2016年に初めての商業公演が行われた韓国創作ミュージカル『アランガ』(아랑가) は韓国の三国時代の百済が一度滅んだと捉えられている時代の最後の王、蓋鹵王*1を主役とした悲劇の物語です。個人的は大好きな作品なのですが、数多い韓国の創作ミュージカルの中でもあまり日本人に馴染みのないマイナーな作品なので、初演時の全曲リストとその内容、一部歌詞とその訳を簡単に紹介してみたいと思います。
- 楽曲紹介
- 1. 끝없는 나락 [果てのない奈落]
- 2. 어전회의 [御前会議]
- 3. 꿈 속의 여인 [夢の中の女人]
- 4. 우리 가요 (Part A) [私たち行きましょう (Part A)]
- 5. 기원제 [祈願祭]
- 6. 꿈 속의 여인 (Reprise) [夢の中の女人 (リプライズ)]
- 7. 백제의 태양 [百済の太陽]
- 8. 잊지 말라 [忘れるな]
- 9. 만남 [出会い]
- 10. 마음 앓이 [心の病]
- 11. 그 꿈의 의미 [その夢の意味]
- 12. 사한의 죽음 [サハンの死]
- 13. 잊지 말라 (Reprise) [忘れるな (リプライズ)]
- 14. 달이 진다 [月が沈んだ]
- 15. 마음 앓이 (Reprise) [心の病 (リプライズ)]
- 16. 어찌 울지 않을 수 있는가 [どうして泣かずにいられるのか]
- 17. 핏빛, 두 눈 [血の色、二つの目]
- 18. 흘러가네 [流れ行く]
- 19. 사라진 달빛 (달이 진다 Reprise) [消えた月光 (月が沈んだ リプライズ)]
- 20. 우리 가요 (Part B) [私たち行きましょう (Part B)]
- 21. 아랑은 아직이냐 [阿娘はまだか]
- 22. 붉은 꽃 강물 따라 지네 [赤い花 川の水について散る]
- 23. 꿈 속의 여인 (연주곡) [夢の中の女人 (演奏曲)]
- 24. 끝없는 나락 (Reprise) [果てのない奈落]
- 25. 에필로그 [エピローグ]
楽曲紹介
1. 끝없는 나락 [果てのない奈落]
百済の王、蓋鹵(ケロ)は幼少期から「呪われた太子」と呼ばれていた。蓋鹵が背負ってきた予言と国の現状を導唱がパンソリで紹介するナンバー。
저주받은 태자, 개로
呪われた太子、蓋鹵저 아이가 왕이 되면
あの子が王になると
백제의 모든 기둥이 무너지고
百済のすべての柱が倒れて
한강이 메말라 그 바닥을 보일 것이며
漢江が乾いてその底を見せ
아비가 배가 고파 죽은 자식의 시체를 먹게 되리니
父が腹を空かせて死んだ子の死体を食べることになるだろう태자는 웃지 못한 채 죽을 것이다
太子は笑うことないまま死ぬだろう
서산 너머 백제의 태양이 저물 것이다
瑞山の向こう 百済の太陽が沈むだろう
2. 어전회의 [御前会議]
蓋鹵の前に集められた国師の道琳(トリム)と将軍の都彌(トミ)。二人は百済の現状と何を為すべきかについて激しく言い争う。
백제는 기울지 않는다
百済は傾かない
조금만 더 기다리라
もう少しだけ待て
태양을 내가 잡으리니
私が太陽を掴むだろうから
3. 꿈 속의 여인 [夢の中の女人]
傾きかけている百済の現状に苦しむ蓋鹵は毎晩ひどい悪夢に苛まれる。毎晩、夢の終わりに一人の女性が登場し、蓋鹵はその女性に慰められる。蓋鹵がその夢の中に現れる女性について道琳に語る。
나를 안아준 따스한 품속
私を抱いてくれた温かい胸の中
잊을 수 없네
忘れられない
나를 웃게한 그 노래
私を笑わせたその歌
4. 우리 가요 (Part A) [私たち行きましょう (Part A)]
王命を受けて、南進する高句麗軍の実情を偵察に出かけることになった都彌。夫を心配して気落ちする阿娘(アラン)に対して都彌が二人で二人だけの秘密の場所へ行こうと愛を歌う。
봄에는 꽃놀이 가고
春には花見に行って
여름엔 계곡물에 발 담그고
夏には谷の水に足を入れて
가을엔 작대기로 밤 따고
秋には叉木で栗を摘み
겨울엔 그저 둘이서 안고 있자
冬にはただ二人で抱いていよう
5. 기원제 [祈願祭]
百済のために開かれた祈願祭。民の祈りの中に自分への怨嗟の声を聞き取り、取り乱す蓋鹵。しかしそこで蓋鹵は祈願祭でついに「夢の中の女人」に瓜二つな女性、阿娘を見つける。
그만!
