を語るストーリーテラー狂言回し的な役。父親の汚名をそそぐために一生懸命な青年ではあるものの、そこまで強烈な個性はないフラットなキャラクターというイメージがあります。アキレが振り返る過去の事件は8年前の出来事なので、当時アキレは10歳。物心はついている年ですし、パガニーニが告白書に署名しない理由として息子の存在を挙げているくらいなのだから、幼い日のアキレと父パガニーニのエピソードも少しくらいあってもいいんじゃないかなという気はしないでもないです。

 歌うナンバーは比較的多いアキレですが、上記の印象があるためなんだかキャスティングされている俳優さんが勿体無いなぁという気持ちも。アキレを演じていたギュウォンさんはどこか少年らしさを感じる若々しい雰囲気の歌声が18歳というアキレの設定年齢にとても似合っていたと思います。次はもっと物語の核に大きく関わってくる役で拝見したいなぁというのが正直な感想。

パガニーニ

 ミュージカル『パガニーニ』は多分この方なしでは成立しないと言っても恐らく過言ではない気がするKoNさんが演じるパガニーニパガニーニ役は歌も演技もバイオリンの演奏技術もすべてが要求され、しかも要求されるバイオリンの演奏力が稀代のヴィルトゥオーソであったことに説得力を持たせることができるレベルの超絶技巧と華の持ち主。ごろごろ転がっている人材でないことだけは確かです。これは以前にも書きましたが、パガニーニ役は歌うナンバーはそれなりにあるものの、最大の見せ場は劇中のパガニーニの演奏会の演奏シーン。そこでしっかりと魅せてくれるKoNさんは流石の一言。タイプとしてはどちらかと言うとアップテンポで華々しい超絶技巧曲が得意なバイオリニストの方なのかな、という印象なのでそう言う点でもパガニーニ役にぴったり。

 無邪気でマイペースでやや天然、さらに天然タラシなキャラクターのパガニーニ。シャルロットと二人での練習で、シャルロットをバックハグするような形で弓を持つ手で彼女の首を抱き込んで演奏する場面があるのですが、「ちょ、兄さんそれやる必然性ってどこにある?」と内心ツッコミながらも、これが可能なのはKoNさんの長い手足があってこそだよねと分析してみたり。コルレンとルチオというだいぶ癖とアクの強いヒール二人にキャラで負けている気がしないでもないですが、パガニーニは演奏で魅せてくれてたら「まあ別にそれでもいいか」と思えてしまうから不思議。(←)

シャルロット

 夢見がちな貴族の箱入り娘で人の意見に左右されやすく、信心深くて真面目なお嬢さん、というのが私のシャルロットの印象です。「ちょっと人に言われたことに対して流されすぎじゃあないですかね、お嬢さん」、とツッコミたくなる部分は大いにあるのですが、そんな彼女が唯一貫いているのが「惚れ込んだパガニーニとその音楽に対して自分ができることをしたい」ということなので、そう言う意味では明瞭でわかりやすいキャラクター造形だと思います。ヒョンジさんはそんなシャルロットの性格がわかりやすく伝わってくる自然な演技をされていたのがとても好印象でした。

 ちなみに信心深くて人に影響されやすいシャルロットはルチオになんぞかを耳打ちされて、演奏会を妨害するためにパガニーニのバイオリンの弦に何らかの細工をしたという理解であっているんですかね?そしてルチオは、演奏会妨害のために仕込ませた罠が人々に「不吉だ」とか変な風に取られていくのを目の当たりにして冷静になったってことでいいんですかね?

 ソウル公演ではもう一人のシャルロット役としてユ・ジュヘさんがキャスティングされていています。ジュヘさんもヒョンジさんも音域としてはメゾソプラノだと思うんですが、バリバリの声楽畑のソプラノの女優さんが演じるシャルロットも観てみたい気がします。

コルレン

 癖とアクの強いヒール役その一のコルレン。物語の序盤では「なんとも小物臭のする俗っぽい小悪党だなぁ。嫌いじゃないよ」なーんてだいぶ失礼なことを思いながらコルレンを眺めていた私なのですが、その見境のない「何もかもを俺の野心の踏み台にしてやるぜ!」っぷりに「司祭様!貴方の目は節穴ですか?どっちかというと貴方が断罪しないといけない悪魔はこっちじゃないですか!?」と叫びながらツッコミたくなるくらいの悪党ぶりを見せてくれたスンウォンさんのコルレン。とってもとっても悪い笑顔がとても素敵でした。しかも悪巧み割と成功してるし。小物扱いしてマジすみませんでした。(←)

