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劇場に行くためにどこでもドアが欲しいミュージカルオタクの観劇記録と観るためのあれこれ

【観劇レポ】ミュージカル『春のめざめ』(Spring Awakening) @ Asakusa Kyugeki, Tokyo《2022.7.30マチネ》

 ミュージカル『春のめざめ』(Spring Awakening) @ Asakusa Kyugeki, Tokyo

 作品の存在を知ったタイミングが遅く、観たいと思っているのになかなかそのチャンスに恵まれない作品ってたまにありますよね。私にとってミュージカル『春のめざめ』(Spring Awakening) はその代表のような作品でした。テレビドラマシリーズ『グリー』(Glee) に出演していたリア・ミシェル (Lea Michele) とジョナサン・グロフ (Jonathan Groff) が主演していたミュージカルという情報を元に作品の存在を知った本作。入手したオリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤でダンカン・シーク(Duncan Sheik)氏の楽曲にすっかり魅了され、何度もCDを聞き込むも、そのタイミングではブロードウェイのランも劇団四季の公演期間も終わっており。いつか絶対生で観たい作品だったので、浅草九劇で新しいプロダクションの公演が上演されるとのニュースを知った時はとてもうれしく、観れる日をとても楽しみにしていました。そんな念願叶っての私の『春のめざめ』初観劇は2チームに分かれた九劇版プロダクションのチームWESTの千秋楽の公演。出演されていたキャストのみなさまは

 メルヒオール:石川新太さん
 ヴェントラ:栗原沙也加さん
 モーリッツ:瀧澤翼さん
 イルゼ:二宮芽生さん
 マルタ:的場美佳さん
 ヘンスェン:成田寛己さん
 エルンスト:熊野義貴さん
 オルグ:木暮真一郎さん
 オットー:聖司朗さん
 アンナ:小多桜子さん
 テア:中原櫻乃さん
 大人の男性:森田浩平さん
 大人の女性:尹嬉淑さん

 でした。

『春のめざめ』出演陣のサイン入りTシャツ 『春のめざめ』出演陣のサイン入りTシャツ
 

作品紹介

 ミュージカル『春のめざめ』はフランク・ヴェーデキント(Frank Wedekind)氏の同名の戯曲1を原作としたスティーブン・セイター(Steven Sater)氏の脚本と作詞によるミュージカルです。音楽は先述の通り、ダンカン・シーク氏が手掛けています。『春のめざめ』は2006年にオフブロードウェイのアトランティック・シアター・カンパニー(Atlantic Theater Company)でのワールド・プレミアを経て同年12月にオン・ブロードウェイに進出し、ユージン・オニール劇場(Eugene O'Neill Theatre)で2009年の1月まで上演されました。マイケル・メイヤー(Michael Mayer)氏の演出によるこのオリジナル・ブロードウェイ・プロダクションは2007年のトニー賞で11部門でノミネート、最優秀ミュージカル、作曲賞、脚本賞、演出賞を含む8部門で受賞を果たしています。日本初演劇団四季によるプロダクションで2009年の5月ですが、今回の2022年のプロダクションは奥山寛さんの演出、金子絢子さんによる翻訳、訳詞による全く新しいプロダクション。2022年の5月にアメリカのテレビ局であるHBOが15年ぶりにブロードウェイオリジナルキャストがアクターズ・ファンドのチャリティのために集結した様子を特集した『Spring Awakening: Those You've Known』というドキュメンタリーも話題になりました。


HBOドキュメンタリー『Spring Awakening: Those You've Known』トレーラー
 

感想

 『春のめざめ』が舞台となっている時と場所よりは自分が青春時代を過ごしたそれはオープンでおおらかだったと思いますが、それでも自分がメルヒオールやヴェントラの年だった頃に感じた狭い人間関係の世界が生々しく思い出されて痛みを感じる、ほとばしる若いエネルギーと豊かな感情がナイフの突き刺さってくるとても素晴らしいカンパニーでした。他人がどう自分を見ているかに過敏で前髪が1cm思っていたようにならないだけで世界の終わりのような気分になって不貞腐れてしまっていたあの青い日々。色鮮やかでみずみずしい彼らの感情をビシバシ感じる上で俳優さんたちを間近に感じられる浅草九劇の空間は格別で、あの臨場感はあのハコならではのものだなぁと思います。

 オリジナルキャスト盤に慣れ親しんでいた私にとってとても印象的だったのは金子さんの訳詞。オリジナルの文脈からはかなり大胆に変えつつもとても日本語としては自然でとても詩的で、一度ぜひオリジナルのテキストと対比して訳詞をじっくり読んでみたいなぁと思いました。特に印象に残ってメモしていたのが二幕頭のナンバーの「The Guilty Ones」が罪を犯した小鳥の寓話のような歌詞になっていたこと。想像していなかった内容になっていることに少し戸惑いを感じたのは事実ですが、果敢な挑戦には好感を感じていたので新しい日本語の歌詞が馴染むくらい回数を観れなかったことが少し残念でした。

 キャストのみなさまに関してはメルヒオール役の石川さんとゲオルグ役の木暮さん以外は初めて拝見する方々ばっかりだったのですが、こんなにも歌って踊れて演技も上手い若い俳優さんたちがいると知ってびっくりしたのとともにそれだけでとてもホクホク気分に。日本のミュージカル界の明るい未来を垣間見せてくれたと思える実力者揃いでした。若い才能溢れるキャストのエネルギーに飲まれることなくしっかりと存在感を放っている大人キャストのお二人もさすがの一言。大人になっていくことに伴う痛みを思い出して胸がキュッとなる一方で、自分が彼らの側にいる大人の一人だったら、あの悲しい顛末を変えるために何かできたことはあるだろうかという方向に意識が向くのは自分も歳をとった証拠だなぁ、とも思ったり。多感な年頃の少年少女達を過剰に保護しすぎても一人前として扱うのもどちらも危ういし、難しいなぁと改めて考え込んでしまいました。唯一の正解はない、考え続けないといけないテーマなんだと思います。

 とても素晴らしいプロダクションだったのでまた近い将来に再演してくれないかな、と祈っています。次も複数チーム制の場合は両方ぜひ観たい!

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  1. 原著はドイツ語で書かれているため、原題は「Frühlings Erwachen」