やめろ!
모두 나를 원망하는군
皆が私を恨んでいる
나때문에 나라가 이렇게 됐다 생각하고 있어
私のせいで国がこのようになったと思っている
6. 꿈 속의 여인 (Reprise) [夢の中の女人 (リプライズ)]
祈願祭でついに「夢の中の女人」を見つけた蓋鹵。その短い邂逅に浮き立つ蓋鹵。
누가 날 진심으로
誰が私を心から
사랑하겄나
愛したのか
7. 백제의 태양 [百済の太陽]
阿娘と別れて百済と高句麗の国境へと向かった都彌。そこで彼は将軍として踏みにじられた民の悲惨な実情を知ることとなる。血に染まった国境の川を前に、都彌が国境に到着する前に起きた惨劇をパンソリの歌で描写する。
백제의 태양을 잡아
百済の太陽を掴んで
저 서산 위로 뜨게 하라
あの瑞山の上に見えるようにせよ
8. 잊지 말라 [忘れるな]
阿娘、都彌の夫妻が住んでいる村。彼らと一緒に暮らす少年サハンは、自分と母親の命を救ってくれた都彌、阿娘の夫婦にいつか恩を返すことを秋の夜空に誓う。
잊지 말라
忘れるな
가을 밤 사이 어머니 보여요
秋の夜の間 母が見えます
어머니 나를 보며
母は僕を見て
웃고 있네
笑っているね
9. 만남 [出会い]
蓋鹵は道琳を伴って阿娘に会うために彼女が住む村に訪れる。
내 궁이 답답하여 달빛을 따라 걷다보니
私の宮が息苦しくて月光に沿って歩いてみたら、
이 담장에 아름다운 꽃이 피었더구나
この塀に美しい花が咲いていたのだ
저 꽃의 이름이 무엇이냐
あの花の名前は何なのか
10. 마음 앓이 [心の病]
「夢の中の女人」が臣下の妻であることを知り、蓋鹵は葛藤に苦しむ。
왜 너는 아랑인가
なぜそなたは阿娘なのか
왜 하필 아랑인가
なぜよりによって阿娘なのか아랑, 아랑, 아랑, 아랑,
아랑, 아랑, 아랑너의 향기
そなたの香り
네 목소리
そなたの声
너의 손길
そなたの手の動き
너의 눈빛
そなたの視線
11. 그 꿈의 의미 [その夢の意味]
都彌将軍が高句麗と内通しているとの偽りの証拠を蓋鹵に見せる道琳。忠臣である都彌の妻である阿娘に心惹かれていることに罪悪感を感じていた蓋鹵は、道琳に示された偽りの免罪符に心揺れる。
백제의 태양을 쏘아라
百済の太陽を撃て
백제의 이름을 지워라
百済の名前を消去せよ
백제의 들판을 태우고
百済の野原を焼いて
백제의 심장을 찢어라
百済の心臓を破れ
12. 사한의 죽음 [サハンの死]
サハンは道琳が高句麗に通じている間者であることを突き止める。事実の発覚を恐れた道琳は「高句麗のために」とサハンを兇刃で襲う。二人の命の攻防が導唱のパンソリにより描写される。
화살같은 도림의 손이 허리춤에서
矢のような道琳の手が着物の中から
서슬퍼런 칼을 꺼내 사한의 옷깃을 스으윽
青光りする刃を取り出してサハンの襟を狙い
허나 번개같은 사한의 손,
しかし、稲妻のようなサハンの手、
품 속의 단도 꺼내 열십째로 막아낸다
懐の短刀を取り出して十文字で受け止める
13. 잊지 말라 (Reprise) [忘れるな (リプライズ)]
道琳こそが高句麗の間者であることを阿娘に最期に伝えて、阿娘の腕の中で息をひきとったサハン。肉体を離れた魂は、恩義ある夫妻の幸せを祈る。
잊지 말라
忘れるな
어머니 말씀 지켜냈어요
母さんの言葉、守りきりました
그리운 내 어머니 그 품으로 이제 가요
懐かしい僕の母さん その胸へと今行きます
잘 계시오 아씨
元気にお過ごしください、奥方
부디 행복하시오
どうかお幸せに
14. 달이 진다 [月が沈んだ]