 スンウォンさんのコルレンの演技で特に印象に残っているのは、神経質そうに爪を噛みながら悩んで考え事をする癖。イ・ジュニョクさんのコルレンも同じような仕草をするのか、また違ったアプローチでコルレン役を演じてくるのかソウル公演で比較するのが今から楽しみです。コルレンの衣装の下品にならないギリギリのラインを攻めている感じの黒とシルバーをベースにした三つ揃いスーツの衣装も割りと好きです。ソウル公演の扮装しているキャスト写真ではスンウォンさんとジュニョクさんの衣装が違っていましたが、本公演でも違うのかな?

 パガニーニの人物像として記録に残っている内容であまり人聞きのよろしくない部分を劇中で請け負っているコルレンは、『パガニーニ』に登場するもう一人の「悪魔」なのかな、と思っています。

ルチオ

 癖とアクの強いヒール役その二。司祭役という前情報だけの時は、ミュージカル『エドガー・アラン・ポー』に登場する牧師グリスウォルドのように主人公を陥れるためには手段を選ばない腹黒い生臭聖職者を想像していたのですが、どちらかというとそっちのキャラクターに近いのはコルレンの方で、実は意外と神の教えを遂行することにストイックな修道者だったルチオ。(そもそもカトリックの神父様とプロテスタントの牧師様ではだいぶ戒律が違いますが)かと言ってギョンスさんが演じる神父様がただのいい人なわけはなく(←)。罪の意識に苛まれ、それをコルレンに利用されながらも自分が信じる正しい道のためには手段を選ばない独善的なヤバイ人で、いい意味で色々とこちらの予想を裏切ってくれたのがルチオのキャラクターです。

 異端審問官としてブイブイ言わせていた頃の過去エピソードで嬉々として「悪魔憑き」を断罪していく姿とか、「悪魔憑き」と思われる新たな標的(パガニーニ)を見つけたときに瞳を妖しく爛々と輝かせるところとか、もう..._:(´ཀ`」 ∠): 本当にどっちが悪魔なのやら。禁欲的でストイックな司祭様だからこそかえって感じる妖しさだとか、ターゲットに見せる魔王様のような笑顔だとか、罪の意識に思い悩む姿だとか、歌い上げナンバーが多かったりだとか、色々と美味しすぎてご馳走様です。

 ルチオはそのキャラクターもですが、ビジュアルもどこか二次元に登場しそうな感じなんですよね。オールバックで濃いめの切れ長アイメイク、裾が床につくぐらいの長衣の上着は大きめの丸い燻し銀ボタンが鎖骨下から並んでいて(ちょっと学ランっぽい)、下は中央が白い襟カラーの黒いシャツと黒いスラックスに黒革のブーツ。銀にラインストーンをあしらった細身の十字架のネックレスを二つかけていて、鎖が短めのネックレスの方が若干十字架が小さい。長衣の背中の肩甲骨の間にビジューをあしらった十字架。右手の親指に太めの銀のリングに手の甲には中指に沿って縦に、親指と小指の間を横に描かれた黒い十字架。エクソシスト(異端審問官)としてのお仕事モードのときは上着のボタンを外したり。こう書くと厨二病臭がプンプンと漂ってくる感じですが、いいんです、ギョンスさんがやると素敵だから。(←盲目)

 ただ一つ言わせてほしい。コルレンの項でも書いたけど絶対断罪すべき人を間違っているから

 とは言え、一応ルチオは悩みながらも自分が信じる正義を貫こうとしていて、さらにパガニーニを救うために動いているのですよね。だからこそタチが悪いのだけど。ルチオ一人でも手に余りそうなのに、コルレンも相手にしながら割とずっと飄々としているパガニーニはやっぱり大物...。

最後に

 来月(2019年2月)に開始が予定されているソウル公演。大田公演では観れなかったキャストのみなさんやソウル公演で追加発表されたキャストの方を観ることや、大田公演から手が加わった部分があるのかなんかを観るのをとても楽しみにしています。少しでも記事が観劇予習や観劇をするか否かの判断にお役に立てれば幸いです。みなさまの感想も楽しみにしています!


  1. 2019.2.23 訂正

  2. 2019.2.23 訂正

  3. 2019.2.21 訂正