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【観劇レポ】演劇『Constellations』(オンデマンド配信)《2022.1.31》

Constellations

 ツイッターで親切なフォロイーさんがリマインドしてくれるまですっかり配信期限を忘れていて焦りましたが、なんとかギリギリ駆け込みで『Constellations』(星ノ数ホド)を観ることができました。2021年6月から9月にかけて4組8名のキャストでロンドンのヴォードヴィル劇場(Vaudeville Theatre) で上演された本作。今回の配信でも4組それぞれの公演が視聴できる状態でしたが、時間がないこともあり私が観れたのはその中の1組。私が観劇したのは

 マリアン (Marianne):Anna Maxwell Martin(アンナ・マックスウェル・マーティン)さん
 ローランド (Roland):Chris O'Dowd(クリス・オダウド)さん

のお二人のペアでした。二人ともどこかで観たことある気がするなぁと思って調べてみたら、奇しくも両方ナショナル・シアター・ライブで、それぞれサム・メンデス演出の『リア王』のリーガン役、『二十日鼠と人間』のレニー役で観ていました。全体的な所感だけ先に書くと、とても好みで切なくて面白い戯曲でした。

作品紹介

 『Constellations』は2012年にロンドンのロイヤル・コート劇場 (Royal Court Theatre)で初演されたニック・ペイン (Nick Payne) 氏の戯曲です。2021年に本作がロンドンで上演された劇場は先述の通り、ヴォードヴィル劇場ですが、今回の映像配信を提供したのはドンマー・ウェアハウス (Donmar Warehouse, 以下ドンマー) の配信プラットフォーム。ドンマーはその名前から推測できるように元々は倉庫だった場所を改装してできたウェストエンドの小劇場です。『Constellations』は本作の演出家であり、2019年からドンマーの芸術監督に就任したマイケル・ロングハースト (Michael Longhurst) 氏の名を世間に知らしめた出世作でもあります。


Constellationsオンデマンド配信トレーラー
 

 『Constellations』は日本では2014年に『星ノ数ホド』という邦題で新国立劇場にて上演されています。量子宇宙論の研究者であるマリアン役には鈴木杏さん、養蜂家のローランド役に浦井健治さんがキャスティングされ、演出は小川絵梨子さん、戯曲の翻訳は浦辺千鶴さんが手掛けています。

 

(以下、ネタバレが含まれるためご注意ください。)

感想

 暗転を挟んで似ているけどそれぞれ微妙に異なる展開になる場面を繰り返しながら、時折急に時間軸が飛び、何やら深刻そうなマリアンとローランドの会話の場面が挿入されることで進行していくこの戯曲。手法としてはとても映像作品と相性が良さそうで、実際に私はオンライン配信で観たのでいくつものテイクとカットを繰り返して収録したものを編集した映像を見た錯覚を起こしてしまいました。そう思わせるくらい瞬時に演技を切り換えながら無限のマリアンとローランドの可能性を演じていたマーティンさんとオダウドさん。サラッと非常に簡単なことかのようにそれをこなしていたお二人の演者としての技量には本当に舌を巻くしかありません。実際に生でその様子を観れたなら更にその技術に興奮して劇場を後にしただろう自分の様子は容易に想像できます。

 マリアンがローランドに語って聞かせる量子宇宙論の話に対する私の理解度はローランドのそれと多分大差なく、つまりはなんとなくわかった気になっている部分はあれど、大半はチンプンカンプンです。わからないなりに「ひも理論」(String Theory) や「多元宇宙」(Multiverse) などのキーワードを頼りに量子宇宙論の理論を紐解いてみると、その目指しているところのスケールの大きさに、量子宇宙論の学者の方々はストイックであるとともにロマンチストだなぁと感じます。それはローランドがマリアンが宇宙について語る姿をセクシーだと感じるのと多分似ているのだと思います。

 マリアンとローランドという二人の人生の交差の仕方の無限の可能性。出会った後に特に進展はなく、そこで関係が終わる時空。二人が別れた後に再会した時には片方がすでに結婚していた時空。プロポーズが拒まれたり、全然上手くいかなくてグダグダになったりする時空。色々な二人の可能性を劇中で示しながらも、二人が出会って別れて再度一緒に歩むことを選択した時空では、繰り返し挿入される「マリアンの前頭葉に脳腫瘍が見つかり、彼女の言語能力や記憶が少しずつ失われる事実を上手く受け止めきれない二人」のエピソード。同じ時空の時系列を細切れに見せているだけなのかもしれませんが、二人が一緒になることを選んだ未来はその決まった結末の特異点に向かって収束していくように感じられ、それがなんとも胸が締め付けられて切なかったです。

 風船が敷き詰められたシンプルなセットと電球がついたり消えたりする音で場面と時空が転換する音響の仕掛けはとても好みの演出。無限に存在する多元宇宙の数々の可能性を取り扱った作品なので、他のペアがどう演じるのかを観るのもとても面白かったと思います。1時間不足で1組のバージョンしか観れなかったことは残念でしたが、無限の可能性の中で選びとってきた私たちの人生の奇跡に対するロマンと感傷的な余韻が残るとても満足度の高い観劇体験でした。

Special Thanks

 このブログ記事のアイキャッチ画像はSam Willisさんのフリー素材写真Merriam-Webster辞典上の「Constellation」の単語の意味の定義を引用して制作しました。

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  1. 特にマリアンがマニュエル (Manuel) という名前になっている男性二人のペアの蜜蜂に例えたプロポーズがどんなことになってしまっているのかがめっちゃ気になります。