阿娘は都彌が計略により罠にはめられたことを知り、この事実を夫に伝えるためにサハンを国境へと送ったが、そのサハンが自分の眼前で死んでしまった。陥った苦境を思い、悲嘆に暮れる阿娘。
언젠가 아스라질 목숨인데
いつか はるか遠く絶える命なのに
언젠가 시들어질 인생인데
いつか 枯れ散る人生なのに
왜 고통이 찾아오는가
なぜ 苦痛が訪れるのか
왜 슬픔이 밀려오는가
なぜ 悲しみが押し寄せてくるのか
15. 마음 앓이 (Reprise) [心の病 (リプライズ)]
阿娘を求める心が募る蓋鹵。思慕の情はやがて強い執着へと変質していく。
너의 향기
そなたの香り
네 목소리
そなたの声
너의 손길
そなたの手の動き
너의 눈빛
そなたの視線아랑, 아랑, 아랑, 아랑, 아랑
아랑, 아랑, 아랑, 아랑, 아랑, 아랑, 아랑왜 너는 (구하소서, 구하소서)
なぜそなたは(お救い下さい、お救い下さい)
왜 하필 (구하소서, 구하소서)
なぜよりによって(お救い下さい、お救い下さい)
왜 너는 (구하소서, 구하소서)
なぜそなたは(お救い下さい、お救い下さい)
아랑인가 (구하소서, 구하소서)
阿娘なのか(お救い下さい、お救い下さい)
16. 어찌 울지 않을 수 있는가 [どうして泣かずにいられるのか]
阿娘の昔話を聞いて、自分たちが幼い日に遭遇していたことを思い出した蓋鹵。ますます阿娘に執着する蓋鹵と、それがきっかけとなり、道琳の策略で都彌が濡れ衣を着せられて苦しむ阿娘。百済の民の苦境に関心を向けない蓋鹵に苛立つ都彌。長年の諜報活動がようやく実を結ぶ時を迎えてほくそ笑む道琳。破滅に向かってひた走る各々の思いが交錯する。
나의 여인이 될 수는 없겠느냐
私の女になれないのか
내 곁에 있어주면 안되겠느냐
私のそばにいてくれないのか
17. 핏빛, 두 눈 [血の色、二つの目]
都彌は蓋鹵が欲情に目がくらんで傾く国を蔑ろにしていると換言する。逆上した蓋鹵は阿娘の眼の前で都彌の両目を奪う。
죽여라 죽여
殺せ、殺せ
이 세상 조용히 아스라 지려 했건만
この世 静かにはるか遠く沈もうとしてただけ
이리 가는 것도 나쁘지 않으리
斯く行くのも悪くないだろう
18. 흘러가네 [流れ行く]
阿娘の命乞いが聞き入れられ、小舟に乗せられて川の水の流れに身を任せることになった都彌。その姿が彼方へと消えるまで、阿娘はその後ろ姿を泣きながら見守る。蓋鹵もまた、そんな阿娘を複雑な気持ちで見つめる。ジャズのような曲調のメロディにのる導唱の哀愁に溢れたパンソリの歌声が印象的なナンバー。
날 저주하겠지
私を呪っているだろう내 발끝에서 시작되는 그림자조차 밟고싶지 않겠지
私の足先から始まる影さえ踏みたくないだろう
19. 사라진 달빛 (달이 진다 Reprise) [消えた月光 (月が沈んだ リプライズ)]
絶望的な気持ちで嘆く阿娘の元に、どこからともなく都彌の歌声が聞こえてくる。諦めずに都彌を探すことを決心する阿娘。
핏빛 두 눈 사라진 달빛
血の色の二つの目 消えた月光
잿빛 강물 타고 가버린 사랑
灰色の川に乗って行ってしまった愛그 뒷모습 평생 품고서 살아가리
目礼も掛けられないまま
눈인사조차 못 건넨 채
その後ろ姿 一生胸に抱いて生きていく
20. 우리 가요 (Part B) [私たち行きましょう (Part B)]
小舟に乗せられて彷徨った末に流れ着いた都彌をついに阿娘は見つけ出す。二人は出会いを振り返り、これからも一緒に歩んでいくことを誓う。
우리 처음 마났을 때 기억나요?
私たちが初めて会ったとき 覚えていますか?
봄 향기 취해
春の香りに酔って
강둑을 걷던 당신 모습
堤防を歩いていた貴方の姿
아직도 잊을 수 없어
まだ忘れることができない나 당신 보고
私は貴方を見て
하늘에서 나들이 온 선녀인 줄 알았지
空から出てきた天女だと思った
21. 아랑은 아직이냐 [阿娘はまだか]
蓋鹵を騙して逃亡中であることを知らずに、阿娘を苛立ちながら待つ蓋鹵。道琳の暗躍により高句麗軍は王城へとどんどん迫ってくる。戦線を整えて守りを固めるべきだとの臣下の忠言を無視し、蓋鹵は道琳を伴い阿娘を探しに城を出る。
저 개로의 거동 보아라
あの蓋鹵の挙動を見よ
개로왕의 거동 봐
蓋鹵王の挙動を見よ
한 때는 왕이었던 이 남자의 거동 보소
一時は王だったこの男の挙動を御覧なさい풀어진 상투머리 카락은 헝클어져
解けた結いあげた髷 姿は乱れて
위엄 있던 도포 위에 허리띠는 간데 없고
威厳に満ちた道袍の上に帯はなくなって
말 위에 올라타 가야할 길 모르고서
馬の上に乗って進むべき道も知らないで
가자 가자 가자 가자…
行こう、行こう、行こう、行こう…
22. 붉은 꽃 강물 따라 지네 [赤い花 川の水について散る]
すべての責務を放棄し、漢江を渡ってついに阿娘と都彌を見つけ出した蓋鹵。蓋鹵は阿娘に側にいてくれるように懇願するが、阿娘はこの世に未練はないので早く殺してくれと願う。
인생은 한 철 꽃 같은 것
人生は盛りの花のようなもの
저 달처럼 때 되면 저물지요
あの月のように時間になったら暮れるでしょう이 덧없음에 미련 없으니
この無情に未練はないから
어서 죽이시요
早く殺してください
23. 꿈 속의 여인 (연주곡) [夢の中の女人 (演奏曲)]
阿娘を自らの手にかけてしまった蓋鹵。都彌と一緒に黄泉の国へと旅立った魂を失ったその亡骸に縋り付いて泣く蓋鹵。
24. 끝없는 나락 (Reprise) [果てのない奈落]
絶望と孤独に打ちひしがれる蓋鹵の前についに正体を明かす道琳。「百済の太陽は沈んだ」と高らかに宣言して蓋鹵の下を去る道琳。
태양이 여기 있네…
太陽がここにあるな…
이제야 태양이 보이는구만
いまになって太陽が見えるのだ
25. 에필로그 [エピローグ]
すべてを失った蓋鹵。自ら命を手放し、死を目前にした蓋鹵が去っていった人たちと自分の孤独な人生に思いを馳せる。
아랑, 너는 무엇 인가
阿娘、そなたは何者なのか
결국 사라져버릴 것
結局消え去ってしまう者
잡으려 할수록 잡을 수 없는 것
捕まえようとする程 捕まえられない者
이 긴 생을 모두 살아냈는데도
この長い生涯をすべて生き抜いたのにもかかわらず
도무지 산 것 같지가 않구나
さっぱり生きたように思えぬ
*1:がいろおう、韓国読みはケロワン